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3章 第3部 鳥かごの中の少女
138話 かつての仲間
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「トオルセンパイ、こっちすよ」
待ち合わせの喫茶店内に入ると、エリー・バーナードが席から身を乗りだし声をかけてきた。
ここは街中にひっそりたたずむ、こじんまりとした喫茶店。中は割と年期が感じられ、さらにシックな内装から落ち着いたいい雰囲気をかもし出している。この喫茶店はエリーのいきつけらしく、話をするならここがいいと勧められたのである。時間帯はもうすぐ昼になるのだが、客は透たちのほかにいない。なんでもここは知る人ぞ知る隠れ家的な場所らしく、基本中はガラガラ。込み入った話をするのには、もってこいの場所とのこと。
「やあ、エリー、今日は急に呼び出してわるかったね」
エリーにあいさつをし、向かいの席へと座る。
彼女はというとなにやら注文して食事をしていたらしく、テーブルにはパンケーキやパフェなどが置かれていた。
「トオルセンパイの呼び出しでしたら、昔のよしみですぐにでも駆けつけるっすよ。フフ、それが金になる話なら、なおさらっす」
「はは、相変わらずだね、エリー。どうだい最近のヴァーミリオンの方は?」
エリーの気持ちのいい返事と最後の不敵な笑みでの主張に、思わず笑ってしまう。それから世間話がてら、彼女の所属するエデン協会ヴァーミリオンについてたずねてみた。
「うちっすか? 今やアビスエリアの解放の件で仕事がわんさか来てますから、いい稼ぎ時っすよ! まさに入れ食い状態。懐が潤って笑みが止まらないっす!」
手で銭マークをつくり、ニヤニヤと笑うエリー。
「楽しそうでなによりだ。それにしてもすっかりヴァーミリオンに馴染んでるね。今や、あそこの運営は、エリーが担当してるんだっけ」
「社長のアキラは脳筋で、運営なんて到底できないっすからね。ヴァーミリオンは行く当てがない自分を迎え入れ面倒みてくれた組織なんで、恩返しみたいなもんっすよ。――フフ、まあ、そんな義務感より、ヴァーミリオンの一員としてやりたいからやってるの方が大きいっすけどね」
エリーはしみじみと少しテレくさそうに本音をかたる。
どうやら彼女は彼女で、今の日々に大変満足しているようだ。
「お互い、いい人のところに拾われてよかったね」
そんなどこか満ち足りた様子の彼女を見ていると、思わず感慨深い気持ちがこみあげてくる。
「ほんとっす。自分たちは第三世代計画の被験者。身分とかなにひとつ持ってない怪しい自分たちに、まさかこんな居場所ができるなんて施設時代は思ってもいなかったすよ」
エリーの言う通り透たちはエデン財団の極秘プロジェクト、第三世代計画の被験者。ゆえに本来ならこんな自由な日々を過ごすことなどできず、隔離され続ける存在だったはずなのだ。
「確かに。あのころは施設から出れず、いろいろな実験やエデンでの戦闘データ集めばかり。自由なんて、ほど遠い言葉だったからね」
「まあ、自分はあのころはあのころで、割と気に入ってたっすけどね。トオルセンパイとサキの後ろをいつもついて行って、面倒見てもらえました。ほかにも隊長やマリアお姉ちゃん、あと頭のネジが外れかけてる戦闘狂のあいつとかもいましたし」
エリーはなつかしみながらも、楽しそうに当時のことを口にする。
透自身エデン財団の実験に付き合わされるのは大変だったが、同じ第三世代計画の被験者である仲間がいた分、そこまで地獄のような日々ではなかったといっていい。よって思い起こせば、自然に笑みを浮かべることも多々あるのだ。
「懐かしいね。みんなあれからどうしてるのかな……」
遠い目で、ぽつりとつぶやく。
エデン財団の研究施設から脱走を試みて以来、みなバラバラになってしまっているのである。自由になった者、再びつかまった者、中には脱走を選ばずあそこに残ることを決めた者も。妹である咲のことは心配だが、かつての他の仲間のことも気がかりであった。
するとエリーが言いにくそうに、あるメンバーのことを伝えてきた。
