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4章 姫と騎士の舞踏 下 第1部 道化子との会談
159話 カノンと楓
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時刻は二十一時ごろ。現在レイジとカノンがいるのは、十六夜島にある白神コンシェルン本部の高層ビルの最上階。通路内は重厚感あふれるカーペットが敷かれ、高そうな絵画や壺などが飾られていた。
少し前のアビスエリアの戦い。カノンをエデン内で自由にするため、アビスエリアの十六夜島から彼女を連れ出す作戦は無事成功。強制ログアウトの被害はアキラ、エリーを除くヴァーミリオンメンバー、さらには最後ルナの足止め役を買ってくれた結月。ほかのメンバーはダメージを負いながらも、なんとか普通にログアウトすることができたらしい。
そして今作戦は次のステップに進むため、エデン協会ヴァーミリオンの事務所からこの場所まで急いで向かったのであった。ちなみに現実でカノンを連れ去ったあとすぐヴァーミリオンの事務所に向かったのは、単に十六夜学園から近かったから。あの時は急いでエデンに向かう必要があったので、ここに来るのは後回しになったのであった。
「レージくん、改めてお礼を。さっきのアビスエリアでの件、本当にありがとうね。おかげでエデン内なら、自由に動けるようになったんだよ」
カノンは目的の部屋に向かいながらも、胸に手を当て心から感謝の言葉を伝えてくる。
「いろいろ危なかったが、うまくいってよかったよ。だがここで安心するのはまだ早い。今度は現実でのカノンの居場所を作らないとな」
現状カノンは制御権を完全に破壊できたため、エデン内で自由の身になった。だがそれだけでは足りないのだ。カノンが本当の意味で動けるようにするには、この現実での立ち位置も万全にしておかなければ。だからその第一歩として、この白神コンシェルン本部へと訪れたのである。
「うん、そっちも期待してるんだよ!」
カノンはレイジの腕をとって、かわいらしくウィンクを。
「ああ、任せておけ」
そうこうしていると、高層ビルの最上階にある社長室へとたどり着く。
「よし、着いたな。ここに楓さんがいるはず。入るぞ」
代表の部屋の扉をノックし、レイジたちは中に入った。
近未来感あふれるシックな感じの、広々とした部屋である。奥はガラス張りで解放感があり、高級そうなソファーやテーブルなどの家具があちこちに。もはや時代の最先端を行く白神コンシェルンに恥じない、立派な代表の部屋であった。
「久遠、やっと来たわね。待ちくたびれたわよ」
すると一人の若い女性が、出迎えてくれる。
かなりの美人だが、どことなくやる気のなさそうにだらけた雰囲気をただよわせている彼女の名前は、白神楓。白神家次期当主候補であり、ゆきの姉。十六夜学園の学園長をやっており、今後同盟によって彼女のもとでいろいろ働かされるとのこと。
ちなみにここにはトップである白神守の姿はない。というのもしばらくの間彼はあちこち行ったり来たりしなくてはならないらしく、白神コンシェルン本部を留守にするとのこと。それゆえ楓がせっかくあいているのだからと、この社長室を会談の場にしたのであった。
「今回の件は戦力を回せなくてごめんなさいね。恭一はある任務を任せていなかったから。まあ、そもそもの話白神コンシェルン側がアポルオンにケンカを売るのは、後々面倒なことになりかねそうだから、どの道無理だったんだけど」
肩をすくめながら、軽く笑う楓。
「ううん、楓さん、こうやってかくまってもらえるだけでも大助かりなんだよ」
「ふーん、あなたが例のお姫様か。同盟は結んでるけど、こうやって面と向かって話すのは初めてね。まあ、いいわ。それよりさっさとこの作戦会議をおわらせましょう。めんどくさいし、見たいテレビもあるから」
楓はまじまじとカノンをみる。だがすぐに興味を失い、ソファーにどっと腰掛けた。そしてテーブルに置いてあったお菓子の山に手を出し、黙々と食べ始める。もはや完全にだらけており、今から大事な作戦会議をするとは思えない状態だ。
