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2章 第4部 手に入れた力
80話 契約
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「クッ!?」
あまりの力と力のぶつかり合いに、吹き飛ばされてしまった。
陣はダメージを受けた身体を無理矢理動かし、立ち上がる。すでにアンドレーとの激しい戦闘で、身体はボロボロ。ふらついている始末であり、正直厳しいといっていい。
戦況はなんとかくいついているものの、劣勢。さっきからアンドレーの圧倒的破壊の力を紙一重で受け流し、隙を突こうと攻めているが出力不足できめ切れない。結果、じり貧となってしまい、こちらのダメージが蓄積するばかり。一応陣も彼と同じ破壊という概念を凝縮したような黒いオーラで、戦っている。しかしいくら同じ星を使っているといっても、練度が明らかに違う。やはり初心者創星使いと、本場の創星術師では埋められない差があるみたいだ。
「――はぁ……、――はぁ……、わかっていたが、少しきついな」
息を切らしながら、敵の方に視線を移す。
すると肩で息をし、必死に耐えているアンドレーの姿が。
「まあ、向こうも向こうで、相当厳しそうだけどな……」
戦闘の押され具合からして陣が不利に見えるが、案外そうでもなさそうなのだ。
というのもアンドレーの状況は、暴走して自我を失う一歩手前。そんなギリギリの状態で、いつまでも力を行使し続けられるわけがない。もはや彼は陣以上に崖っぷちといってよく、このまま時間を稼げれば勝てるかもしれなかった。
「このまま一気にたたみかけられれば……、――ッ!?」
サイファス・フォルトナーの疑似恒星に力を込めようとした瞬間、意識を飲まれそうな感覚が襲う。
「――こっちも時間切れ間近かよ……。さすがに星詠みを使いすぎたか。これ以上やれば、歯止めが効かなくなって最悪暴走しちまうかもな……」
どうやら陣も限界が近いようだ。度重なる星詠みの反動が、陣の精神力をゴリゴリ削っているらしい。このままでは力への衝動を抑えきれなくなり、暴走レベルまで同調してしまう恐れが。そうなればもはや魔道の求道どころの話ではなくなり、四条陣の人生がおわる最悪の事態に発展しかねなかった。
「陣くん! よかった! まだ無事みたいだね!」
危機感にさいなまれていると、聞き慣れた声が。
振り向くと、灯里が全速力で駆けつけてくれる。
「灯里!? なんでこんなところに!?」
「――はぁ……、はぁ……、あはは、陣くんにどうしても渡したいものがあったからね! だからクレハと奈月を放って、先に来ちゃった!」
灯里は息を切らしながら、意味ありげにウィンクしてくる。
「渡したいものだって?」
「うん! はい、これ! 陣くんにリルの疑似恒星をあげるよ! 大事に使ってあげてね!」
そして灯里はリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを差し出してくれた。
「いや、待て、オレにはこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星があるんだが……」
「陣くんも、うすうす気づいてるんじゃないかな? その疑似恒星は不完全だってことを」
「――それは……」
彼女の指摘には心当たりがあった。
実を言うとこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星、彼の星の形。使っていてわかったのだが、なんとも言えない違和感があるという。それは恒星があまりに強すぎるせいで、制御機構が完全に追いついていないのだ。これでは歯止めが気かず、アンドレーのように暴走するしかないといっていい。もはや本当にサイファス・フォルトナーはこの星を使いこなせていたのかと、疑問に思うほどであった。
「だから陣くんが先へ進むには、最後のピース。このリル・フォルトナーの疑似恒星が必要なの。でないとあの人のように暴走する未来しかない。だからどうか受けとってほしい」
灯里はまっすぐに陣を見つめ、切実にうったえてくる。
「だけどそれは灯里から、リルを奪うことになってしまうだろ。そんなことできるわけ……」
そんな懸命な説得だが、断るしかなかった。