「――トオルセンパイ。一つ悲報があるっす。実は隊長なんすけど、今レジスタンスにいるらしいっす。少し前に自分に会いに来て、勧誘されました。共にアポルオンをつぶそうって……」
「――そうか……、レジスタンスに……。正義感が強かったあの人らしいね。これでレジスタンスとの戦い、さらに
一筋縄ではいかなくなったわけか……」
どうやら自分たちの頼れる隊長格だった少年は、レジスタンスの道に向かったらしい。
その件についてはあまり驚きはなかった。というのも正義感の強い彼なら、今の世界を正すためそうするだろうという予感があったのだ。
「隊長、化け物じみた強さを持ってたっすからね……」
そう、彼は圧倒的な強さを誇っていたといっていい。あれこそ第三世代の持つにふさわしい力だというほどに。その彼がレジスタンスにいるということは、敵対する透たちにとって大きな壁となり立ちはだかることになるのだろう。
「――ところで自分を呼び出した理由は、世間話だけじゃないっすよね?」
彼のことを考えていると、ふとエリーが鋭いまなざしで問うてくる。
「ああ、そうだったね。実は執行機関からの推薦により、アポルオン序列二位サージェンフォード家次期当主のもとで戦うことになったんだ」
「うわー、それはまた面倒なことに。どうすんすか? アポルオン側に身を置くということは、へたすると第三世代計画の被験者だってばれるんじゃ?」
あまりの内容に、透の身を案じてくれるエリー。
ルナたちといるということは、アポルオンと深く関わることになるのだ。となれば透の経歴が、向こうに伝わってしまってもおかしくはなかった。
「かもしれない。でもボクとしてはチャンスでもあると思うんだ。外からだといくら調べてもエデン財団の内部情報は手に入らなかったけど、内部からならあるいは……。そうすればいづれ……」
妹の咲という目的を胸に、覚悟を告げる。
実際リスクはある。だがエデン財団に近づくには、今の状況を利用するしかないのだ。
いくら軍人であろうとも、アポルオンと密接な関係にあるエデン財団の情報をつかむことは難しい。調べようにも、当てになるものがまったくないのだから。
「サキのあのあとの行方が、わかるかもしれないってわけっすね」
「今もエデン財団のどこかにいるはず。まずは咲の現状を知っておかないと、助け出そうにもなにもできないからね」
「トオルセンパイはどんな犠牲を払おうとも、サキを助け出すつもりなんすよね?」
「ああ、ボクがどうなろうと、妹の咲だけは自由にしてみせる。そのためにずっと力を磨いてきたんだ。今度こそ大切なものを守れる力を、ただひたすらに……。それがボクの唯一の願いだ。あの時咲に助けてもらった時からずっと……」
エリーの真剣な問いに、手をにぎりしめながら迷いのない本心を告白する。
すべては咲を自由にするために、これまで力を磨き続けてきたのだ。今度こそ彼女を失わないための守る力を。なのでとっくに覚悟は決まっており、相手がどれほど強大であろうと戦うつもりであった。
「そういうわけで、ボクはこれから危ない橋を渡ることになる。結果、もしヘマをして同じ被験者であるエリーに厄介ごとが降りかかるかも。だから常に最小限の警戒だけはしといてほしいんだ」
「了解っす。さすがに連れ戻されるのはごめんなので、警戒は怠らないようにしとくっすよ」
エリーは苦笑しながら、肩をすくめる。
そんな彼女に、透は頭を下げて心から謝った。
「――ごめん。せっかく手に入れた平穏を、脅かすことになるかもしれなくて……」
「こっちのことは気にしないでほしいっす。トオルセンパイには被験者時代からずっとお世話になりっぱなしでしたから、ここらあたりで恩を返すのも悪くない。ということで手を貸すっすよ。力が必要な時はいつでも呼んでください」
ポンポンと透の肩を軽くたたきながら、あっけからんに答えるエリー。そして自身の胸に手を当て、頼もしい笑みを浮かべてくれた。
「いや、エリーをこれ以上危険な目に合わすわけには……」
「相手はあのエデン財団。まさかトオルセンパイ一人でどうこうできるとお思いっすか? サキを助け出すために手段は選んでられないはず。なら自分ほどの協力者を、使わない手はないっすよね? それにサキは自分の親友でもあるんすよ。助けたい気持ちは、トオルセンパイと同じなんすから」
エリーは透を真っ直ぐに見つめ、正論でさとしてきた。最後には咲に対する想いも一緒に。
そう、エリーと咲は同い年なこともあって、非常に仲がよかったのである。なので透の力になりたい以前に、彼女自身も咲をエデン財団から救いだしたいのだろう。さすがにここまで言われると、こちらが折れるしかないようだ。
実際彼女が手を貸してくれるのは、非常にありがたい。被験者時代、エデンで透と同じ数々の修羅場をくぐり抜けてきたエージェント。そのデュエルアバターさばきは頼りになること間違いなしだろう。
「――エリー……。わかった。なにかあればその好意に、甘えさせてもらうよ」
「任せてほしいっす! フフ、ただその分の報酬はいただくっすけどね!」
エリーは自信満々に受けおう。だがそのあとに手で銭マークを作りながらウィンクして、抜け目のない主張を。
「はは、そこはただで働いてくれないんだ?」
「もちろんっすよ。稼げるうちに稼いでおかないと、将来なにがあるかわからないっすからね! お金は自分を裏切らない! それが自分の心情っすから! ――ではトオルセンパイさらばっす。これから非常に金になるお得意様の依頼があるんで、ここらあたりで切り上げさせてもらうっすよ!」
エリーは手をぐっとにぎり、熱く力説してくる。そして立ち上がり、別れの言葉を。もうかる依頼内容のためか、かなり上機嫌そうであった。
「今日はありがとう。またこちらから連絡させてもらうよ」
「仕事の依頼なら、心待ちっすよ! あ、そうそう、今日はご馳走様っす! では! トオルセンパイ、ご武運を!」
立ち去ろうとするエリーだがふとなにかを思い出し、透の方へ伝票を。
どうやらおごってもらう気満々らしい。
「はは、相変わらず抜け目ないね、エリーは。――うん?」
さぞ自然に伝票を渡して店を出るエリーに、感心の笑みを浮かべる。
すると突然着信が。確認してみると相手はルナからであった。
「ルナ、どうしたんだい?」
「透、今日の昼、予定はあいてますか? 一つ頼みごとがあるのですが」
どうやら透も透で忙しくなりそうだ。
待ち合わせの喫茶店内に入ると、エリー・バーナードが席から身を乗りだし声をかけてきた。
ここは街中にひっそりたたずむ、こじんまりとした喫茶店。中は割と年期が感じられ、さらにシックな内装から落ち着いたいい雰囲気をかもし出している。この喫茶店はエリーのいきつけらしく、話をするならここがいいと勧められたのである。時間帯はもうすぐ昼になるのだが、客は透たちのほかにいない。なんでもここは知る人ぞ知る隠れ家的な場所らしく、基本中はガラガラ。込み入った話をするのには、もってこいの場所とのこと。
「やあ、エリー、今日は急に呼び出してわるかったね」
エリーにあいさつをし、向かいの席へと座る。
彼女はというとなにやら注文して食事をしていたらしく、テーブルにはパンケーキやパフェなどが置かれていた。
「トオルセンパイの呼び出しでしたら、昔のよしみですぐにでも駆けつけるっすよ。フフ、それが金になる話なら、なおさらっす」
「はは、相変わらずだね、エリー。どうだい最近のヴァーミリオンの方は?」
エリーの気持ちのいい返事と最後の不敵な笑みでの主張に、思わず笑ってしまう。それから世間話がてら、彼女の所属するエデン協会ヴァーミリオンについてたずねてみた。
「うちっすか? 今やアビスエリアの解放の件で仕事がわんさか来てますから、いい稼ぎ時っすよ! まさに入れ食い状態。懐が潤って笑みが止まらないっす!」
手で銭マークをつくり、ニヤニヤと笑うエリー。
「楽しそうでなによりだ。それにしてもすっかりヴァーミリオンに馴染んでるね。今や、あそこの運営は、エリーが担当してるんだっけ」
「社長のアキラは脳筋で、運営なんて到底できないっすからね。ヴァーミリオンは行く当てがない自分を迎え入れ面倒みてくれた組織なんで、恩返しみたいなもんっすよ。――フフ、まあ、そんな義務感より、ヴァーミリオンの一員としてやりたいからやってるの方が大きいっすけどね」
