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1章 第4部 動き始めた運命
55話 救出劇?
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部屋に入ると、そこはレイジがいたところよりも広いVIP用の室内の光景が。ここも高そうな家具やらベッド、テーブルにソファーや大型テレビなどが設置されていた。見た感じ多人数用のスイートルームなのだろう。
「那由他! 結月! 無事か!?」
「レイジじゃないですかー!? 遊びに来てくれたんですか?」
レイジの問いに、那由多は手を大きく振りのんきに笑いかけてきた。
「はっ、もしや那由他ちゃんに夜這を仕掛けようと……。もー、レイジったらー。いくらなんでも、まだ早すぎですよー。そういうのは結月が寝静まった時にしないとー。まあ、それもこれもあまりに那由他ちゃんが、かわいすぎるからなのかもしれませんねー!」
そして那由多はやだなーっとレイジの背中をバシバシたたきながら、キャーっとはしゃぎ始める。
「結月、大丈夫だったか? 早いとこここから脱出しよう。そこにいるバカは放っておいてな」
こんな状況だというのにいつもと変わらない反応を見せる那由多に呆れつつ、結月の方へと駆け寄る。
ちなみにさっきまで二人は夕食をとっていたらしい。テーブルの上には豪華なディナーのフルコースが用意されていた。おそらく那由多が注文したのだろう。
「――あはは……、私は大丈夫よ。でも、そっか、久遠くん助けに来てくれたのね」
「ああ、外でレーシスも待ってるから、さっさとずらかろう」
「コラー、バカとはなんですかー。バカとはー。軽い冗句なんですから、そんな冷たい反応しないでくださいよー」
するとレイジの上着の袖クイクイ引っ張りながら、いじけてくる那由多。
「――あのな……、今どういう状況かわかってるだろ。オレがここに来たということは」
「もっちろん! 今からすぐに、ここからおさらばすることぐらい! ですがわたしが言いたいのは、助けに来るのが早すぎるということなんですよー。ほら! 見てください! 今わたしたちは豪華ディナーを堪能中なのです!」
那由他はいかにも高そうな料理が並べられているテーブルを、指さしてくる。
間が悪いことにどうやら食事中だったようだ。なので空気を読んで、もう少し時間がたってから来るべきだったと言いたいらしい。
「なんで助けに来たのに、文句を言われないといけないんだ?」
「だってあれからさっそくアラン・ライザバレットに要求して、一流のシェフを呼んでもらったんですよー。あの那由他ちゃんと、片桐のご令嬢である結月がいるんですからって!」
「マジで満喫しようとしてたのかよ。本当に今の状況をわかってるのか。オレたちはつかまってるんだから、もう少し緊張感を持ってだな」
頭を抱えながら、この状況を楽しんでいる彼女をたしなめる。
さっきも思ったが那由他のあまりの図太さに、感心を通り越して呆れた感情が。彼女は非常に優秀だが、かなりマイペースなのがたまに傷なのだ。
「えー、いいじゃないですかー。アラン・ライザバレットにわたしたちをつかまえさせたことを後悔させつつ、こちらは満足に浸ながら脱出してやるんです! ですから食事なんてまだまだ序の口。これからエステやらマッサージやらで散々手を焼かして、疲れさせた隙をついて逃走をはかる! みごとな作戦でしょー!」
那由多は手を前にバッと出し、不敵な笑みを浮かべながら作戦を告げてきた。
「なんだ。那由他もこのまま大人しく、つかまってるつもりはなかったわけか」
「その通り! そういうわけなんで、レイジが来るのはまだ早かったってことですねー。那由他ちゃんには那由他ちゃんの計画があるんですから、守ってもらわないとー。そのせいでこの計画の一番の要である、レイジを華麗に助けて惚れさせる作戦が台無しですよー。まったくー、はぁ……」
那由多はやれやれと肩をすくめながら、大げさにため息をついてくる。
