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2章 第3部 陣の選択
72話 魔道へのいざない
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陣は隠し通路の入り口へと戻り、一度廃ビルのエントランスに向かう。
その間も迷っている真っ最中。本来ならアンドレーを追って、屋上に行くべきなのだろう。しかしその道を選んだ瞬間、陣は魔道の道へと完全に堕ちて戻ってこれなくなる気がするのだ。それは灯里との陽だまりの道を断念することにつながるため、ここで引き返したほうがいいのではないかという迷いが、脳裏をよぎってしまう。一応リルにこの迷いを相談したのだが、それはジンくんが決めることだと言われてしまった。なので一人で悩むしかなかった。
そうこうしているとビルのエントランスの方にたどりつく。受け付けのカウンターがあり、待合用のイスが並ぶいたって普通のエントランス。しかし廃れているのはもちろんのことあちこち破壊され、壁や床に穴があいているところも。中は外の曇った天気も合わさりかなり薄暗く、不気味な雰囲気をただよわせていた。
「レン?」
そんな荒れ果てたエントランスの中心付近に、レンがたたずんでいるのを見つける。
ただいつもの明るい雰囲気はなく、どこか重々しい静寂さをまとっていた。
「ねえ? 陣お兄さんはどうして迷ってるの? 求めていた輝きが目の前にあるんだよ? なら迷う必要なんてないよね?」
レンは陣をまっすぐに見詰め、心底不思議そうに首をかしげてくる。
「そんなことわかってるさ。これはオレがずっと求め続けてきた道。すべてを失う覚悟は、とっくにできてる。――だけど……」
相手は子供なので、本来真面目に答える必要はない。だが問うてくるレンの瞳に並々ならぬ圧を感じ、ごまかすことができなかったのだ。
これは陣が物心ついた時から夢見てたこと。狂おしい力への飢えを満たすため、自身にふさわしい輝きを見つけ求道し続ける。たとえその果てに滅ぶことになったとしても、もはや本望。少しでもこの渇きを潤すことができるならと。
(――まったく、どうして会ったばかりの女の子に、ここまで悩まされてるんだよ? 灯里との出会いは、これまで歩んできた道のりより重いのか?)
魔道の道を選ぼうとすると、どうしても灯里の顔が脳裏をよぎり躊躇させてくるのだ。まさか会ったばかりの少女に、ここまで人生を狂わされることになるとは。少し前まで夢にも思っていなかった。
「陣お兄さん、もっと素直になりなよ。灯里の道では、その狂おしいほどの渇きを癒すことなんてできやしない。救われるには、今だ見ぬ刺激。世界の真理に手を伸ばすしかないの。だから本能にしたがって、欲望のままに突き進めばいい。そうしなければレンたちは、生を実感できないんだから!」
レンは手を差し出し、瞳を狂気の色に染めながらうったえてくる
「――レンたち……?」
引っかかりを覚えていると、レンがタッタッタッと走って抱き付いてきた。
そして彼女は陣を見上げ、恐怖を覚えるほどの無邪気さでかたってくる。
「くすくす、陣お兄さんも早くおいで! レンのいるところはほんとすごいよ! 頭がおかしくなってしまいそうなぐらいの未知であふれてる! 今までのつまらない常識なんて、軽く吹き飛ぶぐらいのね!」
「――レン、お前はいったい……?」
もはやレンの言っていることがわからない。彼女はまだ九歳ぐらいの小さな女の子のはず。だというのにその口振りでは、まるで創星術師のようであった。
「レンは陣お兄さんや灯里と同類だよ! 狂おしいほどの力の飢えを持ち、魔法だって自由に扱えるんだから! まあ、違うところは、二人よりもさらに先の次元にいるだけ! うーん、センパイみたいな感じになるのかな? ほら、この通り!」
「ッ!?」
レンは衝撃的な事実を告白し、陣から離れる。そして手を掲げ、みずからの力を解放した。
その瞬間、周りの大気が悲鳴を上げるかのごとく震えだし、辺り一帯にすさまじい重圧が襲う。なにが起こったかというと、彼女の星が姿を現したのだ。
(――なんだこの星詠みは!? もう星の輝きなんて生易しいものじゃない。一つの世界そのものだ。こんなのこれまで見てきた創星術師のレベルを、軽く超えてる!?)
