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2章 第4部 尋ね人との再会
112話 レイジ、アリスvsアーネスト
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那由他やゆき、マナたちが制御権の破壊に専念している中、この巫女の間では一触即発の死闘が繰り広げられていた。相手はレイジやアリスを凌駕するほどの剣のウデを持つアーネスト・ウェルベリック。対するはかつて黒い双翼の刃として名をはせた、レイジとアリス・レイゼンベルト。両者一歩も引かず真っ向から斬り結び合う。
客観的にこちらは二人がかりなので有利に見えるかもしれない。しかしアーネストは驚くことに、レイジたちの振るう剣戟の嵐をその剣の技量で見事さばききってくるのだ。もはや二人がかりだというのにおかまいなし。単騎で黒い双翼の刃の連携を突破し、追い込んでくるほど。どうやら数のアドバンテージは彼にまったく通用しないらしい。
「さすがウワサだけのことはあるじゃないか、黒い双翼の刃。久々の熱い戦いに、思わず目的を忘れて没頭したいほどだぞ」
アーネストは口元をゆるめながら、本音をもらす。
「おほめいただきどうも。とは言っても、現状抑え込むだけで精一杯なんですけどね」
「フッ、悲観することはない。手負いの身で自分の剣をここまで受けられるとは賞賛ものだ。普通の相手なら各個撃破など容易く、すぐにでも勝敗がついていただろう。だがそれができないのは、キミたちの抜群のコンビネーションがあってこそだ」
事実レイジとアリスは連戦による消耗やデュエルアバターの破損部分のせいで、本来の力を出し切れていない。特にアリスの場合左腕が思うように動かせないため、どうしても攻撃のキレが落ち、隙が応じてしまうのが現状。ゆえにレイジが彼女の動きに気をつかいつつ、カバーに入っているのだ。このためアーネストが一番倒しやすいアリスをやらせず、二対一の構図を維持できていた。
もちろんアリスの方もレイジが危なくなればすかさずカバーに入る。まさに互いの動きを熟知しているからこその、息の合った抜群のコンビネーション。すでにボロボロだが互いを互いにカバーしあうことで、なんとかアーネストと斬り結ぶことができていた。
「あら、解説に浸るなんてずいぶん余裕じゃない。まだまだ戦いは始まったばかり。ここからどんどん上げていくんだから!」
アリスはアーネストに向けて単独で突撃し、斬りかかった。
重力を加えた超重量の斬撃が、にぶい音を立てながら標的をたたき斬ろうと襲い掛かる。暴虐の剣と天才的技量の剣が三度苛烈にぶつかり合った。そしてアリスは渾身の一撃を繰り出すため、上段から太刀を一気に振りかざそうとする。
「動きのにぶい左腕の状況にも関わらず、単独で攻めてくるとは軽率だぞ、アリス・レイゼンベルト。その剣だとカバー無しでは満足に戦えないというのに」
しかしアーネストはその攻撃直前の隙を見逃さず、刺突を放つ。
今のアリスの斬撃は左腕の破損のせいで、キレが落ちている。そのため攻撃直前や直後の隙が普段よりも大きく、カバー無しでは危険極まりないのだ。そこを完璧にとらえたアーネストの剣閃。例えレイジが防ごうとしても二人が真っ向から向かいあっているせいで、刀を割り込ませるのが遅れ間に合わないだろう。
だが危機的状況のアリスには余裕の笑みが。
「フフフ、一つ忠告しといてあげるわ、アーネスト・ウェルベリック。アタシたち黒い双翼の刃のコンビネーションを、舐めないほうがいいわよ」
「ッ!?」
次の瞬間、不敵に笑うアリスの姿が消える。
