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2章 第4部 手に入れた力
81話 創造の星
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かつてパラダイスロスト事件の中心地として、レイヴァース当主とレーヴェンガルト当主が死闘をくり広げた福音島。今ここで最上級の星の輝きが激突し、大気を震わせていた。
圧倒的力で猛威を振るうのは、アンドレーの星詠み。力という概念を圧縮した黒いオーラを操り、破壊の限りを尽くしていく。しかも今の彼は暴走間近ゆえ、その出力は以前やりあった時よりも上がっているのだ。限界以上にあふれ出ようとする星の輝きを、無造作に投げ飛ばすかのごとく放出。視界に映るものすべてを塗りつぶす勢いで、怒涛の攻撃を。
だがそんなアンドレーの星詠みに、引きを取らない輝きが。
「業炎よ、飲み込め!」
「チッ!? ちょこざいな攻撃ばかりしやがって!」
はなたれるは灼熱の業火。標的を焼き尽くそうと、奔流となって襲いかかる。
しかしアンドレーはせまりくる炎を、燃え盛る黒いオーラをまとった拳でたたき潰した。
本来ならまたたく間に塗りつぶされ、足止めにもならない攻撃。魔法はただの力の塊なので、星詠みという概念の前に無力。よってすぐさま飲み込まれるのがオチ。だが今回の陣の攻撃は違った。なんと簡単にはかき消されず、アンドレーの拳に食いさがっているのだ。その様はまるで星詠みで対抗しているかのよう。相手が概念なら、こちらも炎という概念で対抗すればいいといいたげに。
「こんなチャチな概念、何度だってたたき潰してやらー!」
しかし業炎の奔流は奮闘叶わず、アンドレーの拳にかき消されてしまう。
出力の差はもちろんのことだが、炎の概念では彼の力の概念に勝てるはずがない。あれは力という概念すべてを突き詰めていった代物。破壊力のベクトルで比べると、けた違いにもほどがあるだろう。
「ははは、なら、なんどでも創造するまでだ。氷抗よ! 貫け!」
陣が続けざまに生成するのは、六本の巨大なつらら。串刺しにせんと言わんばかりの氷杭が、標的目掛けて飛翔する。
対してアンドレーは回避しようと、飛び退いた。これまでならお得意の力で、軽く粉砕すればいいだけの話。周りに力の概念を展開するだけで、なんなくしのげるはずだ。しかし彼は迎撃せず、回避することを選んだ。なぜならこの氷も先程の炎同様、簡単に砕けないことを思い知らされているがために。
「チッ!」
四本をかわすアンドレーであったが、二本は直撃コース。ゆえに彼は圧縮した黒いオーラを放ち、撃ち落とした。これも普通の魔法で生み出された氷杭なら、力の概念に触れただけでみるみるうちに粉々になっていっただろう。しかし今回の氷杭はすぐに消えず、力強く激突。ある程度形を保ったまま、砕かれる結果に。
「さあ、アンドレー、次はどんな概念がお望みかな。今なら大サービス、オーダー全部ぶつけてやるよ!」
陣は一つとなった疑似恒星を右手で振りかざし、アンドレーへ宣言する。
彼が力の概念で攻撃してくるのに対し、陣はありとあらゆる属性の魔法でしのぎを削っているのだ。火、水、風、雷、土など基本属性はもちろん、組み合わせたりなど様々。いくらアンドレーの星詠みの方が破壊力が上でも、こうも様々な属性で攻められたら、対処が難しいと言わざるおえないだろう。結果、これまでの戦いより、かなり善戦しているといってよかった。
ここで驚くべきことは、陣の行使する魔法がすべて概念ということだ。そう、つまり星詠みの力が宿っているのである。本来星詠みを行使するにあたり、使える輝きは一つ。別の星詠みを混ぜて使うのは、星同士が反発したりして非常に難しいのである。ゆえに炎なら炎と一つの属性を縛らなければならないが、陣は恐ろしいことに複数の属性で攻撃を。もはや創星術師からしてみれば、あまりの非現実さに頭を痛めるのもいいところであった。
「ふふっ、マスターどうかな? この今のわたしの力は?」
「ははは、文句のつけようがないな。これこそオレが求めていた星の輝きだ」
「それはなによりなんだよ。この創造の星は、術者の望むがままに力を生み出せる。もちろんその属性や形は思うがまま。しかも生み出した力は概念を帯びているから、普通の星詠みと変わらない。まさに最強の星詠みといって、いい代物なんだよ!」
リルはふふんと得意げに解説してくる。
この創造の星の原理は、簡単に説明すると魔法と同じ。無色の力に属性や形といった方向性を示し、思い描いた力を作るといっていい。ただ原理は同じだが、その存在のあり方は全然違う。この星詠みによって生み出された力には、創造の星の概念が含まれているのだ。ゆえに魔法のようなただの力の塊でなく、輝きという概念の塊。術者は自身の望む通りの星詠みを行使できると同義になるのであった。
