92 / 253
2章 第2部 隠された世界
88話 レイジvs謎の青年
しおりを挟む世界の終焉を連想させる赤黒い空の下、金属同士が激しくぶつかる鋭い音が、この壊滅状態の市街地に響き渡っていた。
その発生原はレイジと謎の青年。共に戦闘を繰り広げながら、亀裂交じりの地上を駆け抜ける。
謎の青年の武器は両腕に装備した禍々しい鋼鉄のガンレット。ガンレットとは本来防具として扱われるものだが、彼のは違った。なんと指の部分すべてが鋭利な爪となっており、あれで標的を引き裂くのである。
「どうした小僧! そんなもんかー!」
「クッ」
刀とガンレットの爪が幾度となくぶつかり合う。
しかしその戦況はきわめて劣勢。青年のいかなるモノも引き裂こうとする爪の猛攻はまるで止まることを知らず、ただただ得物をしとめようと放たれ続けているのだ。あまりの猛攻に、防ぐのが精一杯のレイジは防戦をしいられていた。
(なんなんだよ、このスペック!? 同調レベルがおかしすぎるだろ!?)
レイジが押されている要因は単純明快。そう、ただその圧倒的スペック差によりねじふせられているのである。こうなるのも青年の同調レベルがずば抜けて高く、ステータスの数値が異常なため。もはやロールプレイングゲームにおいて、レベルを上げずいきなりボスに挑もうとした状況だ。今は持ち前の剣の腕でなんとかその差を縮め防戦に徹しられているが、それがなければとうにスペック差でやられていたといっていい。
(どうする? このまま防戦に徹するか、それともアビリティで打ってでるか……)
防戦一方だが、一応レイジも攻めることはできる。いくら同調レベルによるスペック差があろうが、アビリティなら逆転の機会はあるはず。ただ攻勢にでれば確実にダメージをもらい、最悪強制ログアウトさせられるかもしれない。このアラン・ライザバレットと革新派による一大計画の直前に、そのリスクはなんとしてでも避けたかった。ゆえに圧倒的強者に全力で挑みたいという衝動を抑えているのが現状であるが、このまま続けるといずれ。
「かかってこないか……。ハッ、ならばそろそろくたばれやー!」
「しまった!?」
攻勢にでるかの迷いが隙を生み、そこを狙っての青年の渾身(こんしん)の一撃が。
「クッ、こんなところで終わってたまるかッ!」
レイジを貫こうとせまりくるガンレットの爪目掛けて、瞬時に刀を鞘に納める。そして即座に抜刀のアビリティを。
レイジと青年の必殺の一撃が激突し、大気を振るわせた。そしてあまりの反動に両者弾き飛ばされ距離があく。
「おうおう、やればできるじゃねぇか、小僧! そうこなくっちゃ面白くねぇ!」
「――はぁ……、やるしかないか……。逃げれそうにないし、どうせやられるなら全力で相手をしとくべきだよな」
覚悟を決め刀を鞘に納めるレイジ。叢雲抜刀陰術をいつでも撃てる準備を済ませ、敵が動くのを待つ。
もはや今のレイジに逃げ切れる要素はないのだ。スピードも相手が上。さらに後方にある霧のセキュリティの壁により、上位序列ゾーンには戻れない。ログアウトも一分の時間がかかり、その間同調レベルが下がることでスペックが落ちるため、青年の攻撃をさばけなくなってしまうはず。ここでなにかしらの奇跡が起きない限り、レイジに戦う以外の残された選択肢はなかった。
「レイジ!」
「レイジくん!」
だが運がいいことに軌跡が起こる。
声の方を振り返るとそこには那由他と結月、さらには森羅まで。そして。
「ハァ!」
「新手かよ!?」
青年に突撃するのは全身鎧を身にまとったアーネスト・ウェルべリック。
ずば抜けた剣技と破壊の爪牙が衝突し、猛然たる死闘が展開された。
「おうおう、なかなか骨のあるやつが来たじゃねぇか!」
「この異様さ、貴様エデン財団側の人間だな?」
「ならどうする?」
「フッ、知れたこと。貴様を倒して保守派側の情報をつかむまで!」
さすがアーネスト。あの青年としのぎを削れていた。
青年の猛攻がどれだけ激しくても、アーネストには鉄壁の鎧がある。しかも剣技で爪撃をずらし直撃を避けながらなため、ダメージがなかなか通らないのだ。もちろん防御だけではなく、攻撃の方も手は緩められていなかった。ただいくら彼でも、あの化け物クラスのスペックには少し押されがちのようで。
「さっきまでのお返しだ。くらえ!」
「チッ!?」
ゆえにレイジは即座に間合いを詰め、絶妙なタイミングで青年に抜刀を放つ。
死閃の刃に対し、青年は人外レベルの反応速度で防御するが完全には不可能。アーネストとの攻防で生まれた隙もあって、刃が肩口を斬り裂いた。
「クソッ、貴様ら!」
青年は後方に下がり、一度態勢を立て直す。
全力で繰り出した抜刀であったが、防御されたため傷が浅かったようだ。傷口からはデータの粒子が漏れていたが、すぐさま自己修復されてしまった。
「レイジくん! アーネスト! ここはいったん下がって!」
霧の手前から森羅の声が聞こえたため、レイジとアーネストも彼女たちのところへ下がる。
「久遠くん、よかったー、無事だったんだ!」
「ほんと、一時はどうなるかと思ったのよん!」
すると結月が心底ホッとした様子で、駆けつけてくれる。
ちなみにファントムの小鳥型のガーディアンは、結月の肩にとまっていた。
「心配かけさせたな、結月」
「今帰り道を作るから! 増援とか呼ばれる前に、さっさとこの場所から離れないと!」
「だが柊よ。ここで奴を仕留めれば、こちらにとって有益な情報が得られるかもしれないぞ。こんなチャンスなかなかないはずだ」
「あれはやばそうだからパス。こっちの計画もあるし、ここは退くべきよ!」
森羅は冷静に状況を判断して撤退を指示。
ブラックゾーンに保守派側の戦力がいるということは、この場所を陣取っている可能性がある。ただでさえあの青年は強いというのに、そこに増援を呼ばれれば一気に不利になってしまうかもしれないと。
「それで柊那由他、いけそう?」
森羅は霧のセキリュティに触れなにか作業をしていた那由他の方へと向かう。
「はい! 内側からなら、わたしたち二人だけでも開けられそうですねー!」
「オッケー。すぐに開けて脱出しよう! ――よし! 開いた!」
那由多と森羅が霧に触れたと同時に、まばゆい光が。そして次の瞬間、上位序列ゾーンに続く道が開いた。
「さっ、みんな入って!」
森羅の手招きに応じ、レイジとアーネスト、結月は彼女たちの方へ走る。
「待ちやがれ! こっからが本番だろうが!」
レイジたちが二人のところに向かおうとした瞬間、青年のまとっていた禍々しいオーラが一気に膨れ上がった。そのあまりの重圧をみるからに、まだ本気を出していなかったらしい。
だが。
「あ、なんだとアンノウン! ここは退けだと! ――チッ! わかったよ……。オレの任務は姫様の護衛だからな」
青年はなにやら通信回線で会話しだし、すぐさま殺気をしまいこんでしまった。
どうやら上からの命令で、戻れとでも命令されたのだろう。
「おや! 向こうは追撃してこないみたいですねー! ではでは! みんなでこことはおさらばしましょうかー!」
こうしてレイジたち全員は開いたセキュリティの壁を越え、ブラックゾーンから脱出するのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。
きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕!
突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。
そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?)
異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる