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4章 姫と騎士の舞踏 下 第1部 道化子との会談
164話 冬華との会談
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「レイジさん、お久しぶりですね! エデン協会でのご活躍は聞き及んでいますよ!」
スカートの裾を持ち上げて優雅にお辞儀しながら、テンション高くあいさつしてくる東條冬華。歳はレイジたちより一つ上だが、童顔のせいで年下に見えてしまう少女だ。
時刻は朝方、ここは白神コンシェルン本部の高層ビルの社長室。そしてここにいるのはレイジとカノンと冬華の三人だけだ。楓は会談がめんどくさいからと、そうそうにレイジたちに任せてどっかに行ってしまったのであった。
「ははは、どうも。冬華もこの一年、悪名をばらまいていたらしいじゃないか。数々の戦場に出向いて敵をいたぶりまくったうわさ、耳にとどいてるぞ。先日の狩猟兵団とレジスタンスたちの一件なんて、とくにすごかったそうだな」
冬華は自身のサディストな性癖から、雇ったデュエルアバター使いによく付き添うのだ。そしてやられゆく敵を観察したり、みずからいたぶる悪趣味な少女なのであった。それゆえ狩猟兵団時代、レイジとアリスについてくることもしばしば。割と見慣れた光景なのである。
ちなみに先日の狩猟兵団とレジスタンスの一件。彼女は防衛にかなり貢献(こうけん)したらしい。襲い来るレジスタンの集団を、次々に痛めつけ戦意を喪失。ものの見事に壊滅していったとか。一緒に防衛していた者たちによると、まさに地獄の光景だったとのこと。
「うふふふ、あれはなかなか至福の時間でしたよ! 政府のアーカイブポイントにむらがる彼らを、たっぷり堪能させてもらいましたからね! あぁ、あの甘美な悲鳴の数々といったらもう……、レイジさんにも聞かせたかった……。うふふふ、今度はぜひご一緒してくださいね!」
冬華はほおに手を当て、うっとりした表情で誘ってくる。もはや不気味としかいえず、若干引き気味にならざるを得ない。
レイジは戦闘狂だが、相手をいたぶる趣味はない。なので苦笑いを浮かべながらお断りを。
「ははは、さすがにそれは遠慮したいな。でも斬りがいのある仕事なら、喜んで引き受けさせてもらうよ。その時はよろしくな」
「おぉ、久しぶりにレイジさんの剣を、生で見られるんですね! これはすぐにでも舞台を用意しないと! あぁ、もう待ちきれないので二人でクリフォトエリアに乗り込み、ところかまわずケンカを吹っかけに行きましょう! 昔みたいなノリで!」
冬華はレイジの手をとってブンブン振り、満面の笑顔で誘ってくる。
そう、狩猟兵団時代、よく冬華を連れクリフォトエリアでほかのデュエルアバター使いたちを刈っていたのだ。レイジとアリスは闘争のため。冬華は相手の末路を求めて。その時はデータなど関係なく、ただ目についた相手にケンカを売り闘争を謳歌していたのである。実際こういった輩は結構いるといっていい。依頼やデータなど関係なく、ウデだめしや修行、ゲーム感覚といった感じでだ。
「まあ、頻繁には無理だが、たまにならいいかもな。昔みたいにやり過ぎて、軍に目を付けられるのは御免だし」
「――えっと……、なんだかいきなりハードな話が飛び交(か)ってるね。――えっへへ……、会話にまざるタイミングがなかなかつかめないんだよ」
冬華と物騒な話で盛り上がっていると、カノンがほおをかきながら困惑気味に口を開く。
「わるい、カノン。冬華とだと、どうも物騒な話になりがちなんだよな。主にこの、超絶サディストお嬢様のせいで」
「おや、いい子ぶるのはいただけませんねー! レイジさんもこういった血なまぐさい話、大好きなくせにー!」
イタイ人を見るような視線を冬華に送ると、彼女はクスクスと笑う。そしてレイジに腕をからめ、顔をのぞき込みながらニヤニヤと追及してきた。
「くっ、痛いところをついてきやがる……」
実際本当のことなので、なにも言い返せなくなってしまう。
