創星のレクイエム

有永 ナギサ

文字の大きさ
73 / 114
2章 第3部 陣の選択

72話 魔道へのいざない

しおりを挟む
 陣は隠し通路の入り口へと戻り、一度廃ビルのエントランスに向かう。
 その間も迷っている真っ最中。本来ならアンドレーを追って、屋上に行くべきなのだろう。しかしその道を選んだ瞬間、陣は魔道の道へと完全にちて戻ってこれなくなる気がするのだ。それは灯里との陽だまりの道を断念することにつながるため、ここで引き返したほうがいいのではないかという迷いが、脳裏をよぎってしまう。一応リルにこの迷いを相談したのだが、それはジンくんが決めることだと言われてしまった。なので一人で悩むしかなかった。
 そうこうしているとビルのエントランスの方にたどりつく。受け付けのカウンターがあり、待合用のイスが並ぶいたって普通のエントランス。しかし廃れているのはもちろんのことあちこち破壊され、壁や床に穴があいているところも。中は外の曇った天気も合わさりかなり薄暗く、不気味な雰囲気をただよわせていた。

「レン?」

 そんな荒れ果てたエントランスの中心付近に、レンがたたずんでいるのを見つける。
 ただいつもの明るい雰囲気はなく、どこか重々しい静寂さをまとっていた。

「ねえ? 陣お兄さんはどうして迷ってるの? 求めていた輝きが目の前にあるんだよ? なら迷う必要なんてないよね?」

 レンは陣をまっすぐに見詰め、心底不思議そうに首をかしげてくる。

「そんなことわかってるさ。これはオレがずっと求め続けてきた道。すべてを失う覚悟は、とっくにできてる。――だけど……」

 相手は子供なので、本来真面目に答える必要はない。だが問うてくるレンの瞳に並々ならぬ圧を感じ、ごまかすことができなかったのだ。
 これは陣が物心ついた時から夢見てたこと。狂おしい力への飢えを満たすため、自身にふさわしい輝きを見つけ求道し続ける。たとえその果てに滅ぶことになったとしても、もはや本望。少しでもこのかわきをうるおすことができるならと。

(――まったく、どうして会ったばかりの女の子に、ここまで悩まされてるんだよ? 灯里との出会いは、これまで歩んできた道のりより重いのか?)

 魔道の道を選ぼうとすると、どうしても灯里の顔が脳裏をよぎり躊躇ちゅうちょさせてくるのだ。まさか会ったばかりの少女に、ここまで人生を狂わされることになるとは。少し前まで夢にも思っていなかった。

「陣お兄さん、もっと素直になりなよ。灯里の道では、その狂おしいほどの渇きを癒すことなんてできやしない。救われるには、今だ見ぬ刺激。世界の真理に手を伸ばすしかないの。だから本能にしたがって、欲望のままに突き進めばいい。そうしなければレンたちは、生を実感できないんだから!」

 レンは手を差し出し、瞳を狂気の色に染めながらうったえてくる

「――レンたち……?」

 引っかかりを覚えていると、レンがタッタッタッと走って抱き付いてきた。
 そして彼女は陣を見上げ、恐怖を覚えるほどの無邪気さでかたってくる。

「くすくす、陣お兄さんも早くおいで! レンのいるところはほんとすごいよ! 頭がおかしくなってしまいそうなぐらいの未知であふれてる! 今までのつまらない常識なんて、軽く吹き飛ぶぐらいのね!」
「――レン、お前はいったい……?」

 もはやレンの言っていることがわからない。彼女はまだ九歳ぐらいの小さな女の子のはず。だというのにその口振りでは、まるで創星術師のようであった。

「レンは陣お兄さんや灯里と同類だよ! 狂おしいほどの力の飢えを持ち、魔法だって自由に扱えるんだから! まあ、違うところは、二人よりもさらに先の次元にいるだけ! うーん、センパイみたいな感じになるのかな? ほら、この通り!」
「ッ!?」

 レンは衝撃的な事実を告白し、陣から離れる。そして手をかかげ、みずからの力を解放した。
 その瞬間、周りの大気が悲鳴を上げるかのごとく震えだし、辺り一帯にすさまじい重圧が襲う。なにが起こったかというと、彼女の星が姿を現したのだ。

(――なんだこの星詠ほしよみは!? もう星の輝きなんて生易しいものじゃない。一つの世界そのものだ。こんなのこれまで見てきた創星術師のレベルを、軽く超えてる!?)

