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3章 第4部 創星クラブ
109話 陣vsルーファス
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レイチェルと末緒を見送ったあと、陣たちは創星クラブにある訓練施設に来ていた。ここは一見すると、学園内の魔法の練習や競技を目的としたドーム型の競技場内と同じような造り。広々としたスペース。そして壁や天井などあちこち対魔法用の特殊素材が使われており、防音対策も万全らしい。
そんな訓練施設には、陣とルーファスの模擬戦を見ようと多くのギャラリーが集まっていた。
「まさか模擬戦をやることになるとはな。まあ、創造の星に慣れるのにはもってこいか。向こうはかなりの手練れみたいだし」
これまでの戦闘経験から、ルーファスが腕の立つ創星術師なのを見抜く。相手にとって不足はないようだ。
「リル、創造の疑似恒星を使うから、サポート頼んだぞ」
陣は自身の疑似恒星に意識をつなぐ。
するとどこからともなくリルの声が。
「ちょっと待ってなんだよ!? 今、栞さんにケーキを出してもらったところで!」
「のんきにおやつを食ってる場合か。やるぞ!」
「もー! わかったんだよ!」
リルが疑似恒星内へと戻ってくれたらしく、次第に力が湧き上がってきた。
これで準備は万端のようだ。
「準備はオッケーですか?」
「ああ、大丈夫だ。いつでも始めてくれ」
「では行きますよ!」
ルーファスが地を蹴り、距離を詰めてくる。
どうやら彼は近距離型の創星術師のようだ。いったんどんな星詠みか見極めるため、迎撃行動に移る。
「暴風よ、撃ち抜け!」
まずはあいさつがわりに、大気を圧縮して作った砲弾を放つ。
この攻撃は一見普段陣がこれまで使っていた魔法のように見えるが、創造の星により生成したもの。陣が持つ創造の星の原理は、だいたい魔法と同じ。無色の力に属性や形といった方向性を示し、思い描いた力を作るといっていい。ただ原理は同じだが、その存在のあり方は全然違う。この星詠みによって生み出された力には、創造の星の概念がふくまれているのだ。ゆえに魔法のようなただの力の塊ではなく、輝きという概念の塊。術者は自身の望む通りの星詠みを行使できると、同義なのであった。
「ふっ、斬り裂かせてもらいますよ」
呑み込むものすべてを吹き飛ばす大気の砲弾であったが、ルーファスが手を振るった瞬間容易く真っ二つに斬り伏せられてしまった。
彼はなにかを手にしているようだが、武器の姿は見当たらない。こちらの星詠みを斬り裂いたということは、今のがルーファスの星詠みなのだろう。
(今なにをした? とにかく接近させたらまずそうだ)
「氷杭よ、貫け!」
さらに迎撃するためすかさず創造の概念をまとった三本の氷の杭を生成し、敵目掛けて弾丸のように撃ち放つ。
空を切り勢いよく飛翔するつらら。一応安全面を考慮し先の部分を丸めているため殺傷力はないが、当たればその質量と勢いによりかなりの打撃ダメージを与えられる代物だ。
「そんなもので僕は止められませんよ」
しかしルーファスが手を振りかざした瞬間、放たれたつららは次々に切り捨てられていく。
その様子を注意深く観察する。すると彼の手にほんのうっすらと見える刀がにぎられていることに気づく。どうやらあれで陣の攻撃を斬っていたようだ。かなりの透明性ゆえ、目視するのは難しかった。
「あの刃がルーファスの星詠み、ッ!? 氷壁よ、守れ!」
慌てて前方に氷の壁を創造する。
というのもルーファスがもう片方の手で、なにかを投てきしたのだ。おそらくあの透明の刀と、同質の物を投げたに違いない。
陣の読み通り、氷の壁に深々となにかが刺さる。それは透明な三本のナイフ。氷を圧縮しかなりの強度を誇る防壁を、あと一歩のところまで貫通させているところをみるにその切れ味は相当なもの。向こうも安全性のため多少は手加減してるはずなので、本気なら止められなかったかもしれない。
「ハッ!」