助けに来たはずなのに、レイジがわるいみたいな雰囲気になっているのが納得いかなかった。
「あー、そりゃー、わるかったなー。で、ちなみにどうやって逃げ出そうとしてたんだ?」
「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれました! ズバリ! かわいい、かわいい那由他ちゃんの魅力による、ハニートラップです! これでどんな男の人でもイチコロ! あとはメロメロにした状態で気絶させ、逃げ出す算段だった
のです!」
那由多は両ほおに指を当て、かわいさ全開の笑顔を向けてくる。
確かに彼女は文句がないほどの美少女だが、さすがにそんな見え透いた手に引っかかるバカはいないだろう。
ノリノリな那由他に、すかさず現実を突きつけてやった。
「オレたちが助けに来てよかったな。絶対そのもくろみ、外れてたぞ」
「ぶー、失礼なー」
「いや、こんなことしてる場合じゃなかった。さっさと行くぞ」
むくれる那由多を放って、二人を急かす。
いつアラン側が異変に気づき、増援をよこすかわからない状況なのだ。そしたらまた監禁される状況に。しかも今度はそう簡単に逃げられないよう、警戒を強めてくるはずなのでなおさらつかまるわけにはいかなかった。
「まあ、まあ、そうあせらずにー。ほら、これでも食べて落ち着いてください! おいしいですよー。はい、あーん!」
那由多は切り分けていた肉料理をフォークで刺して、レイジの口元へと運んできた。
「――いや、あーんってなんだ……」
「もー、ノリが悪いですよー。せっかく可愛い女の子が、食べさせてあげてるんですからー。ささ! 食べないと先に進めませんよー?」
このシチュエーションに戸惑うレイジに、那由他は小悪魔の笑みを浮かべながら勧めてくる。
「クッ、しかたない、一口だけだぞ。――うん、確かにうまいな」
彼女の言う通り食べて満足させないと時間が掛かりそうなので、レイジは仕方なく食べることにした。さすが凄腕のシェフを呼んだとあって、その味は格別だ。
「キャー、一度こういうのやってみたかったんですよねー。レイジっていつも警戒して、付き合ってくれませんしー」
味わっていると、那由多がぴょんぴょんとびはねながら喜びをあらわに。
「これでもう気が済んだか? それじゃあ、急いで」
「ねー、ねー、レイジ! 那由他ちゃんとの間接キスはどうでしたー?」
そして那由多は追い打ちと、レイジの耳元で意味ありげにささやいてきた。どこか色っぽい声色でだ。
「――あ、あのな……、意識させるなよ、そういうことは……」
少し思っていたことを突かれ、思わず反応してしまう。
(――でも、まあ、森羅しんらとキスしたのと比べたら、まだ……)
だが思い返してみると、森羅とキスしてしまったインパクトが強すぎて、そこまで動揺しなかった。
「あれ? なんだかレイジの反応が薄いような……」
すると那由多はほおに指を当て、首をひねりだす。
「わー、那由他、すごい! これって好きな男の子のおとし方みたいなやつよね。うん、これは後学のための勉強になるかも!」
彼女の疑惑の目にじゃっかんあせっていると、結月がパンと手を合わせる。そして目を輝かせながら、なにやら感心していた。
「ふっふっふっ! これぞ恋愛の上級テクってやつですねー。こうやってさりげなく意識させていって、相手の心をわしづかみにしていくんですよ! 結月もぜひ試してくださいね! 効果てき面のはずなので!」
那由多は人差し指を立てながら、得意げにウィンクを。
「うん、その時が来たら、那由他先生の教えにしたがってがんばってみるよ!」
「盛り上がるのもそこまでだ! いい加減に行くぞ!」
キャッキャッと二人で盛り上がっている中わるいが、話に割り込みにいく。
「はーい、わかりました。結月、もったいないのですが残しましょう」
「――うん、状況が状況だし、しかたないね……」
二人ともしんみりと納得。少しかわいそうだが、今は緊急事態なのであきらめてもらうしかなかった。