 そのあまりの次元に驚愕きょうがくするしかない。
 星詠みは自身の星の輝き、概念で世界を塗りつぶす秘術。だがその浸食具合にもレベルがあり、いくら凄ウデの創星術師でも完全に塗り潰すにいたらない。しかしレンの星詠みは違った。あれは完全に世界を浸食し、文字通りの異界と化しているのだ。これは普通の創星術師が星の輝きで攻撃するのに対し、レンは自身の星、世界そのものをぶつけることにほかならないという。
 それほどまでに彼女の恒星こうせいの純度はすさまじい。普通の創星術師だと自身の星を制御するのに手一杯だというのに、レンは完全にモノにし力を十二分に引き出せているのだから。いくらサイファス・フォルトナーの星の輝きを使うアンドレーでも、この高純度の星による出力を前には、手も足も出ないほどであった。

「これがレンのいる次元! 見ている世界! どう、すごいでしょ? ここまできたら、大抵たいていのことはなんとかなっちゃうんだ!」

 レンはクルクル回りながら両手を横に広げ、うっとりした笑みを。
 彼女の瞳は狂気の色に染まっているが、嬉々爛々ききらんらんと輝いていた。よほど見えている景色は壮観そうかんなのだろう。もはや狂おしいほど力に飢えている陣には、のどから手が出るほどうらやましいといっていい。もはや羨望せんぼうのまなざしを向けるしかない。

「うらやましい? でも大丈夫! 陣お兄さんも自分にふさわしい星の輝きを手に入れれば、レンの場所まで来られるよ!」
「――オレがレンのいる領域に!?」
「だって陣お兄さんはレンと同類だもん! なら同じ道筋をたどれば、来れないわけがないよね!」

 胸に手を当て、にっこり笑いかけてくるレン。
 彼女の言う通りだ。レンが行けたならば、同類である陣にも十分可能性があるはず。彼女と同じく普通の人々と違う次元におり、魔法も自由に使いこなせる陣だからこそ、星詠みの最奥に足を踏み入れることができるのかもしれない。そう、言ってしまえばレンは、陣が魔道に堕ちひたすら求道していった果ての姿といってもいいのだから。その事実が陣の心に深く突き刺さった。

「だから早く来てね! レンのダンスのお相手は、陣お兄さんしかいないんだから!」

 レンはスカートのすそを持ち上げ、意味ありげにウィンクしてくる。

「あとそっちのお姉さんも、できれば一緒に来てほしいなぁ! もっともっと楽しめそうだもん!」

 そして彼女はなぜか陣とは別の方向に視線を向けて、はしゃぎ気味に伝えだす。

「わたしのこと、気付いてたんだ」

 すると驚くことに、レンの視線の先からリルが姿をあらわした。
 どうやら姿を消していたリルに気付き、声をかけたみたいだ。

「ほんとにレンちゃんはすごいんだね。その歳で、もうその領域まで足を踏み入れてるなんて」

 リルは胸に手を当て、畏怖いふの念を抱く。
 彼女からしてもレンの存在は異常らしい。

「えへへ、レンは特別だからね! じゃあ、バイバーイ! 二人のこと、先のステージで待ってるよ!」

 レンは伝えたいことだけ伝え、手を大きく振りながら満足げにビルから出ていってしまった。
 その後ろ姿を見つめながら、陣は今の自分の心境を整理する。

「――待ってるか……」
「ジンくん、どうするのかな?」
「ははは、あんなもの間近で見せられたらな。それにレンのいる次元は、なかなか満足いくものらしい。となればいくしかないだろ」

 不敵な笑みを浮かべながら、こぶしをぐっとにぎる。

「――それでいいんだね……?」
「様々な輝きに触れて、目が覚めたよ。やっぱりずっと求めてきたものを、今さらあきらめられない。灯里にはわるいが、オレはオレの道を進ませてもらうさ」

 リルのどこか複雑な表情での問いに、陣は迷いなく答えた。
 今の陣の心を支配するのは魔道への想い。これまでは灯里との件で、心が陽だまりの日々を求めていた。しかしこの旧市街に来て、リル・フォルトナーの星の輝き。さらにはサイファス・フォルトナーやレンの星の輝きに触れ、魔道への探究心が抑えきれないぐらい膨れ上がってしまったのである。
 そしてなにより同類の話。同類ゆえのシンパシーのせいか、レンを灯里と同じぐらい意識してしまうのだ。そのため彼女の今見ている世界への満足そうな顔が、脳裏から離れない。自分もあんなふうになりたいと、心の底から願ってしまっているのだ。もしレンが並外れた創星術師というだけなら、ここまで心変わりはしなかっただろうに。

「そうと決まれば、いくぞ、リル。アンドレーの元へ」

 もはや自分も早く満足いく星を手に入れたいと、えた魂がさけんで止まらない。
 陣は欲望のままに、アンドレーが待つ屋上へと向かうのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...