すでにリルの事は、灯里に任せると決めているのだ。もしここで受け取ってしまえば、リルを救うため頑張ってきた彼女の努力が無駄になってしまう。それに本当の姉妹のように仲がいい二人を引き離すのは、非常に心苦しい。灯里の陽だまりの道を応援したい陣にとって、その提案を受け入れるわけにはいかないのだ。
「ねえ、陣くん。私ね、この選択を選ぶときすごく迷ったんだ。リルとこのまま一緒にいるか、それとも陣くんを助けるために手放すのか。もし陣くんを完全に救えるなら迷わず後者を選ぶけど、その場合はただ破滅の道を遅らせるだけだからね。いづれ二人は魔道の深淵を突き進み、いなくなってしまうはず。そうなったら結局リルまで失うはめになってしまう。なら初めからリルを選んだほうがいいよね。でも私にはどうしてもキミを見捨てることができなくて、もう、どうしたらいいか……」
首を縦に振らない陣に対し、灯里は胸をぎゅっと押さえ自身の心境を辛そうにかたっていく。
そう、灯里からして見れば、もう陣を完全に救うことはできないのだ。リルを渡したとしても、いづれ破滅の道に突き進んでしまう。しかもその場合、リルも陣の道連れにされてしまう最悪な展開に。ゆえに助けたくても、灯里は陣を救うべきではなかった。たとえどれだけそれを渇望しても。
「だけど気づいたの! そんな悲観的な考え、私らしくないってね! そもそも失う未来しかないなら、自分で作ればいいだけの話! だから水無瀬灯里は、陣くんもリルも手放さずどっちもとってみせるよ!」
しかしそれもつかの間、灯里は陣の手を取りまぶしい笑顔で宣言を。
どうやら考え抜いた結果、納得できる答えを見つけたらしい。答えをかたる彼女には、一切の迷いが感じられなかった。
「そんなのどうやって?」
「ふっふっふっ! 簡単なことなのだよ! 私が二人の進む道について行って、見守ってあげる! そうすれば堕ちすぎて取り返しのつかなくなったとき、すぐ助けられるでしょ! どう? これなら二人を失わずに済まないかな?」
灯里はにぎっている陣の手にぎゅっと力込め、不敵にほほえみながらウィンクしてくる。
彼女の選択。それは陣とリルが進む魔道の道に、自分もついていくというもの。どうやら彼女は陣たちが正気でいられるよう、つなぎ止める役を買ってくれるようだ。確かに灯里がそばにいてくれれば、魔道に百パーセント執着するといったことは難しそうだ。たぶんいつものように振り回され、それどころではないはず。しかも彼女は陣の抱える問題を、同類ゆえ誰よりも理解してくれている。その点もあり、つなぎ止め役としてこれほどあった人材はいないだろう。
「――アカリ……、キミって子は……」
気が付くと、さっきまでいなかったリルが姿をみせていた。
リルも陣と同じく呆気にとられているようだ。陽だまりの道を求める彼女が、まさか魔道の道へついてくることを選ぶとは。予想外にもほどがあった。
「だから陣くんもリルも、大船に乗ったつもりでいればいいよ! もしもの時は私が引っぱたたいてでも、連れ戻してみせるから! そういうわけで陣くんは、なにも気にせず受け取ってね!」
灯里は陽だまりのような笑顔を向け、再びリル・フォルトナーの疑似恒星を差し出してくる。
その姿は陣が抱く不安をすべて吹き飛ばしてしまうほどの、力強さがあったといっていい。灯里ならその不可能じみたことであろうと、可能にしてくれると。気づけば彼女のまぶしくも温かいオーラに、心を動かされていた。
「――灯里……。リルのほうはいいのか?」
「もちろんなんだよ。正式なマスターができるのは、わたしにとって喜ばしいことだもん。それにわたしもジンくんを助けてあげたいしね。だからどうか受け取ってほしいんだよ」
リルは祈るように手を組み、慈愛に満ちたほほえみを向けてくる。
灯里だけでなく、リルのほうも陣に付き合ってくれるようだ。
「――わかった。ありがたく受け取らせてもらうぞ、二人とも」
となれば陣の取るべき選択は一つ。彼女たちの想いをありがたく受け入れ、力を貸してもらうしかない。陣は灯里からリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを受け取った。
「はい、どうぞ! あはは、よかったね! 陣くん! これで二人のかわいい女の子が、ついてくることになったよ! この幸せ者めー!」
「灯里、本気でついてくる気なんだな?」
ニヤニヤと茶化してくる灯里に、改めて覚悟を問う。