「うふふふ、まあ、いいでしょう。それよりお初にかかります。アポルオンの巫女(みこ)、カノン・アルスレイン」
冬華はカノンに対し、スカートの裾を持ち上げうやうやしくお辞儀する。
「こちらこそ。今日は話し合いの場に来てくれて、ありがとうなんだよ」
「うふふふ、なんたってレイジさんからの頼みですから、断るわけにはまいりませんよ! これまで依頼でお世話になりまくった分、たっぷり返さないと!」
カノンのほがらかなほほえみのお礼に、冬華は胸に手を当て頼もし笑みを浮かべた。
「いやー、冬華と仲がよくて、ほんとよかったよ。そのコネで、最大の難所に光明をさせたんだからさ」
「いえいえ、こちらこそ。このたびはこんな面白そうなパーティに誘っていただき、まことにありがとうございます! しかも聞くところによると、そのパーティの中でもかなり重要なポジションに、このワタシをご指名とは! ああ、なんたる光栄! 思う存分楽しめそうじゃないですか!」
祈るように手を組みながら、どこか芝居がかった感じで声高らかにかたる冬華。
「冬華なら乗ってくれると思ってたよ。あんたの悪趣味な性格的にだと、絶好の舞台じゃないか?」
「はい、もちろん! 好きなだけ舞台をかき回せそうで、腕がなりますね!」
冬華はガッツポーズしながら、頼もしげに笑った。
「すごい、みるみるうちに話がまとまっていくんだよ! さすがはレージくんだね!」
あまりにスムーズな話の展開に、カノンは手を合わせはしゃぎだす。
もはや冬華はやる気満々なのだ。これならあっさり協力を得て、会談は無事おわりそうな勢いであった。
「ははは、今回に限っては冬華のイカレタ価値観のおかげだけどな。といってもこんな冬華を味方につけるのは、うちに爆弾を抱えるようであまりおすすめしないんだが」
「気にしすぎじゃないかな。それじゃあ、冬華さん、私たちの申し出を受けてくれるということでいいんだよね?」
カノンはレイジの不安を軽く流して、冬華へ手を差し出し最終確認を。
しかし。
「うふふふ、まあまあ、そうあわてずに。では、会談の方を始めるとしましょうか! 今後のあなたたちの命運を決める、大事な大事な案件の!」
これで話がまとまると思いきや、手で制しなにやら不気味な笑みを浮かべる冬華なのであった。
スカートの裾を持ち上げて優雅にお辞儀しながら、テンション高くあいさつしてくる東條冬華。歳はレイジたちより一つ上だが、童顔のせいで年下に見えてしまう少女だ。
時刻は朝方、ここは白神コンシェルン本部の高層ビルの社長室。そしてここにいるのはレイジとカノンと冬華の三人だけだ。楓は会談がめんどくさいからと、そうそうにレイジたちに任せてどっかに行ってしまったのであった。
「ははは、どうも。冬華もこの一年、悪名をばらまいていたらしいじゃないか。数々の戦場に出向いて敵をいたぶりまくったうわさ、耳にとどいてるぞ。先日の狩猟兵団とレジスタンスたちの一件なんて、とくにすごかったそうだな」
冬華は自身のサディストな性癖から、雇ったデュエルアバター使いによく付き添うのだ。そしてやられゆく敵を観察したり、みずからいたぶる悪趣味な少女なのであった。それゆえ狩猟兵団時代、レイジとアリスについてくることもしばしば。割と見慣れた光景なのである。
ちなみに先日の狩猟兵団とレジスタンスの一件。彼女は防衛にかなり貢献(こうけん)したらしい。襲い来るレジスタンの集団を、次々に痛めつけ戦意を喪失。ものの見事に壊滅していったとか。一緒に防衛していた者たちによると、まさに地獄の光景だったとのこと。
「うふふふ、あれはなかなか至福の時間でしたよ! 政府のアーカイブポイントにむらがる彼らを、たっぷり堪能させてもらいましたからね! あぁ、あの甘美な悲鳴の数々といったらもう……、レイジさんにも聞かせたかった……。うふふふ、今度はぜひご一緒してくださいね!」
冬華はほおに手を当て、うっとりした表情で誘ってくる。もはや不気味としかいえず、若干引き気味にならざるを得ない。
レイジは戦闘狂だが、相手をいたぶる趣味はない。なので苦笑いを浮かべながらお断りを。
