創星のレクイエム

有永 ナギサ

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3章 第4部 創星クラブ

110話 末緒の選択

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 すでに日が沈みかけており、空は黄昏たそがれ色に染まっている。
 そんな中、陣と灯里と末緒みおは創星クラブを出て、帰ろうと学園内を歩いていた。
 
「創星クラブ、なんか思ってたよりすごいところだったな」
「ねー、なんかクラブみたいなところで楽しそうだったけど、みんなの目少しこわかったかも……」
「レイチェルって子を見てるときだろ。なんかあまりに熱狂的というか。あれがなければ熱心に魔道を求道してる、いいところだって思えたんだがな」

 灯里と一緒に創星クラブのことを振り返る。
 やはり印象に残るのは、レイチェルのあの異常なまでのしたわれようだろう。断罪者としてのプライドの高いアルノーですら、あそこまで骨抜きにされていたのだ。ただ単にカリスマ性のものなのか、それともなにかやっていたのか。謎は深まるばかりであった。

「末緒、あの人と二人っきりで話したんだよね? 大丈夫だった?」
「うん、すごくいい人だったよ。いっぱい話を聞いてもらえて、相談にも乗ってくれてね。とても楽しかった!」

 末緒がウキウキで答えてくれる。
 その様子からなにもされた形跡もなく、本当に楽しいひと時を過ごせたみたいだ。

「そうなんだ。あはは、なんか変なことでもされてるのかと思っちゃったよ」
「もう、灯里ちゃん、レイチェルさんはそんなことする人じゃないよー」
「あはは、ごめん、ごめん。とりあえず今回の見学、末緒にとって満足いくものだったってことでいいんだよね?」
「うん、来て本当によかったよ。実際に星詠ほしよみに触れられ、すごい人ともお話できたし大満足♪」

 末緒はむねに手を当て、創星クラブでの感動をかみしめる。

「あはは、それはよかった! じゃあ、これからは、楽しい楽しい学園生活を存分に謳歌おうかできるね! 星詠みは危ないから、やっぱり深く関わらないほうが正解だよ!」

 さきほど末緒は星詠みに触れ満足したため、創星クラブに入るのはもういいみたいなことを言っていた。灯里は友達が魔道の道にちなくて済んだと、心から安堵しているようだ。

「――えーと、ごめんね、灯里ちゃん。わたしもうちょっとだけ、創星クラブに通おうと思うの」

 喜ぶ灯里に対し、末緒は申しわけなさそうに目をふせ本音を告白する。

「え? さっきはもう入らないって言ってたんじゃ……」
「うん、そのつもりだったんだけど、レイチェルさんと話して心境の変化があったというか……。もう少しでわたしが欲しかった答えが、手に入りそうな気がするの。レイチェルさんも今度はもっとしっかり時間をとって、相談に乗ってくれるって言ってたし」
「もしかして末緒もほかのみんなと同じように、レイチェルさんのとりこになっちゃったの?」
「えっと、それはどうだろう? またお話したいっていうのは確かだけど」

 末緒自身あまり自覚はしていなさそうだ。だが彼女の瞳の奥底にレイチェルが映っている気がした。

「とにかくごめんね! 灯里ちゃんには心配かけることになるだろうけど、やっぱりわたしは……」
「――末緒が本気でそうしたいのなら、ムリには止めないけど……」

 末緒の心からのうったえに、灯里はしぶしぶ彼女の意思を尊重する。

「ありがとう。そうだ。今から喫茶店にでも行こうよ。今日付き合ってくれたお礼に、お代はわたしが出すよ!」
「――うん……」

 いつもなら大喜びするであろう灯里も、さすがに今は気が重いようだ。どことなく元気がなかった。

「四条くんも」
「あー、オレは少し野望用ができたから、二人で行ってきてくれ」

 陣も誘われたが、ここは断っておくことにする。
 というのも物陰の方で、ある人物の姿を見つけたからだ。

「そうなの? 残念だよ」
「また今度な」

 灯里たちと別れ、物陰にいた少女の元へと向かう。

「ルシア、どうしたんだ?」
「陣さん、創星クラブはどうでしたか?」

 そこにいたのはルシア。彼女はさっそく創星クラブのことについてたずねてくる。
 
「どうもこうもやばかったな。あのメンバーたちのレイチェルって子への入れ込み具合、異常すぎたぞ」
「陣さんもそう思われましたか」

 カーティスが危惧きぐしていたのは、やはりレイチェルのことだったみたいだ。
 
「レイチェルって女子生徒。一体なに者だ? 星魔教の信者か?」
「いいえ、違います。こちらも調べたのですが、彼女の素性はよくわかっていないんです。どうやらいろいろ身分を偽造しているみたいで、経歴やこれまでなにをしてたのかもつかめませんでした」
「おいおい、明らかにあやしいな」

 身分を偽っているとなると、普通の学生という線はほとんど消えたといっていいだろう。ほかのメンバーたちをとりこにしているのも、なにか狙いがあるに違いない。

「はい、ただ者でないのは確かです。突然現れ、あそこまで頭角をあらわにしてくるとは。実質、今の創星クラブは彼女に牛耳ぎゅうじられている状況。しかもメンバーたちの心を完全にわしづかみにしており、レイチェルさんのためなら彼らは戦うことすらいとわないようです」
「心酔っていうか、もはや洗脳レベルだな。どんな手品を使ったんだか」
「カーティス神父はレイチェルさんが創星クラブのメンバーを使い、星海学園でなにかしでかそうとしてないかと危惧されています。もしかすると彼女、とんでもないところとつながっている可能性がありますので」
「――それってもしかしてレーヴェンガルトか?」
「はい、実はレイチェルさん、グレゴリオ大司教となにかしらのかかわりがあるみたいで。二人で会話している姿が目撃されているんです」
「あのグレゴリオ大司教と?」
「彼はレーヴェンガルトと深くつながっていますから、レイチェルさんももしかすると」
「その可能性は確かに高そうだな。よし、こっちも調べられたら調べておくよ」

 レーヴェンガルトの最有力当主候補が、現当主であるレンの意向を無視し、世界をレーヴェンガルトの名のもとに支配しようとたくらんでいるらしい。もしかするとそれと関係しているのかもしれない。相手が相手だけに無視できるものではなかった。

「おねがいします。こちらも引き続き調査しておきますので」
「そういえばルシア。ルーファスって星魔教信者知ってるか?」
「はい、何度も同じ任務に当たったことがあります。いつもヘラヘラ余裕の笑みを浮かべていて、ウデは立ちますが目的のためなら手段を選ばない危ない人ですね」

 彼女の少し投げやりな紹介から見るに、ルーファスのことをあまり心よく思っていないようだ。

「彼がどうしたんですか?」
「ちょっと模擬戦をしてな。そこでなんか気に入られたらしく、オレの従者じゅうしゃになりたいとかなんとか」
「――陣さん、もちろん断りましたよね……」

 ルシアが陣へ詰め寄り、圧を込めてたずねてくる。

「当たり前だろ。これ以上付きまとわれるやつが増えてたまるものか」
「ですよね。陣さんにはすでにワタシという従者がいますものね。ふふ、一瞬、浮気されたかと思いましたよ」

 ルシアが意味ありげな視線を向け、こわい笑顔を向けてくる。

「浮気って。そもそも従者のことはまだ認めてないし」
「陣さん、あの人だけは絶対やめといたほうがいいですよ! 私利私欲のために行動しがちですし、あとかなりの狂人でもありますから!」
「なんかあいつに対して、やけにトゲがあるな」
「否定はしません。同じ星魔教のエージェントとして少し因縁があるといいますか、ちょっぴりライバル視してる節もあるんです。なのであの人だけには、なにがなんでも陣さんを取られたくありません!  もし従者の座を奪われるようなことがあれば、思わず強行手段をとってしまうかもしれませんね!」

 なにやらルーファスに対し、並々ならぬ闘志を燃やすルシア。

「おいおい、また物騒だな」
「ごほん、そういうわけですので、ご配慮のことお願いしますね」
「わかった、わかった。こっちも面倒ごとになるのはごめんだからな」
「さすがは陣さん。それでこのあとどうしますか? ワタシもここからフリーなので、今日はどこまででもお供しますよ」

 ルシアが胸に手を当て、うやうやしくお辞儀してくる。

「付きまとわなくていいから、さっさと帰れよ」
「ふふ、そんなつれないこと言わずに。後輩をかわいがると思って♪」

 ルシアは陣の顔を下からのぞきこみながら、ニコニコほほえんでくる。
 もはやついてくる気満々ゆえ、なにをいってもムダだろう。ここは観念して彼女の好きにさせてやることに。

「――はぁ……、勝手にしろ」
「はい!」

 こうしてルシアと一緒に下校する、陣なのであった。
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