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3章 第2部 姫の休日
128話 幼馴染の二人
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結月と別れレイジたちは人通りが多いメイン通りから、落ち着いて話ができる広場の方へ。そこはいろとりどりの花や木々が植えられ、緑あふれる場所。大きな池もあり、あたりはすずしげな風が吹き抜けている。もはや散歩などするのにはもってこいの場所といっていいだろう。そして現在は池に沿ったゆったりとした道を、二人でのんびりと歩いていた。
初めは結月のお節介に対し、恨めしそうにしていたカノン。だがこうなってはしかたないと素直に彼女の好意を受け取り、今はレイジと二人っきりの時間を楽しんでくれていた。
「えへへ、それにしてもレージくんと、まさかこうして外の世界を歩けるだなんて。なんだか夢みたいなんだよ」
ふとカノンはレイジの方を振り返り、にっこりほほえんでくる。
「そういえばカノンって、昔は外の世界にすごくあこがれてたもんな。始めのころなんて、オレに外のことについて質問ぜめだったっけ」
九年前始めてカノンと出会った時、外から来たレイジがさぞめずらしかったのか質問攻めにしてきたのを思い出す。強い好奇心と外へのあこがれのためか、夜遅くまでよくその話で盛り上がったものだ。
「だって同年代の、しかも外から来た子なんだよ。今まで外とのつながりがなかった私にはもう一大事。ついはしゃいじゃったんだよね。――で、レージくんたらそんな無垢な私に、あることないこと言ってからかってたよね。あれは少しひどくないかな? 大きくなって調べてみたら、レージくんの話と食い違ってること結構あったんだから」
ほおをかきながら、テレくさそうに笑うカノン。そしてレイジの上着の袖をつかみ、ムッとしながら詰め寄ってきた。
「ははは、そんなこともあったな。なんでも信じるカノンが面白くてさ。からかわれたとわかった時の反応とか、最高だったし」
当時のことをなつかしみ、つい本音を口にしてしまう。
冗談でさえ素直に信じてくれるカノンゆえ非常にからかいやすく、よく彼女の反応で遊んでいたのだ。これに関しては面白かったのもあるが、カノンの反応がかわいかったのもあったといっていい。
するとカノンはかわいらしくむくれながら抗議を。
「あー、やっぱりさっきの教育とか言ってた話、嘘だったんだね」
「ははは、まあ、その話しは置いといてだ」
しかしレイジは笑って軽く受け流す。那由他の相手をする時に身につけたスルースキルを使ってだ。
「勝手に置いとかれたんだよ!?」
「昔といったら、カノンによく屋敷の外に連れまわされたよな。森の中を探検したり、近くの川辺でピクニックしたりとかさ。お姫様ってこんなにもアウトドア派なのかって、当時は驚かされたよ」
ツッコミを入れてくるカノンを放って、レイジはしみじみと九年前のことを思い出した。
カノンが隔離されていた屋敷はかなり辺境の深い森の中。ゆえに屋敷の周りは自然にあふれかえっており、よくカノンに連れ出され満喫していたのだ。
「えっへへ、さすがにあんな屋敷にずっと閉じ込められてたら、反動が出ちゃうんだよ。あのころはまだ子供だったし、外の世界のあこがれが強く出ちゃったんだろうね。うん、あの冒険の数々はほんと楽しかったなぁ」
するとカノンも腕を組みながらうんうんとうなずき、一緒に小さいころのことをなつかしんでくれた。かけがえのない思い出だと、顔をほころばせながら。
「オレとしては楽しい反面、ひやひやもしてたがな。カノンってああやって歩き回るのに慣れてなかったのか、こけそうになることがしばしば。しかも目を離すと一人でどんどん先へ行こうとするし、ほんと危なっかしかったよ」
普段は身分の高い身ゆえ丁重に扱われ、基本屋敷の庭ぐらいしか外へ行けなかったらしい。だがらレイジが来て特別に外で遊ぶことを許可された時、カノンは森の中で歩き回るのは初めて。なのでレイジとしては森の中を歩くのがたどたどしい彼女を、常に気にかけていたのであった。
「――うぅ、外であんなふうに遊ぶの始めてだったし、はしゃいでしまってたからね。なによりなにがあっても、レージくんがなんとかしてくれるって安心してたから、えへへ」