安堵するもつかの間、ルーファスが高く跳躍。そのまま上空から透明な刀を振りかざしてきた。
それにより氷の壁は軽く切り伏せられ、真っ二つに。陣は即座に後方へ下がり、斬撃をやり過ごす。
「雷撃よ、穿て!」
このままでは一気に距離を詰められ、あの刃の餌食に。ゆえにほとばしる雷撃の槍を創造し、投げつけた。
だがそれも透明な刀による一閃で、またたく間に斬られてしまった。ただいったん足止めに成功し、その間に体勢を立て直す。
「これが四条さんの星詠み。風に氷に雷、なんでも生み出せるとはなんて破格の星詠みなのでしょうか! ですが汎用性に富みすぎてるせいか、輝きの純度が低いようですね。これでは僕の一点特化型である、気刃の星の相手はおつらいでしょう」
星詠み同士の戦いとは、簡単にいうと己が概念と概念の塗りつぶし合い。なので輝きの純度が高いほうがより優位性を取れるのだ。陣の星詠みが彼の星詠みに破られているのもそのせい。これは陣がまだ新米創星使いであり星詠みの練度自体低いのもあるが、もう一つ要因が。星詠みはその色と形が単純であれば単純であるほど、輝きの純度が高くなりやすいのである。というのも輝きを生むまでのプロセスが多く複雑であるほど、多種多様なアクションができる。だがその分、操作性や星との同調が難しくなるのはもちろん、生み出す事象の幅が広すぎて概念自体が弱くなりがちなのだ。ゆえに彼の大気を刃に変えるという星のように、一工程に限定した方が扱いやすく、概念もはっきりしてより強い輝きを出せるのである。
とはいえ概念、輝きの純度は、練度や星との同調率の高さによりいくらでもくつがえせるため、創造の星のようなタイプが弱いというわけではない。ようはどれだけ使いこなせているかなのであった。
「器用貧乏ってか? ははは、確かにそれも一理あるが、これはこれでいろいろとやりようがあるんだぜ」
「では見せてもらいましょうか」
「ははは、来いよ、業火よ、呑み込め!」
燃え盛る炎を創造し、せまりくるルーファスへと放つ。
「全部、斬り伏せて! ッ!?」
敵はこれまで同様、炎を斬り伏せようと風の刃を一閃。一瞬、斬り裂かれるが、炎は再び戻り彼を呑み込もうと。というのもこれは火炎を放射し続ける攻撃。火球系ならばこれまで通り一度斬り伏せたら終わりだっただろうが、次々に押し寄せてくる波状タイプの攻撃だとそうはいかない。斬り続け全身することも可能かもしれないが、相手が炎ゆえ熱のダメージも襲い掛かってくるのだから。
これにはたまらず後方へ下がりながら、回避するルーファス。
「水流よ! 渦となれ!」
次の瞬間、大量の水がルーファスを取り囲むように流れ続ける。
「続けて水球よ、」
そして敵を取り囲んでいた水流は、次々に50センチほどの水球に分裂。いくつもの水球が、ルーファスの周囲に展開された。
あとはこの水球を敵にぶつけるだけ。いくら水の塊といってもこれを思いっきり撃ち込むため、かなりの打撃力となる。しかもそれが何発もとなれば、大ダメージはま逃れないだろう。
「なんたってこんなふうに、相手の弱点を的確に突きまくれるんだからな」
水球による全方位からの一斉攻撃ゆえ、彼の戦闘スタイルでは全弾を対処しきれない。何発かは斬り伏せられても、残りの水球にとらえられることになるはず。今の陣の星詠みでは力負けするかもしれないが、このように弱点を突いて補えば問題ないのだ。
「ハハハハ、これはイタイところをついてきますね」
窮地だというのにルーファスは笑うだけで、降参はしない。強がっているだけか、それともまだなにか策があるのか。とにかく降参しないなら、このまま戦闘を続行するだけだ。
「降りそそげ!」
陣の合図に、水球が全方位から一斉にルーファスへと襲い掛かる。このまま彼はその数に圧倒され、やられるのだろう。
しかしここで予想外の事態が。
「なっ!?」
なんとルーファスがパチンと指を鳴らした瞬間、一斉発射された水球たちが、次々に真っ二つにされていったのだ。敵は斬ったそぶりなど見せずにだ。
そして続けざまにルーファスは陣へと鋭い視線を向けながら、腕を横へと振りかざす。
「ヤバイ!?」
その刹那、直感が叫んだ。このままではやられると。
そして気づく。陣を薙ぎ払おうと、巨大な大気の刃が側面から襲い掛かっていることに。
陣はすぐさま創造の疑似恒星に、意識を集中する。先ほどまで使っていた星詠みレベルの威力では、あの刃を止められない。そう判断した陣は奥の手を。限界まで創造の疑似恒星に同調し、無理やり力を引き出していく。
「マスター!? また勝手に!? それはダメだってあれほど!?」
「緊急事態だ! やるしかないだろ!」
リルの静止の声を振り切り、己が全力の創造を。
次の瞬間、陣の拳には破壊という概念を凝縮したような黒いオーラが。あのアンドレーとの最終決戦で一応コツはつかんでおり、創造するまでの反動はすごいが一瞬程度なら行使可能なのであった。
「これで! 暴虐よ、砕け!」
高速でせまりくる刃へ、破壊の拳を叩き込む。拳にまとった黒いオーラが大気の刃を呑み込み、またたく間に砕いていった。
彼の星詠みの純度はかなりのものであったが、この黒いオーラの前では無力。それほどまでにこの力はケタ違いであり、もはや最上級の輝きといっていいのだから。
「――おぉ……、なんという輝き……」
ルーファスは続けて攻撃してこず、ただ打ち震えながら感極まっていたといっていい。
「なに惚けてるんだ? ここからが本番だろ?」
「いえ、もう十分です。非常にすばらしいものを見させてもらいましたからね」
「そうかい」
正直、助かったといっていい。今の力の創造。あんな一瞬だけだというのに、ごっそり陣の精神力を削っていったのだ。あのまま続けていたら、陣の魂が創造の星に呑み込まれ、暴走していたかもしれない。
模擬戦が終わったということで、周りで見ていたギャラリーたちが歓声を上げ盛り上がりだす。みな見事な星詠みの戦いに興奮している様子。二人の健闘を称えたり、陣の星詠みについて興味津々の声が。
「すばらしい戦いでした。久々に心が震えましたよ」
ルーファスがほがらかにほほえみながら、握手を求めてくる。
なのでその手を取り握手を。
「あんたもまさかあんな隠し玉を持ってたなんてな」
「ハハハハ、恐縮です。ところで四条さんは従者とかほしくありませんか?」
「うん? なんか最近よく聞く問いが……。おい、まさかアンタ」
「はい、すっかり四条さんに心奪われてしまいました! あの見事な星詠みさばき。並々ならぬその風格! ――あぁ……、あなたならきっと、誰もが到達したことのない領域まで上り詰めるでしょう! それをどうかお手伝いさせていただきたい!」
ルーファスは胸板に手を当て、もう片方の手を陣へと伸ばしながら声高らかにうったえてくる。
「やっぱりその流れかよ!?」
「実は僕、星魔教の信者でもあるので、サポートに関してはお任せください。必ずや、役にたってみせますので」
「そういうの受け付けてないから、ほかを当たってくれ」
従者の件はルシアですでに手を焼いているのだ。ルーファスにまで付きまとわれたら、たまったものじゃなかった。
「四条さん! そういわず、どうか!」
「ふーん、ルーファス、そんなにもこの子のこと気に入ったんだ」
どこか暑苦しく頼み込んでくるルーファス。
しかしそこへレイチェルが急に話に加わってきた。
どうやら末緒との話が終わって、戻ってきたらしい。
「はい、それはもう! すっかり心奪われファンになってしまいました!」
「キミほどの人がそこまで入れ込むなんて。へー、この子があの……」
レイチェルが至近距離まで来て、じーっと意味ありげに見つめてくる。
彼女の瞳を見ていると、なんだか意識が呑み込まれそうになるような不思議な感覚が。
(――い、居心地が悪い……)
レイチェルに見られているのもそうだが、周りのギャラリーたちもみな興味ありげに陣へ視線を向けて盛り上がっているのだ。あまりの注目の的すぎて、今すぐこの場から離れたかった。
「里村、灯里、そろそろ帰るか!」
「あ、うん」
「そうだね」
近くまで来ていた末緒と灯里に声をかける。