「ようはこれまで使ってきた魔法全部が、星詠みになるってことだろ? まったくとんでもない代物すぎて、惚れ惚れしちまうな」
「ふふっ、それほどでもなんだよ!」
陣の心からの賛辞に、リルはテレ笑いを。
「リル、ならあの力の概念の塊である、黒いオーラも創造できるよな? さっそく手伝ってくれ」
アンドレーが使う力の概念をこちらも使いたいが、陣だけでは使えなかった。おそらくサイファス・フォルトナーの疑似恒星は、リル・フォルトナーの疑似恒星と組み合わせたことで特性が変わってしまい、さきほどまでと同じようにいかないらしい。
「うーん、あれはまだレベルが高すぎるかな。今のマスターはまだ創星使い。力の創造をするなら、練度を上げた創星術師になってからじゃないと、危険すぎるんだよ」
「――危険すぎるね……」
この創造の星で、力そのものの創造は難易度が高すぎるらしい。
今の概念を帯びた魔法では、なかなか確実なダメージを与えられない。よって同じ力を使いたかったのだが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
「なにが創造の星だ! そんなの認めねー! 見ろ! この無限の力を内包したサイファス・フォルトナーの星を!」
リルと話していると、アンドレーがおたけびを。
「魔道とはすなわち力だ! 力を極限まで求道した先にこそ、サイファス・フォルトナーの目指した最果てが待っている! だからもっと力をよこせ! 星よ! オレ様はなにがなんでも、あの場所に向かわねーといけねーんだ! うぉぉぉぉ!」
悲痛にも似たさけび共に、アンドレーの星が肥大化していく。
みずからが進んできた道こそ正しいと信じ、狂気の果てへと。もはや暴走など気にせず、すがるように力を求めて自身の星と同調していた。
「なんて星の輝きだ!? ここに来て一気に跳ね上がりやがった!?」
アンドレーからほとばしる輝きの余波はすさまじく、吹き飛ばされそうになるほど。今すぐにでも止めにいきたかったが、もはや余波を耐えるので精一杯であった。
「これがお前さんを死に誘う、破滅の力だ!」
次の瞬間、アンドレーの右腕は極限まで圧縮された漆黒のオーラに包まれて。
「おいおい、まるで悪魔の腕だな、ありゃ」
陣が驚くのも無理はない。
アンドレーの右手はまとわりついた漆黒のオーラにより、鋭利な爪を持つ巨大な手と化していたのだ。そのあまりの禍々しさと、人間をいとも簡単に引き裂けるサイズから悪魔の腕を連想してしまう。
「マスター、あれに触れたら絶対だめなんだよ!? あの純度、これまでの力の概念とわけが違う!?」
「――ははは……、そんなの言われなくてもわかるさ……。――ッ!? 来るぞ!」
アンドレーは悪魔の右腕を振りかざし、陣を引き裂こうと突撃してくる。
もはやあの右腕に引き裂かれるどころか、触れるだけでお陀仏してしまいそうなレベルといっていい。ゆえにリルの言うとおり、まともにやり合うのは得策ではない。おそらくこちらがいくら創造の概念を付加した魔法をぶつけても、一瞬で塵と化しそうな勢いなのだから。
よって陣は即座に回避を選択。全力で後方へと跳躍を。
結果、漆黒の鋭利な爪をすんでのところでやり過ごすことに成功。先ほどまでいたところは、空振りした悪魔の右手によって巨大なクレータを生む形に。
「今だ。雷光よ、射貫け!」
陣は後方に下がりながらも、その隙を見逃さない。
星詠みにより創造の概念を付加した雷の魔法を生成。高圧の電気を一点に圧縮し、レーザーのようにして放った。それはまるで閃光となった矢のごとく、またたく間に標的へ。
狙いはアンドレーの胴体。あの悪魔の腕で防がれたら簡単にかき消されてしまうだろうが、今の攻撃時の硬直でガードは間に合わないはず。よって今なら確実にダメージを与えられると踏んだのだ。
しかし。
「なっ!? 黒いオーラを身にまとっただと!?」
これで決めたかった一撃だが、ほとばしる紫電の矢は標的を貫く前に防がれてしまう。
というのも突如、アンドレーの身体が濃い黒いオーラに包まれたのだ。それはまるで鎧のようであり、術者にせまり来る脅威をその力の概念で破壊し尽くしたのである。
「もう、お前さんに残された手はねー! これでお陀仏! 観念して逝けやー!」
再びアンドレーは悪魔の右腕を振りかざし突貫。しかもその様は完全に捨て身。防御の動作など一切考えておらず、攻撃にすべて専念していた。
陣としてはまたも回避したいが、現在後方に下がった直後。しかも向こうはなりふりかまわずの突撃ゆえ、おそらく間に合わない。ゆえに陣に残された選択肢は迎え撃つしかなかった。
(やばい!? あの黒いオーラの鎧のせいで、迎撃が!?)