エリーはしみじみと少しテレくさそうに本音をかたる。
どうやら彼女は彼女で、今の日々に大変満足しているようだ。
「お互い、いい人のところに拾われてよかったね」
そんなどこか満ち足りた様子の彼女を見ていると、思わず感慨深い気持ちがこみあげてくる。
「ほんとっす。自分たちは第三世代計画の被験者。身分とかなにひとつ持ってない怪しい自分たちに、まさかこんな居場所ができるなんて施設時代は思ってもいなかったすよ」
エリーの言う通り透たちはエデン財団の極秘プロジェクト、第三世代計画の被験者。ゆえに本来ならこんな自由な日々を過ごすことなどできず、隔離され続ける存在だったはずなのだ。
「確かに。あのころは施設から出れず、いろいろな実験やエデンでの戦闘データ集めばかり。自由なんて、ほど遠い言葉だったからね」
「まあ、自分はあのころはあのころで、割と気に入ってたっすけどね。トオルセンパイとサキの後ろをいつもついて行って、面倒見てもらえました。ほかにも隊長やマリアお姉ちゃん、あと頭のネジが外れかけてる戦闘狂のあいつとかもいましたし」
エリーはなつかしみながらも、楽しそうに当時のことを口にする。
透自身エデン財団の実験に付き合わされるのは大変だったが、同じ第三世代計画の被験者である仲間がいた分、そこまで地獄のような日々ではなかったといっていい。よって思い起こせば、自然に笑みを浮かべることも多々あるのだ。
「懐かしいね。みんなあれからどうしてるのかな……」
遠い目で、ぽつりとつぶやく。
エデン財団の研究施設から脱走を試みて以来、みなバラバラになってしまっているのである。自由になった者、再びつかまった者、中には脱走を選ばずあそこに残ることを決めた者も。妹である咲のことは心配だが、かつての他の仲間のことも気がかりであった。
するとエリーが言いにくそうに、あるメンバーのことを伝えてきた。
「――トオルセンパイ。一つ悲報があるっす。実は隊長なんすけど、今レジスタンスにいるらしいっす。少し前に自分に会いに来て、勧誘されました。共にアポルオンをつぶそうって……」
「――そうか……、レジスタンスに……。正義感が強かったあの人らしいね。これでレジスタンスとの戦い、さらに
一筋縄ではいかなくなったわけか……」
どうやら自分たちの頼れる隊長格だった少年は、レジスタンスの道に向かったらしい。
その件についてはあまり驚きはなかった。というのも正義感の強い彼なら、今の世界を正すためそうするだろうという予感があったのだ。
「隊長、化け物じみた強さを持ってたっすからね……」
そう、彼は圧倒的な強さを誇っていたといっていい。あれこそ第三世代の持つにふさわしい力だというほどに。その彼がレジスタンスにいるということは、敵対する透たちにとって大きな壁となり立ちはだかることになるのだろう。
「――ところで自分を呼び出した理由は、世間話だけじゃないっすよね?」
彼のことを考えていると、ふとエリーが鋭いまなざしで問うてくる。
「ああ、そうだったね。実は執行機関からの推薦により、アポルオン序列二位サージェンフォード家次期当主のもとで戦うことになったんだ」
「うわー、それはまた面倒なことに。どうすんすか? アポルオン側に身を置くということは、へたすると第三世代計画の被験者だってばれるんじゃ?」
あまりの内容に、透の身を案じてくれるエリー。
ルナたちといるということは、アポルオンと深く関わることになるのだ。となれば透の経歴が、向こうに伝わってしまってもおかしくはなかった。
「かもしれない。でもボクとしてはチャンスでもあると思うんだ。外からだといくら調べてもエデン財団の内部情報は手に入らなかったけど、内部からならあるいは……。そうすればいづれ……」
妹の咲という目的を胸に、覚悟を告げる。
実際リスクはある。だがエデン財団に近づくには、今の状況を利用するしかないのだ。
いくら軍人であろうとも、アポルオンと密接な関係にあるエデン財団の情報をつかむことは難しい。調べようにも、当てになるものがまったくないのだから。
「サキのあのあとの行方が、わかるかもしれないってわけっすね」