なにが起こったのかというと重量アビリティのデタラメな機動力により、アリスが上空へ飛び上がったのだ。
そしてアーネストの瞳に映るのは、さやに刀を納め間合いを詰める、レイジの姿。すでにレイジは抜刀のアビリティの演算を済ませ、いつでも放てる状況。もはやアリスごと斬り伏せる勢いで、斬撃を繰り出そうとしていた。
「そういうことか!?」
「ハァァァァッ!」
鞘から刀身が解き放たれ、死閃の刃が牙を剥く。剣閃は見事アーネストの胴体をとらえ、標的を切断しようと煌めいた。極限までブーストされた斬撃のため直撃すれば、アーネストの防御アビリティの強度を多少なりとも上回れるはず。
金属同士がぶつかる鋭い音と共に、火花が散った。意表を突いた完璧な奇襲であったが、アーネストの神がかった剣さばきによって逸らされてしまう。一応胴体にくらわせたものの浅く、さらに一瞬強度が跳ね上がった鎧のせいで手ごたえをほとんど感じられなかった。
(チッ、外したか……。でも本命はオレじゃなく)
奇襲が失敗に終わってしまったが、レイジはあまり気にしていなかった。
なぜならすでにレイジは役目を果たせたのだ。そう、今の一手はまさに陽動。本命はすでにこの隙を逃さないと動いているのだから。
「いけ! アリス!」
次の瞬間重力アビリティによって流星と化した斬撃が、アーネストをたたき斬った。
「アリス、やったな」
互いにいったん距離を空けるため後方に下がったあと、アリスに声をかける。
アーネストはというとアリスの強襲により斬られ、その破壊力の余波によって後方に吹き飛ばされていったみたいだ。
「ええ、でもあの鉄壁のアビリティは想像以上にやっかいみたいよ」
地面に空いたクレータによって発生していた砂煙が晴れ、そこには立ち上がるアーネストの姿が。どうやらまだ仕留めきれないらしい。
「確かに。こうなると問題はあの鉄壁をどう攻略するかだな」
おそらくアーネストの鉄壁のアビリティは起動している間だけ、強度を上げる代物みたいだ。なので攻撃が鎧に当たる瞬間を見さだめ即座にアビリティを起動し、レイジたちの斬撃をはじいていたということ。見た感じあれは常時型ではなく、瞬間型。ほんのわずかな間だけ、強度を跳ね上がらせることが可能なのだろう。その分防御力の制約により重量が一気に上がりそうなものだが、そこまで使用者に加わる重量は重くなっていない様子。瞬間型なのと、アポルオンのアビリティブーストなどでそこら辺はうまいことやっているみたいだ。結果、動きが少しにぶくなる程度で鉄壁の防御力が得られる、なかなか反則じみたアビリティであった。
「あら、そこは簡単よ。いくら防がれようと、かまわず攻撃をたたき込み続ければいいんだから。そうすればいづれアビリティの演算をする余裕がなくなり、ちゃんと攻撃が通るはずだわ」
頭を悩ますレイジに対し、アリスはあっけからんに答える。
「ようはごり押しってわけか。ははは、オレたちらしいといったららしいな。とはいっても今回の役目は時間稼ぎ。危険なリスクを負ってまで、無理に打って出る必要はないわけだが……」
「でもそれってアタシたちの性に合わないわ。こんなにおいしい得物とやり合う機会をみすみすのがすなんて。レージだってできるなら、あのアーネストを斬り伏せたいでしょ?」
アリスはレイジをのぞき込みながら、すでに返ってくる答えがわかっているかのようにたずねてくる。
彼女はアーネストを倒すことしか考えていないらしい。実際レイジもこれまでの戦いで闘争心に火がついており、戦闘狂のクセがうずいてしかたがなかった。
「まあ、あんなすごい剣の達人が相手なんだから、負かしたくはなるよな。オレたちの剣がどこまでつうじるか試してもみたいし」
「フフフ、じゃあ、決まりね! あの剣と鉄壁の鎧を突破し、アーネストを斬り伏せる。多少の無茶は闘争の醍醐味! 存分に楽しみましょう! アタシたち黒い双翼の刃の闘争劇をね!」
レイジの隣に並び太刀をかまえながら、ウィンクしてくるアリス。
「見事な一撃だった。どうやらキミたちの評価を改めないといけないらしいな。フッ、ゆえにここからは本気で行かせてもらうぞ!」
アーネストはやる気になったのか、さっきよりも闘志を燃やし突撃してくる。
せまりくるアーネストを迎え撃つため、レイジたちも地をけった。
そして両者己が剣を振るって激突。剣閃が乱れ舞う死闘が再開される。先程と同じく双方とも剣で斬り結び合い一歩も引かない状況だが、一つ違うところが。なんと今のレイジたちはわずかながら、アーネストを押しているのだ。その勢いは剣を振るうたびに増しているといっていい。もはや彼の剣技をかいくぐり、鎧に斬撃が次第にたたき込まれていくほど。
それもそのはずさっきまではできるだけ時間を稼ごうとしていたので、全力で仕掛けていなかったのだ。だが今は目前の圧倒的強者であるアーネストを斬り伏せる気満々。もはや時間稼ぎのことを忘れ、被弾などおかまいなしに突っ込んでいた。そう、かつての黒い双翼の刃として、闘争に明け暮れていた日々のように戦いを楽しみながら。
アリスが一撃放った直後、即座にレイジの剣が追撃を。そしてアリスの剣が相手に休む間も与えず再び襲い掛かり、またもやレイジの剣が。この連鎖は止まることなく、レイジたちのずば抜けた連携をもって幾度となく繰り返されているのだ。相手側が止めようとしても、二人が互いの隙をカバーしつつの連撃のため、そう易々と猛攻から抜け出せなかった。
ただこの真っ向からの連撃をアーネストはみずからの神がかった剣さばきと、鉄壁のアビリティにより被害を最小限に抑え込んでいく。しかも攻撃が当たったとしても、どれも彼の剣で逸らされて入っているのが大半。よって彼の防御力を超える一撃は入らず、ほとんどダメージは与えられていないようだ。さらにアーネストは剣で猛攻をさばきながら的確な反撃を入れてくるので、一瞬でも気を抜けばやられるリスクが。
「レージ! 上げていくわよ!」
「おう!」
アリスはレイジに向けて合図を出した後、右側へ飛び引く。
長年の付き合いから彼女のやろうとしている事がわかったため、レイジは左側へと飛び引いた。そして距離を空けたかと思うと、両者再びアーネストへ向けて突撃をかける。アリスは重力アビリティによる高速移動で。レイジも彼女に遅れないよう全速力で。互いに持てる速度を存分に出し切っての挟撃。刀と太刀の剣閃がアーネストを左右から強襲する。
「左右からの同時攻撃か。だが!」
対してアーネストは姿勢を低くしながら最小限の動きでレイジの剣を逸らし、続いてアリスの太刀をさばききった。レイジの刀はそこまで脅威にならないため完全には防がず、少し逸らして鎧で受け止める。あとは並外れた破壊力を誇るアリスの太刀を、全力で対処しにいったようだ。
二人の完璧な挟撃をさばいただけではとどまらず、そこへレイジたちをまとめて薙ぎ払おうとアーネストの剣が。しかしすでに標的はその場におらず、空振りに終わった。
それもそのはずレイジとアリスは攻撃後即座に距離をとり、アーネストの周りを疾走していたのだから。
「これは……」
アーネストがこちらの動きをとらえる前に、レイジとアリスはすかさず動く。
共に速度をフルにし、再び斬撃を。ただ今度は同時ではなくタイミングをずらしてだ。