捨て身覚悟なら、届く前に攻撃をたたき込めばいい話。だがアンドレーは今だ先ほどの黒いオーラの鎧をまとっているのだ。ゆえにいくら陣が創造の概念を付加した魔法をぶつけても、勢いを殺すことはできないだろう。
「リル! 今すぐオレの左手に、リル・フォルトナーの星詠みの力を形成してくれ! できるな?」
「無茶なオーダーだね! でも、ここでやらなきゃ生き残れないし、頑張ってみるんだよ! マスター、マナを回して!」
「頼んだぞ!」
マナをリルの方へと回すと、左手にこれまで使ってきたリル・フォルトナーの星詠みの力が。
今の陣の創造の星詠みの魔法では防げないだろうが、この力なら多少は持つはず。これでなんとかガードを試みる作戦であった。
「でもマスター。この程度の出力じゃ、もって数秒程度! すぐ押しつぶされちゃうんだよ!」
「ははは、数秒あれば、十分だ! 押しつぶされる前に、最後の一撃をたたき込んでみせるさ!」
危機感をあらわにするリルに対し、不敵に笑う。
「最後の一撃? って!? マスター! そのマナ!? なにをやろうとしてるのかな!?」
リルは陣のやろうとしていることに気づいたようだ。
実をいうと陣はこの瞬間、ある博打を打とうとしていたのだ。
「チッ!? またその力か!? だがそんな出力ごとき、オレ様の力ですぐに飲み込んでやらー!」
アンドレーの漆黒のオーラで形成された悪魔の腕が届く瞬間、陣はリル・フォルトナーの星詠みをまとった左手で防御を。
結果、ギリギリ受け止めることに成功する。だが圧縮された力の概念は、リル・フォルトナーの星詠みを次々に塗りつぶしていく。このままではあと数秒もたたずに飲み込まれ、悪魔の腕の餌食となってしまうだろう。
「いや、これでチェックメイトだ。アンドレー・ローラント!」
「なにっ!?」
陣は宣言と同時に、最後の一手を打とうと。
なんと陣は左手でガードしながら、右拳で殴りかかる体勢に入っていたのだ。
そう、こちらの狙いはカウンターによる一撃。なのであとはアンドレーに押しつぶされる前に、この拳をたたき込めばいい。
しかしアンドレーは黒いオーラの鎧をまとっており、今の陣の攻撃程度ではどれも通らない。なのでここからが最後の博打。そう、陣が力の概念である黒いオーラの鎧を突き破れる力を創造できるか。そこに勝敗のすべてがかかっていたのだ。
(危険すぎるということは、不可能じゃないということ。ならここでアンドレーと同じ、力の創造をするまでだ!)