これでようやく脱出できると思いきや。
「――では最後にこのデザートのフルーツタルトを食べて、脱出するとしますかー!」
「そうだよね! さすがにデザートは残せないよ!」
だが急に明るくなり、二人はいかにもおいしそうな高級フルーツタルトを食べる準備を。
真面目な結月なら那由他を止めてくれると期待したが、ケーキの前にそれは叶わなかったらしい。もはや腕をブンブン振りながら、那由多に意気投合している始末なのだから。
「んなわけないだろ! 時間切れだ!」
我慢の限界がきたので、さすがに文句をいい放つ。
「えー!? わざわざ有名パティシエを呼び出して作らせたというこの一級品を、わたしたちに残せと!?」
那由多はフルーツタルトが乗った皿を手に持ち、信じられないといったふうにうったえてくる。そこには冗談など一切なく、マジの顔でだ。
それに対し結月も何度もうなずき、激しく同意していた。
「うんうん!」
「おい! てめーら! いつまで遊んでやがる気だ! さっさとしやがれー!」
そうこうしていると扉がバンっと勢いよく開き、レーシスがキレ気味に怒鳴ってきた。
レイジがいい思いをしているのだろうと、少しは大目にみて待っていてくれたのだろうが、さすがに遅すぎたようだ。
「だってさ。ほら、行くぞ」
彼女が持っていた皿を奪い、テーブルに置く。そして那由他の腕をつかみ、問答無用に引っ張っていった。
「待ってください!? 那由他ちゃんのデザートがー!?」
那由多は引きずられながら、涙目で高級フルーツタルトが乗った皿に手を伸ばす。
「結月も」
「……うん、わかってる……。うぅ……、バイバイ、デザート……」
結月は名残惜しそうに高級フルーツタルトを見つめるも、未練を断ち切ろうとダッシュで部屋を出て行った。
「わーん! こうなったらアラン・ライザバレットの計画を、意地でも阻止してやるんですからー! デザートの恨み思いしれー!」
那由他はレイジの手を振りほどき、自発的に部屋を出て行く。高級フルーツタルトの恨みと打倒アランを掲げ、やけくそ気味にだ。
「――なんか、ものすごく理不尽な八つ当たりを垣間見てしまったような……」
アランに同情しつつも、二人のあとを追うことに。
こうしてレイジたちはビルから脱出するため、本格的に行動を開始するのであった。
「那由他! 結月! 無事か!?」
「レイジじゃないですかー!? 遊びに来てくれたんですか?」
レイジの問いに、那由多は手を大きく振りのんきに笑いかけてきた。
「はっ、もしや那由他ちゃんに夜這を仕掛けようと……。もー、レイジったらー。いくらなんでも、まだ早すぎですよー。そういうのは結月が寝静まった時にしないとー。まあ、それもこれもあまりに那由他ちゃんが、かわいすぎるからなのかもしれませんねー!」
そして那由多はやだなーっとレイジの背中をバシバシたたきながら、キャーっとはしゃぎ始める。
「結月、大丈夫だったか? 早いとこここから脱出しよう。そこにいるバカは放っておいてな」
こんな状況だというのにいつもと変わらない反応を見せる那由多に呆れつつ、結月の方へと駆け寄る。
ちなみにさっきまで二人は夕食をとっていたらしい。テーブルの上には豪華なディナーのフルコースが用意されていた。おそらく那由多が注文したのだろう。
「――あはは……、私は大丈夫よ。でも、そっか、久遠くん助けに来てくれたのね」
「ああ、外でレーシスも待ってるから、さっさとずらかろう」
「コラー、バカとはなんですかー。バカとはー。軽い冗句なんですから、そんな冷たい反応しないでくださいよー」
するとレイジの上着の袖クイクイ引っ張りながら、いじけてくる那由多。
「――あのな……、今どういう状況かわかってるだろ。オレがここに来たということは」
「もっちろん! 今からすぐに、ここからおさらばすることぐらい! ですがわたしが言いたいのは、助けに来るのが早すぎるということなんですよー。ほら! 見てください! 今わたしたちは豪華ディナーを堪能中なのです!」
