電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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3章 第3部 鳥かごの中の少女

142話 学園案内

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 レイジたちは生徒会室でお茶会をしたあと、ルナに学園案内をしてもらっていた。
 それは教室や施設を見て回ったり、部活をしている生徒たちの見学だったり。休日だというのに学園内はわりと生徒がいてにぎわっており、なんだか本当に十六夜学園に通っている気分にさせられたといっていい。そんな中校舎を一通り案内してもらい、現在は学園内の緑豊かな広場を歩いている最中。広場内は庭師などを雇っているのだろうか。見事な木々や色とりどりの花が植えられた花壇かだんが並んでおり、心がとても安らぐといっていい。天気がいい日にベンチに座ってひなたぼっこでもしたら、さぞ気持ちのいいことだろう。

「レイジくん、ほのかがよく世話になってるそうだね。彼女の先輩としてお礼を言わせてくれ」

 四人で雑談しながら歩いていると、とおるがふとお礼を言ってきた。
 彼の言っているのは軍人である、倉敷くらしきほのか准尉のことなのだろう。そういえばほのかがよく透の名前を口にしていたことを思い出す。

「いや、気にしなくていいさ。ほのかにはこっらもいろいろ助けてもらってるし、ギブアンドテイクってやつだ。それよりほのかが言ってた頼りになる先輩って、透のことだったんだな。なんでもすごいデュエルアバターのウデとか。ははは、一度手合わせ願いたいものだ」
「はは、気が向いたらね。それより、うん、なんというかキミにはシンパシーのようなものを感じてしまうね」

 レイジの不敵な笑みでの闘争の誘いを、透は笑いながら軽く受け流す。そしてレイジを意味ありげに見つめ、なにやら納得を。

「あー、わかる気がする……。なんかお互い、いろいろ背負ってそうな感じが……」
「まさにそれだね。レイジくんはボクと同じぐらい、いや、それ以上のモノをかかえてる気がする。その目はなにか大切なモノのために戦う、信念を持った目だ。ボク以上に……」

 透はレイジの目をみすえ、畏怖の念を。

「――いや、それはないな。きっと透の方が上だよ。オレみたいに迷いを抱えた信念と違って、透のはすごくまっすぐなんだからさ」

 そう、レイジは今だ迷っている真っ最中。己が剣すらまともにさだまっていない状況なのだ。カノンとのちかいかアリスとの誓い。守るための力か、破壊のための力か。そんなあいまいな自分が、透より上とは考えられなかった。
 それにお互い似ているからこそわかるのだが、透は迷いのない目をしている。ただひとつの目的を胸にきざみ、その信念をつらぬき通しているのだろう。もはやそのまっすぐすぎるあり方を、うらやましく思ってしまうほどだ。

「そうなのかい? まあ、ボクたち似た者同士みたいだから、これから仲良くやっていこう」
「そうだな。なんだか話が合いそうな気がするし。よろしく」

 透とレイジは交友を深め合いながらも、握手あくしゅを交わす。

「レージくんと透くんが見つめ合っていると、なんだか怪しい感じがするね」

 するとさっきまでルナと楽しそうにおしゃべりしていたカノンが、ツッコミを入れてきた。なにやらほおを染め、意味ありげにだ。

「おい、男同士が友情を深め合っている時に、なんてこと言いやがる」
「えっへへ、ごめんなんだよ。ところで二人とも、すっかり仲良くなったんだね」
「ああ、お互い似てるところがあるから、気が合いそうでさ」
「似てるか。うん、確かにそうかも。透くんもレージくんと同じで、なんだかすごく鈍感どんかんそうだもん」

 カノンはアゴに指を当てながら、レイジと透を見比べる。そしてクスクスとおかしそうに笑った。

「ふふ、カノン、それ当たっていると思いますよ。先日もそれですごくやきもきしたんですから」

 するとルナがよく言ってくれましたと、腕を組みながらうんうんとうなずく。

「やっぱりかー。お互い苦労しそうだねー、ルナ」
「ふふ、本当ですね、カノン」

 肩をすくめながら、笑いあうカノンとルナ。
 対してレイジと透はというと、よくわからず首をひねるしかなかった。

「なあ、なあ、あのルナさまと一緒にいる子って」

 そんなおだやかな時間を過ごしていると、周りからざわざわと生徒の声が。

「うわ、ほんとだ。駆けつけてきたら、すごい美少女が」
「キャー、だれだれ、あの人! すごくきれい! モデルさんかな?」

 視線を向けると、少し離れたところにいつの間にか多くの生徒が。
 ルナに学園を案内してもらっている時もちらほら人だかりができていたが、今回はそれ以上。おそらく学園中にすごい人が来ているとうわさが広がり、みなが見物しに来たのだろう。
 ただカノンに対する興味深々の言葉以外にも、気になる会話内容が。

「ルナ様たちと一緒にいる男子学生は誰だ? うらやましい!」
「我らルナ様親衛隊を差し置いて、ルナ様に近づくとは許せん!」
「大スクープ、大スクープ! カメラ、カメラ! にひひ」

 男子生徒たちの嫉妬しっとの言葉と視線の数々。さらにはあの第二新聞部、水坂ゆら先輩の姿まで。

「うわ!? 気付いたら大事になってやがる!?」
「――はは……、本当だね。なんだか殺気だった視線も混じって居心地が……。――はぁ……、これは次学園に行った時いろいろ聞かれそうだよ」
「透、ドンマイ」

 がっくりうなだれる透の肩に手を置き、エールを。
 レイジは十六夜いざよい学園に通わないので問題ないが、透は普通にここに通って授業も受けているらしい。なので後日、ルナたちとの関係など質問攻めに合うのは明白。同情せずにはいられなかった。

「あわわ!? すごい人だかりだね!? これってなんの集まりなのかな?」
「ふふ、みなさんカノン目当てでいらしたのでしょう」
「そうなんだ。じゃあ……。みんなー、よろしくなんだよぉ!」

 カノンは見物人に向かって、満面の笑顔で大きく手を振る。
 すると彼らはまるで有名人にあいさつされたかのようにテンションを上げ、わーーっと歓声を。どうやらここでもカノンのカリスマが発動しているようだ。

「いやー、大歓迎だねぇ。あはは、いいところなんだよ、十六夜学園! やっぱり、私も通ってみたくなっちゃうなぁ!」

 彼らの熱烈な歓迎を受け、はしゃぐカノン。
 そんな彼女を見て、ルナは申しわけなさそうに目をふせた。

「――カノン、すみません……。本来なら普通に学園に通って、外の世界を謳歌おうかできたはずなのに、巫女みこの責務のせいで……」
「――こればかりは仕方ないんだよ。誰かがやらないといけないことだもん。――そう、すべてはよりよい世界のために……。だから気にしないで」

 瞳を閉じて胸をぎゅっと押さえながら、万感の思いを込めてかたるカノン。そして心配させないようにと、はかなげにほほえんだ。
 これには三人ともいたたまれない気持ちになってしまう。

「そんなことよりも、まだ見足りないんだよ! ルナには悪いんだけど、もう少し学園探検に付きそってくれるかな?」

 するとカノンは空気が重くなってしまったことに気付いたのか、手をぱんっとたたき明るく振る舞いだす。

「――あ、はい、もちろんです。このルナ・サージェンフォード。カノンの満足がいくまで、精一杯務めさせてもらいます」
「もう、固いよ、ルナー」

 胸に手を当て使命感をあらわにするルナの肩に手を置き、ほがらかにさとすカノン。
 こうして再びワイワイと、学園を探検するレイジたちなのであった。

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