「もっちろん! 二人は私の大切な人だもん! 一緒にいるためなら、いくらでも一肌脱いであげるよ! あと、ただついていくだけじゃないから、覚悟しといてね! 隙あらば陣くんをさとして、陽だまりの道へと引きずり込んであげるから!」
胸をどんっとたたき、力強くほほえんでくる灯里。そして陣の胸板に人差し指を当て、かわいらしくウィンクを。
さすがは灯里。ただ受けに回るだけでなく、攻める機会もうかがっているようだ。陣の思い描く魔道の道を、灯里の思い描く陽だまりの道に塗り替えようと。もしかすると最大の敵は、身内にいるのかもしれない。
「ははは、それは足元をすくわれないように、気をつけないといけないな。じゃあ、行ってくる。灯里はここで待っといてくれ」
「うん、行ってらっしゃい!」
灯里に見送られ、陣はアンドレーの前へと再び向かう。
「――はぁ……、――はぁ……、まだこりねーのかよ? お前さんじゃ、オレ様に勝てねーっていうのに」
アンドレーは今だあふれ出る力を押さえ、必死に耐えていた。
「ははは、確かに、練度の差がある以上、オレに勝ち目はないかもな。だったら仲間の力を借りるまでだ!」
「なんだと?」
「アンドレー、冥土の土産に面白いものを見せてやるよ! これはあんたが求めていた、さらなる高みの景色! 最果てに通じる、輝きだ!」
陣はサイファス・フォルトナーの疑似恒星と、リル・フォルトナーの疑似恒星を手にアンドレーへ声高らかに告げた。
「やるぞ、リル!」
「うん、いつでもいいんだよ」
陣のかけ声を合図に、リルは消え疑似恒星の中へと戻っていく。
それを確認し、陣は二つの疑似恒星を一つに。リル・フォルトナーの疑似恒星はロケット式のペンダント。ゆえに中になにかを収納することが可能なのだ。そしてはめ込むのはもちろんサイファス・フォルトナーの疑似恒星である、禍々しい深紅の宝石。なんとこの宝石はロケット式のペンダントに、ぴったり収まる大きさだったのだ。まるで始めから二つが、一セットで作られていたかのように。
「なに!? 二つの疑似恒星を一つにだと!?」
「これがサイファス・フォルトナーの疑似恒星の真の姿だ!」
一つにした疑似恒星から、連鎖反応するかのように虹色の輝きがあふれ出てくる。そのほとばしる余波は、これまで見たことのないほど圧巻で美しい。思わず行使することを忘れ、見惚れてしまいそうになるぐらいだ。
そして輝きは次第に大きくなっていき、陣を包んでいくほどに。それと同時に陣の意識も薄れていって。
(――誰だ? そこにいるのは?)
気づけば見知らぬ光景が目に飛び込んでくる。
しかし視界はノイズがひどく、周りの景色まで識別できない。ただ二つの人影が視線の先にいるのだけはわかった。
「さあ、来たまえ、少年! そして我らに見せてくれ! 新たなる可能性の輝きを!」
そんな中、謎の男が陣に手を差し出し、声高らかに告げてくる。
「ふふっ、わたしたちは待ってるんだよ。この最果てで……」
さらに男の手前にいたリルの面影がある銀色の髪の少女も、意味ありげに伝えてきた。愛おしげにほほえみながら。
「――ああ、待っていろ。オレは必ずたどり着いて、そして……」
消えゆく意識の中、陣は彼らに手を伸ばしながらも宣言を。
自身のやるべきことを、この一瞬のときだけ理解して。
「ジンくん、大丈夫? 使いこなせそうかな?」
リルの声を聞いて目を開けると、そこは先ほどまでいた景色。
なにやら一瞬夢のようなものを見ていた気がするが、内容は思いだせない。しかし心がこれまでにないほど、高揚しているのはわかった。まるで求めて止まないものを、垣間見れたかのように。
「ああ、いけそうだ。リル、サポートは頼んだぞ。」
すぐ後ろに声をかける。
というのも彼女が陣のすぐ後ろで、ただよっているような感じがしたのだ。まるで幽霊に取り憑かれている状態というべきか。視線を移すと、うっすらとだがリルが宙を浮きただよっているのがわかる。おそらくほかの人間には見えないだろうが、同調している陣にはなんとなくそこにいるのがわかった。
「うん、任せてなんだよ。じゃあ、ジンく、ううん……」
リルは快く引き受け応えようとするが、陣の名前のところでいいとどまる。
そして彼女は後ろから抱きつく感じに、陣の首元へ両腕を回し。
「――さあ、マスター……。わたしたちの星を奏でよう。この世界に刻む鎮魂歌を……」
さぞ愛おしげに、万感の思いを込めて告げてきた。
「ああ、奏でてやるさ。この創造の星の輝きでな!」
陣は一つとなった疑似恒星を天高く掲げ、マナを込めながら宣言を。
