創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第4部 手に入れた力

83話 一難去ってまた一難

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 少女は今目の前で起こっている事態を、諦観ていかんの瞳で見つめる。
 ここは福音島ふくいんじまのとある高所地帯。そこから二人の人影が、陣と灯里の奮闘劇を見下ろしていた。すでに陣たちの星詠ほしよみにより、アンドレーの活性化していた星はおとなしく。このままいけば被害なく、ことをおわらせそうだ。
 ただそのうちの一人はそんなことどうでもよく、今見る光景に心底笑っていた。

「あはは! すごい! すごいよ! まさかこんなところであのプロジェクトの、成功例を見つけるだなんて!」

 神代かみしろきさらはクルクル回り、両腕を空高く伸ばす。
 どうやらきさらは灯里が使う力に、大変ご満悦した様子。それもそのはず。これまで確認された例の計画の成功例は、たった一人。だというのにここでもう一人見つかったのだ。これで神代の悲願がさらに加速したといっていい。
 ちなみに彼女が言うプロジェクトとは、神代側の苦肉の策のこと。これまで成功例が見つからず、こうなれば身寄りの無い魔法の素質が高そうな子供たちに、手当たり次第実験体になってもらおうというもの。ただ一人を除いて特に効果は見当たらず、被験者はもとの場所に返されたと聞いていた。その中の一人が彼女というわけだ。

「どう? 同類のあなたから見て、あの子は?」

 きさらは少女に意味ありげな視線を向け、たずねてくる。
 そう、なにを隠そう少女はそのプロジェクトの唯一の成功例。なのであそこにいる彼女とは、同類ということに。

「そうですね。だいぶ観測の力を使いこなせていると思いますよ。出力不足は否めませんが、調整されずにあそこまでできていれば及第点でしょう」

 きさらに淡々と事実を告げる。
 この目で見た感じ、彼女は力を使いこなせていた。自分のように調整されていないのにも関わらず、ここまで力を使いこなせていることに関心してしまうほどである。もしかすると自分より、素質がずば抜けているのかもしれない。

「そっか! そっか! さっそく陸斗りくと兄さんに報告しにいかないとだね! 神代の天使候補が見つかったって!」

 その事実にきさらはまたもや上機嫌に。ただそのときの口元は非常に不気味。思わず背筋が氷そうになるレベルであった。

「まあ、問題があるとすればあの子、陣や奈月の身内みたいだし、手が出しにくいところだね。例の計画を実現するために、データがいっぱい欲しいんだけどなー」

 そしてきさらは今後のことをぶつぶつとつぶやきながら、この場を後にしていく。
 ことの顛末てんまつよりも、彼女の情報をいち早く報告しに行きたいらしい。

「あなたも運がないですね……。もし見つからなければ、静かに暮らせたかもしれないというのに……」

 下の方で頑張っている灯里という少女に、同情のまなざしを向ける。
 少女たちが体験したプロジェクトは、とっくに凍結していた。というのもあまりに成功率が低く、下準備も大変。適合しなかった被験者たちは、そのあとも変わらなかったようでだいぶ昔に廃止に。それより成功例である自分に時間をかけた方が有益だと、判断したために。なのでこのまま見つからなければ、少女と違って普通の暮らしを過ごせていたはず。同類というシンパシーもあって、少し心が痛かった。

「ではまた会いましょう。水無瀬灯里さん。同じ観測の星を持つ者同士として……」

 少女は静かに別れを告げ、きさらについていく。
 いよいよ例の計画も大詰め。これから忙しくなると、身を引き締めて。



 

「――はぁ……、――はぁ……、なんとかなったのか……?」
「あはは、私たちの完全勝利だね!」

 肩で息をしながら、現状を把握はあくする。
 灯里と力を合わせたことで、無事アンドレーの星の爆発をくいとめることに成功。一歩間違えればここら一帯吹き飛んでいてもおかしくなかったが、被害なくやり過ごせたらしい。

「マスターにアカリも、お疲れさまなんだよ」

 リルが姿を現し、ねぎらいの言葉をかけてくる。

「あー、灯里さん疲れたー。もう、一歩も動けないよー」

 その場に仰向あおむけで倒れ込み、ぐったりしだす灯里。

「ははは、同感だ。もう、一刻も早く帰って休みたい気分だ。――ッ!?」

 これには肩をすくめ、心から同意をせざるを得ない。
 すでにいくどとなる戦闘と最後の踏ん張りで、身体に力が入らないほどなのだから。
 しかし脱力しているのもつかの間、陣目掛けて殺気が。

「――クレハ……?」

 殺気の方に視線を移すと、そこにはクレハ・レイヴァースの姿が。

「クレハだ! ヤッホー! ――って、あれ? なんだか雰囲気が……」

 灯里は勢いよく立ち上がり手を振るが、彼女の様子がおかしいことに気づいたようで。

「――その二つを一つに組み合わせた疑似恒星……。記述にあったサイファス・フォルトナーの……。――陣、あなた……」

 クレハは深刻そうにつぶやき、陣に向かって悲痛げな視線を。

「――クレハ……」
「陣、前にもいったでしょ。創星術師にはならないでって……。だからお願い。今ならまだ間に合うから、その疑似恒星を渡して。さもないとあなたを討つことになってしまう……」

 クレハは手を差し出し、切実に願いを口に。

「クレハ、これはオレが小さいころからずっと求めていた、答えそのものだ。だからそう簡単に手放すわけにはいかない」

 手に入れた疑似恒星をにぎりしめ、きっぱりと断言する。
 彼女の陣を想ってくれる気持ちはうれしいが、その要求をのむわけにはいかない。ようやく四条陣にふさわしい星を見つけたのだ。これほどの高純度の星、この機を逃せば二度とお目にかかれない代物。ゆえにたとえクレハと戦うことになっても、手放せはしなかった。

「――そう、どうしても聞き分けてくれないのね……。なら実力行使に出るまでよ! 覚悟なさい! 殺しはしないけど、二度とそんな口が聞けないようにたたき潰してあげる!」

 クレハは腕を天高くかかげ、殺意を込めた宣言を。そして手を振りかざした瞬間、彼女の手にはいつの間にか槍(やり)がにぎられていた。

「まさかあの槍は!?」

 神々こうごうしいオーラを放つ白い槍。その槍からは思わず身震いしてしまうほどの星の余波があふれていた。
 重々しい重圧を放つ槍の疑似恒星。あれこそウワサによく聞く、レイヴァース当主が代々受け継ぐ決まりとなっている、星葬機構の創設者。ソフィア・レイヴァースの疑似恒星なのだろう。あれを取り出したということは、彼女は完全に陣をやる気。命まではいかないが、骨の何本かは確実に折ってきそうな勢いだ。

「クレハのやつマジでやる気かよ。クッ、今の残った体力でやれる相手じゃ……」

 手に入れた疑似恒星をにぎりしめながら、思わずあとずさる。
 状況は最悪。今の陣の体力では、またたく間に断罪されるヴィジョンしか浮かんでこなかった。それほどまでに彼女の星の輝きは本物。もはや最上位クラスの断罪者の星すらも、はるかに凌駕するレベルといってよかった。

「ダメだよ、クレハ。陣お兄さんはその疑似恒星で創星術師となり、レンと一緒に踊るんだから」

 そんな絶体絶命のピンチに、割り込む意味ありげな声が。

「なっ!? レンまで!?」

 振り向くとそこには、九歳ぐらいの女の子であるレンの姿が。 

「――あのガキ……。なるほどね。こんなところにいるということは、あんたも魔道の求道者ってわけ」
「くすくす、それだけじゃないよ。レイヴァースにとって、レンはまさに宿敵。この意味分かるかな?」

 怪訝けげんそうなまなざしを向けるクレハに、レンは胸に手を当て不敵に笑った。

「そう、やっと確信が持てた。これまであんたに感じていた嫌悪感は、レイヴァースの直感だったのね……。フフフ、ようやく合いまみえた! レーヴェンガルト!」

 クレハはおかしそうに笑い、声高らかにさけんだ。

「くすくす、改めて初めましてレイヴァース当主。レンはレーヴェンガルト当主、レン・レーヴェンガルト!」

 レンはスカートのすそを持ち上げ、お辞儀じぎする。そして圧倒的強者の風格をただよわせ、みずからの素性すじょうを明らかにした。

(――レンがレーヴェンガルトの当主だって!?)

 旧市街の方でただ者ではないと分かっていたが、まさかレーヴェンガルトの当主だったとは。あまりに想像とはかけ離れていたため、驚愕きょうがくせずにはいられない。

「ああ、今日はなんてツイてるんだろう。まさかレーヴェンガルト当主だったとは……。 ちょうどいい! 陣のついでにあんたも倒して、根源の根をここで断ち切ってあげる!」

 右手で顔を覆いながら、口元を不気味にゆがめるクレハ。そして指の隙間からある意味狂気に満ちた瞳をレンに向け、特大の殺意を向けた。

「くすくす、じゃあ、遊ぼうよ、クレハ。レンを少しは楽しませてね!」

 対してレンは無邪気むじゃきな笑顔で、迎えいれるように両手を差し出す。

「上等よ!」

 そして二人は戦意をむき出しにし、ぶつかろうと。
 クレハの方は因縁の相手を、みずからの命をかしてでもしとめる意気込みで。
 レンの方はまるで楽しい遊びを始めるかのような、無垢むくな感じでだ。

「おいおい、一難去ってまた一難かよ」
「あわわ、陣くん、どうしよう?」
「ほんと、ずいぶんな面倒ごとに巻き込まれてるじゃない、陣」

 あまりの事態に灯里と戸惑っていると、後方から奈月の声が。
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