170 / 253
4章 姫と騎士の舞踏 下 第1部 道化子との会談
165話 覚悟
しおりを挟む
「ではまず確認の方から始めますね! カノンさんたちは今後自分たちが自由に動けるよう、後ろ盾を探していた。そしてこのワタシたちアポルオン序列四位、東條家に白羽の矢が立ったということですね!」
「そうなんだよ。今の私たちに、東條家のような最上位序列の力は欠かせない。自由に動くためはもちろん、今後の計画的にもね。だからぜひとも協力をお願いしたいんだよ」
カノンは切実に頭を下げる。
「ふむ、個人的には面白そうなので、引き受けてもいいと思ってます。ですがワタシの一存で東條家の今後に関わる重要案件を決めるのは、いろいろ手間がかかるんですよね」
乗り気な態度を見せる冬華であったが、やはりことがことだけにそう簡単にはいかないらしい。いくら彼女が次期当主だとしても、すべての決定権は現当主にゆだねられるはず。なのでそちらをどうにかしない限り、後ろ盾の件は難しそうだ。
「冬華、東條家がこの要請を受けてくれる可能性は、実際のところどのぐらいなんだ?」
「アポルオンの巫女の監督権を手に入れれば、その権限でアポルオン内での影響力が上がることになります。それにカノンさんの革命が成功すれば、彼女の地位はアポルオン全体を取り仕切るぐらいにまでふくれ上がる。そうなれば革命の立役者である東條への恩恵ははかりしれません。なのでこちらにとっても、そうわるい話ではないですね」
「いけそうか?」
「ふむ、引き受けた結果、序列二位側と敵対することになっても、東條ならそこまで恐れるにたることはありませんし。最悪この計画が失敗におわっても、東條は創設者であるアルスレイン家の義理のために協力したと、なかなか響きのいい大義名分ができます。ですのでリスクというリスクはさほどなく、いい博打が打てることに」
圧力をかけてくるであろうサージェンフォード家は、世界のトップに君臨するほどの大財閥にしてアポルオン序列二位。だが東條とて最上位の大財閥であり、サージェンフォードにそこまで引きを取らないといっていい。よってちょっとやそっとの脅しぐらいで、びくともしないというわけだ。
しかも今回の要請を引き受け失敗におわっても、カノン・アルスレインのために協力したという大義名分が。アルスレイン家はアポルオンに属する者たちにとって、重大な意味を持つ存在。そんな彼らを助けたことに対し、そこまで強く言及できないはず。よって少しのリスクで、ばくだいな恩恵が手に入る可能性があるのだ。となれば東條家としても、そうたやすく無視していい事案ではないだろう。
「まあ、次期当主であるワタシが押せば、いけるでしょう!」
冬華はすべてをふまえた上で、強気な返事を。
これでレイジたちの現状の憂いは晴れたも同然。あとは冬華に任せ、カノンを自由にするだけだ。
「マジか! じゃあ、冬華、頼んだぞ。あんたがオレたちの希望だ」
「うん! 冬華さん、私からもお願いするんだよ!」
会談がうまくいったことに、喜ぶレイジとカノン。
「おや、二人とも。まだワタシは協力するなんて、一言も言ってませんよ?」
しかしそれもつかの間、冬華がいじわるげな笑みを浮かべわざとらしく首をかしげてきた。
「おい、冬華、まさか……」
「うふふふ、レイジさんならワタシの趣向を、おわかりでしょう? こんなにもあなた方がたやすく、ピンチを乗り越えるのは正直面白くありません! ええ、もっと足掻いた上で切り抜けなければ!」
冬華はいたずらっぽくほほえみ、みずからの趣向を主張する。
確かに今思うと、そう簡単に手を貸してくれないことに気付く。いくらこの先楽しめるとしても、それで満足しないのが東條冬華。彼女の悪趣味な性格からして、今のレイジたちの状況を見逃すはずがない。せっかく窮地にいるのだからと、あがくよう差し向ける気が。
「――くっ、ここに来てそれか。相変わらず趣味がわるいぞ、冬華」
「うふふふ、ワタシはみなをかき回し、舞台を面白くする道化を目指してますからね! なのでレイジさんたちも例外なく、踊っていただかないと!」
レイジの文句に、冬華はまったく気にした様子を見せずとびっきりの笑顔で告げてくる。
「――えっと……、冬華さん、それで私たちはなにをすればいいのかな? できればお手柔らかに、お願いしたいんだけど……」
「おっと、カノンさん、その前に一つ気がかりなことがあるんです!」
おそるおそるたずねるカノンに対し、冬華はバッと手で制す。
「なにかな?」