「うわー、こんな時でもこの人、平常運転なんだな」
「あん、久遠、なんか言った?」
あきれるレイジに、楓はドスを聞かせた声で問うてきた。
それはまるでゆきをキレさせた時と同じ。エデン内だったらいつ攻撃が飛んできてもおかしくないほどだ。
「――いえ、別に……、――ははは……」
「ほら、あんたたちも遠慮しないで座りなさい。さすがにお姫様がいるなら、お菓子も分けてあげないことはないし。もちろんこれはあたしのだから、ちょっとだけよ」
テーブルに積まれたお菓子の山を両腕で囲い、守りながら念押ししてくる楓。
ケチだといいたかったが、またもやガンを飛ばされそうなのでなんとかたえる。カノンもカノンで楓のあまりのキャラに、動揺した笑みを。
そしてうながされるままカノンと一緒に、向かいのソファーへと座った。
「さて、じゃあ、現状の状況を整理しましょうか。現在アポルオンの巫女であるカノンさんは、制御権が破壊されたことによりエデン内で自由になった。でも、今後動くにあたり、それだと支障がでるのよね?」
楓がお菓子を食べながらも話を進めだす。
「そうなんだよ。今の私は序列二位側の保護下から抜け出したことにより、もう彼らの権力で身の安全を守ることができなくなってしまった。しかもそれによって強力な後ろ盾もなくなったことになるから、動きづらくなったんだよね」
カノンはがっくり肩を落とす。
「カノンの家の力も借りられないんだよな?」
「うん、今のアルスレイン家当主は、序列二位側の顔色をうかがってやり過ごす立場にいる。だから私の意見に賛同なんて到底できないし、なによりアルスレイン家の意向は保守派側。今後まったくく期待できないんだよ」
これにより今のカノンの動きは、かなり制限されてしまうらしい。
一応楓との同盟により、ある程度の融通は効くだろう。だがその力はアポルオン内に届かない。よってアポルオン関係の事案に、関わりづらくなるだろう。
「なるほど。そういえばオレ、アルスレイン家についてほとんど知らないんだよな。アポルオンの巫女のこともくわしく知らないし、その辺りはどうなってるんだ?」
今思い返してみるとアポルオンのことはある程度つかんでいるが、カノンを取り巻く状況についてあまりわかっていなかった。なので今後のためにも聞いておくことに。
少し前のアビスエリアの戦い。カノンをエデン内で自由にするため、アビスエリアの十六夜島から彼女を連れ出す作戦は無事成功。強制ログアウトの被害はアキラ、エリーを除くヴァーミリオンメンバー、さらには最後ルナの足止め役を買ってくれた結月。ほかのメンバーはダメージを負いながらも、なんとか普通にログアウトすることができたらしい。
そして今作戦は次のステップに進むため、エデン協会ヴァーミリオンの事務所からこの場所まで急いで向かったのであった。ちなみに現実でカノンを連れ去ったあとすぐヴァーミリオンの事務所に向かったのは、単に十六夜学園から近かったから。あの時は急いでエデンに向かう必要があったので、ここに来るのは後回しになったのであった。
「レージくん、改めてお礼を。さっきのアビスエリアでの件、本当にありがとうね。おかげでエデン内なら、自由に動けるようになったんだよ」
カノンは目的の部屋に向かいながらも、胸に手を当て心から感謝の言葉を伝えてくる。
「いろいろ危なかったが、うまくいってよかったよ。だがここで安心するのはまだ早い。今度は現実でのカノンの居場所を作らないとな」
現状カノンは制御権を完全に破壊できたため、エデン内で自由の身になった。だがそれだけでは足りないのだ。カノンが本当の意味で動けるようにするには、この現実での立ち位置も万全にしておかなければ。だからその第一歩として、この白神コンシェルン本部へと訪れたのである。
「うん、そっちも期待してるんだよ!」
カノンはレイジの腕をとって、かわいらしくウィンクを。
「ああ、任せておけ」
そうこうしていると、高層ビルの最上階にある社長室へとたどり着く。
「よし、着いたな。ここに楓さんがいるはず。入るぞ」