そのあまりの次元に驚愕するしかない。
星詠みは自身の星の輝き、概念で世界を塗りつぶす秘術。だがその浸食具合にもレベルがあり、いくら凄ウデの創星術師でも完全に塗り潰すにいたらない。しかしレンの星詠みは違った。あれは完全に世界を浸食し、文字通りの異界と化しているのだ。これは普通の創星術師が星の輝きで攻撃するのに対し、レンは自身の星、世界そのものをぶつけることにほかならないという。
それほどまでに彼女の恒星の純度はすさまじい。普通の創星術師だと自身の星を制御するのに手一杯だというのに、レンは完全にモノにし力を十二分に引き出せているのだから。いくらサイファス・フォルトナーの星の輝きを使うアンドレーでも、この高純度の星による出力を前には、手も足も出ないほどであった。
「これがレンのいる次元! 見ている世界! どう、すごいでしょ? ここまできたら、大抵のことはなんとかなっちゃうんだ!」
レンはクルクル回りながら両手を横に広げ、うっとりした笑みを。
彼女の瞳は狂気の色に染まっているが、嬉々爛々と輝いていた。よほど見えている景色は壮観なのだろう。もはや狂おしいほど力に飢えている陣には、喉から手が出るほどうらやましいといっていい。もはや羨望のまなざしを向けるしかない。
「うらやましい? でも大丈夫! 陣お兄さんも自分にふさわしい星の輝きを手に入れれば、レンの場所まで来られるよ!」
「――オレがレンのいる領域に!?」
「だって陣お兄さんはレンと同類だもん! なら同じ道筋をたどれば、来れないわけがないよね!」
胸に手を当て、にっこり笑いかけてくるレン。
彼女の言う通りだ。レンが行けたならば、同類である陣にも十分可能性があるはず。彼女と同じく普通の人々と違う次元におり、魔法も自由に使いこなせる陣だからこそ、星詠みの最奥に足を踏み入れることができるのかもしれない。そう、言ってしまえばレンは、陣が魔道に堕ちひたすら求道していった果ての姿といってもいいのだから。その事実が陣の心に深く突き刺さった。
「だから早く来てね! レンのダンスのお相手は、陣お兄さんしかいないんだから!」
レンはスカートの裾を持ち上げ、意味ありげにウィンクしてくる。
「あとそっちのお姉さんも、できれば一緒に来てほしいなぁ! もっともっと楽しめそうだもん!」
そして彼女はなぜか陣とは別の方向に視線を向けて、はしゃぎ気味に伝えだす。
「わたしのこと、気付いてたんだ」
すると驚くことに、レンの視線の先からリルが姿を現した。
どうやら姿を消していたリルに気付き、声をかけたみたいだ。
「ほんとにレンちゃんはすごいんだね。その歳で、もうその領域まで足を踏み入れてるなんて」
リルは胸に手を当て、畏怖の念を抱く。
彼女からしてもレンの存在は異常らしい。
「えへへ、レンは特別だからね! じゃあ、バイバーイ! 二人のこと、先のステージで待ってるよ!」
レンは伝えたいことだけ伝え、手を大きく振りながら満足げにビルから出ていってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、陣は今の自分の心境を整理する。
「――待ってるか……」
「ジンくん、どうするのかな?」
「ははは、あんなもの間近で見せられたらな。それにレンのいる次元は、なかなか満足いくものらしい。となればいくしかないだろ」
不敵な笑みを浮かべながら、拳をぐっとにぎる。
「――それでいいんだね……?」
「様々な輝きに触れて、目が覚めたよ。やっぱりずっと求めてきたものを、今さらあきらめられない。灯里にはわるいが、オレはオレの道を進ませてもらうさ」
リルのどこか複雑な表情での問いに、陣は迷いなく答えた。
今の陣の心を支配するのは魔道への想い。これまでは灯里との件で、心が陽だまりの日々を求めていた。しかしこの旧市街に来て、リル・フォルトナーの星の輝き。さらにはサイファス・フォルトナーやレンの星の輝きに触れ、魔道への探究心が抑えきれないぐらい膨れ上がってしまったのである。
そしてなにより同類の話。同類ゆえのシンパシーのせいか、レンを灯里と同じぐらい意識してしまうのだ。そのため彼女の今見ている世界への満足そうな顔が、脳裏から離れない。自分もあんなふうになりたいと、心の底から願ってしまっているのだ。もしレンが並外れた創星術師というだけなら、ここまで心変わりはしなかっただろうに。
「そうと決まれば、いくぞ、リル。アンドレーの元へ」
もはや自分も早く満足いく星を手に入れたいと、飢えた魂がさけんで止まらない。
陣は欲望のままに、アンドレーが待つ屋上へと向かうのであった。
その間も迷っている真っ最中。本来ならアンドレーを追って、屋上に行くべきなのだろう。しかしその道を選んだ瞬間、陣は魔道の道へと完全に堕ちて戻ってこれなくなる気がするのだ。それは灯里との陽だまりの道を断念することにつながるため、ここで引き返したほうがいいのではないかという迷いが、脳裏をよぎってしまう。一応リルにこの迷いを相談したのだが、それはジンくんが決めることだと言われてしまった。なので一人で悩むしかなかった。
そうこうしているとビルのエントランスの方にたどりつく。受け付けのカウンターがあり、待合用のイスが並ぶいたって普通のエントランス。しかし廃れているのはもちろんのことあちこち破壊され、壁や床に穴があいているところも。中は外の曇った天気も合わさりかなり薄暗く、不気味な雰囲気をただよわせていた。
「レン?」
そんな荒れ果てたエントランスの中心付近に、レンがたたずんでいるのを見つける。
ただいつもの明るい雰囲気はなく、どこか重々しい静寂さをまとっていた。
「ねえ? 陣お兄さんはどうして迷ってるの? 求めていた輝きが目の前にあるんだよ? なら迷う必要なんてないよね?」
レンは陣をまっすぐに見詰め、心底不思議そうに首をかしげてくる。
「そんなことわかってるさ。これはオレがずっと求め続けてきた道。すべてを失う覚悟は、とっくにできてる。――だけど……」
相手は子供なので、本来真面目に答える必要はない。だが問うてくるレンの瞳に並々ならぬ圧を感じ、ごまかすことができなかったのだ。
これは陣が物心ついた時から夢見てたこと。狂おしい力への飢えを満たすため、自身にふさわしい輝きを見つけ求道し続ける。たとえその果てに滅ぶことになったとしても、もはや本望。少しでもこの渇きを潤すことができるならと。
(――まったく、どうして会ったばかりの女の子に、ここまで悩まされてるんだよ? 灯里との出会いは、これまで歩んできた道のりより重いのか?)
魔道の道を選ぼうとすると、どうしても灯里の顔が脳裏をよぎり躊躇させてくるのだ。まさか会ったばかりの少女に、ここまで人生を狂わされることになるとは。少し前まで夢にも思っていなかった。
「陣お兄さん、もっと素直になりなよ。灯里の道では、その狂おしいほどの渇きを癒すことなんてできやしない。救われるには、今だ見ぬ刺激。世界の真理に手を伸ばすしかないの。だから本能にしたがって、欲望のままに突き進めばいい。そうしなければレンたちは、生を実感できないんだから!」
レンは手を差し出し、瞳を狂気の色に染めながらうったえてくる
「――レンたち……?」
引っかかりを覚えていると、レンがタッタッタッと走って抱き付いてきた。
そして彼女は陣を見上げ、恐怖を覚えるほどの無邪気さでかたってくる。
「くすくす、陣お兄さんも早くおいで! レンのいるところはほんとすごいよ! 頭がおかしくなってしまいそうなぐらいの未知であふれてる! 今までのつまらない常識なんて、軽く吹き飛ぶぐらいのね!」
「――レン、お前はいったい……?」
もはやレンの言っていることがわからない。彼女はまだ九歳ぐらいの小さな女の子のはず。だというのにその口振りでは、まるで創星術師のようであった。
「レンは陣お兄さんや灯里と同類だよ! 狂おしいほどの力の飢えを持ち、魔法だって自由に扱えるんだから! まあ、違うところは、二人よりもさらに先の次元にいるだけ! うーん、センパイみたいな感じになるのかな? ほら、この通り!」
「ッ!?」
レンは衝撃的な事実を告白し、陣から離れる。そして手を掲げ、みずからの力を解放した。
その瞬間、周りの大気が悲鳴を上げるかのごとく震えだし、辺り一帯にすさまじい重圧が襲う。なにが起こったかというと、彼女の星が姿を現したのだ。
(――なんだこの星詠みは!? もう星の輝きなんて生易しいものじゃない。一つの世界そのものだ。こんなのこれまで見てきた創星術師のレベルを、軽く超えてる!?)