「じゃあ、オレたちはこれで!」
「もういっちゃうんだ。またね」
「四条さん、あなたの従者になれるのを心待ちにしていますよ」
レイチェルたちに見送られ、そそくさと逃げる陣なのであった。
そんな訓練施設には、陣とルーファスの模擬戦を見ようと多くのギャラリーが集まっていた。
「まさか模擬戦をやることになるとはな。まあ、創造の星に慣れるのにはもってこいか。向こうはかなりの手練れみたいだし」
これまでの戦闘経験から、ルーファスが腕の立つ創星術師なのを見抜く。相手にとって不足はないようだ。
「リル、創造の疑似恒星を使うから、サポート頼んだぞ」
陣は自身の疑似恒星に意識をつなぐ。
するとどこからともなくリルの声が。
「ちょっと待ってなんだよ!? 今、栞さんにケーキを出してもらったところで!」
「のんきにおやつを食ってる場合か。やるぞ!」
「もー! わかったんだよ!」
リルが疑似恒星内へと戻ってくれたらしく、次第に力が湧き上がってきた。
これで準備は万端のようだ。
「準備はオッケーですか?」
「ああ、大丈夫だ。いつでも始めてくれ」
「では行きますよ!」
ルーファスが地を蹴り、距離を詰めてくる。
どうやら彼は近距離型の創星術師のようだ。いったんどんな星詠みか見極めるため、迎撃行動に移る。
「暴風よ、撃ち抜け!」
まずはあいさつがわりに、大気を圧縮して作った砲弾を放つ。
この攻撃は一見普段陣がこれまで使っていた魔法のように見えるが、創造の星により生成したもの。陣が持つ創造の星の原理は、だいたい魔法と同じ。無色の力に属性や形といった方向性を示し、思い描いた力を作るといっていい。ただ原理は同じだが、その存在のあり方は全然違う。この星詠みによって生み出された力には、創造の星の概念がふくまれているのだ。ゆえに魔法のようなただの力の塊ではなく、輝きという概念の塊。術者は自身の望む通りの星詠みを行使できると、同義なのであった。
「ふっ、斬り裂かせてもらいますよ」
呑み込むものすべてを吹き飛ばす大気の砲弾であったが、ルーファスが手を振るった瞬間容易く真っ二つに斬り伏せられてしまった。
彼はなにかを手にしているようだが、武器の姿は見当たらない。こちらの星詠みを斬り裂いたということは、今のがルーファスの星詠みなのだろう。
(今なにをした? とにかく接近させたらまずそうだ)
「氷杭よ、貫け!」
さらに迎撃するためすかさず創造の概念をまとった三本の氷の杭を生成し、敵目掛けて弾丸のように撃ち放つ。
空を切り勢いよく飛翔するつらら。一応安全面を考慮し先の部分を丸めているため殺傷力はないが、当たればその質量と勢いによりかなりの打撃ダメージを与えられる代物だ。
「そんなもので僕は止められませんよ」
しかしルーファスが手を振りかざした瞬間、放たれたつららは次々に切り捨てられていく。
その様子を注意深く観察する。すると彼の手にほんのうっすらと見える刀がにぎられていることに気づく。どうやらあれで陣の攻撃を斬っていたようだ。かなりの透明性ゆえ、目視するのは難しかった。
「あの刃がルーファスの星詠み、ッ!? 氷壁よ、守れ!」
慌てて前方に氷の壁を創造する。
というのもルーファスがもう片方の手で、なにかを投てきしたのだ。おそらくあの透明の刀と、同質の物を投げたに違いない。
陣の読み通り、氷の壁に深々となにかが刺さる。それは透明な三本のナイフ。氷を圧縮しかなりの強度を誇る防壁を、あと一歩のところまで貫通させているところをみるにその切れ味は相当なもの。向こうも安全性のため多少は手加減してるはずなので、本気なら止められなかったかもしれない。
「ハッ!」
安堵するもつかの間、ルーファスが高く跳躍。そのまま上空から透明な刀を振りかざしてきた。
それにより氷の壁は軽く切り伏せられ、真っ二つに。陣は即座に後方へ下がり、斬撃をやり過ごす。
「雷撃よ、穿て!」
このままでは一気に距離を詰められ、あの刃の餌食に。ゆえにほとばしる雷撃の槍を創造し、投げつけた。