チラチラとレイジの方に視線を向け、はにかみながら告白してくるカノン。
「――そ、それは光栄だな……」
そんなこと言われると、さすがにテレるしかない。
そしてなにやらドギマギした空気が流れ始め。
「――と、とにかく! 私はあのころから、レージくんと外の世界を歩いてみたいってずっと思ってたの! 屋敷周りだけじゃなく、きみにいろいろ教わった外の世界を。えへへ、だからやりたいことが一つ、叶っちゃったんだよ!」
カノンは手をパンと合わせ、自身の想いをかたった。願いがかなったことがよほどうれしかったのか、幸せそうに目を細めてだ。
「――やりたかったことか……」
レイジがカノンにしてあげたかったこと。九年前の彼女との誓いのほかに望んでいたことが、今のレイジの心にあふれかえってきた。
「カノン、オレにもあの時の誓いのほかに、もう一つ叶えたいことがあったんだ。オレはキミを外の世界に……」
そのことを実感し、思わず伝えようと。しかしレイジの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
なぜならカノンの人差し指がレイジの口元に当てられ、言葉をさえぎってきたのだから。
「――ダメなんだよ……。それは言わないでほしい。もしレージくんにその言葉を言われたら、私はきっと……。だからね……」
目をふせ、どこか悲痛げに頼み込んでくるカノン。
そんな切実な反応をされてしまうと、さすがに押しだまるしかない。
「――あ、ああ……」
「――ありがとう……。ごめんね。なんだか変な空気にしちゃって」
カノンはそっとレイジから離れ、舌を出しながら申しわけなさそうに謝ってくる。
「――せっかくの私の休日なんだもん! もっと楽しい話をしよう! レージく、はっ!? じゃなかった。久遠さん!」
そして彼女は話を再び明るい方向にもっていこうと、レイジの顔をのぞき込みながら笑いかけてくる。しかし名前を呼び間違えているのに気づき、あわてて訂正を。
「なぁ、カノン、その呼び方変えるの、そろそろ止めた方がいいんじゃないか? さっきから頑張ってるみたいだけど、カノンの中ではあまり浸透してないような」
今までこのことについて口を挟まなかったが、そろそろツッコミを入れることに。
「――だってこうして区切りを付けないと、なんだかなつかしくて昔みたいになるんだもん。子供っぽい部分が出てしまうというのかな。それにこうでもしないと、レージくんと距離を置けないし……」
カノンは目を背けながら、やるせない表情を。
そんな距離をおこうとする彼女に耐え切れず、レイジは問うた。
「やっぱ昔の関係に戻ることはできないのか?」
「――だってこれ以上、レージくんを巻き込むわけには……」
胸をぎゅっと押さえ、自身の本心を押し殺すかのよう心苦しげに答えるカノン。
そして彼女は迷いの色を帯びた瞳で、ぽつりとたずねてきた。
「――キミは戻りたいのかな?」
「――ああ、カノンはオレにとって幼馴染の関係だったんだ。短い間だったけどあのころはすごく楽しかった。心が満たされるというか、ずっとそばに居たいと思えるほどに。だからできたら、あのころの関係に戻りたいというのが本音だ。――ははは……、今のオレにはそんなこと言う資格はないんだけどさ」
まっすぐに彼女を見つめ、久遠レイジの心からの本音を告げる。
「――あわわ!? レージくん、本人は分かってないと思うけど、さらっととんでもないことを……!?」
するとカノンは顔を両手でおおい隠し、指の隙間からチラチラとレイジの方を見てくる。
「――ま、まあ、私も同じようなこと想ってたんだけどね……。えへへ、でも、そっか……。キミも同じだったんだね。すごくうれしい……」
そして彼女は心が満たされたようにほほえみ、レイジの言葉を噛みしめた。
「――わかったよ。本当はダメな気がするけど、私もがんばってきたんだもん。えへへ、少しばかりわがまま言ってもいいよね!」
カノンはしばらく想いをめぐらせたあと、心の整理ができたのかふっきれた感じで折れてくれた。おそらく自身の心に素直になったのだろう。もはや普通の女の子のように、屈託のない満面の笑顔を浮かべていた。
「じゃあ」