そのあまりの次元に驚愕するしかない。
星詠みは自身の星の輝き、概念で世界を塗りつぶす秘術。だがその浸食具合にもレベルがあり、いくら凄ウデの創星術師でも完全に塗り潰すにいたらない。しかしレンの星詠みは違った。あれは完全に世界を浸食し、文字通りの異界と化しているのだ。これは普通の創星術師が星の輝きで攻撃するのに対し、レンは自身の星、世界そのものをぶつけることにほかならないという。
それほどまでに彼女の恒星の純度はすさまじい。普通の創星術師だと自身の星を制御するのに手一杯だというのに、レンは完全にモノにし力を十二分に引き出せているのだから。いくらサイファス・フォルトナーの星の輝きを使うアンドレーでも、この高純度の星による出力を前には、手も足も出ないほどであった。
「これがレンのいる次元! 見ている世界! どう、すごいでしょ? ここまできたら、大抵のことはなんとかなっちゃうんだ!」
レンはクルクル回りながら両手を横に広げ、うっとりした笑みを。
彼女の瞳は狂気の色に染まっているが、嬉々爛々と輝いていた。よほど見えている景色は壮観なのだろう。もはや狂おしいほど力に飢えている陣には、喉から手が出るほどうらやましいといっていい。もはや羨望のまなざしを向けるしかない。
「うらやましい? でも大丈夫! 陣お兄さんも自分にふさわしい星の輝きを手に入れれば、レンの場所まで来られるよ!」
「――オレがレンのいる領域に!?」
「だって陣お兄さんはレンと同類だもん! なら同じ道筋をたどれば、来れないわけがないよね!」
胸に手を当て、にっこり笑いかけてくるレン。
彼女の言う通りだ。レンが行けたならば、同類である陣にも十分可能性があるはず。彼女と同じく普通の人々と違う次元におり、魔法も自由に使いこなせる陣だからこそ、星詠みの最奥に足を踏み入れることができるのかもしれない。そう、言ってしまえばレンは、陣が魔道に堕ちひたすら求道していった果ての姿といってもいいのだから。その事実が陣の心に深く突き刺さった。
「だから早く来てね! レンのダンスのお相手は、陣お兄さんしかいないんだから!」
レンはスカートの裾を持ち上げ、意味ありげにウィンクしてくる。
「あとそっちのお姉さんも、できれば一緒に来てほしいなぁ! もっともっと楽しめそうだもん!」
そして彼女はなぜか陣とは別の方向に視線を向けて、はしゃぎ気味に伝えだす。
「わたしのこと、気付いてたんだ」
すると驚くことに、レンの視線の先からリルが姿を現した。
どうやら姿を消していたリルに気付き、声をかけたみたいだ。
「ほんとにレンちゃんはすごいんだね。その歳で、もうその領域まで足を踏み入れてるなんて」
リルは胸に手を当て、畏怖の念を抱く。
彼女からしてもレンの存在は異常らしい。
「えへへ、レンは特別だからね! じゃあ、バイバーイ! 二人のこと、先のステージで待ってるよ!」
レンは伝えたいことだけ伝え、手を大きく振りながら満足げにビルから出ていってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、陣は今の自分の心境を整理する。
「――待ってるか……」
「ジンくん、どうするのかな?」
「ははは、あんなもの間近で見せられたらな。それにレンのいる次元は、なかなか満足いくものらしい。となればいくしかないだろ」
不敵な笑みを浮かべながら、拳をぐっとにぎる。
「――それでいいんだね……?」
「様々な輝きに触れて、目が覚めたよ。やっぱりずっと求めてきたものを、今さらあきらめられない。灯里にはわるいが、オレはオレの道を進ませてもらうさ」
リルのどこか複雑な表情での問いに、陣は迷いなく答えた。
今の陣の心を支配するのは魔道への想い。これまでは灯里との件で、心が陽だまりの日々を求めていた。しかしこの旧市街に来て、リル・フォルトナーの星の輝き。さらにはサイファス・フォルトナーやレンの星の輝きに触れ、魔道への探究心が抑えきれないぐらい膨れ上がってしまったのである。
そしてなにより同類の話。同類ゆえのシンパシーのせいか、レンを灯里と同じぐらい意識してしまうのだ。そのため彼女の今見ている世界への満足そうな顔が、脳裏から離れない。自分もあんなふうになりたいと、心の底から願ってしまっているのだ。もしレンが並外れた創星術師というだけなら、ここまで心変わりはしなかっただろうに。
「そうと決まれば、いくぞ、リル。アンドレーの元へ」
もはや自分も早く満足いく星を手に入れたいと、飢えた魂がさけんで止まらない。
陣は欲望のままに、アンドレーが待つ屋上へと向かうのであった。
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