電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
78 / 253
2章  第1部 十六夜学園

74話 ルナの誘い

しおりを挟む
「いや、特に有益な情報は得ていないな。アラン・ライザバレット側にアポルオンの一派がついてるってことぐらいだ」
「うん、アポルオン序列七位、ウェルベリック家側が向こうにいたもんね」
「――序列七位か……。とうとう革新派が動き出したということだな……。ルナ、どうする?」

 伊吹いぶきはアゴに手を当て思考をめぐらせながら、ルナの方に視線を向ける。
 どうやら向こうについてるアポルオン側の一派は、革新派と呼ばれているみたいだ。

「口惜しいですが情報があまりにも少ないため、現状こちらから打って出る手段はありません。ですのでもし私たちが動くなら、まず彼らの計画をあばかないと」

 ルナは首を横に振り、目をふせる。
 彼女の話からして、アポルオン側はアラン・ライザバレットや革新派の動向をくわしくつかめていないらしい。よってアイギスと同じくしばらくは動けず、硬直状態を続けるしかないのだろう。

「ルナさん。序列二位であるサージェンフォードの権力で、その……、革新派を止めることはできないの?」
「確かに序列二位の力を使えば、少しばかり革新派の動きを封じられると思います。ですがそれが効くのも序列が低い者たちだけ。序列七位などの高位メンバーには、さほど意味をなさないでしょう」
「捨て身覚悟のクーデターみたいなものだからな。今さら保守派がいくら脅しをかけようが、もろともしないだろうさ」

 肩をすくめ、苦笑する伊吹。
 確かにすでに行動を起こしている今となっては、もう手遅れ。革新派にしてみれば後は勝ってすべてを手に入れるか、負けてなにもかも失うしかないのだから。

「――そっか……。それじゃあ無理だよね……」
「その場合序列七位はどうなるんだ? アポルオンに反する行為をしたから、除名とか?」
「いえ、それはありえません。現在アポルオンの序列はセフィロトが世界の影響力順につけているんです。そのためウェルベリック家の世界の影響力があり続ける限り、彼らは序列を維持できる」
「ようするにその権力をセフィロトに、保障されているということだ、久遠くおん。こちらがアポルオンの権力を振りかざそうとしても、セフィロトがそれを許さない」
「――それって革新派に失うものはないってことじゃ……」

 二人のもどかしげな説明に、あっけにとられてしまう。
 たとえクーデターが失敗したとしてもその地位が約束されているため、革新派はなにも怖れずに事を進められる。もちろんほかからの風当たりは強くなるかもしれないが、今まで通り事業をやり続けられるなら、大した痛手にならないはず。こうなると力をたくわえ、何度でも反旗をひるがえすことが可能であった。

「ええ、厄介なことにですね……。ただ逆を言えば、革新派がいくらクーデターを成功させても、最上位序列が多くを占める我ら保守派の権力を削ぐのは無理というわけです」

 そう、もし革新派が滅びないのなら、同じ原理でルナたちがいる保守派もなくならない。となるとそもそもの話革新派の行動で、今のアポルオンの現状をくつがえすのは不可能ということ。そう、根源であるセフィロトをどうにかしない限り、意味をなさないのだ。自分たちを道連れに、アポルオンという組織を潰すなら話は別だが。

「確かに。じゃあ、革新派は一体なにがしたいんだ? セフィロトがある限りなにをしても無駄だと思うんだが」
「それがわかれば苦労はしないさ。自分たちの繁栄を約束する、アポルオンそのものを破壊するのは考えにくい。となると幾百の傘下をもつ最上位序列の経済力を、狩猟兵団などを使って片っ端から削ぎ落としていく手はあるが、さすがに難しいだろうし」

 ありえない話ではないが、これに関しては難しいといっていいだろう。
 世界有数の財閥のアーカイブポイントはどこも、国レベルの防衛網が敷かれている。もはや辺り一帯に私兵や雇ったエデン協会の者たち、電子の導き手を配置し常に警戒態勢。襲撃があった時は出し惜しみなくすぐさま増援を追加するので、セキュリティゾーンに入ることすら難しい。
 そのため狙うなら標的の傘下たち。彼らを一つ一つつぶしていけば確かにダメージは与えられる。だが中、上位クラスとなってくると難易度ははね上がり、さらに警戒もされる。なのでそううまくいかない恐れが。

「そういうことなので、革新派がなにを狙っているのかを突き止めなければならないのです。このアポルオンが作ってきた秩序ちつじょを、これ以上壊させないために……」

 ルナは現状に憂いながら、深刻そうにかたる。そしてレイジたちに手を差し出し、問うてきた。

片桐かたぎりさん、久遠さん。どうかあなたたちの力を貸していただきたい。お互い協力して、革新派の計画を阻止しましょう」

「うん、さすがに革新派は放っておけないもの。ここはルナさんの力に」
「わるい、その協力はオレ個人としてはできないよ、ルナさん」

 結月は乗り気だったみたいだが、レイジ個人としては断るしかなかった。

「く、久遠くん!?」
「ほう、序列二位次期当主である、ルナの誘いを断るとはいい度胸だな。久遠」

 結月は予想外の答えに驚愕きょうがくし、伊吹はまゆをひそめて脅し口調で言い放つ。

「――はぁ……、伊吹、そんな脅すような真似やめてください。――それで久遠さん。理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 そんな険しい視線を向けてくる伊吹を手で制しながら、レイジの問うてくるルナ。

「オレはアポルオンのためじゃなく、アイギス、いや、アポルオンの巫女のために戦うって決めてるんだ。だからたとえ敵が同じであったとしても、ルナさんたちアポルオンと手を組むとは別の話。――まあ、那由他が協力するっていうならあまり乗り気にはなれないけど、そうするよ」

 対してレイジは迷いのない瞳で告げる。
 そう、レイジにとってアラン側や革新派は敵だが、それはアポルオン側も同じ。彼らの理想は世界を支配し続けることにつながるため、決して容認できるものではない。レイジやカノン、アポルオンの巫女の理想を掲げるアイギスが目指すのは、その対極の誰もが自由で平穏に生きられる世界なのだから。ゆえにルナの手を取ることができなかった。

「――アポルオンのためには戦えないですか……。どうやらアポルオンのことをあまりよく思っていないみたいですね」
「ああ、さすがに世界を支配して自分たちの思い通りにしてる組織を、擁護ようごはできないかな」

 肩をすくめ、素直な感想を伝える。

「――えっと、ルナさん!? 久遠くんはアランさんに少ししか説明を受けていないから、いろいろと誤解があると思うの」

 結月は身を乗り出し、慌ててフォローを入れる。
 彼女の反応からみて、レイジはなにかを勘違いしているらしい。

「そういうことですか。それではアポルオンのことで、少し補足させてもらってもいいでしょうか? 久遠さんはまだこの組織について、くわしく理解されていないようなので」
「確かに敵対してるアランさんの話だけをうのみにするのは、問題があるよな。頼んでもいいか?」

 今思うと、アポルオンについてはアランから聞いたことがほとんど。なのでもしかすると彼の偏見が入っているのかもしれない。だから物事を正確に判断するため、ルナの話も聞いておくべきであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...