「うん、もしレージくんがそれを望んでくれるのなら、幼馴染の関係に戻ろう。私はもうキミを避けないから、話したい時はいつでも連絡してきていいんだよ!」
手を差し出し、にっこりほほえみかけてくるカノン。
「そんなの答えは決まってるさ。また。よろしくな、カノン」
「えへへ、うん、よろしくだよ! レージくん!」
レイジとカノンは手を取り合い、心から笑い合う。
これでようやくかつての幼馴染の関係に、戻れたみたいだ。
「ただしアイギスの件は前言った通りだよ。そこまで譲るわけにはいかないから」
仲を取り戻したことで安堵していると、カノンは人差し指を立てながら真剣なおもむきで伝えてきた。
「さすがにそうすべてはうまくいかないか。でも一歩、大きく前進だ。あとはこのままの勢いで押せばなんとか」
「――き、聞いてたのかな……? もう譲らないって、断言してるんだよ。だからここは大人しくあきらめないとだよ」
「ははは、それで引き下がるオレじゃないのはわかってるだろ? これから話す機会はいくらでもあるんだし、ねばって説得だ。オレたち幼馴染なんだし、昔みたいに遠慮なくいかせてもらうさ」
優しくたしなめようとしてくるカノンに対し、レイジは笑い飛ばしながら抱負を告げる。
今までは彼女がレイジを避けていたため、あまり説得の方はできなかった。だがそのわだかまりが薄くなった以上、ここから説得の余地があるはず。結月も言っていたように、押せばなんとかなるかもしれないので、カノンの言うことを素直に聞くわけにはいかないのだ。
「――やっぱ幼馴染の件認めたの、間違いだったかも……。ええい、負けないもん!」
聞く耳を持たないレイジに、頭を抱えだすカノン。だが彼女にも意地があると、かわいらしくガッツポーズをしながら負けじと言い返してきた。
「おっ、オレとやる気か」
「うん、望むところだよ!」
レイジとカノンは共に張り合う。それはまるで小さいころの二人のように、むじゃきにだ。
「ははは」
「えへへ」
そして二人して思わず吹き出してしまった。
なつかしさと、かつての幼馴染の関係に戻れたうれしさがあいまって。
「じゃあ、レージくん、仲直りできたところでそろそろ行こう! 結月をこれ以上待たせるわけにもいかないしね」
「そうだな」
「うん! かつての幼馴染が正式に加わったことで、楽しい楽しい休日の再会だよ!」
腕を上げながら、目を輝かせるカノン。
こうしてレイジたちは結月と合流しに行くのであった。
初めは結月のお節介に対し、恨めしそうにしていたカノン。だがこうなってはしかたないと素直に彼女の好意を受け取り、今はレイジと二人っきりの時間を楽しんでくれていた。
「えへへ、それにしてもレージくんと、まさかこうして外の世界を歩けるだなんて。なんだか夢みたいなんだよ」
ふとカノンはレイジの方を振り返り、にっこりほほえんでくる。
「そういえばカノンって、昔は外の世界にすごくあこがれてたもんな。始めのころなんて、オレに外のことについて質問ぜめだったっけ」
九年前始めてカノンと出会った時、外から来たレイジがさぞめずらしかったのか質問攻めにしてきたのを思い出す。強い好奇心と外へのあこがれのためか、夜遅くまでよくその話で盛り上がったものだ。
「だって同年代の、しかも外から来た子なんだよ。今まで外とのつながりがなかった私にはもう一大事。ついはしゃいじゃったんだよね。――で、レージくんたらそんな無垢な私に、あることないこと言ってからかってたよね。あれは少しひどくないかな? 大きくなって調べてみたら、レージくんの話と食い違ってること結構あったんだから」
ほおをかきながら、テレくさそうに笑うカノン。そしてレイジの上着の袖をつかみ、ムッとしながら詰め寄ってきた。
「ははは、そんなこともあったな。なんでも信じるカノンが面白くてさ。からかわれたとわかった時の反応とか、最高だったし」
当時のことをなつかしみ、つい本音を口にしてしまう。
冗談でさえ素直に信じてくれるカノンゆえ非常にからかいやすく、よく彼女の反応で遊んでいたのだ。これに関しては面白かったのもあるが、カノンの反応がかわいかったのもあったといっていい。
するとカノンはかわいらしくむくれながら抗議を。
「あー、やっぱりさっきの教育とか言ってた話、嘘だったんだね」