刀がアーネストを狙い防がれた瞬間、レイジはいったん距離をとりまた別の方向から奇襲をかける。アリスの方もレイジと同じく攻撃後、重力アビリティのデタラメな機動力を生かしてまたたく間にアーネストの死角へ。そして一息入れる間も与えず斬りかかった。
「ほう、スピードを生かした戦法に切り替えたか。黒い双翼の刃のコンビネーションでこれをされれば、さすがにやっかいだな」
アーネストの言う通りレイジたちは攻め方を変えている。真っ向からのごり押しでは彼の剣技のせいで逸らされ、大したダメージを与えられない。ゆえにとったのはスピードのアドバンテージを最大限生かした、全方位からの猛攻。二人がかりで死角を突きながら攻めることで、彼の剣をかいくぐり鎧にもろにダメージをたたき込む作戦だ。
アーネスト自身はデュエルアバターのカスタマイズと鎧によって、スピードが出せない。そのためこちらの動きについてくる事がかなわず、黒い双翼の刃の剣戟から抜け出すことができないのだ。
その猛攻はアーネストを中心に舞うまさに舞踏。レイジとアリスがこれまで鍛え上げてきたコンビネーションから、剣閃が容赦なく踊り狂う。常人からしてみればあまりの連携にもはやなにが起こっているかわからず、次々に斬り刻まれてるようなもの。360度とめどなく繰り出され続ける斬撃の嵐に、反撃することや逃げること叶わず餌食になるほかないだろう。
しかも今回の舞踏は相手がアーネストという圧倒的強者なので、出し惜しみなく全力。
全方位だけでなくアリスの重力アビリティによって、上空からの奇襲も混ぜているのだ。アリスのデタラメな機動によって突如繰り出される、上空からの強力なレイドアタック。さらには疾風迅雷のごとく疾走し放たれるレイジの抜刀。アーネストからしてみれば一切気を抜くことが許されない状況だ。
被弾はしながらもなんとかさばき、被害を最小限に抑えるアーネスト。だが次第にバランスが崩れだし、その天賦のごとき剣技から繰り出される堅牢な防御の陣にほころびが。
そしてとうとう。
「もらったわ! これで終わりよ、アーネスト・ウェルベリック!」
アリスはこれまでの連撃によって生み出されたアーネストの一瞬の隙を見さだめ、上空かから渾身の一撃を。理不尽なまでの暴力の塊がアーネストをとらえ振りそそいだ。
「ッ!? やらせるわけにはいかないぞ!」
決まったと思われた一撃だったが、無理やりバランスを直しギリギリ彼女の太刀を受け止めるアーネスト。振り下ろされた斬撃を、真横へ逸らし被害を抑えることに成功。その強烈な余波に軽く吹き飛ばされるが、足を地につけ踏みとどまる。
そこへ特攻をかけるのは。
「本命はこっちですよ。これで!」
アーネストの態勢が完全に崩れた絶好のタイミングに、レイジは抜刀のアビリティを起動し間合いを詰めた。
「ここで抜刀のアビリティか。しかしその剣技はすでに見切っている! 自分にはきかんぞ!」
「ははは、これまでと同じならそうでしょうね。だけど今回のは一味違いますよ。死閃の剣聖の秘剣、とくとご覧あれ!」
確かに通常時の抜刀なら、この状況であろうともアーネストはしのげていたはず。だが今から放つのは抜刀のアビリティの奥の手。死閃の剣聖と謳われた師匠である恭一の秘技なのだ。
実はこの一瞬のためにあえて叢雲流抜刀陰術を使っていなかったといっていい。そうすることでレイジは大した脅威ではないと思わせ、アリスの方に意識を向かわせる。実際攻撃メインをアリスが受け持ち、レイジは連撃のつなぎやカバーメインの動きをしていたので、なおさらそう思わせることに成功していたという。
結果レイジに追い込まれているにも関わらずアーネストは余裕を見せ、メインアタッカーであるアリスの動きに意識が向いているほど。このチャンスをものにしないレイジではない。