陣が創造するのはアンドレーが使っている力の概念。すでにサイファス・フォルトナーの疑似恒星を使った経験から、大体の理屈はつかんでいる。あとはこれを創造の星詠みで具現化できるかどうか。ただこの力の創造は、今までの魔法を創造するのとわけが違う。言うならば他者の星詠みそのものを、創造するといったレベルだ。
リルいわく、まだ陣には早いらしいがもうやるしかない。耐えられるかどうか以前に、できなければどの道おわりなのだから。
(リルのブレーキを振り切り、さらに先へ同調! 創造の星よ! 力を貸せ! ――クッ!?」
創造の疑似恒星にさらに同調し、星の力をさらに解放する。
しかしその過程で頭に痛みが走り、ノイズが。もはやあまりの内包する力の源泉に、理性がかすれて飲み込まれそうに。さすがにここまで来ると、リルという制御機構が間に合っていないらしい。サイファス・フォルトナーの疑似恒星につながった時のように、精神が次々に汚染されていく。やはり陣にはまだこの領域の力を御することは、難しいようだ。
(負けてたまるかー!)
それでも陣は無理矢理力を引き出そうと。自身の魂を創造の星にくべながら、死に物狂いで手を伸ばす。
「マスター! 絶対わたしの手を離しちゃだめなんだよ!」
かすれる意識の中、リルの声が。
今陣の意識は創造の疑似恒星の中。そして右手で力をつかもうと、創造の星の最深部へ伸ばしている状況だ。そして左手にはリルのつかんでくれている手が。彼女は陣が飲み込まれないように、必死につなぎ止めてくれていた。もしここでリルがいなければ理性を完全に失い、そのまま暴走していたに違いない。
「うぉぉぉぉぉぉぉー!」
現実と創造の疑似恒星中の両方で、咆哮をあげる。
そしてかすれいく意識の中、とうとうつかみ取った。さらなる位階の力を。
「――ははは……、なんとかできたか……。ありがとな、リル……」
陣の意識が現実に戻ってくると、右腕には創造の星で生まれた力の概念。これまでのアンドレー同様、燃え盛る黒いオーラが。
陣とリルの奮闘により為しえた起死回生の一手。そう、陣が今できる、最大火力の攻撃がここに完成したのだ。
「くらえ! これがオレたちの、力の創造だーーーーーー!」
放たれる黒いオーラをまとった拳は、そのままアンドレーの身体へと。
途中黒いオーラの鎧があるが、同じ概念ゆえ出力が高い方が勝つのが道理。全身を覆うための波状型の放出と、拳一点に突き詰めた放出では当然後者に軍配が。
結果、陣の拳が彼の防御を突き破り、そのままアンドレーに直撃するのであった。
圧倒的力で猛威を振るうのは、アンドレーの星詠み。力という概念を圧縮した黒いオーラを操り、破壊の限りを尽くしていく。しかも今の彼は暴走間近ゆえ、その出力は以前やりあった時よりも上がっているのだ。限界以上にあふれ出ようとする星の輝きを、無造作に投げ飛ばすかのごとく放出。視界に映るものすべてを塗りつぶす勢いで、怒涛の攻撃を。
だがそんなアンドレーの星詠みに、引きを取らない輝きが。
「業炎よ、飲み込め!」
「チッ!? ちょこざいな攻撃ばかりしやがって!」
はなたれるは灼熱の業火。標的を焼き尽くそうと、奔流となって襲いかかる。
しかしアンドレーはせまりくる炎を、燃え盛る黒いオーラをまとった拳でたたき潰した。
本来ならまたたく間に塗りつぶされ、足止めにもならない攻撃。魔法はただの力の塊なので、星詠みという概念の前に無力。よってすぐさま飲み込まれるのがオチ。だが今回の陣の攻撃は違った。なんと簡単にはかき消されず、アンドレーの拳に食いさがっているのだ。その様はまるで星詠みで対抗しているかのよう。相手が概念なら、こちらも炎という概念で対抗すればいいといいたげに。
「こんなチャチな概念、何度だってたたき潰してやらー!」
しかし業炎の奔流は奮闘叶わず、アンドレーの拳にかき消されてしまう。
出力の差はもちろんのことだが、炎の概念では彼の力の概念に勝てるはずがない。あれは力という概念すべてを突き詰めていった代物。破壊力のベクトルで比べると、けた違いにもほどがあるだろう。
「ははは、なら、なんどでも創造するまでだ。氷抗よ! 貫け!」
陣が続けざまに生成するのは、六本の巨大なつらら。串刺しにせんと言わんばかりの氷杭が、標的目掛けて飛翔する。
対してアンドレーは回避しようと、飛び退いた。これまでならお得意の力で、軽く粉砕すればいいだけの話。周りに力の概念を展開するだけで、なんなくしのげるはずだ。しかし彼は迎撃せず、回避することを選んだ。なぜならこの氷も先程の炎同様、簡単に砕けないことを思い知らされているがために。
「チッ!」
四本をかわすアンドレーであったが、二本は直撃コース。ゆえに彼は圧縮した黒いオーラを放ち、撃ち落とした。これも普通の魔法で生み出された氷杭なら、力の概念に触れただけでみるみるうちに粉々になっていっただろう。しかし今回の氷杭はすぐに消えず、力強く激突。ある程度形を保ったまま、砕かれる結果に。
「さあ、アンドレー、次はどんな概念がお望みかな。今なら大サービス、オーダー全部ぶつけてやるよ!」
陣は一つとなった疑似恒星を右手で振りかざし、アンドレーへ宣言する。
彼が力の概念で攻撃してくるのに対し、陣はありとあらゆる属性の魔法でしのぎを削っているのだ。火、水、風、雷、土など基本属性はもちろん、組み合わせたりなど様々。いくらアンドレーの星詠みの方が破壊力が上でも、こうも様々な属性で攻められたら、対処が難しいと言わざるおえないだろう。結果、これまでの戦いより、かなり善戦しているといってよかった。
ここで驚くべきことは、陣の行使する魔法がすべて概念ということだ。そう、つまり星詠みの力が宿っているのである。本来星詠みを行使するにあたり、使える輝きは一つ。別の星詠みを混ぜて使うのは、星同士が反発したりして非常に難しいのである。ゆえに炎なら炎と一つの属性を縛らなければならないが、陣は恐ろしいことに複数の属性で攻撃を。もはや創星術師からしてみれば、あまりの非現実さに頭を痛めるのもいいところであった。
「ふふっ、マスターどうかな? この今のわたしの力は?」
「ははは、文句のつけようがないな。これこそオレが求めていた星の輝きだ」
「それはなによりなんだよ。この創造の星は、術者の望むがままに力を生み出せる。もちろんその属性や形は思うがまま。しかも生み出した力は概念を帯びているから、普通の星詠みと変わらない。まさに最強の星詠みといって、いい代物なんだよ!」
リルはふふんと得意げに解説してくる。
この創造の星の原理は、簡単に説明すると魔法と同じ。無色の力に属性や形といった方向性を示し、思い描いた力を作るといっていい。ただ原理は同じだが、その存在のあり方は全然違う。この星詠みによって生み出された力には、創造の星の概念が含まれているのだ。ゆえに魔法のようなただの力の塊でなく、輝きという概念の塊。術者は自身の望む通りの星詠みを行使できると同義になるのであった。
「ようはこれまで使ってきた魔法全部が、星詠みになるってことだろ? まったくとんでもない代物すぎて、惚れ惚れしちまうな」
「ふふっ、それほどでもなんだよ!」
陣の心からの賛辞に、リルはテレ笑いを。
「リル、ならあの力の概念の塊である、黒いオーラも創造できるよな? さっそく手伝ってくれ」
アンドレーが使う力の概念をこちらも使いたいが、陣だけでは使えなかった。おそらくサイファス・フォルトナーの疑似恒星は、リル・フォルトナーの疑似恒星と組み合わせたことで特性が変わってしまい、さきほどまでと同じようにいかないらしい。
「うーん、あれはまだレベルが高すぎるかな。今のマスターはまだ創星使い。力の創造をするなら、練度を上げた創星術師になってからじゃないと、危険すぎるんだよ」
「――危険すぎるね……」
この創造の星で、力そのものの創造は難易度が高すぎるらしい。
今の概念を帯びた魔法では、なかなか確実なダメージを与えられない。よって同じ力を使いたかったのだが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
「なにが創造の星だ! そんなの認めねー! 見ろ! この無限の力を内包したサイファス・フォルトナーの星を!」
リルと話していると、アンドレーがおたけびを。
「魔道とはすなわち力だ! 力を極限まで求道した先にこそ、サイファス・フォルトナーの目指した最果てが待っている! だからもっと力をよこせ! 星よ! オレ様はなにがなんでも、あの場所に向かわねーといけねーんだ! うぉぉぉぉ!」
悲痛にも似たさけび共に、アンドレーの星が肥大化していく。
みずからが進んできた道こそ正しいと信じ、狂気の果てへと。もはや暴走など気にせず、すがるように力を求めて自身の星と同調していた。
「なんて星の輝きだ!? ここに来て一気に跳ね上がりやがった!?」
アンドレーからほとばしる輝きの余波はすさまじく、吹き飛ばされそうになるほど。今すぐにでも止めにいきたかったが、もはや余波を耐えるので精一杯であった。
「これがお前さんを死に誘う、破滅の力だ!」
次の瞬間、アンドレーの右腕は極限まで圧縮された漆黒のオーラに包まれて。
「おいおい、まるで悪魔の腕だな、ありゃ」
陣が驚くのも無理はない。
アンドレーの右手はまとわりついた漆黒のオーラにより、鋭利な爪を持つ巨大な手と化していたのだ。そのあまりの禍々しさと、人間をいとも簡単に引き裂けるサイズから悪魔の腕を連想してしまう。
「マスター、あれに触れたら絶対だめなんだよ!? あの純度、これまでの力の概念とわけが違う!?」
「――ははは……、そんなの言われなくてもわかるさ……。――ッ!? 来るぞ!」
アンドレーは悪魔の右腕を振りかざし、陣を引き裂こうと突撃してくる。
もはやあの右腕に引き裂かれるどころか、触れるだけでお陀仏してしまいそうなレベルといっていい。ゆえにリルの言うとおり、まともにやり合うのは得策ではない。おそらくこちらがいくら創造の概念を付加した魔法をぶつけても、一瞬で塵と化しそうな勢いなのだから。
よって陣は即座に回避を選択。全力で後方へと跳躍を。
結果、漆黒の鋭利な爪をすんでのところでやり過ごすことに成功。先ほどまでいたところは、空振りした悪魔の右手によって巨大なクレータを生む形に。
「今だ。雷光よ、射貫け!」
陣は後方に下がりながらも、その隙を見逃さない。
星詠みにより創造の概念を付加した雷の魔法を生成。高圧の電気を一点に圧縮し、レーザーのようにして放った。それはまるで閃光となった矢のごとく、またたく間に標的へ。
狙いはアンドレーの胴体。あの悪魔の腕で防がれたら簡単にかき消されてしまうだろうが、今の攻撃時の硬直でガードは間に合わないはず。よって今なら確実にダメージを与えられると踏んだのだ。
しかし。
「なっ!? 黒いオーラを身にまとっただと!?」
これで決めたかった一撃だが、ほとばしる紫電の矢は標的を貫く前に防がれてしまう。
というのも突如、アンドレーの身体が濃い黒いオーラに包まれたのだ。それはまるで鎧のようであり、術者にせまり来る脅威をその力の概念で破壊し尽くしたのである。
「もう、お前さんに残された手はねー! これでお陀仏! 観念して逝けやー!」
再びアンドレーは悪魔の右腕を振りかざし突貫。しかもその様は完全に捨て身。防御の動作など一切考えておらず、攻撃にすべて専念していた。
陣としてはまたも回避したいが、現在後方に下がった直後。しかも向こうはなりふりかまわずの突撃ゆえ、おそらく間に合わない。ゆえに陣に残された選択肢は迎え撃つしかなかった。
(やばい!? あの黒いオーラの鎧のせいで、迎撃が!?)
捨て身覚悟なら、届く前に攻撃をたたき込めばいい話。だがアンドレーは今だ先ほどの黒いオーラの鎧をまとっているのだ。ゆえにいくら陣が創造の概念を付加した魔法をぶつけても、勢いを殺すことはできないだろう。
「リル! 今すぐオレの左手に、リル・フォルトナーの星詠みの力を形成してくれ! できるな?」
「無茶なオーダーだね! でも、ここでやらなきゃ生き残れないし、頑張ってみるんだよ! マスター、マナを回して!」
「頼んだぞ!」
マナをリルの方へと回すと、左手にこれまで使ってきたリル・フォルトナーの星詠みの力が。
今の陣の創造の星詠みの魔法では防げないだろうが、この力なら多少は持つはず。これでなんとかガードを試みる作戦であった。
「でもマスター。この程度の出力じゃ、もって数秒程度! すぐ押しつぶされちゃうんだよ!」
「ははは、数秒あれば、十分だ! 押しつぶされる前に、最後の一撃をたたき込んでみせるさ!」
危機感をあらわにするリルに対し、不敵に笑う。
「最後の一撃? って!? マスター! そのマナ!? なにをやろうとしてるのかな!?」
リルは陣のやろうとしていることに気づいたようだ。
実をいうと陣はこの瞬間、ある博打を打とうとしていたのだ。
「チッ!? またその力か!? だがそんな出力ごとき、オレ様の力ですぐに飲み込んでやらー!」
アンドレーの漆黒のオーラで形成された悪魔の腕が届く瞬間、陣はリル・フォルトナーの星詠みをまとった左手で防御を。
結果、ギリギリ受け止めることに成功する。だが圧縮された力の概念は、リル・フォルトナーの星詠みを次々に塗りつぶしていく。このままではあと数秒もたたずに飲み込まれ、悪魔の腕の餌食となってしまうだろう。
「いや、これでチェックメイトだ。アンドレー・ローラント!」
「なにっ!?」
陣は宣言と同時に、最後の一手を打とうと。
なんと陣は左手でガードしながら、右拳で殴りかかる体勢に入っていたのだ。
そう、こちらの狙いはカウンターによる一撃。なのであとはアンドレーに押しつぶされる前に、この拳をたたき込めばいい。
しかしアンドレーは黒いオーラの鎧をまとっており、今の陣の攻撃程度ではどれも通らない。なのでここからが最後の博打。そう、陣が力の概念である黒いオーラの鎧を突き破れる力を創造できるか。そこに勝敗のすべてがかかっていたのだ。
(危険すぎるということは、不可能じゃないということ。ならここでアンドレーと同じ、力の創造をするまでだ!)
陣が創造するのはアンドレーが使っている力の概念。すでにサイファス・フォルトナーの疑似恒星を使った経験から、大体の理屈はつかんでいる。あとはこれを創造の星詠みで具現化できるかどうか。ただこの力の創造は、今までの魔法を創造するのとわけが違う。言うならば他者の星詠みそのものを、創造するといったレベルだ。
リルいわく、まだ陣には早いらしいがもうやるしかない。耐えられるかどうか以前に、できなければどの道おわりなのだから。
(リルのブレーキを振り切り、さらに先へ同調! 創造の星よ! 力を貸せ! ――クッ!?」
創造の疑似恒星にさらに同調し、星の力をさらに解放する。
しかしその過程で頭に痛みが走り、ノイズが。もはやあまりの内包する力の源泉に、理性がかすれて飲み込まれそうに。さすがにここまで来ると、リルという制御機構が間に合っていないらしい。サイファス・フォルトナーの疑似恒星につながった時のように、精神が次々に汚染されていく。やはり陣にはまだこの領域の力を御することは、難しいようだ。
(負けてたまるかー!)
それでも陣は無理矢理力を引き出そうと。自身の魂を創造の星にくべながら、死に物狂いで手を伸ばす。
「マスター! 絶対わたしの手を離しちゃだめなんだよ!」
かすれる意識の中、リルの声が。
今陣の意識は創造の疑似恒星の中。そして右手で力をつかもうと、創造の星の最深部へ伸ばしている状況だ。そして左手にはリルのつかんでくれている手が。彼女は陣が飲み込まれないように、必死につなぎ止めてくれていた。もしここでリルがいなければ理性を完全に失い、そのまま暴走していたに違いない。
「うぉぉぉぉぉぉぉー!」
現実と創造の疑似恒星中の両方で、咆哮をあげる。
そしてかすれいく意識の中、とうとうつかみ取った。さらなる位階の力を。
「――ははは……、なんとかできたか……。ありがとな、リル……」
陣の意識が現実に戻ってくると、右腕には創造の星で生まれた力の概念。これまでのアンドレー同様、燃え盛る黒いオーラが。
陣とリルの奮闘により為しえた起死回生の一手。そう、陣が今できる、最大火力の攻撃がここに完成したのだ。
「くらえ! これがオレたちの、力の創造だーーーーーー!」
放たれる黒いオーラをまとった拳は、そのままアンドレーの身体へと。
途中黒いオーラの鎧があるが、同じ概念ゆえ出力が高い方が勝つのが道理。全身を覆うための波状型の放出と、拳一点に突き詰めた放出では当然後者に軍配が。
結果、陣の拳が彼の防御を突き破り、そのままアンドレーに直撃するのであった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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