「ははは、まあ、その話しは置いといてだ」
しかしレイジは笑って軽く受け流す。那由他の相手をする時に身につけたスルースキルを使ってだ。
「勝手に置いとかれたんだよ!?」
「昔といったら、カノンによく屋敷の外に連れまわされたよな。森の中を探検したり、近くの川辺でピクニックしたりとかさ。お姫様ってこんなにもアウトドア派なのかって、当時は驚かされたよ」
ツッコミを入れてくるカノンを放って、レイジはしみじみと九年前のことを思い出した。
カノンが隔離されていた屋敷はかなり辺境の深い森の中。ゆえに屋敷の周りは自然にあふれかえっており、よくカノンに連れ出され満喫していたのだ。
「えっへへ、さすがにあんな屋敷にずっと閉じ込められてたら、反動が出ちゃうんだよ。あのころはまだ子供だったし、外の世界のあこがれが強く出ちゃったんだろうね。うん、あの冒険の数々はほんと楽しかったなぁ」
するとカノンも腕を組みながらうんうんとうなずき、一緒に小さいころのことをなつかしんでくれた。かけがえのない思い出だと、顔をほころばせながら。
「オレとしては楽しい反面、ひやひやもしてたがな。カノンってああやって歩き回るのに慣れてなかったのか、こけそうになることがしばしば。しかも目を離すと一人でどんどん先へ行こうとするし、ほんと危なっかしかったよ」
普段は身分の高い身ゆえ丁重に扱われ、基本屋敷の庭ぐらいしか外へ行けなかったらしい。だがらレイジが来て特別に外で遊ぶことを許可された時、カノンは森の中で歩き回るのは初めて。なのでレイジとしては森の中を歩くのがたどたどしい彼女を、常に気にかけていたのであった。
「――うぅ、外であんなふうに遊ぶの始めてだったし、はしゃいでしまってたからね。なによりなにがあっても、レージくんがなんとかしてくれるって安心してたから、えへへ」
チラチラとレイジの方に視線を向け、はにかみながら告白してくるカノン。
「――そ、それは光栄だな……」
そんなこと言われると、さすがにテレるしかない。
そしてなにやらドギマギした空気が流れ始め。
「――と、とにかく! 私はあのころから、レージくんと外の世界を歩いてみたいってずっと思ってたの! 屋敷周りだけじゃなく、きみにいろいろ教わった外の世界を。えへへ、だからやりたいことが一つ、叶っちゃったんだよ!」
カノンは手をパンと合わせ、自身の想いをかたった。願いがかなったことがよほどうれしかったのか、幸せそうに目を細めてだ。
「――やりたかったことか……」
レイジがカノンにしてあげたかったこと。九年前の彼女との誓いのほかに望んでいたことが、今のレイジの心にあふれかえってきた。
「カノン、オレにもあの時の誓いのほかに、もう一つ叶えたいことがあったんだ。オレはキミを外の世界に……」
そのことを実感し、思わず伝えようと。しかしレイジの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
なぜならカノンの人差し指がレイジの口元に当てられ、言葉をさえぎってきたのだから。
「――ダメなんだよ……。それは言わないでほしい。もしレージくんにその言葉を言われたら、私はきっと……。だからね……」
目をふせ、どこか悲痛げに頼み込んでくるカノン。
そんな切実な反応をされてしまうと、さすがに押しだまるしかない。
「――あ、ああ……」
「――ありがとう……。ごめんね。なんだか変な空気にしちゃって」
カノンはそっとレイジから離れ、舌を出しながら申しわけなさそうに謝ってくる。
「――せっかくの私の休日なんだもん! もっと楽しい話をしよう! レージく、はっ!? じゃなかった。久遠さん!」
そして彼女は話を再び明るい方向にもっていこうと、レイジの顔をのぞき込みながら笑いかけてくる。しかし名前を呼び間違えているのに気づき、あわてて訂正を。
「なぁ、カノン、その呼び方変えるの、そろそろ止めた方がいいんじゃないか? さっきから頑張ってるみたいだけど、カノンの中ではあまり浸透してないような」
今までこのことについて口を挟まなかったが、そろそろツッコミを入れることに。
「――だってこうして区切りを付けないと、なんだかなつかしくて昔みたいになるんだもん。子供っぽい部分が出てしまうというのかな。それにこうでもしないと、レージくんと距離を置けないし……」