「ははは、さすがにそれは遠慮したいな。でも斬りがいのある仕事なら、喜んで引き受けさせてもらうよ。その時はよろしくな」
「おぉ、久しぶりにレイジさんの剣を、生で見られるんですね! これはすぐにでも舞台を用意しないと! あぁ、もう待ちきれないので二人でクリフォトエリアに乗り込み、ところかまわずケンカを吹っかけに行きましょう! 昔みたいなノリで!」
冬華はレイジの手をとってブンブン振り、満面の笑顔で誘ってくる。
そう、狩猟兵団時代、よく冬華を連れクリフォトエリアでほかのデュエルアバター使いたちを刈っていたのだ。レイジとアリスは闘争のため。冬華は相手の末路を求めて。その時はデータなど関係なく、ただ目についた相手にケンカを売り闘争を謳歌していたのである。実際こういった輩は結構いるといっていい。依頼やデータなど関係なく、ウデだめしや修行、ゲーム感覚といった感じでだ。
「まあ、頻繁には無理だが、たまにならいいかもな。昔みたいにやり過ぎて、軍に目を付けられるのは御免だし」
「――えっと……、なんだかいきなりハードな話が飛び交(か)ってるね。――えっへへ……、会話にまざるタイミングがなかなかつかめないんだよ」
冬華と物騒な話で盛り上がっていると、カノンがほおをかきながら困惑気味に口を開く。
「わるい、カノン。冬華とだと、どうも物騒な話になりがちなんだよな。主にこの、超絶サディストお嬢様のせいで」
「おや、いい子ぶるのはいただけませんねー! レイジさんもこういった血なまぐさい話、大好きなくせにー!」
イタイ人を見るような視線を冬華に送ると、彼女はクスクスと笑う。そしてレイジに腕をからめ、顔をのぞき込みながらニヤニヤと追及してきた。
「くっ、痛いところをついてきやがる……」
実際本当のことなので、なにも言い返せなくなってしまう。
「うふふふ、まあ、いいでしょう。それよりお初にかかります。アポルオンの巫女(みこ)、カノン・アルスレイン」
冬華はカノンに対し、スカートの裾を持ち上げうやうやしくお辞儀する。
「こちらこそ。今日は話し合いの場に来てくれて、ありがとうなんだよ」
「うふふふ、なんたってレイジさんからの頼みですから、断るわけにはまいりませんよ! これまで依頼でお世話になりまくった分、たっぷり返さないと!」
カノンのほがらかなほほえみのお礼に、冬華は胸に手を当て頼もし笑みを浮かべた。
「いやー、冬華と仲がよくて、ほんとよかったよ。そのコネで、最大の難所に光明をさせたんだからさ」
「いえいえ、こちらこそ。このたびはこんな面白そうなパーティに誘っていただき、まことにありがとうございます! しかも聞くところによると、そのパーティの中でもかなり重要なポジションに、このワタシをご指名とは! ああ、なんたる光栄! 思う存分楽しめそうじゃないですか!」
祈るように手を組みながら、どこか芝居がかった感じで声高らかにかたる冬華。
「冬華なら乗ってくれると思ってたよ。あんたの悪趣味な性格的にだと、絶好の舞台じゃないか?」
「はい、もちろん! 好きなだけ舞台をかき回せそうで、腕がなりますね!」
冬華はガッツポーズしながら、頼もしげに笑った。
「すごい、みるみるうちに話がまとまっていくんだよ! さすがはレージくんだね!」
あまりにスムーズな話の展開に、カノンは手を合わせはしゃぎだす。
もはや冬華はやる気満々なのだ。これならあっさり協力を得て、会談は無事おわりそうな勢いであった。
「ははは、今回に限っては冬華のイカレタ価値観のおかげだけどな。といってもこんな冬華を味方につけるのは、うちに爆弾を抱えるようであまりおすすめしないんだが」
「気にしすぎじゃないかな。それじゃあ、冬華さん、私たちの申し出を受けてくれるということでいいんだよね?」
カノンはレイジの不安を軽く流して、冬華へ手を差し出し最終確認を。
しかし。
「うふふふ、まあまあ、そうあわてずに。では、会談の方を始めるとしましょうか! 今後のあなたたちの命運を決める、大事な大事な案件の!」
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