那由他はいかにも高そうな料理が並べられているテーブルを、指さしてくる。
間が悪いことにどうやら食事中だったようだ。なので空気を読んで、もう少し時間がたってから来るべきだったと言いたいらしい。
「なんで助けに来たのに、文句を言われないといけないんだ?」
「だってあれからさっそくアラン・ライザバレットに要求して、一流のシェフを呼んでもらったんですよー。あの那由他ちゃんと、片桐のご令嬢である結月がいるんですからって!」
「マジで満喫しようとしてたのかよ。本当に今の状況をわかってるのか。オレたちはつかまってるんだから、もう少し緊張感を持ってだな」
頭を抱えながら、この状況を楽しんでいる彼女をたしなめる。
さっきも思ったが那由他のあまりの図太さに、感心を通り越して呆れた感情が。彼女は非常に優秀だが、かなりマイペースなのがたまに傷なのだ。
「えー、いいじゃないですかー。アラン・ライザバレットにわたしたちをつかまえさせたことを後悔させつつ、こちらは満足に浸ながら脱出してやるんです! ですから食事なんてまだまだ序の口。これからエステやらマッサージやらで散々手を焼かして、疲れさせた隙をついて逃走をはかる! みごとな作戦でしょー!」
那由多は手を前にバッと出し、不敵な笑みを浮かべながら作戦を告げてきた。
「なんだ。那由他もこのまま大人しく、つかまってるつもりはなかったわけか」
「その通り! そういうわけなんで、レイジが来るのはまだ早かったってことですねー。那由他ちゃんには那由他ちゃんの計画があるんですから、守ってもらわないとー。そのせいでこの計画の一番の要である、レイジを華麗に助けて惚れさせる作戦が台無しですよー。まったくー、はぁ……」
那由多はやれやれと肩をすくめながら、大げさにため息をついてくる。
助けに来たはずなのに、レイジがわるいみたいな雰囲気になっているのが納得いかなかった。
「あー、そりゃー、わるかったなー。で、ちなみにどうやって逃げ出そうとしてたんだ?」
「ふっふっふっ! よくぞ聞いてくれました! ズバリ! かわいい、かわいい那由他ちゃんの魅力による、ハニートラップです! これでどんな男の人でもイチコロ! あとはメロメロにした状態で気絶させ、逃げ出す算段だった
のです!」
那由多は両ほおに指を当て、かわいさ全開の笑顔を向けてくる。
確かに彼女は文句がないほどの美少女だが、さすがにそんな見え透いた手に引っかかるバカはいないだろう。
ノリノリな那由他に、すかさず現実を突きつけてやった。
「オレたちが助けに来てよかったな。絶対そのもくろみ、外れてたぞ」
「ぶー、失礼なー」
「いや、こんなことしてる場合じゃなかった。さっさと行くぞ」
むくれる那由多を放って、二人を急かす。
いつアラン側が異変に気づき、増援をよこすかわからない状況なのだ。そしたらまた監禁される状況に。しかも今度はそう簡単に逃げられないよう、警戒を強めてくるはずなのでなおさらつかまるわけにはいかなかった。
「まあ、まあ、そうあせらずにー。ほら、これでも食べて落ち着いてください! おいしいですよー。はい、あーん!」
那由多は切り分けていた肉料理をフォークで刺して、レイジの口元へと運んできた。
「――いや、あーんってなんだ……」
「もー、ノリが悪いですよー。せっかく可愛い女の子が、食べさせてあげてるんですからー。ささ! 食べないと先に進めませんよー?」
このシチュエーションに戸惑うレイジに、那由他は小悪魔の笑みを浮かべながら勧めてくる。
「クッ、しかたない、一口だけだぞ。――うん、確かにうまいな」
彼女の言う通り食べて満足させないと時間が掛かりそうなので、レイジは仕方なく食べることにした。さすが凄腕のシェフを呼んだとあって、その味は格別だ。
「キャー、一度こういうのやってみたかったんですよねー。レイジっていつも警戒して、付き合ってくれませんしー」
味わっていると、那由多がぴょんぴょんとびはねながら喜びをあらわに。