そして創造の星を解き放つのであった。
あまりの力と力のぶつかり合いに、吹き飛ばされてしまった。
陣はダメージを受けた身体を無理矢理動かし、立ち上がる。すでにアンドレーとの激しい戦闘で、身体はボロボロ。ふらついている始末であり、正直厳しいといっていい。
戦況はなんとかくいついているものの、劣勢。さっきからアンドレーの圧倒的破壊の力を紙一重で受け流し、隙を突こうと攻めているが出力不足できめ切れない。結果、じり貧となってしまい、こちらのダメージが蓄積するばかり。一応陣も彼と同じ破壊という概念を凝縮したような黒いオーラで、戦っている。しかしいくら同じ星を使っているといっても、練度が明らかに違う。やはり初心者創星使いと、本場の創星術師では埋められない差があるみたいだ。
「――はぁ……、――はぁ……、わかっていたが、少しきついな」
息を切らしながら、敵の方に視線を移す。
すると肩で息をし、必死に耐えているアンドレーの姿が。
「まあ、向こうも向こうで、相当厳しそうだけどな……」
戦闘の押され具合からして陣が不利に見えるが、案外そうでもなさそうなのだ。
というのもアンドレーの状況は、暴走して自我を失う一歩手前。そんなギリギリの状態で、いつまでも力を行使し続けられるわけがない。もはや彼は陣以上に崖っぷちといってよく、このまま時間を稼げれば勝てるかもしれなかった。
「このまま一気にたたみかけられれば……、――ッ!?」
サイファス・フォルトナーの疑似恒星に力を込めようとした瞬間、意識を飲まれそうな感覚が襲う。
「――こっちも時間切れ間近かよ……。さすがに星詠みを使いすぎたか。これ以上やれば、歯止めが効かなくなって最悪暴走しちまうかもな……」
どうやら陣も限界が近いようだ。度重なる星詠みの反動が、陣の精神力をゴリゴリ削っているらしい。このままでは力への衝動を抑えきれなくなり、暴走レベルまで同調してしまう恐れが。そうなればもはや魔道の求道どころの話ではなくなり、四条陣の人生がおわる最悪の事態に発展しかねなかった。
「陣くん! よかった! まだ無事みたいだね!」
危機感にさいなまれていると、聞き慣れた声が。
振り向くと、灯里が全速力で駆けつけてくれる。
「灯里!? なんでこんなところに!?」
「――はぁ……、はぁ……、あはは、陣くんにどうしても渡したいものがあったからね! だからクレハと奈月を放って、先に来ちゃった!」
灯里は息を切らしながら、意味ありげにウィンクしてくる。
「渡したいものだって?」
「うん! はい、これ! 陣くんにリルの疑似恒星をあげるよ! 大事に使ってあげてね!」
そして灯里はリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを差し出してくれた。
「いや、待て、オレにはこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星があるんだが……」
「陣くんも、うすうす気づいてるんじゃないかな? その疑似恒星は不完全だってことを」
「――それは……」
彼女の指摘には心当たりがあった。
実を言うとこのサイファス・フォルトナーの疑似恒星、彼の星の形。使っていてわかったのだが、なんとも言えない違和感があるという。それは恒星があまりに強すぎるせいで、制御機構が完全に追いついていないのだ。これでは歯止めが気かず、アンドレーのように暴走するしかないといっていい。もはや本当にサイファス・フォルトナーはこの星を使いこなせていたのかと、疑問に思うほどであった。
「だから陣くんが先へ進むには、最後のピース。このリル・フォルトナーの疑似恒星が必要なの。でないとあの人のように暴走する未来しかない。だからどうか受けとってほしい」
灯里はまっすぐに陣を見つめ、切実にうったえてくる。
「だけどそれは灯里から、リルを奪うことになってしまうだろ。そんなことできるわけ……」
そんな懸命な説得だが、断るしかなかった。
すでにリルの事は、灯里に任せると決めているのだ。もしここで受け取ってしまえば、リルを救うため頑張ってきた彼女の努力が無駄になってしまう。それに本当の姉妹のように仲がいい二人を引き離すのは、非常に心苦しい。灯里の陽だまりの道を応援したい陣にとって、その提案を受け入れるわけにはいかないのだ。
「ねえ、陣くん。私ね、この選択を選ぶときすごく迷ったんだ。リルとこのまま一緒にいるか、それとも陣くんを助けるために手放すのか。もし陣くんを完全に救えるなら迷わず後者を選ぶけど、その場合はただ破滅の道を遅らせるだけだからね。いづれ二人は魔道の深淵を突き進み、いなくなってしまうはず。そうなったら結局リルまで失うはめになってしまう。なら初めからリルを選んだほうがいいよね。でも私にはどうしてもキミを見捨てることができなくて、もう、どうしたらいいか……」
首を縦に振らない陣に対し、灯里は胸をぎゅっと押さえ自身の心境を辛そうにかたっていく。
そう、灯里からして見れば、もう陣を完全に救うことはできないのだ。リルを渡したとしても、いづれ破滅の道に突き進んでしまう。しかもその場合、リルも陣の道連れにされてしまう最悪な展開に。ゆえに助けたくても、灯里は陣を救うべきではなかった。たとえどれだけそれを渇望しても。
「だけど気づいたの! そんな悲観的な考え、私らしくないってね! そもそも失う未来しかないなら、自分で作ればいいだけの話! だから水無瀬灯里は、陣くんもリルも手放さずどっちもとってみせるよ!」
しかしそれもつかの間、灯里は陣の手を取りまぶしい笑顔で宣言を。
どうやら考え抜いた結果、納得できる答えを見つけたらしい。答えをかたる彼女には、一切の迷いが感じられなかった。
「そんなのどうやって?」
「ふっふっふっ! 簡単なことなのだよ! 私が二人の進む道について行って、見守ってあげる! そうすれば堕ちすぎて取り返しのつかなくなったとき、すぐ助けられるでしょ! どう? これなら二人を失わずに済まないかな?」
灯里はにぎっている陣の手にぎゅっと力込め、不敵にほほえみながらウィンクしてくる。
彼女の選択。それは陣とリルが進む魔道の道に、自分もついていくというもの。どうやら彼女は陣たちが正気でいられるよう、つなぎ止める役を買ってくれるようだ。確かに灯里がそばにいてくれれば、魔道に百パーセント執着するといったことは難しそうだ。たぶんいつものように振り回され、それどころではないはず。しかも彼女は陣の抱える問題を、同類ゆえ誰よりも理解してくれている。その点もあり、つなぎ止め役としてこれほどあった人材はいないだろう。
「――アカリ……、キミって子は……」
気が付くと、さっきまでいなかったリルが姿をみせていた。
リルも陣と同じく呆気にとられているようだ。陽だまりの道を求める彼女が、まさか魔道の道へついてくることを選ぶとは。予想外にもほどがあった。
「だから陣くんもリルも、大船に乗ったつもりでいればいいよ! もしもの時は私が引っぱたたいてでも、連れ戻してみせるから! そういうわけで陣くんは、なにも気にせず受け取ってね!」
灯里は陽だまりのような笑顔を向け、再びリル・フォルトナーの疑似恒星を差し出してくる。
その姿は陣が抱く不安をすべて吹き飛ばしてしまうほどの、力強さがあったといっていい。灯里ならその不可能じみたことであろうと、可能にしてくれると。気づけば彼女のまぶしくも温かいオーラに、心を動かされていた。
「――灯里……。リルのほうはいいのか?」
「もちろんなんだよ。正式なマスターができるのは、わたしにとって喜ばしいことだもん。それにわたしもジンくんを助けてあげたいしね。だからどうか受け取ってほしいんだよ」
リルは祈るように手を組み、慈愛に満ちたほほえみを向けてくる。
灯里だけでなく、リルのほうも陣に付き合ってくれるようだ。
「――わかった。ありがたく受け取らせてもらうぞ、二人とも」
となれば陣の取るべき選択は一つ。彼女たちの想いをありがたく受け入れ、力を貸してもらうしかない。陣は灯里からリル・フォルトナーの疑似恒星である、ロケット式のペンダントを受け取った。
「はい、どうぞ! あはは、よかったね! 陣くん! これで二人のかわいい女の子が、ついてくることになったよ! この幸せ者めー!」
「灯里、本気でついてくる気なんだな?」
ニヤニヤと茶化してくる灯里に、改めて覚悟を問う。
「もっちろん! 二人は私の大切な人だもん! 一緒にいるためなら、いくらでも一肌脱いであげるよ! あと、ただついていくだけじゃないから、覚悟しといてね! 隙あらば陣くんをさとして、陽だまりの道へと引きずり込んであげるから!」
胸をどんっとたたき、力強くほほえんでくる灯里。そして陣の胸板に人差し指を当て、かわいらしくウィンクを。
さすがは灯里。ただ受けに回るだけでなく、攻める機会もうかがっているようだ。陣の思い描く魔道の道を、灯里の思い描く陽だまりの道に塗り替えようと。もしかすると最大の敵は、身内にいるのかもしれない。
