創星のレクイエム

有永 ナギサ

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1章 第2部 幼馴染の少女

33話 クレハの願い

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 時刻は夕暮れ。空が黄昏たそがれに染まっていく中、陣たち三人は最後に星海ほしみ学園へと来ていた。
 すでに学園長の春風栞はるかぜしおりには連絡を入れており、学園内を歩き回ってもいい許可を。なので今後通うであろう星海学園を、軽く見回っているのであった。ちなみに学園は現在春休みなため部活や魔道の研究にいそしんでいる者たちぐらいしかおらず、スムーズに見学できていたという。そして高等部の校舎内を軽く一周し、最後に灯里の提案で学園の屋上へと足を運んだのであった。
 屋上ではほかに生徒もおらず、完全に貸切り状態。遠くの方では、夕日が沈んでいく光景が見える。海面がオレンジ色の光をキラキラ反射し、なかなか目を奪われる光景が広がっていた。

「四月になったら、みんなでこの星海学園に通うんだよね! いやー、楽しみですなー! ね! 陣くん! クレハ!」

 灯里は屋上の手すりに身を乗り出しながら、期待を膨らませる。

「ははは、オレとしては奈月に無理やり行かされてるだけで、そこまで感慨がないんだけどな」
「ここに来るのは主に公務のためだから、遊びに来たわけじゃないんだけど」
「もー! 二人とも、ノリが悪いー! というか全然なってないよー!  私たちの年ごろは、ただ純粋に学園生活を謳歌おうかすることだけを考えていればいいの! 青春は待ってくれないんだから、精一杯今を楽しむ! わかった?」 

 陣とクレハのあまり気乗りしない発言に、灯里は両腕を上げながら抗議を。そして人差し指を立てながら、ビシッと言い聞かせてきた。

「まあ、一理あるな。灯里みたいな面白い奴がいれば、そう退屈しない学園生活が送れるかもしれん」
「フフフ、そうね。灯里という友達ができたんだもの。せっかくだし少しは公務を忘れて、普通の学園生活を送るのもわるくはないかも。――そ、それに陣もいることだしね……、うん……」

 クレハも陣同様考えを改めたようだ。口元をゆるめこの先の学園生活に想いをはせだす。最後には少しテレながら、陣の方を見てだ。

「あー、そうか、クレハも学園に通うんだった。――はぁ……、もしかするとまた耳が痛い、お小言三昧の日々が……」
「ちょっと!? そこは少しぐらいうれしがりなさいよ! もぉ!」

 憂鬱そうに肩をすくめる陣の反応に、クレハ腕を組みながらそっぽを向いてしまう。

「うんうん、いい心意気だよー! 私のバラ色の学園生活が待ってるんだから、二人には頑張ってもらわないと!」
「おーい、灯里、いい話しだしたと思ったら、自分のためかよ」
「ちっちっちっ、その分私も盛り上げまくって、みんなの学園生活をいろどらせてみせるから期待しといてー! ふっふっふ、今から腕がなりますなー」

 指を左右に揺らしながら、不敵な笑みを浮かべる灯里。そしてガッツポーズをとり、目を輝かせる。

「おかしい。なんだかワタシの学園生活に、不穏な陰が見えたような……」

 するとクレハは嫌な予感を抱いたようで、一歩下がった。おそらくまた灯里にからかわれまくり、おもちゃにされる未来でも浮かべたのだろう。

「あはは、気のせい! 気のせい! では新たな学園生活の前祝に乾杯でも! って、あれ……、あんなところに……、ごめん! ちょっと待ってて! すぐ戻ってくるから!」

 灯里はクレハの不安を笑い飛ばし、そのまま音頭おんどをとろうと。しかし彼女はなにかに気付いたようで、あわてて校舎内に走っていってしまった。

「フフフ、灯里ったら、本当に騒がしい子ね。でもちょうどよかった。これで陣と過激な話ができる」

 そのあわただしくてはちゃめちゃな灯里に対し、ほほえましげに笑うクレハ。そして陣に意味合りげな言葉を投げかけてきた。

「ちっ、しまった。防波堤がどっかに行きやがったってことか。――はぁ……、どうやら観念するしかないようだぜ」

 陣が観念したのを確認し、クレハは屋上の手すりの方へ歩いて行く。そして遠い海のかなたを見つめながら、かたり始めた。

「――ねぇ、陣はこの神代かみしろ特区が好き?」
「ここは知ってのとおり、魔道に手を染めた者たちのたまり場だ。表向きは星葬機構の影響をうけず、自由に魔法と向き合えるいいイメージ。だが裏では神代の非合法な研究、星魔教の星詠ほしよみに対する信仰活動など日常茶判事。だから刺激のある日々を過ごすにはもってこいの場所ということで、気に入ってるな」
「陣はやっぱりそっち側の人間なのね。ワタシには自分たちの求めるままに世界を荒らす、あなたたちの考えがまったくわからない。その求めた果てに、なにが待ってるというの? 結局、自身を破滅に追い込むだけじゃない」

 クレハは自身の腕を抱きしめながら、切実な疑問を口に。

「ははは、クレハは正しいぜ。それがまっとうな人間の価値観だ。だけどオレたちはそんな当たり前のことがわからなくなってるほど、力に心を奪われてしまってるのさ。だから近づけば身をがすと知りながらも、求めずにはいられない」

 彼女の正論に、もはや苦笑しか浮かばない。
 自身の魂を恒星こうせいと化し、星詠みを求めた先にいったいなにが待っているのか。おそらくほぼすべての創星術師がわかっていない謎であろう。だがみなそれでも求めずにはいられないのだ。その果てにある真理を、結末を知りたいがために。

「ねえ、陣はこっちに戻ってこれないの? 人々のため、正義のため、世界に混沌こんとんをまき散らす創星術師を亡ぼす道へ。あなたが力を貸してくれれば、きっとレイヴァースの悲願は叶う。だからワタシのもとへ」

 クレハはむねにバッと手を当て、必死にうったえてくる。それはまるで懇願こんがんするかのよう。六年前、陣が四条しじょう家を出ていく時と同じく、今にも泣き出しそうな勢いでだ。
 そんな悲痛げなクレハのお願いであったが、陣の答えは決まっていた。

「無理だな。そもそもの話、オレはそっち側にいたことなんてない。物心ついた時から力におぼれ、魔道の道に足を踏み入れていたんだ。クレハだってそれはずっとわかってたはずだろ? だから戻る道なんてなにひとつない。オレは元あるレールを、ただひたすら進むことしかできないのさ」
「それが陣の答えなのね」
「ああ、そうだ。クレハ・レイヴァ―ス」

 もはや道が交わることはないと、きっぱり言い切る。
 少しかわいそうな気もするが、こういう生き方しか陣にはできないのだ。ゆえに今一度、決別の言葉を伝えたのだ。

「――わかった。じゃあ、これで完全に決別ね。レイヴァースは星詠みという禁忌に、手を伸ばす者たちを許さない。レーヴェンガルトであろうと、神代であろうと。ええ、たとえかつての幼馴染であろうともね」

 クレハの万感の思いを込めた宣言。そこには彼女のゆずれない信念の炎が垣間見れた。ただどこか悲しさのようなものが影を落としていたが。

「ははは、それでこそオレの好きなクレハだよ。正義観が強く、どこまでもまっすぐな女の子だ」
「す、好き!? ななな、なにを言って!?」

 陣の素直な感想に、クレハは顔を真っ赤にしながら取り乱し始める。

「もちろんラブじゃなく、ライクのほうのな」
「――じ、陣ー! せっかくかっこよく決めてたのにー!」

 クレハはからかわれたことで、悔しそうに抗議を。
 少しいつもの彼女に戻ったところで、陣は話をまとめることにした。

「ははは、話はこれでおわりだな。今度会う時、クレハはレイヴァース側の大将。オレは神代のお姫様につく付き人。お互い敵同士だから、どちらが勝っても恨みっこなしってな」
「ふん、望むところよ。――でも、まあ、ここまで言っておいてなんだけど、陣はまだ創星術師じゃない。だから要注意人物ってだけで、必ずしも仕留めにいかなくてもいいのよね。今はまだ……」
「おい、きれいにしめてやったのに、まだこの話を続けるのか?」

 腐れ縁の幼馴染とあって、あまり彼女の悲痛げな顔は見たくないのだ。なのでさっさと話を切り上げたいのだが、クレハはまだなにか言いたそうであった。

「これで最後だから心して聞きなさい。クレハ・レイヴァースから、幼馴染の陣に対する一生のお願いよ。そうやって魔道を求めるのはいい。だけど創星術師だけにはならないで。それさえ守ってくれれば、ワタシは大切な幼馴染を討たなくて済むんだから……」

 クレハは胸をぎゅっと押さえながら、切実にうったえてきた。

「――クレハ……」
「わかってる。どうせ陣がこの願いを聞き届けてくれないことは……。でも、言わずにはいられなかったの……。――ふぅ、話に付き合ってくれてありがと、陣。ワタシはもう帰るから、灯里が戻って来たらよろしく伝えといて」

 クレハは言いたいことが言えて満足したのか、この場を去っていく。
 そんな彼女の後ろ姿を、陣はただだまって見つめるしかないのであった。





「――創星術師にならないでか……」

 陣は帰りしなに、ぽつりと夕暮れの空に向かってつぶやいた。
 あれから灯里と合流し、そのまま解散の流れに。よって今陣は帰宅の途中である。しかし本来なら真っ直ぐに帰るのだが、今はどこか遠回りしたい気分。なので今日のことをしみじみと思い返しながら、がらにもなく感慨にふけって人通りが少ない道を歩いていた。

「もしその願いを聞き届けたら、オレはクレハや灯里たちと本当になにげない学園生活を送れるのかもな……」

 もしもの未来を想像して、思わず笑ってしまう。
 不思議とあの灯里がいれば、退屈しない日々が過ごせそうな気がするのだ。しかも心のどこかで、それも悪くないかもしれないと思う自分がいた。

「ふふっ、ようやく見つけたんだよ。キミこそわたしの手をとるにふさわしい」

 物思いにふけっていると、ふと見知らぬ少女の声が聞こえた。
 振り向くと、そこには十歳ぐらいだろうか。長い銀色の髪の、白いワンピースに身を包んだ少女が。

「ッ!?」
「ねぇ、キミはこの世界の最果てに行きたくないかな?」

 銀髪の少女は陣に手を差し出し、意味ありげなまなざしを向けてくる。
 だが今の陣にはそんな言葉どうでもよかった。なぜなら気付いてしまったのだ。彼女こそ四条陣が求めていたものであると。

「――やっと見つけた……、オレのかがやき……」


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