「聞いた話によると、今レイジさんはアイギスのメンバーじゃないとのこと。しかも今後アポルオン関係の件に、首を突っ込むのを禁止されてるとか!」
「――う、うん、そうだね……」
「それは非常に困るんですよねー! レイジさんと組むことを楽しみにしてきたのに、まさかその本人がいないとは……。なのでもしレイジさんが関われないのであれば、この話はなかったことにさせてもらいます! ワタシはレイジさんとの昔のよしみで協力しにきたのであって、カノンさんにそこまでする義理はないですから!」
冬華は大げさに肩をすくめながら、不満を口に。そして満面の笑顔でカノンを突っぱなっした。
どうやら今回強力してくれたのは今後の面白い舞台もそうだが、レイジと一緒に組みたい気持ちも強かったらしい。それほどまでに彼女に気に入られていたとは。こうなるとカノンはレイジのアイギス除名の件、なんとしてでも考え直さなければならず。
「おい、冬華。言いたいことはわかるが、それはちょっと……」
「レイジさんはだまっててください。これはあなたのために言ってることでもあるんですよ?」
これによりレイジはなにも言えなくなってしまう。
実際のところレイジにとって、この話は非常にいい流れ。今後も正式にカノンのもとで戦えるのだから。しかしレイジとしては、カノンの意志を無理やり曲げるのはどうかという葛藤もあり、あまり気が進まないのだが。
「――でも、レージくんをこれ以上巻き込むわけには……」
「――はぁ……、なんて甘い考えなんでしょうか。その程度の覚悟でアポルオンの変革を成し遂げられるとでも? 大事をなすにはそれ相応の犠牲はつきもの。指導者としてそれぐらい、わきまえてもらわなければ!」
戸惑うカノンに、冬華はビシッと正論をいい放つ。上に立つ者としての考えが、なっていないと。
「――うぅ……、なにも言い返せないんだよ……」
そのあまりにもっともな意見に反論できず、うつむいてしまうカノン。
「ワタシを率いれたいのであれば、まずその器量を見せてください! 同盟の条件もそれからですねー!――では、そういうことですので、ひとまずごきげんよう! カノンさんの覚悟が決まり次第、また連絡をください!」
そして冬華は言いたいことを言うと、スカートの裾を持ち上げながら優雅にお辞儀を。そして手をひらひらさせ、部屋を出ていってしまう。
こうして東條冬華との会談は、いったん幕を閉じるのであった。
「そうなんだよ。今の私たちに、東條家のような最上位序列の力は欠かせない。自由に動くためはもちろん、今後の計画的にもね。だからぜひとも協力をお願いしたいんだよ」
カノンは切実に頭を下げる。
「ふむ、個人的には面白そうなので、引き受けてもいいと思ってます。ですがワタシの一存で東條家の今後に関わる重要案件を決めるのは、いろいろ手間がかかるんですよね」
乗り気な態度を見せる冬華であったが、やはりことがことだけにそう簡単にはいかないらしい。いくら彼女が次期当主だとしても、すべての決定権は現当主にゆだねられるはず。なのでそちらをどうにかしない限り、後ろ盾の件は難しそうだ。
「冬華、東條家がこの要請を受けてくれる可能性は、実際のところどのぐらいなんだ?」
「アポルオンの巫女の監督権を手に入れれば、その権限でアポルオン内での影響力が上がることになります。それにカノンさんの革命が成功すれば、彼女の地位はアポルオン全体を取り仕切るぐらいにまでふくれ上がる。そうなれば革命の立役者である東條への恩恵ははかりしれません。なのでこちらにとっても、そうわるい話ではないですね」
「いけそうか?」
「ふむ、引き受けた結果、序列二位側と敵対することになっても、東條ならそこまで恐れるにたることはありませんし。最悪この計画が失敗におわっても、東條は創設者であるアルスレイン家の義理のために協力したと、なかなか響きのいい大義名分ができます。ですのでリスクというリスクはさほどなく、いい博打が打てることに」
圧力をかけてくるであろうサージェンフォード家は、世界のトップに君臨するほどの大財閥にしてアポルオン序列二位。だが東條とて最上位の大財閥であり、サージェンフォードにそこまで引きを取らないといっていい。よってちょっとやそっとの脅しぐらいで、びくともしないというわけだ。
しかも今回の要請を引き受け失敗におわっても、カノン・アルスレインのために協力したという大義名分が。アルスレイン家はアポルオンに属する者たちにとって、重大な意味を持つ存在。そんな彼らを助けたことに対し、そこまで強く言及できないはず。よって少しのリスクで、ばくだいな恩恵が手に入る可能性があるのだ。となれば東條家としても、そうたやすく無視していい事案ではないだろう。
「まあ、次期当主であるワタシが押せば、いけるでしょう!」
冬華はすべてをふまえた上で、強気な返事を。
これでレイジたちの現状の憂いは晴れたも同然。あとは冬華に任せ、カノンを自由にするだけだ。
「マジか! じゃあ、冬華、頼んだぞ。あんたがオレたちの希望だ」
「うん! 冬華さん、私からもお願いするんだよ!」
会談がうまくいったことに、喜ぶレイジとカノン。
「おや、二人とも。まだワタシは協力するなんて、一言も言ってませんよ?」
しかしそれもつかの間、冬華がいじわるげな笑みを浮かべわざとらしく首をかしげてきた。
「おい、冬華、まさか……」
「うふふふ、レイジさんならワタシの趣向を、おわかりでしょう? こんなにもあなた方がたやすく、ピンチを乗り越えるのは正直面白くありません! ええ、もっと足掻いた上で切り抜けなければ!」
冬華はいたずらっぽくほほえみ、みずからの趣向を主張する。
確かに今思うと、そう簡単に手を貸してくれないことに気付く。いくらこの先楽しめるとしても、それで満足しないのが東條冬華。彼女の悪趣味な性格からして、今のレイジたちの状況を見逃すはずがない。せっかく窮地にいるのだからと、あがくよう差し向ける気が。
「――くっ、ここに来てそれか。相変わらず趣味がわるいぞ、冬華」
「うふふふ、ワタシはみなをかき回し、舞台を面白くする道化を目指してますからね! なのでレイジさんたちも例外なく、踊っていただかないと!」
レイジの文句に、冬華はまったく気にした様子を見せずとびっきりの笑顔で告げてくる。
「――えっと……、冬華さん、それで私たちはなにをすればいいのかな? できればお手柔らかに、お願いしたいんだけど……」
「おっと、カノンさん、その前に一つ気がかりなことがあるんです!」
おそるおそるたずねるカノンに対し、冬華はバッと手で制す。
「なにかな?」
「聞いた話によると、今レイジさんはアイギスのメンバーじゃないとのこと。しかも今後アポルオン関係の件に、首を突っ込むのを禁止されてるとか!」
「――う、うん、そうだね……」
「それは非常に困るんですよねー! レイジさんと組むことを楽しみにしてきたのに、まさかその本人がいないとは……。なのでもしレイジさんが関われないのであれば、この話はなかったことにさせてもらいます! ワタシはレイジさんとの昔のよしみで協力しにきたのであって、カノンさんにそこまでする義理はないですから!」
冬華は大げさに肩をすくめながら、不満を口に。そして満面の笑顔でカノンを突っぱなっした。
どうやら今回強力してくれたのは今後の面白い舞台もそうだが、レイジと一緒に組みたい気持ちも強かったらしい。それほどまでに彼女に気に入られていたとは。こうなるとカノンはレイジのアイギス除名の件、なんとしてでも考え直さなければならず。
「おい、冬華。言いたいことはわかるが、それはちょっと……」
「レイジさんはだまっててください。これはあなたのために言ってることでもあるんですよ?」
これによりレイジはなにも言えなくなってしまう。
実際のところレイジにとって、この話は非常にいい流れ。今後も正式にカノンのもとで戦えるのだから。しかしレイジとしては、カノンの意志を無理やり曲げるのはどうかという葛藤もあり、あまり気が進まないのだが。
「――でも、レージくんをこれ以上巻き込むわけには……」
「――はぁ……、なんて甘い考えなんでしょうか。その程度の覚悟でアポルオンの変革を成し遂げられるとでも? 大事をなすにはそれ相応の犠牲はつきもの。指導者としてそれぐらい、わきまえてもらわなければ!」
戸惑うカノンに、冬華はビシッと正論をいい放つ。上に立つ者としての考えが、なっていないと。
「――うぅ……、なにも言い返せないんだよ……」
そのあまりにもっともな意見に反論できず、うつむいてしまうカノン。
「ワタシを率いれたいのであれば、まずその器量を見せてください! 同盟の条件もそれからですねー!――では、そういうことですので、ひとまずごきげんよう! カノンさんの覚悟が決まり次第、また連絡をください!」
そして冬華は言いたいことを言うと、スカートの裾を持ち上げながら優雅にお辞儀を。そして手をひらひらさせ、部屋を出ていってしまう。
こうして東條冬華との会談は、いったん幕を閉じるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる