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3章 第4部 逃走劇
158話 結月の覚悟
しおりを挟むレイジと結月はカノンのもとへと急ぐ。
ゆきの話によれば、カノンはとあるビルの地下駐車場内でルナと戦っているとのこと。なんでもルナはウデの立つデュエルアバター使いらしく、いくらカノンでも振り切るのは難しいそうだ。なので一刻も早く駆けつけ、計画を進めなければ。
そしてとうとう目的地の地下駐車場にたどり着く。ここはオブジェクトである車があちこち設置されている、ひっそりとした無人の地下駐車場。中は電気がついており、明るかった。
「久遠くん! カノンがいたよ!」
奥の方でカノンとルナの姿が。
レイジと結月は急いでカノンのもとに走り、加勢を。
「カノン、よかった。無事だったんだな」
「レージくん! 結月! うん、なんとかね」
レイジたちが駆け付けたことで、ほっと一息つくカノン。
「ルナさん、こっちは三人。さすがにこの戦力差はくつがえせないだろ? ここは大人しく引いてほしいんだが?」
「――久遠さんたちが先に来るとは……。ですがまだおわれません。アポルオン序列二位サージェンフォード家次期当主として、私は最後まで戦います」
ルナはレイジの提案を受け入れず、愛剣のエストックをかまえ戦う意志を示した。
「やっぱり、引き下がってくれないよな」
「レージくん、気をつけて。ルナのデュエルアバターのウデは相当なんだよ。いくらこっちが三人でも、ヘタすると負ける可能性があるかも」
「マジか。あまり時間をかけすぎると、カノンの脱出が困難になってくるんだがな」
ゆきいわく、撹乱した敵の陣形が戻りつつあるらしい。さらにゆきたちの方へ多くの戦力が投入されているらしく、防衛はそうもちそうにないとのこと。よってこれ以上時間をくうのは、正直厳しい状況なのだ。
「久遠くん、カノン、先に行って。ここは私が食い止めるよ」
思考していると、結月がレイジたちの前に。そして両腕を広げ、ルナへ立ちふさがった。
「――結月……、それならオレが」
「ううん、久遠くんはカノンのエスコートをお願い。この先も敵が待ちかまえてるだろうし、戦い慣れしてる久遠くんが行くべきよ」
結月の言う通り、この状況下ではレイジの方が適任だろう。
まだ外には敵戦力が散らばっている。そんな彼らをかいくぐりカノンを外に連れ出すには、護衛に慣れた者が行くべきだ。
「――わかった。頼んだぞ」
よって結月の身を案じながらも、彼女にルナの相手を任せることに。
「結月、無茶はしないでね。危なくなったらすぐに逃げるんだよ」
「あはは、ごめん、カノン。それはできそうにないよ。この計画はあなたの夢を叶える一歩。だからなんとしてでも成功させないとね!」
カノンの忠告に対し、結月ははかなげに笑いかける。そして力強く自身の想いを告げた。
その雰囲気から、おそらく彼女は最後の最後までルナの足止めに徹するだろう。たとえどれだけダメージを受けたとしても、なりふりかまわずにだ。
「――だからといって……」
「もう、そんな顔しないで。親友に少しは華を持たせてよ。今のところ久遠くんにいいとこ、持ってかれてばっかだしね!」
結月は心を痛めるカノンにウィンクしながら、冗談めかしに笑う。
「――結月……」
「行こう、カノン」
胸をぎゅっと押さえるカノンの肩に手を置き、離脱をうながす。
「――うん、わかったんだよ……」
結月の意志の強さを垣間見り、カノンはあきらめたようだ。すべてを彼女に任せこの場から去る選択を。
「させません!」
「ルナさんの相手は私よ! 氷杭よ降りそそげ!」
逃がさないとアビリティを行使しようとするルナに、結月は腕を前に突き出し叫んだ。
そして自身の氷のアビリティを起動。ルナを取り巻くように巨大なつららが八本展開され、降りそそぐ。
もはや四方八方から強襲する氷杭の雨は、大気を切り裂き弾丸のごとく勢いで標的へ。さすがに全方位からなので一方をしのいでも、残りの取り囲む氷杭の餌食に。さらに瞬時の攻撃だったゆえ、完全にルナをとらえていた。
「風の防壁よ」
だがルナが風のアビリティを起動した瞬間、彼女の周囲に風の渦が発生。始めはただの強い風の渦であったが、即座にその規模は増し荒れ狂う竜巻へと。その威力はすさまじく、竜巻に触れた氷杭をまたたく間に砕かれていった。
「なかなかの攻撃ですが、この程度では」
竜巻がやむと、一切のダメージを受けていないルナの姿が。
粉々に砕かれた氷杭の破片が舞い落ちており、そこにたたずむ少女はその美貌も合わさって幻想的な雰囲気をかもし出している。もはや戦闘中だというのに、思わず見惚れてしまうほどであった。
「ハァッ!」
「ッ!?」
見入っていると、鋭い音が、地下駐車場に響き渡った。
ふと我に返ると結月が氷剣を振りかざし、ルナと剣を交えていた。どうやら見惚れている間に結月が、ルナに特攻を仕掛けたようだ。
「今よ! 行って! 二人とも!」
結月の掛け声が聞こえる中、レイジとカノンはうなずき合う。そして出口に向けて一目散に走り離脱を。彼女がルナを食い止めている間に、このアビスエリアの十六夜島から一刻も早く出なければ。
後方から激しい戦闘音が鳴り響く中、レイジたちは地下駐車場をあとにするのであった。
「ほう、ほう、そうですか。エデンでアポルオンの巫女を自由にする作戦は、成功したのですね。――ええ、もちろん、では会談の場でのちほど」
ここは現実のとある高層ビルの一室。東條冬華は、ある人物から連絡を受けていた。
報告だとレイジたちが、アポルオンの巫女をアビスエリアの十六夜島から連れ出せたらしい。これにてエデン内で、アポルオンの巫女が完全に自由になったというわけだ。
「うふふふ、女神の舞台は順調に幕を開けつつある。ならばワタシがやることはただ一つ! 道化師として、もっと盛り上げなければ! そのためにもアポルオンの巫女には頑張ってもらわないと!」
冬華は通話を切り、ガラス張りの壁の方へと。そして窓へ手を当て、視線を外へと向ける。街中の方は建物の光が無数にきらめき、見事な夜景を展開していた。そんな光景をながめながら、嬉々爛々とみずからの考えを口に。
「ああ、今後のことを想像するだけで、胸が高まりしかたがない! さあさあ、みなさん、もっとおもしろおかしくこの舞台でおどりましょう! そして今だ見ぬ、至高の結末へと進むのです! その果てにあるのは喜劇か悲劇か! どちらにしろ愉快なことになるのは、間違いないのですからね!」
そして両手をかかげ、芝居がかったように宣言する。それはまるで声高らかに、歌うかのごとく。それほどまでに今の冬華は高揚しているといっていい。今後の展開があまりに楽しみすぎるがゆえに。
「ではそろそろワタシも、舞台に上がるとしましょうか! しばらくは一人の役者として、存分におどらせてもらいますよ! その記念すべき第一歩は……、――うふふふ、ねえ、レイジさん、ワタシの予言当たりましたよね?」
そして最後に今この場にいない久遠レイジへ、意味ありげにほほえむのであった。
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