創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第2部 陽だまりへの誘い

65話 不吉な予感

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 陣はルシアと合流し、神代かみしろ特区内の地下にあるジオフロントに来ていた。
 神代特区は人工島なので建設時、特区内を行き来する通路や簡易施設を地下に張りめぐらしているのである。なので秘密裏に移動や運搬ができ、神代の非合法な魔道の求道時に大活躍しているのだ。ちなみにクロノスの裏の研究機関であるノルンの研究施設は、隠ぺいのためジオフロント内にあちこちあるのであった。

「こんなところにも、旧市街へつながるルートがあったんだな」

 ここは正規の旧市街地の入り口ではなく、星魔教側が管理する隠し通路らしい。ここから目的地の旧市街地に出れるとのこと。ちなみにリルは姿を見せていない。彼女がいればルシアにいろいろ説明するはめになるため、少し離れてついてきてもらっていた。

「ほかにも抜け道はたくさんありますよ。星魔教が魔道のサポートを行うにあたり、侵入ルートや避難ルートは、大いに越したことはありませんから」

 ロストポイントは創星術師が魔道を求道するにあたり、絶好の場所。そのため星葬機構がだまっているわけなく、妨害してくるのだ。そんな時に大活躍するのが、こういった隠し通路。表の入り口に戦力が配置されていた場合、創星術師を中に送り込める。さらに断罪者などの脅威が現れた時の、緊急避難にも使えるのだ。

「さすがの用意周到さだよな。こんなのが世界中のロストポイントにあるんだから、星葬機構も手を焼くはずだ」

 なんでもこういった抜け道は、世界中のロストポイントに無数にあるらしい。星魔教が自分たちの活動のため、持てる財力やコネを使い各地に用意しているとのこと。よく陣も星魔教の護衛依頼などで、使わせてもらったことがあった。
 ちなみこの神代特区には、クロノス側しか知りえない旧市街に行ける通路が複数存在しているのである。

「大司教と行き違いになる可能性は?」
「彼しか知らないルートを使われたらおしまいですが、一応こちらが把握はあくしている場所には全部人員を配置しています。見かければすぐさま連絡が入ってくるはず」
「わかった。じゃあ、行くとするか」
「うふふ、陣さんとの初ミッション、腕が鳴りますね!」

 ルシアが不敵に笑いながら、やる気を見せる。
 彼女からしてみればここで優秀なところを見せつけ、従者じゅうしゃの件を考え直してもらいたいのだろう。

「オレ的には一人の方が楽なんだがな」

  旧市街には星魔教関連の施設があるはずなので、そこらにくわしいルシアに来てもらうのは得策。よって仕方なく連れていくことにしたのであった。

「そうおっしゃらず! 必ずや、お役にたって見せますので!」
「――まあ、頼んだ。――おっと、そうだ。入る前に灯里へ連絡しとかないとな。ルシア少し待っといてくれ」

 めげないルシアの主張を軽く流していると、ふとあることに気づく。
 そういえば灯里に報告するのを忘れていたのだ。遅くなって心配させてもわるいので、連絡を入れることに。

「あ!? 陣くん! 今どこ!?」
「うん? これから例の創星術師を追うため、上代特区の旧市街に向かうところだが」

 なにやら必死そうな灯里に、今の状況を説明する。

「わかったよ。私もすぐに向から待ってて!」
「灯里はお留守番るすばんだ。さすがにあんな危険な場所に、連れていくわけにはいかない」
「いや! 一緒に行く!」

 説得を試みるが、灯里はやけについてきたがる。
 その様子はいつもの彼女と違い、まったく余裕がなさそうだ。そうしなければならないという、強迫観念にとりつかれているように。

「どうした? なにか様子が変だが?」
「え? 少しいやな予感がするというか……」
「ははは、心配性だな。安心しろ、こっちにはリルもいるし、遅れはとらないさ。じゃあ、切るぞ」

 どうやらただ不安が積もっただけらしい。なので軽くさとし、通話を切ろうとする。
 すると灯里が必死に呼び止めてきた。

「――あっ、ちょっと待って!? 陣くん!」
「なんだ?」
「――戻ってくるよね……?」

 そして彼女は震えた声でたずねてくる。
 まるでこれから陣が遠いところに行ってしまい、会えなくなってしまうかのように。

「おいおい、なに当たり前のこと聞いてるんだよ?」
「――あ、あはは、ごめん、そうだよね……。行ってらっしゃい……」
「おう」

 今だ不安が晴れそうにない灯里の返事を聞いて、通話を切る。

(――さっきの灯里のあれは一体……。――うむ、なんだかオレまで胸騒ぎが……)

 陣も嫌な予感がしだしたが、考えていてもしかたない。なので気を引き締めて先へ進もうと。

「――まあ、いいか。よし、さっさと旧市街へ……」
「ッ!?」

 だが次の瞬間、得体のしれない感覚が襲い、通路の先を凝視ぎょうしした。
 するとその先から人影が。

「――え? レン……?」

 目をらしてみると、そこには陣が知っている人物が。
 そう、そこにいたのは少し前に出会った九歳ぐらいの少女、レンの姿が。

「くすくす、さあ、行こうよ! 陣お兄さん! レンが連れていってあげる!」

 レンは手を差し出し、満面の笑みで告げてくる。
 その様子は前にあった無邪気な姿そのもの。だというのになぜだろうか。普通の女の子であるはずのレンに、背筋が凍るような感覚を抱いてしまったのは。






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