電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
169 / 253
4章 姫と騎士の舞踏 下  第1部 道化子との会談 

164話 冬華との会談

しおりを挟む
「レイジさん、お久しぶりですね! エデン協会でのご活躍は聞き及んでいますよ!」

 スカートのすそを持ち上げて優雅にお辞儀しながら、テンション高くあいさつしてくる東條冬華とうじょうふゆか。歳はレイジたちより一つ上だが、童顔のせいで年下に見えてしまう少女だ。
 時刻は朝方、ここは白神しらかみコンシェルン本部の高層ビルの社長室。そしてここにいるのはレイジとカノンと冬華の三人だけだ。かえでは会談がめんどくさいからと、そうそうにレイジたちに任せてどっかに行ってしまったのであった。

「ははは、どうも。冬華もこの一年、悪名をばらまいていたらしいじゃないか。数々の戦場に出向いて敵をいたぶりまくったうわさ、耳にとどいてるぞ。先日の狩猟兵団とレジスタンスたちの一件なんて、とくにすごかったそうだな」

 冬華は自身のサディストな性癖から、雇ったデュエルアバター使いによく付き添うのだ。そしてやられゆく敵を観察したり、みずからいたぶる悪趣味な少女なのであった。それゆえ狩猟兵団時代、レイジとアリスについてくることもしばしば。割と見慣れた光景なのである。
 ちなみに先日の狩猟兵団とレジスタンスの一件。彼女は防衛にかなり貢献(こうけん)したらしい。襲い来るレジスタンの集団を、次々に痛めつけ戦意を喪失。ものの見事に壊滅していったとか。一緒に防衛していた者たちによると、まさに地獄の光景だったとのこと。

「うふふふ、あれはなかなか至福の時間でしたよ! 政府のアーカイブポイントにむらがる彼らを、たっぷり堪能たんのうさせてもらいましたからね! あぁ、あの甘美な悲鳴の数々といったらもう……、レイジさんにも聞かせたかった……。うふふふ、今度はぜひご一緒してくださいね!」

 冬華はほおに手を当て、うっとりした表情で誘ってくる。もはや不気味としかいえず、若干じゃっかん引き気味にならざるを得ない。
 レイジは戦闘狂だが、相手をいたぶる趣味はない。なので苦笑いを浮かべながらお断りを。

「ははは、さすがにそれは遠慮したいな。でも斬りがいのある仕事なら、喜んで引き受けさせてもらうよ。その時はよろしくな」
「おぉ、久しぶりにレイジさんの剣を、生で見られるんですね! これはすぐにでも舞台を用意しないと! あぁ、もう待ちきれないので二人でクリフォトエリアに乗り込み、ところかまわずケンカを吹っかけに行きましょう! 昔みたいなノリで!」

 冬華はレイジの手をとってブンブン振り、満面の笑顔で誘ってくる。
 そう、狩猟兵団時代、よく冬華を連れクリフォトエリアでほかのデュエルアバター使いたちを刈っていたのだ。レイジとアリスは闘争のため。冬華は相手の末路を求めて。その時はデータなど関係なく、ただ目についた相手にケンカを売り闘争を謳歌おうかしていたのである。実際こういったやからは結構いるといっていい。依頼やデータなど関係なく、ウデだめしや修行、ゲーム感覚といった感じでだ。

「まあ、頻繁ひんぱんには無理だが、たまにならいいかもな。昔みたいにやり過ぎて、軍に目を付けられるのは御免ごめんだし」
「――えっと……、なんだかいきなりハードな話が飛び交(か)ってるね。――えっへへ……、会話にまざるタイミングがなかなかつかめないんだよ」

 冬華と物騒な話で盛り上がっていると、カノンがほおをかきながら困惑気味に口を開く。

「わるい、カノン。冬華とだと、どうも物騒な話になりがちなんだよな。主にこの、超絶サディストお嬢様のせいで」
「おや、いい子ぶるのはいただけませんねー! レイジさんもこういった血なまぐさい話、大好きなくせにー!」

 イタイ人を見るような視線を冬華に送ると、彼女はクスクスと笑う。そしてレイジに腕をからめ、顔をのぞき込みながらニヤニヤと追及してきた。

「くっ、痛いところをついてきやがる……」 

 実際本当のことなので、なにも言い返せなくなってしまう。

「うふふふ、まあ、いいでしょう。それよりお初にかかります。アポルオンの巫女(みこ)、カノン・アルスレイン」

 冬華はカノンに対し、スカートのすそを持ち上げうやうやしくお辞儀する。

「こちらこそ。今日は話し合いの場に来てくれて、ありがとうなんだよ」
「うふふふ、なんたってレイジさんからの頼みですから、断るわけにはまいりませんよ! これまで依頼でお世話になりまくった分、たっぷり返さないと!」

 カノンのほがらかなほほえみのお礼に、冬華は胸に手を当て頼もし笑みを浮かべた。

「いやー、冬華と仲がよくて、ほんとよかったよ。そのコネで、最大の難所に光明をさせたんだからさ」
「いえいえ、こちらこそ。このたびはこんな面白そうなパーティに誘っていただき、まことにありがとうございます! しかも聞くところによると、そのパーティの中でもかなり重要なポジションに、このワタシをご指名とは! ああ、なんたる光栄! 思う存分楽しめそうじゃないですか!」

 いのるように手を組みながら、どこか芝居しばいがかった感じで声高らかにかたる冬華。
「冬華なら乗ってくれると思ってたよ。あんたの悪趣味な性格的にだと、絶好の舞台じゃないか?」
「はい、もちろん! 好きなだけ舞台をかき回せそうで、腕がなりますね!」

 冬華はガッツポーズしながら、頼もしげに笑った。

「すごい、みるみるうちに話がまとまっていくんだよ! さすがはレージくんだね!」

 あまりにスムーズな話の展開に、カノンは手を合わせはしゃぎだす。
 もはや冬華はやる気満々なのだ。これならあっさり協力を得て、会談は無事おわりそうな勢いであった。

「ははは、今回に限っては冬華のイカレタ価値観のおかげだけどな。といってもこんな冬華を味方につけるのは、うちに爆弾を抱えるようであまりおすすめしないんだが」
「気にしすぎじゃないかな。それじゃあ、冬華さん、私たちの申し出を受けてくれるということでいいんだよね?」

 カノンはレイジの不安を軽く流して、冬華へ手を差し出し最終確認を。
 しかし。

「うふふふ、まあまあ、そうあわてずに。では、会談の方を始めるとしましょうか! 今後のあなたたちの命運を決める、大事な大事な案件の!」

 これで話がまとまると思いきや、手で制しなにやら不気味な笑みを浮かべる冬華なのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...