64 / 114
2章 第2部 陽だまりへの誘い
63話 灯里の願い
しおりを挟む
「どうした?」
「ううん、改めてお礼をと思ってね。陣くんのおかげで、これからもリルと一緒にいられる。それは私にとって、感謝しきってもしきれないぐらいだもん」
灯里は胸に手を当て、幸せそうにほほえんだ。
「リルにも言ったが気にするな。オレが好きでやってるだけだから、灯里はただ手に入れた日常に浸っとけ」
「うん、ありがとう。――あのね……、厚かましいんだけど、もう一つお願いしたいことがあるんだ」
チラチラと陣に視線を送りながら、遠慮ぎみに伝えてくる灯里。
「お願い?」
「――えっと……、お願いというか、おねだりかな。――この実現した私の陽だまりの日々。そこに陣くんも加わってほしいな……、なーんて……、あはは……」
そして灯里は手をモジモジさせながら、上目づかいで告白を。
「――それは……」
「もちろんわかってるよ! 陣くんは私と違う道を選んだ。だからこっちに来るわけには、いかないことぐらい」
返答に困っていると、灯里がすぐさま補足してくる。
そう、彼女の言うように、陣には陣の道がある。それは陽だまりを求める灯里とは真逆。さらなる力を求め、魔道の深淵へと突き進む混沌の道だ。ゆえに灯里の願いを叶えるのは難しかった。
「だけど、それでも私は、陣くんにこっち側へ来てほしい! 全部同じなの。 キミが特別に想ってくれてるように、私も陣くんのことを特別に想ってる! だって同じ境遇であり、あったかもしれないもう一人の自分なんだもん! リルの時と同じように、放っておけるはずないよ!」
灯里は陣の上着を両手でぎゅっとにぎりしめ、切実にうったえてくる。
もはや彼女の想いは陣と同じ。あまりに似通っているため他人事には思えず、まるで自分のことのように特別視をしてしまうのだろう。陣もその感情があるゆえ、ここまで灯里のために動いているのだ。なので彼女の言いたいことは、痛いほどわかってしまう。
「――灯里……」
「無理にとは言わない。これ以上わがままを押しつけるのも、わるいしね。でももし少しでも私が生きる世界がいいなって想うなら、この手をとってほしい! そしたら陣くんを、こっち側に連れていってみせるから!」
灯里は手を差し出し、自身が抱く覚悟を胸に告げてきた。
「たとえ想っていたとしても無理だ。きっとオレは灯里のように、この力への渇きを振り払えない。もう取り返しのつかないほど、魅入られてしまってるんだ。今さら別の道へだなんて……」
そう、たとえその道を望んでいたとしても、陣は内から湧き出る衝動に逆らうことができないのだ。ゆえに気持ちはうれしいが、断るしかなかった。
「うん、わかるよ。否定した私でさえ、ふとそっち側に戻ってしまいそうになるぐらいだもん。だから陣くんがあきらめるのも、無理はないと思う」
「だろ? だからオレの分も灯里が……」
彼女だけでも幸せに生きてほしいと、伝えようと。
だがその言葉が紡がれる前に、灯里が不服そうに割り込んできた。
「もー、陣くん! そんな程度で灯里さんがあきらめると思うの?」
「いや、だってどうしようも……」
「あはは、安心して! 立ち止まりそうになったら、陣くんの手を無理やりにでも引っ張るから! そして陽だまりの先まで連れていってあげる! だから大丈夫。たとえどれほどの渇きが襲ってきても、二人で手を取り合うならきっと切り抜けられるよ!」
灯里は陣の手をとり、陽だまりのようなまぶしい笑顔でさとしてくる。
確かに陣一人ではダメだろう。だか灯里が手をとり連れていってくれるなら、なんとかなるかもしれない。たとえ立ち止まりそうになっても、彼女が笑いかけてくれるなら、きっと。
「――灯里……」
「それでも誘惑に負けそうなら、そうですなー。あはは、ビンタしまくってでも、無理やり覚ませてあげるよ!」