「これでもう気が済んだか? それじゃあ、急いで」
「ねー、ねー、レイジ! 那由他ちゃんとの間接キスはどうでしたー?」
そして那由多は追い打ちと、レイジの耳元で意味ありげにささやいてきた。どこか色っぽい声色でだ。
「――あ、あのな……、意識させるなよ、そういうことは……」
少し思っていたことを突かれ、思わず反応してしまう。
(――でも、まあ、森羅しんらとキスしたのと比べたら、まだ……)
だが思い返してみると、森羅とキスしてしまったインパクトが強すぎて、そこまで動揺しなかった。
「あれ? なんだかレイジの反応が薄いような……」
すると那由多はほおに指を当て、首をひねりだす。
「わー、那由他、すごい! これって好きな男の子のおとし方みたいなやつよね。うん、これは後学のための勉強になるかも!」
彼女の疑惑の目にじゃっかんあせっていると、結月がパンと手を合わせる。そして目を輝かせながら、なにやら感心していた。
「ふっふっふっ! これぞ恋愛の上級テクってやつですねー。こうやってさりげなく意識させていって、相手の心をわしづかみにしていくんですよ! 結月もぜひ試してくださいね! 効果てき面のはずなので!」
那由多は人差し指を立てながら、得意げにウィンクを。
「うん、その時が来たら、那由他先生の教えにしたがってがんばってみるよ!」
「盛り上がるのもそこまでだ! いい加減に行くぞ!」
キャッキャッと二人で盛り上がっている中わるいが、話に割り込みにいく。
「はーい、わかりました。結月、もったいないのですが残しましょう」
「――うん、状況が状況だし、しかたないね……」
二人ともしんみりと納得。少しかわいそうだが、今は緊急事態なのであきらめてもらうしかなかった。
これでようやく脱出できると思いきや。
「――では最後にこのデザートのフルーツタルトを食べて、脱出するとしますかー!」
「そうだよね! さすがにデザートは残せないよ!」
だが急に明るくなり、二人はいかにもおいしそうな高級フルーツタルトを食べる準備を。
真面目な結月なら那由他を止めてくれると期待したが、ケーキの前にそれは叶わなかったらしい。もはや腕をブンブン振りながら、那由多に意気投合している始末なのだから。
「んなわけないだろ! 時間切れだ!」
我慢の限界がきたので、さすがに文句をいい放つ。
「えー!? わざわざ有名パティシエを呼び出して作らせたというこの一級品を、わたしたちに残せと!?」
那由多はフルーツタルトが乗った皿を手に持ち、信じられないといったふうにうったえてくる。そこには冗談など一切なく、マジの顔でだ。
それに対し結月も何度もうなずき、激しく同意していた。
「うんうん!」
「おい! てめーら! いつまで遊んでやがる気だ! さっさとしやがれー!」
そうこうしていると扉がバンっと勢いよく開き、レーシスがキレ気味に怒鳴ってきた。
レイジがいい思いをしているのだろうと、少しは大目にみて待っていてくれたのだろうが、さすがに遅すぎたようだ。
「だってさ。ほら、行くぞ」
彼女が持っていた皿を奪い、テーブルに置く。そして那由他の腕をつかみ、問答無用に引っ張っていった。
「待ってください!? 那由他ちゃんのデザートがー!?」
那由多は引きずられながら、涙目で高級フルーツタルトが乗った皿に手を伸ばす。
「結月も」
「……うん、わかってる……。うぅ……、バイバイ、デザート……」
結月は名残惜しそうに高級フルーツタルトを見つめるも、未練を断ち切ろうとダッシュで部屋を出て行った。
「わーん! こうなったらアラン・ライザバレットの計画を、意地でも阻止してやるんですからー! デザートの恨み思いしれー!」
那由他はレイジの手を振りほどき、自発的に部屋を出て行く。高級フルーツタルトの恨みと打倒アランを掲げ、やけくそ気味にだ。
「――なんか、ものすごく理不尽な八つ当たりを垣間見てしまったような……」
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