「これまでのと違うだと!? ええいッ!?」
「今頃対処しても遅い! 叢雲流抜刀陰術四の型、死閃絶刀!」
剣のガードを許さず叢雲流抜刀陰術最高威力を誇る暴虐の一撃が、アーネストを一刀のもとに斬り伏せた。
客観的にこちらは二人がかりなので有利に見えるかもしれない。しかしアーネストは驚くことに、レイジたちの振るう剣戟の嵐をその剣の技量で見事さばききってくるのだ。もはや二人がかりだというのにおかまいなし。単騎で黒い双翼の刃の連携を突破し、追い込んでくるほど。どうやら数のアドバンテージは彼にまったく通用しないらしい。
「さすがウワサだけのことはあるじゃないか、黒い双翼の刃。久々の熱い戦いに、思わず目的を忘れて没頭したいほどだぞ」
アーネストは口元をゆるめながら、本音をもらす。
「おほめいただきどうも。とは言っても、現状抑え込むだけで精一杯なんですけどね」
「フッ、悲観することはない。手負いの身で自分の剣をここまで受けられるとは賞賛ものだ。普通の相手なら各個撃破など容易く、すぐにでも勝敗がついていただろう。だがそれができないのは、キミたちの抜群のコンビネーションがあってこそだ」
事実レイジとアリスは連戦による消耗やデュエルアバターの破損部分のせいで、本来の力を出し切れていない。特にアリスの場合左腕が思うように動かせないため、どうしても攻撃のキレが落ち、隙が応じてしまうのが現状。ゆえにレイジが彼女の動きに気をつかいつつ、カバーに入っているのだ。このためアーネストが一番倒しやすいアリスをやらせず、二対一の構図を維持できていた。
もちろんアリスの方もレイジが危なくなればすかさずカバーに入る。まさに互いの動きを熟知しているからこその、息の合った抜群のコンビネーション。すでにボロボロだが互いを互いにカバーしあうことで、なんとかアーネストと斬り結ぶことができていた。
「あら、解説に浸るなんてずいぶん余裕じゃない。まだまだ戦いは始まったばかり。ここからどんどん上げていくんだから!」
アリスはアーネストに向けて単独で突撃し、斬りかかった。
重力を加えた超重量の斬撃が、にぶい音を立てながら標的をたたき斬ろうと襲い掛かる。暴虐の剣と天才的技量の剣が三度苛烈にぶつかり合った。そしてアリスは渾身の一撃を繰り出すため、上段から太刀を一気に振りかざそうとする。
「動きのにぶい左腕の状況にも関わらず、単独で攻めてくるとは軽率だぞ、アリス・レイゼンベルト。その剣だとカバー無しでは満足に戦えないというのに」
しかしアーネストはその攻撃直前の隙を見逃さず、刺突を放つ。
今のアリスの斬撃は左腕の破損のせいで、キレが落ちている。そのため攻撃直前や直後の隙が普段よりも大きく、カバー無しでは危険極まりないのだ。そこを完璧にとらえたアーネストの剣閃。例えレイジが防ごうとしても二人が真っ向から向かいあっているせいで、刀を割り込ませるのが遅れ間に合わないだろう。
だが危機的状況のアリスには余裕の笑みが。
「フフフ、一つ忠告しといてあげるわ、アーネスト・ウェルベリック。アタシたち黒い双翼の刃のコンビネーションを、舐めないほうがいいわよ」
「ッ!?」
次の瞬間、不敵に笑うアリスの姿が消える。
なにが起こったのかというと重量アビリティのデタラメな機動力により、アリスが上空へ飛び上がったのだ。
そしてアーネストの瞳に映るのは、さやに刀を納め間合いを詰める、レイジの姿。すでにレイジは抜刀のアビリティの演算を済ませ、いつでも放てる状況。もはやアリスごと斬り伏せる勢いで、斬撃を繰り出そうとしていた。
「そういうことか!?」
「ハァァァァッ!」