「今もエデン財団のどこかにいるはず。まずは咲の現状を知っておかないと、助け出そうにもなにもできないからね」
「トオルセンパイはどんな犠牲を払おうとも、サキを助け出すつもりなんすよね?」
「ああ、ボクがどうなろうと、妹の咲だけは自由にしてみせる。そのためにずっと力を磨いてきたんだ。今度こそ大切なものを守れる力を、ただひたすらに……。それがボクの唯一の願いだ。あの時咲に助けてもらった時からずっと……」
エリーの真剣な問いに、手をにぎりしめながら迷いのない本心を告白する。
すべては咲を自由にするために、これまで力を磨き続けてきたのだ。今度こそ彼女を失わないための守る力を。なのでとっくに覚悟は決まっており、相手がどれほど強大であろうと戦うつもりであった。
「そういうわけで、ボクはこれから危ない橋を渡ることになる。結果、もしヘマをして同じ被験者であるエリーに厄介ごとが降りかかるかも。だから常に最小限の警戒だけはしといてほしいんだ」
「了解っす。さすがに連れ戻されるのはごめんなので、警戒は怠らないようにしとくっすよ」
エリーは苦笑しながら、肩をすくめる。
そんな彼女に、透は頭を下げて心から謝った。
「――ごめん。せっかく手に入れた平穏を、脅かすことになるかもしれなくて……」
「こっちのことは気にしないでほしいっす。トオルセンパイには被験者時代からずっとお世話になりっぱなしでしたから、ここらあたりで恩を返すのも悪くない。ということで手を貸すっすよ。力が必要な時はいつでも呼んでください」
ポンポンと透の肩を軽くたたきながら、あっけからんに答えるエリー。そして自身の胸に手を当て、頼もしい笑みを浮かべてくれた。
「いや、エリーをこれ以上危険な目に合わすわけには……」
「相手はあのエデン財団。まさかトオルセンパイ一人でどうこうできるとお思いっすか? サキを助け出すために手段は選んでられないはず。なら自分ほどの協力者を、使わない手はないっすよね? それにサキは自分の親友でもあるんすよ。助けたい気持ちは、トオルセンパイと同じなんすから」
エリーは透を真っ直ぐに見つめ、正論でさとしてきた。最後には咲に対する想いも一緒に。
そう、エリーと咲は同い年なこともあって、非常に仲がよかったのである。なので透の力になりたい以前に、彼女自身も咲をエデン財団から救いだしたいのだろう。さすがにここまで言われると、こちらが折れるしかないようだ。
実際彼女が手を貸してくれるのは、非常にありがたい。被験者時代、エデンで透と同じ数々の修羅場をくぐり抜けてきたエージェント。そのデュエルアバターさばきは頼りになること間違いなしだろう。
「――エリー……。わかった。なにかあればその好意に、甘えさせてもらうよ」
「任せてほしいっす! フフ、ただその分の報酬はいただくっすけどね!」
エリーは自信満々に受けおう。だがそのあとに手で銭マークを作りながらウィンクして、抜け目のない主張を。
「はは、そこはただで働いてくれないんだ?」
「もちろんっすよ。稼げるうちに稼いでおかないと、将来なにがあるかわからないっすからね! お金は自分を裏切らない! それが自分の心情っすから! ――ではトオルセンパイさらばっす。これから非常に金になるお得意様の依頼があるんで、ここらあたりで切り上げさせてもらうっすよ!」
エリーは手をぐっとにぎり、熱く力説してくる。そして立ち上がり、別れの言葉を。もうかる依頼内容のためか、かなり上機嫌そうであった。
「今日はありがとう。またこちらから連絡させてもらうよ」
「仕事の依頼なら、心待ちっすよ! あ、そうそう、今日はご馳走様っす! では! トオルセンパイ、ご武運を!」
立ち去ろうとするエリーだがふとなにかを思い出し、透の方へ伝票を。
どうやらおごってもらう気満々らしい。
「はは、相変わらず抜け目ないね、エリーは。――うん?」
さぞ自然に伝票を渡して店を出るエリーに、感心の笑みを浮かべる。
すると突然着信が。確認してみると相手はルナからであった。
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