「ははは、それは足元をすくわれないように、気をつけないといけないな。じゃあ、行ってくる。灯里はここで待っといてくれ」
「うん、行ってらっしゃい!」
灯里に見送られ、陣はアンドレーの前へと再び向かう。
「――はぁ……、――はぁ……、まだこりねーのかよ? お前さんじゃ、オレ様に勝てねーっていうのに」
アンドレーは今だあふれ出る力を押さえ、必死に耐えていた。
「ははは、確かに、練度の差がある以上、オレに勝ち目はないかもな。だったら仲間の力を借りるまでだ!」
「なんだと?」
「アンドレー、冥土の土産に面白いものを見せてやるよ! これはあんたが求めていた、さらなる高みの景色! 最果てに通じる、輝きだ!」
陣はサイファス・フォルトナーの疑似恒星と、リル・フォルトナーの疑似恒星を手にアンドレーへ声高らかに告げた。
「やるぞ、リル!」
「うん、いつでもいいんだよ」
陣のかけ声を合図に、リルは消え疑似恒星の中へと戻っていく。
それを確認し、陣は二つの疑似恒星を一つに。リル・フォルトナーの疑似恒星はロケット式のペンダント。ゆえに中になにかを収納することが可能なのだ。そしてはめ込むのはもちろんサイファス・フォルトナーの疑似恒星である、禍々しい深紅の宝石。なんとこの宝石はロケット式のペンダントに、ぴったり収まる大きさだったのだ。まるで始めから二つが、一セットで作られていたかのように。
「なに!? 二つの疑似恒星を一つにだと!?」
「これがサイファス・フォルトナーの疑似恒星の真の姿だ!」
一つにした疑似恒星から、連鎖反応するかのように虹色の輝きがあふれ出てくる。そのほとばしる余波は、これまで見たことのないほど圧巻で美しい。思わず行使することを忘れ、見惚れてしまいそうになるぐらいだ。
そして輝きは次第に大きくなっていき、陣を包んでいくほどに。それと同時に陣の意識も薄れていって。
(――誰だ? そこにいるのは?)
気づけば見知らぬ光景が目に飛び込んでくる。
しかし視界はノイズがひどく、周りの景色まで識別できない。ただ二つの人影が視線の先にいるのだけはわかった。
「さあ、来たまえ、少年! そして我らに見せてくれ! 新たなる可能性の輝きを!」
そんな中、謎の男が陣に手を差し出し、声高らかに告げてくる。
「ふふっ、わたしたちは待ってるんだよ。この最果てで……」
さらに男の手前にいたリルの面影がある銀色の髪の少女も、意味ありげに伝えてきた。愛おしげにほほえみながら。
「――ああ、待っていろ。オレは必ずたどり着いて、そして……」
消えゆく意識の中、陣は彼らに手を伸ばしながらも宣言を。
自身のやるべきことを、この一瞬のときだけ理解して。
「ジンくん、大丈夫? 使いこなせそうかな?」
リルの声を聞いて目を開けると、そこは先ほどまでいた景色。
なにやら一瞬夢のようなものを見ていた気がするが、内容は思いだせない。しかし心がこれまでにないほど、高揚しているのはわかった。まるで求めて止まないものを、垣間見れたかのように。
「ああ、いけそうだ。リル、サポートは頼んだぞ。」
すぐ後ろに声をかける。
というのも彼女が陣のすぐ後ろで、ただよっているような感じがしたのだ。まるで幽霊に取り憑かれている状態というべきか。視線を移すと、うっすらとだがリルが宙を浮きただよっているのがわかる。おそらくほかの人間には見えないだろうが、同調している陣にはなんとなくそこにいるのがわかった。
「うん、任せてなんだよ。じゃあ、ジンく、ううん……」
リルは快く引き受け応えようとするが、陣の名前のところでいいとどまる。
そして彼女は後ろから抱きつく感じに、陣の首元へ両腕を回し。
「――さあ、マスター……。わたしたちの星を奏でよう。この世界に刻む鎮魂歌を……」
さぞ愛おしげに、万感の思いを込めて告げてきた。
「ああ、奏でてやるさ。この創造の星の輝きでな!」
陣は一つとなった疑似恒星を天高く掲げ、マナを込めながら宣言を。
そして創造の星を解き放つのであった。
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ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
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