カノンは目を背けながら、やるせない表情を。
そんな距離をおこうとする彼女に耐え切れず、レイジは問うた。
「やっぱ昔の関係に戻ることはできないのか?」
「――だってこれ以上、レージくんを巻き込むわけには……」
胸をぎゅっと押さえ、自身の本心を押し殺すかのよう心苦しげに答えるカノン。
そして彼女は迷いの色を帯びた瞳で、ぽつりとたずねてきた。
「――キミは戻りたいのかな?」
「――ああ、カノンはオレにとって幼馴染の関係だったんだ。短い間だったけどあのころはすごく楽しかった。心が満たされるというか、ずっとそばに居たいと思えるほどに。だからできたら、あのころの関係に戻りたいというのが本音だ。――ははは……、今のオレにはそんなこと言う資格はないんだけどさ」
まっすぐに彼女を見つめ、久遠レイジの心からの本音を告げる。
「――あわわ!? レージくん、本人は分かってないと思うけど、さらっととんでもないことを……!?」
するとカノンは顔を両手でおおい隠し、指の隙間からチラチラとレイジの方を見てくる。
「――ま、まあ、私も同じようなこと想ってたんだけどね……。えへへ、でも、そっか……。キミも同じだったんだね。すごくうれしい……」
そして彼女は心が満たされたようにほほえみ、レイジの言葉を噛みしめた。
「――わかったよ。本当はダメな気がするけど、私もがんばってきたんだもん。えへへ、少しばかりわがまま言ってもいいよね!」
カノンはしばらく想いをめぐらせたあと、心の整理ができたのかふっきれた感じで折れてくれた。おそらく自身の心に素直になったのだろう。もはや普通の女の子のように、屈託のない満面の笑顔を浮かべていた。
「じゃあ」
「うん、もしレージくんがそれを望んでくれるのなら、幼馴染の関係に戻ろう。私はもうキミを避けないから、話したい時はいつでも連絡してきていいんだよ!」
手を差し出し、にっこりほほえみかけてくるカノン。
「そんなの答えは決まってるさ。また。よろしくな、カノン」
「えへへ、うん、よろしくだよ! レージくん!」
レイジとカノンは手を取り合い、心から笑い合う。
これでようやくかつての幼馴染の関係に、戻れたみたいだ。
「ただしアイギスの件は前言った通りだよ。そこまで譲るわけにはいかないから」
仲を取り戻したことで安堵していると、カノンは人差し指を立てながら真剣なおもむきで伝えてきた。
「さすがにそうすべてはうまくいかないか。でも一歩、大きく前進だ。あとはこのままの勢いで押せばなんとか」
「――き、聞いてたのかな……? もう譲らないって、断言してるんだよ。だからここは大人しくあきらめないとだよ」
「ははは、それで引き下がるオレじゃないのはわかってるだろ? これから話す機会はいくらでもあるんだし、ねばって説得だ。オレたち幼馴染なんだし、昔みたいに遠慮なくいかせてもらうさ」
優しくたしなめようとしてくるカノンに対し、レイジは笑い飛ばしながら抱負を告げる。
今までは彼女がレイジを避けていたため、あまり説得の方はできなかった。だがそのわだかまりが薄くなった以上、ここから説得の余地があるはず。結月も言っていたように、押せばなんとかなるかもしれないので、カノンの言うことを素直に聞くわけにはいかないのだ。
「――やっぱ幼馴染の件認めたの、間違いだったかも……。ええい、負けないもん!」
聞く耳を持たないレイジに、頭を抱えだすカノン。だが彼女にも意地があると、かわいらしくガッツポーズをしながら負けじと言い返してきた。
「おっ、オレとやる気か」
「うん、望むところだよ!」
レイジとカノンは共に張り合う。それはまるで小さいころの二人のように、むじゃきにだ。
「ははは」
「えへへ」
そして二人して思わず吹き出してしまった。
なつかしさと、かつての幼馴染の関係に戻れたうれしさがあいまって。
「じゃあ、レージくん、仲直りできたところでそろそろ行こう! 結月をこれ以上待たせるわけにもいかないしね」
「そうだな」
「うん! かつての幼馴染が正式に加わったことで、楽しい楽しい休日の再会だよ!」
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