代表の部屋の扉をノックし、レイジたちは中に入った。
近未来感あふれるシックな感じの、広々とした部屋である。奥はガラス張りで解放感があり、高級そうなソファーやテーブルなどの家具があちこちに。もはや時代の最先端を行く白神コンシェルンに恥じない、立派な代表の部屋であった。
「久遠、やっと来たわね。待ちくたびれたわよ」
すると一人の若い女性が、出迎えてくれる。
かなりの美人だが、どことなくやる気のなさそうにだらけた雰囲気をただよわせている彼女の名前は、白神楓。白神家次期当主候補であり、ゆきの姉。十六夜学園の学園長をやっており、今後同盟によって彼女のもとでいろいろ働かされるとのこと。
ちなみにここにはトップである白神守の姿はない。というのもしばらくの間彼はあちこち行ったり来たりしなくてはならないらしく、白神コンシェルン本部を留守にするとのこと。それゆえ楓がせっかくあいているのだからと、この社長室を会談の場にしたのであった。
「今回の件は戦力を回せなくてごめんなさいね。恭一はある任務を任せていなかったから。まあ、そもそもの話白神コンシェルン側がアポルオンにケンカを売るのは、後々面倒なことになりかねそうだから、どの道無理だったんだけど」
肩をすくめながら、軽く笑う楓。
「ううん、楓さん、こうやってかくまってもらえるだけでも大助かりなんだよ」
「ふーん、あなたが例のお姫様か。同盟は結んでるけど、こうやって面と向かって話すのは初めてね。まあ、いいわ。それよりさっさとこの作戦会議をおわらせましょう。めんどくさいし、見たいテレビもあるから」
楓はまじまじとカノンをみる。だがすぐに興味を失い、ソファーにどっと腰掛けた。そしてテーブルに置いてあったお菓子の山に手を出し、黙々と食べ始める。もはや完全にだらけており、今から大事な作戦会議をするとは思えない状態だ。
「うわー、こんな時でもこの人、平常運転なんだな」
「あん、久遠、なんか言った?」
あきれるレイジに、楓はドスを聞かせた声で問うてきた。
それはまるでゆきをキレさせた時と同じ。エデン内だったらいつ攻撃が飛んできてもおかしくないほどだ。
「――いえ、別に……、――ははは……」
「ほら、あんたたちも遠慮しないで座りなさい。さすがにお姫様がいるなら、お菓子も分けてあげないことはないし。もちろんこれはあたしのだから、ちょっとだけよ」
テーブルに積まれたお菓子の山を両腕で囲い、守りながら念押ししてくる楓。
ケチだといいたかったが、またもやガンを飛ばされそうなのでなんとかたえる。カノンもカノンで楓のあまりのキャラに、動揺した笑みを。
そしてうながされるままカノンと一緒に、向かいのソファーへと座った。
「さて、じゃあ、現状の状況を整理しましょうか。現在アポルオンの巫女であるカノンさんは、制御権が破壊されたことによりエデン内で自由になった。でも、今後動くにあたり、それだと支障がでるのよね?」
楓がお菓子を食べながらも話を進めだす。
「そうなんだよ。今の私は序列二位側の保護下から抜け出したことにより、もう彼らの権力で身の安全を守ることができなくなってしまった。しかもそれによって強力な後ろ盾もなくなったことになるから、動きづらくなったんだよね」
カノンはがっくり肩を落とす。
「カノンの家の力も借りられないんだよな?」
「うん、今のアルスレイン家当主は、序列二位側の顔色をうかがってやり過ごす立場にいる。だから私の意見に賛同なんて到底できないし、なによりアルスレイン家の意向は保守派側。今後まったくく期待できないんだよ」
これにより今のカノンの動きは、かなり制限されてしまうらしい。
一応楓との同盟により、ある程度の融通は効くだろう。だがその力はアポルオン内に届かない。よってアポルオン関係の事案に、関わりづらくなるだろう。
「なるほど。そういえばオレ、アルスレイン家についてほとんど知らないんだよな。アポルオンの巫女のこともくわしく知らないし、その辺りはどうなってるんだ?」
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