鞘から刀身が解き放たれ、死閃の刃が牙を剥く。剣閃は見事アーネストの胴体をとらえ、標的を切断しようと煌めいた。極限までブーストされた斬撃のため直撃すれば、アーネストの防御アビリティの強度を多少なりとも上回れるはず。
金属同士がぶつかる鋭い音と共に、火花が散った。意表を突いた完璧な奇襲であったが、アーネストの神がかった剣さばきによって逸らされてしまう。一応胴体にくらわせたものの浅く、さらに一瞬強度が跳ね上がった鎧のせいで手ごたえをほとんど感じられなかった。
(チッ、外したか……。でも本命はオレじゃなく)
奇襲が失敗に終わってしまったが、レイジはあまり気にしていなかった。
なぜならすでにレイジは役目を果たせたのだ。そう、今の一手はまさに陽動。本命はすでにこの隙を逃さないと動いているのだから。
「いけ! アリス!」
次の瞬間重力アビリティによって流星と化した斬撃が、アーネストをたたき斬った。
「アリス、やったな」
互いにいったん距離を空けるため後方に下がったあと、アリスに声をかける。
アーネストはというとアリスの強襲により斬られ、その破壊力の余波によって後方に吹き飛ばされていったみたいだ。
「ええ、でもあの鉄壁のアビリティは想像以上にやっかいみたいよ」
地面に空いたクレータによって発生していた砂煙が晴れ、そこには立ち上がるアーネストの姿が。どうやらまだ仕留めきれないらしい。
「確かに。こうなると問題はあの鉄壁をどう攻略するかだな」
おそらくアーネストの鉄壁のアビリティは起動している間だけ、強度を上げる代物みたいだ。なので攻撃が鎧に当たる瞬間を見さだめ即座にアビリティを起動し、レイジたちの斬撃をはじいていたということ。見た感じあれは常時型ではなく、瞬間型。ほんのわずかな間だけ、強度を跳ね上がらせることが可能なのだろう。その分防御力の制約により重量が一気に上がりそうなものだが、そこまで使用者に加わる重量は重くなっていない様子。瞬間型なのと、アポルオンのアビリティブーストなどでそこら辺はうまいことやっているみたいだ。結果、動きが少しにぶくなる程度で鉄壁の防御力が得られる、なかなか反則じみたアビリティであった。
「あら、そこは簡単よ。いくら防がれようと、かまわず攻撃をたたき込み続ければいいんだから。そうすればいづれアビリティの演算をする余裕がなくなり、ちゃんと攻撃が通るはずだわ」
頭を悩ますレイジに対し、アリスはあっけからんに答える。
「ようはごり押しってわけか。ははは、オレたちらしいといったららしいな。とはいっても今回の役目は時間稼ぎ。危険なリスクを負ってまで、無理に打って出る必要はないわけだが……」
「でもそれってアタシたちの性に合わないわ。こんなにおいしい得物とやり合う機会をみすみすのがすなんて。レージだってできるなら、あのアーネストを斬り伏せたいでしょ?」
アリスはレイジをのぞき込みながら、すでに返ってくる答えがわかっているかのようにたずねてくる。
彼女はアーネストを倒すことしか考えていないらしい。実際レイジもこれまでの戦いで闘争心に火がついており、戦闘狂のクセがうずいてしかたがなかった。
「まあ、あんなすごい剣の達人が相手なんだから、負かしたくはなるよな。オレたちの剣がどこまでつうじるか試してもみたいし」
「フフフ、じゃあ、決まりね! あの剣と鉄壁の鎧を突破し、アーネストを斬り伏せる。多少の無茶は闘争の醍醐味! 存分に楽しみましょう! アタシたち黒い双翼の刃の闘争劇をね!」
レイジの隣に並び太刀をかまえながら、ウィンクしてくるアリス。
「見事な一撃だった。どうやらキミたちの評価を改めないといけないらしいな。フッ、ゆえにここからは本気で行かせてもらうぞ!」
アーネストはやる気になったのか、さっきよりも闘志を燃やし突撃してくる。
せまりくるアーネストを迎え撃つため、レイジたちも地をけった。
そして両者己が剣を振るって激突。剣閃が乱れ舞う死闘が再開される。先程と同じく双方とも剣で斬り結び合い一歩も引かない状況だが、一つ違うところが。なんと今のレイジたちはわずかながら、アーネストを押しているのだ。その勢いは剣を振るうたびに増しているといっていい。もはや彼の剣技をかいくぐり、鎧に斬撃が次第にたたき込まれていくほど。
それもそのはずさっきまではできるだけ時間を稼ごうとしていたので、全力で仕掛けていなかったのだ。だが今は目前の圧倒的強者であるアーネストを斬り伏せる気満々。もはや時間稼ぎのことを忘れ、被弾などおかまいなしに突っ込んでいた。そう、かつての黒い双翼の刃として、闘争に明け暮れていた日々のように戦いを楽しみながら。
アリスが一撃放った直後、即座にレイジの剣が追撃を。そしてアリスの剣が相手に休む間も与えず再び襲い掛かり、またもやレイジの剣が。この連鎖は止まることなく、レイジたちのずば抜けた連携をもって幾度となく繰り返されているのだ。相手側が止めようとしても、二人が互いの隙をカバーしつつの連撃のため、そう易々と猛攻から抜け出せなかった。
ただこの真っ向からの連撃をアーネストはみずからの神がかった剣さばきと、鉄壁のアビリティにより被害を最小限に抑え込んでいく。しかも攻撃が当たったとしても、どれも彼の剣で逸らされて入っているのが大半。よって彼の防御力を超える一撃は入らず、ほとんどダメージは与えられていないようだ。さらにアーネストは剣で猛攻をさばきながら的確な反撃を入れてくるので、一瞬でも気を抜けばやられるリスクが。
「レージ! 上げていくわよ!」
「おう!」
アリスはレイジに向けて合図を出した後、右側へ飛び引く。
長年の付き合いから彼女のやろうとしている事がわかったため、レイジは左側へと飛び引いた。そして距離を空けたかと思うと、両者再びアーネストへ向けて突撃をかける。アリスは重力アビリティによる高速移動で。レイジも彼女に遅れないよう全速力で。互いに持てる速度を存分に出し切っての挟撃。刀と太刀の剣閃がアーネストを左右から強襲する。
「左右からの同時攻撃か。だが!」
対してアーネストは姿勢を低くしながら最小限の動きでレイジの剣を逸らし、続いてアリスの太刀をさばききった。レイジの刀はそこまで脅威にならないため完全には防がず、少し逸らして鎧で受け止める。あとは並外れた破壊力を誇るアリスの太刀を、全力で対処しにいったようだ。
二人の完璧な挟撃をさばいただけではとどまらず、そこへレイジたちをまとめて薙ぎ払おうとアーネストの剣が。しかしすでに標的はその場におらず、空振りに終わった。
それもそのはずレイジとアリスは攻撃後即座に距離をとり、アーネストの周りを疾走していたのだから。
「これは……」
アーネストがこちらの動きをとらえる前に、レイジとアリスはすかさず動く。
共に速度をフルにし、再び斬撃を。ただ今度は同時ではなくタイミングをずらしてだ。
刀がアーネストを狙い防がれた瞬間、レイジはいったん距離をとりまた別の方向から奇襲をかける。アリスの方もレイジと同じく攻撃後、重力アビリティのデタラメな機動力を生かしてまたたく間にアーネストの死角へ。そして一息入れる間も与えず斬りかかった。
「ほう、スピードを生かした戦法に切り替えたか。黒い双翼の刃のコンビネーションでこれをされれば、さすがにやっかいだな」
アーネストの言う通りレイジたちは攻め方を変えている。真っ向からのごり押しでは彼の剣技のせいで逸らされ、大したダメージを与えられない。ゆえにとったのはスピードのアドバンテージを最大限生かした、全方位からの猛攻。二人がかりで死角を突きながら攻めることで、彼の剣をかいくぐり鎧にもろにダメージをたたき込む作戦だ。
アーネスト自身はデュエルアバターのカスタマイズと鎧によって、スピードが出せない。そのためこちらの動きについてくる事がかなわず、黒い双翼の刃の剣戟から抜け出すことができないのだ。
その猛攻はアーネストを中心に舞うまさに舞踏。レイジとアリスがこれまで鍛え上げてきたコンビネーションから、剣閃が容赦なく踊り狂う。常人からしてみればあまりの連携にもはやなにが起こっているかわからず、次々に斬り刻まれてるようなもの。360度とめどなく繰り出され続ける斬撃の嵐に、反撃することや逃げること叶わず餌食になるほかないだろう。
しかも今回の舞踏は相手がアーネストという圧倒的強者なので、出し惜しみなく全力。
全方位だけでなくアリスの重力アビリティによって、上空からの奇襲も混ぜているのだ。アリスのデタラメな機動によって突如繰り出される、上空からの強力なレイドアタック。さらには疾風迅雷のごとく疾走し放たれるレイジの抜刀。アーネストからしてみれば一切気を抜くことが許されない状況だ。
被弾はしながらもなんとかさばき、被害を最小限に抑えるアーネスト。だが次第にバランスが崩れだし、その天賦のごとき剣技から繰り出される堅牢な防御の陣にほころびが。
そしてとうとう。
「もらったわ! これで終わりよ、アーネスト・ウェルベリック!」
アリスはこれまでの連撃によって生み出されたアーネストの一瞬の隙を見さだめ、上空かから渾身の一撃を。理不尽なまでの暴力の塊がアーネストをとらえ振りそそいだ。
「ッ!? やらせるわけにはいかないぞ!」
決まったと思われた一撃だったが、無理やりバランスを直しギリギリ彼女の太刀を受け止めるアーネスト。振り下ろされた斬撃を、真横へ逸らし被害を抑えることに成功。その強烈な余波に軽く吹き飛ばされるが、足を地につけ踏みとどまる。
そこへ特攻をかけるのは。
「本命はこっちですよ。これで!」
アーネストの態勢が完全に崩れた絶好のタイミングに、レイジは抜刀のアビリティを起動し間合いを詰めた。
「ここで抜刀のアビリティか。しかしその剣技はすでに見切っている! 自分にはきかんぞ!」
「ははは、これまでと同じならそうでしょうね。だけど今回のは一味違いますよ。死閃の剣聖の秘剣、とくとご覧あれ!」
確かに通常時の抜刀なら、この状況であろうともアーネストはしのげていたはず。だが今から放つのは抜刀のアビリティの奥の手。死閃の剣聖と謳われた師匠である恭一の秘技なのだ。
実はこの一瞬のためにあえて叢雲流抜刀陰術を使っていなかったといっていい。そうすることでレイジは大した脅威ではないと思わせ、アリスの方に意識を向かわせる。実際攻撃メインをアリスが受け持ち、レイジは連撃のつなぎやカバーメインの動きをしていたので、なおさらそう思わせることに成功していたという。
結果レイジに追い込まれているにも関わらずアーネストは余裕を見せ、メインアタッカーであるアリスの動きに意識が向いているほど。このチャンスをものにしないレイジではない。
「これまでのと違うだと!? ええいッ!?」
「今頃対処しても遅い! 叢雲流抜刀陰術四の型、死閃絶刀!」
剣のガードを許さず叢雲流抜刀陰術最高威力を誇る暴虐の一撃が、アーネストを一刀のもとに斬り伏せた。
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