だがそれも透明な刀による一閃で、またたく間に斬られてしまった。ただいったん足止めに成功し、その間に体勢を立て直す。
「これが四条さんの星詠み。風に氷に雷、なんでも生み出せるとはなんて破格の星詠みなのでしょうか! ですが汎用性に富みすぎてるせいか、輝きの純度が低いようですね。これでは僕の一点特化型である、気刃の星の相手はおつらいでしょう」
星詠み同士の戦いとは、簡単にいうと己が概念と概念の塗りつぶし合い。なので輝きの純度が高いほうがより優位性を取れるのだ。陣の星詠みが彼の星詠みに破られているのもそのせい。これは陣がまだ新米創星使いであり星詠みの練度自体低いのもあるが、もう一つ要因が。星詠みはその色と形が単純であれば単純であるほど、輝きの純度が高くなりやすいのである。というのも輝きを生むまでのプロセスが多く複雑であるほど、多種多様なアクションができる。だがその分、操作性や星との同調が難しくなるのはもちろん、生み出す事象の幅が広すぎて概念自体が弱くなりがちなのだ。ゆえに彼の大気を刃に変えるという星のように、一工程に限定した方が扱いやすく、概念もはっきりしてより強い輝きを出せるのである。
とはいえ概念、輝きの純度は、練度や星との同調率の高さによりいくらでもくつがえせるため、創造の星のようなタイプが弱いというわけではない。ようはどれだけ使いこなせているかなのであった。
「器用貧乏ってか? ははは、確かにそれも一理あるが、これはこれでいろいろとやりようがあるんだぜ」
「では見せてもらいましょうか」
「ははは、来いよ、業火よ、呑み込め!」
燃え盛る炎を創造し、せまりくるルーファスへと放つ。
「全部、斬り伏せて! ッ!?」
敵はこれまで同様、炎を斬り伏せようと風の刃を一閃。一瞬、斬り裂かれるが、炎は再び戻り彼を呑み込もうと。というのもこれは火炎を放射し続ける攻撃。火球系ならばこれまで通り一度斬り伏せたら終わりだっただろうが、次々に押し寄せてくる波状タイプの攻撃だとそうはいかない。斬り続け全身することも可能かもしれないが、相手が炎ゆえ熱のダメージも襲い掛かってくるのだから。
これにはたまらず後方へ下がりながら、回避するルーファス。
「水流よ! 渦となれ!」
次の瞬間、大量の水がルーファスを取り囲むように流れ続ける。
「続けて水球よ、」
そして敵を取り囲んでいた水流は、次々に50センチほどの水球に分裂。いくつもの水球が、ルーファスの周囲に展開された。
あとはこの水球を敵にぶつけるだけ。いくら水の塊といってもこれを思いっきり撃ち込むため、かなりの打撃力となる。しかもそれが何発もとなれば、大ダメージはま逃れないだろう。
「なんたってこんなふうに、相手の弱点を的確に突きまくれるんだからな」
水球による全方位からの一斉攻撃ゆえ、彼の戦闘スタイルでは全弾を対処しきれない。何発かは斬り伏せられても、残りの水球にとらえられることになるはず。今の陣の星詠みでは力負けするかもしれないが、このように弱点を突いて補えば問題ないのだ。
「ハハハハ、これはイタイところをついてきますね」
窮地だというのにルーファスは笑うだけで、降参はしない。強がっているだけか、それともまだなにか策があるのか。とにかく降参しないなら、このまま戦闘を続行するだけだ。
「降りそそげ!」
陣の合図に、水球が全方位から一斉にルーファスへと襲い掛かる。このまま彼はその数に圧倒され、やられるのだろう。
しかしここで予想外の事態が。
「なっ!?」
なんとルーファスがパチンと指を鳴らした瞬間、一斉発射された水球たちが、次々に真っ二つにされていったのだ。敵は斬ったそぶりなど見せずにだ。
そして続けざまにルーファスは陣へと鋭い視線を向けながら、腕を横へと振りかざす。
「ヤバイ!?」
その刹那、直感が叫んだ。このままではやられると。
そして気づく。陣を薙ぎ払おうと、巨大な大気の刃が側面から襲い掛かっていることに。
陣はすぐさま創造の疑似恒星に、意識を集中する。先ほどまで使っていた星詠みレベルの威力では、あの刃を止められない。そう判断した陣は奥の手を。限界まで創造の疑似恒星に同調し、無理やり力を引き出していく。
「マスター!? また勝手に!? それはダメだってあれほど!?」
「緊急事態だ! やるしかないだろ!」
リルの静止の声を振り切り、己が全力の創造を。
次の瞬間、陣の拳には破壊という概念を凝縮したような黒いオーラが。あのアンドレーとの最終決戦で一応コツはつかんでおり、創造するまでの反動はすごいが一瞬程度なら行使可能なのであった。
「これで! 暴虐よ、砕け!」
高速でせまりくる刃へ、破壊の拳を叩き込む。拳にまとった黒いオーラが大気の刃を呑み込み、またたく間に砕いていった。
彼の星詠みの純度はかなりのものであったが、この黒いオーラの前では無力。それほどまでにこの力はケタ違いであり、もはや最上級の輝きといっていいのだから。
「――おぉ……、なんという輝き……」
ルーファスは続けて攻撃してこず、ただ打ち震えながら感極まっていたといっていい。
「なに惚けてるんだ? ここからが本番だろ?」
「いえ、もう十分です。非常にすばらしいものを見させてもらいましたからね」
「そうかい」
正直、助かったといっていい。今の力の創造。あんな一瞬だけだというのに、ごっそり陣の精神力を削っていったのだ。あのまま続けていたら、陣の魂が創造の星に呑み込まれ、暴走していたかもしれない。
模擬戦が終わったということで、周りで見ていたギャラリーたちが歓声を上げ盛り上がりだす。みな見事な星詠みの戦いに興奮している様子。二人の健闘を称えたり、陣の星詠みについて興味津々の声が。
「すばらしい戦いでした。久々に心が震えましたよ」
ルーファスがほがらかにほほえみながら、握手を求めてくる。
なのでその手を取り握手を。
「あんたもまさかあんな隠し玉を持ってたなんてな」
「ハハハハ、恐縮です。ところで四条さんは従者とかほしくありませんか?」
「うん? なんか最近よく聞く問いが……。おい、まさかアンタ」
「はい、すっかり四条さんに心奪われてしまいました! あの見事な星詠みさばき。並々ならぬその風格! ――あぁ……、あなたならきっと、誰もが到達したことのない領域まで上り詰めるでしょう! それをどうかお手伝いさせていただきたい!」
ルーファスは胸板に手を当て、もう片方の手を陣へと伸ばしながら声高らかにうったえてくる。
「やっぱりその流れかよ!?」
「実は僕、星魔教の信者でもあるので、サポートに関してはお任せください。必ずや、役にたってみせますので」
「そういうの受け付けてないから、ほかを当たってくれ」
従者の件はルシアですでに手を焼いているのだ。ルーファスにまで付きまとわれたら、たまったものじゃなかった。
「四条さん! そういわず、どうか!」
「ふーん、ルーファス、そんなにもこの子のこと気に入ったんだ」
どこか暑苦しく頼み込んでくるルーファス。
しかしそこへレイチェルが急に話に加わってきた。
どうやら末緒との話が終わって、戻ってきたらしい。
「はい、それはもう! すっかり心奪われファンになってしまいました!」
「キミほどの人がそこまで入れ込むなんて。へー、この子があの……」
レイチェルが至近距離まで来て、じーっと意味ありげに見つめてくる。
彼女の瞳を見ていると、なんだか意識が呑み込まれそうになるような不思議な感覚が。
(――い、居心地が悪い……)
レイチェルに見られているのもそうだが、周りのギャラリーたちもみな興味ありげに陣へ視線を向けて盛り上がっているのだ。あまりの注目の的すぎて、今すぐこの場から離れたかった。
「里村、灯里、そろそろ帰るか!」
「あ、うん」
「そうだね」
近くまで来ていた末緒と灯里に声をかける。
「じゃあ、オレたちはこれで!」
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彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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