「ははは、なんだか灯里なら、本気で連れていってくれそうだな」
「ふっふっふっ、灯里さんにドンと任せなさいなー! 陣くんが私と同じ答えにいたれるまで、とことん付き合うよ!」
胸をどんっとたたき、得意げにウィンクしてくる灯里。
もはやその心強さに、思わずそのままうなずいてしまいそうだ。
「――まったく……、それもいいかもしれないなんて、オレも焼きが回ったものだぜ」
彼女の誘いを受け、いつの間にか納得しそうになっている自分に苦笑せざるをえなかった。
「え? じゃあ!?」
「まあ、考えとくよ。さすがに簡単に決められることじゃないしな」
「――そっか……。うん、ずっと待ってるから。陣くんが来てくれるのを、リルと一緒に……」
陣の答えに、灯里は祈るように手を組み慈愛に満ちたほほえみを。
「――灯里、ありがとな……。――ははは、それにしても昨日かっこよく決めた途端に、返されるとは」
「あはは、陣くんばっかに、かっこいい思いはさせてあげないよ!」
「ははは、なにを対抗してるんだか。うん? ――着信? カーティス神父からか」
もり上がっていると、ふと着信が。確認してみるとカーティス神父からであった。
灯里に目配せして通話ボタンを押す。
「カーティス神父、どうしました?」
「実は陣さんが追っていた例の創星術師のことで、進展がありました。一度いつもの教会に来てもらえませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
カーティス神父に返事をして、通話をきる。
「あれ? どっか行くの?」
「ああ、有力な情報が得られそうだ。場所が場所だし、灯里は一端家に戻っといてくれ。帰ったら報告する」
「――うん、そういうことならわかったよ。言いたいことは全部伝えられたしね! いってらっしゃい! 陣くん!」
そして灯里に見送られ、陣は待ち合わせ場所の教会へ向かうのであった。
「ううん、改めてお礼をと思ってね。陣くんのおかげで、これからもリルと一緒にいられる。それは私にとって、感謝しきってもしきれないぐらいだもん」
灯里は胸に手を当て、幸せそうにほほえんだ。
「リルにも言ったが気にするな。オレが好きでやってるだけだから、灯里はただ手に入れた日常に浸っとけ」
「うん、ありがとう。――あのね……、厚かましいんだけど、もう一つお願いしたいことがあるんだ」
チラチラと陣に視線を送りながら、遠慮ぎみに伝えてくる灯里。
「お願い?」
「――えっと……、お願いというか、おねだりかな。――この実現した私の陽だまりの日々。そこに陣くんも加わってほしいな……、なーんて……、あはは……」
そして灯里は手をモジモジさせながら、上目づかいで告白を。
「――それは……」
「もちろんわかってるよ! 陣くんは私と違う道を選んだ。だからこっちに来るわけには、いかないことぐらい」
返答に困っていると、灯里がすぐさま補足してくる。
そう、彼女の言うように、陣には陣の道がある。それは陽だまりを求める灯里とは真逆。さらなる力を求め、魔道の深淵へと突き進む混沌の道だ。ゆえに灯里の願いを叶えるのは難しかった。
「だけど、それでも私は、陣くんにこっち側へ来てほしい! 全部同じなの。 キミが特別に想ってくれてるように、私も陣くんのことを特別に想ってる! だって同じ境遇であり、あったかもしれないもう一人の自分なんだもん! リルの時と同じように、放っておけるはずないよ!」
灯里は陣の上着を両手でぎゅっとにぎりしめ、切実にうったえてくる。
もはや彼女の想いは陣と同じ。あまりに似通っているため他人事には思えず、まるで自分のことのように特別視をしてしまうのだろう。陣もその感情があるゆえ、ここまで灯里のために動いているのだ。なので彼女の言いたいことは、痛いほどわかってしまう。
「――灯里……」
「無理にとは言わない。これ以上わがままを押しつけるのも、わるいしね。でももし少しでも私が生きる世界がいいなって想うなら、この手をとってほしい! そしたら陣くんを、こっち側に連れていってみせるから!」
灯里は手を差し出し、自身が抱く覚悟を胸に告げてきた。
「たとえ想っていたとしても無理だ。きっとオレは灯里のように、この力への渇きを振り払えない。もう取り返しのつかないほど、魅入られてしまってるんだ。今さら別の道へだなんて……」
そう、たとえその道を望んでいたとしても、陣は内から湧き出る衝動に逆らうことができないのだ。ゆえに気持ちはうれしいが、断るしかなかった。
「うん、わかるよ。否定した私でさえ、ふとそっち側に戻ってしまいそうになるぐらいだもん。だから陣くんがあきらめるのも、無理はないと思う」
「だろ? だからオレの分も灯里が……」
彼女だけでも幸せに生きてほしいと、伝えようと。
だがその言葉が紡がれる前に、灯里が不服そうに割り込んできた。
「もー、陣くん! そんな程度で灯里さんがあきらめると思うの?」
「いや、だってどうしようも……」
「あはは、安心して! 立ち止まりそうになったら、陣くんの手を無理やりにでも引っ張るから! そして陽だまりの先まで連れていってあげる! だから大丈夫。たとえどれほどの渇きが襲ってきても、二人で手を取り合うならきっと切り抜けられるよ!」
灯里は陣の手をとり、陽だまりのようなまぶしい笑顔でさとしてくる。
確かに陣一人ではダメだろう。だか灯里が手をとり連れていってくれるなら、なんとかなるかもしれない。たとえ立ち止まりそうになっても、彼女が笑いかけてくれるなら、きっと。
「――灯里……」
「それでも誘惑に負けそうなら、そうですなー。あはは、ビンタしまくってでも、無理やり覚ませてあげるよ!」
「ははは、なんだか灯里なら、本気で連れていってくれそうだな」
「ふっふっふっ、灯里さんにドンと任せなさいなー! 陣くんが私と同じ答えにいたれるまで、とことん付き合うよ!」
胸をどんっとたたき、得意げにウィンクしてくる灯里。
もはやその心強さに、思わずそのままうなずいてしまいそうだ。
「――まったく……、それもいいかもしれないなんて、オレも焼きが回ったものだぜ」
彼女の誘いを受け、いつの間にか納得しそうになっている自分に苦笑せざるをえなかった。
「え? じゃあ!?」
「まあ、考えとくよ。さすがに簡単に決められることじゃないしな」
「――そっか……。うん、ずっと待ってるから。陣くんが来てくれるのを、リルと一緒に……」
陣の答えに、灯里は祈るように手を組み慈愛に満ちたほほえみを。
「――灯里、ありがとな……。――ははは、それにしても昨日かっこよく決めた途端に、返されるとは」
「あはは、陣くんばっかに、かっこいい思いはさせてあげないよ!」
「ははは、なにを対抗してるんだか。うん? ――着信? カーティス神父からか」
もり上がっていると、ふと着信が。確認してみるとカーティス神父からであった。
灯里に目配せして通話ボタンを押す。
「カーティス神父、どうしました?」
「実は陣さんが追っていた例の創星術師のことで、進展がありました。一度いつもの教会に来てもらえませんか?」
「わかりました。すぐに向かいます」
カーティス神父に返事をして、通話をきる。
「あれ? どっか行くの?」
「ああ、有力な情報が得られそうだ。場所が場所だし、灯里は一端家に戻っといてくれ。帰ったら報告する」
「――うん、そういうことならわかったよ。言いたいことは全部伝えられたしね! いってらっしゃい! 陣くん!」
そして灯里に見送られ、陣は待ち合わせ場所の教会へ向かうのであった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる