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4章 第2部 それぞれの想い
166話 透とヴァーミリオン
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「トオルセンパイ、お茶をどうぞっす」
「エリー、ありがとう」
時刻は十時三十分ごろ。来客用のソファーに座っていると、エリーがお茶を出してくれた。
透がいるのは、昨日アビスエリアの十六夜島で戦ったエデン協会ヴァーミリオンたちのオフィスである。中はあちこちに物が積まれ散らかっており、気性が荒そうなメンバーが多く集まるせいかどこか物騒な雰囲気がただよっていた。
「それにしてもまさか、透センパイとやり合うことになるとは」
エリーは向かいのソファーに腰を下ろしながら、感慨深そうに笑う。
「はは、学園の方で嫌な予感はしてたけど、本当に敵として現れた時は肝を冷やしたよ。まさかエリーほどの強敵が立ちふさがるなんてね。おかげで完全に足止めされてしまった」
出されたお茶をいただきながら、昨日エリーたちと戦った出来事を思い出す。
レイジと結月を逃がしたあと、透と伊吹はエリーたちとしばらくやり合っていたのだ。相手の力量は互角かそれ以上だったため切り抜けられず、見事足止めをくらい続けていたのであった。
「あれは主にアキラのおかげっすよ。自分はほとんど援護してただけっすからね」
「いや、エリーの的確なタイミングでの狙撃はほんときつかったよ。現にボクと一緒に戦った伊吹も賞賛してたしね。敵ながら見事なウデだって。さすがは射殺しの狩人。その通り名は伊達じゃないね」
謙遜するエリーに、そんなことないと心からほめたたえる。
透たちの攻撃のチャンスは、エリーの弓矢によりなんども妨害されてしまったのだ。もちろん攻撃面でもアキラとの見事な連携で、なんどヒヤヒヤさせられたことか。もはや被験者時代とは比べ物にならないほど、ウデを上げていたといっていい。
「フフ、どうもっす」
「アキラさんの方もさすがというか。うん、圧巻の強さだったね。このボクがあそこまで押されるなんて。やっぱりSSランクとなると、強さの次元が違うよ」
だるそうに社長席に座っていたアキラにも、賞賛の言葉を送る。
エリーの強さは被験者時代から知っていたため、そこまで驚きはしなかった。だが実際戦ったことのないアキラを相手にした時は、冷や汗をかきっぱなしだったのだ。というのも彼の恐ろしいアビリティと獣のごとき苛烈な剣さばきを前に、ずっと押され気味だったのだから。
「てめぇもなかなか歯ごたえがあったぜ。あそこまで俺に食いついてくるとはな。あー、ほんと決着がつくまで、とことんやりたかったぜ。途中で撤退命令がなければ、あのまま熱い戦いができたのによ」
頭の後ろに両手を回し、机の上に両足を乗っけるアキラ。そして天井を見上げながら、すねた感じに愚痴りだす。
「――ははっ……、ボクとしては助かったかな……」
その件については正直、安堵するしかない。
結局エリーたちとの戦いは、彼女たちが撤退したことで幕を閉じた。その時にはアポルオンの巫女であるカノンが、ちょうどアビスエリアの十六夜島の外へ出たあたり。向こうは目的を達成したため、これ以上の戦闘は無駄だと撤退することにしたらしい。
実際のところもしエリーたちがあのまま戦いを続行していれば、強制ログアウトされていた可能性もあった十分あったといっていい。
「いやー、ほんと心苦しかったすよ。あれだけ協力すると言ってた手前、いきなり敵対するんすから」
エリーは肩をすくめながら、申しわけなさそうに笑う。
昨日の喫茶店で、透の力になるとあれだけ自信満々に宣言してくれたのだ。それゆえ余計に気まずそうであった
「はは、仕事だったんだからしかたないさ。今回は敵同士だったけど、次は期待させてもらうよ」
「はい、任せてほしいっす。それでトオルセンパイ、今後の予定とかあるんすか? なにかあるならスケジュールの方、あけとくっすよ?」
笑顔で目くばせすると、エリーは胸に手を当てさっそく透の力になってくれようと。
これから戦力が欲しい時は、エリーたちに依頼するのも一つの手だろう。伊吹がどういうかわからないが、彼女も昨日の戦いでヴァーミリオンを高く評価していた。なので信頼に値すると推薦すれば、以外と許可してくれるかもしれない。
「今回みたいなアイギスとやり合うのはねーのかよ? あいつらと敵対するなら、よろこんで引き受けてやるぜ」
するとアキラの方も、なにやら期待に満ちた視線を向け協力してくれようと。
「ありがとう。でも今のところエデンでの作戦の話はなさそうだね。くわしいことは伊吹に聞かないとわからないけど」
ルナたちに今後の動きを聞いたところ、とくにないとのこと。というのもすでにカノンをしばる鎖が壊されたため、現状エデンでやれることはないらしい。
「そうっすか。じゃあ、その人によろしく言っといてほしいっす。ぜひごひいきにと」
「はは、ボクから打診しておくよ。ただアポルオン関係の依頼になりそうだから、キツイ仕事になるかもだけどね」
「フフ、その分の報酬をいただけるなら、よろこんでっす!」
手で銭マークを作りながら、ニヤリと笑うエリー。
「おうよ、上等だ。なんならうちの連中全員でカチコミに向かってやるぜ!」
アキラもアキラで不敵な笑みを浮かべ、ドンっとこいと乗り気に。
「頼もしい限りだよ。それじゃあ、早いけどおいとまさせてもらおうかな」
二人の頼もしい返事を聞けたところで、立ち上がる。
「トオルセンパイ、なにもないところっすけど、もっとゆっくりしていけばいいのに」
「ごめん、このあと待ち合わせをしてるんだ」
そう、実はこのあと予定が入っているのである。なのでゆっくりしたいのはやまやまだが、そろそろ待ち合わせ場所に向かわなければ。
「へぇ、だれとっすか?」
「はは、少しお姫様とね」
こうして透はルナとの待ち合わせ場所に向かうため、ヴァーミリオンの事務所をあとにした。
「エリー、ありがとう」
時刻は十時三十分ごろ。来客用のソファーに座っていると、エリーがお茶を出してくれた。
透がいるのは、昨日アビスエリアの十六夜島で戦ったエデン協会ヴァーミリオンたちのオフィスである。中はあちこちに物が積まれ散らかっており、気性が荒そうなメンバーが多く集まるせいかどこか物騒な雰囲気がただよっていた。
「それにしてもまさか、透センパイとやり合うことになるとは」
エリーは向かいのソファーに腰を下ろしながら、感慨深そうに笑う。
「はは、学園の方で嫌な予感はしてたけど、本当に敵として現れた時は肝を冷やしたよ。まさかエリーほどの強敵が立ちふさがるなんてね。おかげで完全に足止めされてしまった」
出されたお茶をいただきながら、昨日エリーたちと戦った出来事を思い出す。
レイジと結月を逃がしたあと、透と伊吹はエリーたちとしばらくやり合っていたのだ。相手の力量は互角かそれ以上だったため切り抜けられず、見事足止めをくらい続けていたのであった。
「あれは主にアキラのおかげっすよ。自分はほとんど援護してただけっすからね」
「いや、エリーの的確なタイミングでの狙撃はほんときつかったよ。現にボクと一緒に戦った伊吹も賞賛してたしね。敵ながら見事なウデだって。さすがは射殺しの狩人。その通り名は伊達じゃないね」
謙遜するエリーに、そんなことないと心からほめたたえる。
透たちの攻撃のチャンスは、エリーの弓矢によりなんども妨害されてしまったのだ。もちろん攻撃面でもアキラとの見事な連携で、なんどヒヤヒヤさせられたことか。もはや被験者時代とは比べ物にならないほど、ウデを上げていたといっていい。
「フフ、どうもっす」
「アキラさんの方もさすがというか。うん、圧巻の強さだったね。このボクがあそこまで押されるなんて。やっぱりSSランクとなると、強さの次元が違うよ」
だるそうに社長席に座っていたアキラにも、賞賛の言葉を送る。
エリーの強さは被験者時代から知っていたため、そこまで驚きはしなかった。だが実際戦ったことのないアキラを相手にした時は、冷や汗をかきっぱなしだったのだ。というのも彼の恐ろしいアビリティと獣のごとき苛烈な剣さばきを前に、ずっと押され気味だったのだから。
「てめぇもなかなか歯ごたえがあったぜ。あそこまで俺に食いついてくるとはな。あー、ほんと決着がつくまで、とことんやりたかったぜ。途中で撤退命令がなければ、あのまま熱い戦いができたのによ」
頭の後ろに両手を回し、机の上に両足を乗っけるアキラ。そして天井を見上げながら、すねた感じに愚痴りだす。
「――ははっ……、ボクとしては助かったかな……」
その件については正直、安堵するしかない。
結局エリーたちとの戦いは、彼女たちが撤退したことで幕を閉じた。その時にはアポルオンの巫女であるカノンが、ちょうどアビスエリアの十六夜島の外へ出たあたり。向こうは目的を達成したため、これ以上の戦闘は無駄だと撤退することにしたらしい。
実際のところもしエリーたちがあのまま戦いを続行していれば、強制ログアウトされていた可能性もあった十分あったといっていい。
「いやー、ほんと心苦しかったすよ。あれだけ協力すると言ってた手前、いきなり敵対するんすから」
エリーは肩をすくめながら、申しわけなさそうに笑う。
昨日の喫茶店で、透の力になるとあれだけ自信満々に宣言してくれたのだ。それゆえ余計に気まずそうであった
「はは、仕事だったんだからしかたないさ。今回は敵同士だったけど、次は期待させてもらうよ」
「はい、任せてほしいっす。それでトオルセンパイ、今後の予定とかあるんすか? なにかあるならスケジュールの方、あけとくっすよ?」
笑顔で目くばせすると、エリーは胸に手を当てさっそく透の力になってくれようと。
これから戦力が欲しい時は、エリーたちに依頼するのも一つの手だろう。伊吹がどういうかわからないが、彼女も昨日の戦いでヴァーミリオンを高く評価していた。なので信頼に値すると推薦すれば、以外と許可してくれるかもしれない。
「今回みたいなアイギスとやり合うのはねーのかよ? あいつらと敵対するなら、よろこんで引き受けてやるぜ」
するとアキラの方も、なにやら期待に満ちた視線を向け協力してくれようと。
「ありがとう。でも今のところエデンでの作戦の話はなさそうだね。くわしいことは伊吹に聞かないとわからないけど」
ルナたちに今後の動きを聞いたところ、とくにないとのこと。というのもすでにカノンをしばる鎖が壊されたため、現状エデンでやれることはないらしい。
「そうっすか。じゃあ、その人によろしく言っといてほしいっす。ぜひごひいきにと」
「はは、ボクから打診しておくよ。ただアポルオン関係の依頼になりそうだから、キツイ仕事になるかもだけどね」
「フフ、その分の報酬をいただけるなら、よろこんでっす!」
手で銭マークを作りながら、ニヤリと笑うエリー。
「おうよ、上等だ。なんならうちの連中全員でカチコミに向かってやるぜ!」
アキラもアキラで不敵な笑みを浮かべ、ドンっとこいと乗り気に。
「頼もしい限りだよ。それじゃあ、早いけどおいとまさせてもらおうかな」
二人の頼もしい返事を聞けたところで、立ち上がる。
「トオルセンパイ、なにもないところっすけど、もっとゆっくりしていけばいいのに」
「ごめん、このあと待ち合わせをしてるんだ」
そう、実はこのあと予定が入っているのである。なのでゆっくりしたいのはやまやまだが、そろそろ待ち合わせ場所に向かわなければ。
「へぇ、だれとっすか?」
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こうして透はルナとの待ち合わせ場所に向かうため、ヴァーミリオンの事務所をあとにした。
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