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4章 第4部 それぞれの想い
182話 美月とリネット
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時間帯は夕方ごろ、灰色の雲におおわれた空の下。先ほどまでは廃墟の市街地であったが、次第に建物の数もすくなくなり現在は街はずれみたいな場所。民家や小さなお店が時々建っているだけで、たまに荒れ果てた畑や田んぼがある人通りが少なそうな道を、できるだけ身をひそめながら進んでいた。
というのも現在リネットの指示にしたがい、咲を追跡している真っ最中。すでに十六夜市方面のシティーゾーンを出て、遠出していた。
ここまですんなりいけているのも、すべてリネットのおかげ。咲を補足し続けてくれているので、ターゲットにばれない距離を維持しつつ追跡できているのである。もちろん周りの索敵もこなしてくれており、ほかの敵と遭遇せずにだ。ちなみにリネット自身はこの場にいない。いるのは彼女のオオカミ型のガーディアンだけ。本人は先ほどのシティーゾーンで、オオカミ型のガーディアンを起点にし改ざんのサポートをしてくれているのだ。
「なあ、美月。リネットとはどういう関係なんだ?」
あとをつけながら、気になっていたことを美月にたずねる。
「そうですね。レイジさんと、ゆきさんみたいな関係といいましょうか。知り合ってからたまに、リネットのお仕事を手伝ってあげたりしてるんですよ。彼女、友達少ないですから、クス」
美月はリネットの操るガーディアンに視線を送りながら、クスリと笑う。
初めはどうして面識があるのか不思議だったが、電子の導き手関係なら納得がいくというもの。おそらくリネットを何度か雇っているうちに、仲良くなったとかそういうところだろう。
「うるさい、あたしはなれ合いが嫌いなだけ。よけいなお世話」
するとリネットは、狼型のガーディアンを通してきっぱり言い放つ。
「ご覧の通り。この子、少し気が難しいから、頼れる人がすくないんです。だからそれを見かねて、少しお手伝いをね」
やれやれと肩をすくめ、ほほえましい笑みを浮かべる美月。
「はぁ? 美月は手伝うより、使ってくる方が圧倒的に多いんだけど」
「クス、そうでしたか?」
「片桐家次期当主に、電子の導き手SSランク幻惑の人形師とは、なかなか豪勢なコンビだな」
「はっ、まさか。美月とコンビなんてゴメン。いろいろ痛いところついて、からかってくるし」
仲がよさそうな二人を見ての素直な感想に、リネットがすぐさま不服そうに抗議を。
レイジ自身も美月には散々からかわれているため、少し彼女の気持ちがわかるような気がした。
「――ははは……、なんだか身におぼえがあるような……」
「おや、案外嫌われてますね。どうもリネットの愛しの彼のようには、なれませんね」
美月はほおに手を当て、少しわざとらしくため息を。
「はぁ? あいつはそんなんじゃなく、いわばあたしの付属品。いて当然なの。だというのに最近はまったく帰ってこないし、あー、むかつく……」
リネットは美月の意味ありげな発言に、さぞ当然のように主張する。それからその人物に対し、不満を口に。
かなりひどい言いようだが、その言葉にはタダならぬ想いが込められている気がした。おそらくリネットにとって、よほど信頼している相手なのだろう。
「クス、あの人は本当に苦労してますね」
「なになに? なにやら恋バナのニオイを感じるんだよ!」
リネットに関する人物の話題に、カノンは目を輝かせ興味深々と食いつきだす。
「うるさい! もうその話題は禁止! これ以上続けるなら、殺す」
だがリネットの文句に、話の流れは切られてしまった。
「――うぅ……、気になるんだよ……」
「それはそうとリネット、今だターゲットに変わりはありませんか?」
そんな中、ふと美月が現状の確認を。
「ターゲットはぶらぶらしながら、歩き続けてる。あと、こっちの追跡にはまだ気付いていない様子」
「向こうも改ざんで対策してるのに、よくそこまでうまくいくもんだな」
リネットの報告によると、咲は改ざんによる隠密行動。相手の索敵に引っかからないように、ステルス状態になって目的地を目指しているそうなのだ。だがリネットはそれにも関わらず咲を索敵し続け、おまけに気づかれていない。普通、咲のように警戒していれば、自分が補足されているとすぐにバレるものなのだが。
「そこはウデの見せ所。普通はただ索敵して補足し続けるものだけど、プロは違う。いかに相手の裏をかけるか。そう、相手の改ざんの網に引っかからず、裏で掌握できるかが鍵となってくる」
リネットは得意げになって説明を。
ようは相手に気付かれず、こちらの思い通りにするということだ。そうすれば相手の抵抗を受けることなく、事を有利に進められる。だが実際問題、相手の改ざんの網に引っかからずに干渉するのは、至難の業といっていい。相手は割り込まれるのを危惧し、常に自身の敷いた網に目を光らせているのだ。そんな警戒している中をかいくぐるのは、よほどの技術が必要であった。
「あまり思い出したくないけど、少し前の十六夜タワーの一件がそう。あたしは改ざんであの場一帯を掌握してたけど、気付けば剣閃の魔女が裏から侵入していた。そのおかげであいつはあたしの書き換え作業に割り込み、妨害できたというわけ。だから完全に改ざんのサポートをできたとしても、油断は禁物。いつ裏から足元をすくわれるか、わかったものじゃないから」
「なるほど、改ざんのサポートも、一筋縄にはいかないというわけか」
改ざんのサポートの奥の深さに、感心せざるを得ない。
常に裏からの侵入を警戒しつつ、本命のサポートをしなければならないのだ。どれだけの神経を使うものなのか、考えるだけで頭が痛くなりそうである。
「それでリネットちゃん、咲ちゃんの向かってる場所の目星はつきそうかな?」
「あらかたついてきたと思う。たぶんもうすぐ目的地に到着するはず。その証拠に、奥に強力な改ざんのサポートが張りめぐらされてるみたいだし」
改ざんのサポートが張り巡らされているということは、警戒しているということ。ならばその場所になにかがあるのは明白。おそらくエデン財団上層部関連のものが、待ちかまえているのだろう。
「いよいよ、エデン財団上層部の尻尾をつかめるというわけだな」
「やったね、レージくん!」
「でも気をつけて。その改ざんのサポート、かなり巧妙に張りめぐらされてる。電子の導き手でも、見落としてしまいそうなほど。ええ、よほどの電子の導き手がいると見ていい。あたしと同じ、SSランクレベルの」
しかし喜ぶのもつかの間、リネットが深刻そうに説明を。
やはりエデン財団上層部となれば、咲レベルの人材が他にもいるのだろう。なのでSSランククラスの電子の導き手がいても、おかしくはない。今まではリネットのウデでなんとかなっていたが、同じ条件下になるためここから先は一筋縄で行かないはず。
「そっかー、気を引き締めないとだね」
「クス、面白くなってきましたね。では敵地に乗り込むとしましょう」
「ああ、行くぞみんな」
みなでうなずき合い、さらに先へ進んでいく。
「そろそろ見えてくるはず。ほらあそこ。あの森林地帯の進んだ奥に、ターゲットが向かった」
するとリネットの言うように、樹木が生い茂る一帯が見えてきた。
というのも現在リネットの指示にしたがい、咲を追跡している真っ最中。すでに十六夜市方面のシティーゾーンを出て、遠出していた。
ここまですんなりいけているのも、すべてリネットのおかげ。咲を補足し続けてくれているので、ターゲットにばれない距離を維持しつつ追跡できているのである。もちろん周りの索敵もこなしてくれており、ほかの敵と遭遇せずにだ。ちなみにリネット自身はこの場にいない。いるのは彼女のオオカミ型のガーディアンだけ。本人は先ほどのシティーゾーンで、オオカミ型のガーディアンを起点にし改ざんのサポートをしてくれているのだ。
「なあ、美月。リネットとはどういう関係なんだ?」
あとをつけながら、気になっていたことを美月にたずねる。
「そうですね。レイジさんと、ゆきさんみたいな関係といいましょうか。知り合ってからたまに、リネットのお仕事を手伝ってあげたりしてるんですよ。彼女、友達少ないですから、クス」
美月はリネットの操るガーディアンに視線を送りながら、クスリと笑う。
初めはどうして面識があるのか不思議だったが、電子の導き手関係なら納得がいくというもの。おそらくリネットを何度か雇っているうちに、仲良くなったとかそういうところだろう。
「うるさい、あたしはなれ合いが嫌いなだけ。よけいなお世話」
するとリネットは、狼型のガーディアンを通してきっぱり言い放つ。
「ご覧の通り。この子、少し気が難しいから、頼れる人がすくないんです。だからそれを見かねて、少しお手伝いをね」
やれやれと肩をすくめ、ほほえましい笑みを浮かべる美月。
「はぁ? 美月は手伝うより、使ってくる方が圧倒的に多いんだけど」
「クス、そうでしたか?」
「片桐家次期当主に、電子の導き手SSランク幻惑の人形師とは、なかなか豪勢なコンビだな」
「はっ、まさか。美月とコンビなんてゴメン。いろいろ痛いところついて、からかってくるし」
仲がよさそうな二人を見ての素直な感想に、リネットがすぐさま不服そうに抗議を。
レイジ自身も美月には散々からかわれているため、少し彼女の気持ちがわかるような気がした。
「――ははは……、なんだか身におぼえがあるような……」
「おや、案外嫌われてますね。どうもリネットの愛しの彼のようには、なれませんね」
美月はほおに手を当て、少しわざとらしくため息を。
「はぁ? あいつはそんなんじゃなく、いわばあたしの付属品。いて当然なの。だというのに最近はまったく帰ってこないし、あー、むかつく……」
リネットは美月の意味ありげな発言に、さぞ当然のように主張する。それからその人物に対し、不満を口に。
かなりひどい言いようだが、その言葉にはタダならぬ想いが込められている気がした。おそらくリネットにとって、よほど信頼している相手なのだろう。
「クス、あの人は本当に苦労してますね」
「なになに? なにやら恋バナのニオイを感じるんだよ!」
リネットに関する人物の話題に、カノンは目を輝かせ興味深々と食いつきだす。
「うるさい! もうその話題は禁止! これ以上続けるなら、殺す」
だがリネットの文句に、話の流れは切られてしまった。
「――うぅ……、気になるんだよ……」
「それはそうとリネット、今だターゲットに変わりはありませんか?」
そんな中、ふと美月が現状の確認を。
「ターゲットはぶらぶらしながら、歩き続けてる。あと、こっちの追跡にはまだ気付いていない様子」
「向こうも改ざんで対策してるのに、よくそこまでうまくいくもんだな」
リネットの報告によると、咲は改ざんによる隠密行動。相手の索敵に引っかからないように、ステルス状態になって目的地を目指しているそうなのだ。だがリネットはそれにも関わらず咲を索敵し続け、おまけに気づかれていない。普通、咲のように警戒していれば、自分が補足されているとすぐにバレるものなのだが。
「そこはウデの見せ所。普通はただ索敵して補足し続けるものだけど、プロは違う。いかに相手の裏をかけるか。そう、相手の改ざんの網に引っかからず、裏で掌握できるかが鍵となってくる」
リネットは得意げになって説明を。
ようは相手に気付かれず、こちらの思い通りにするということだ。そうすれば相手の抵抗を受けることなく、事を有利に進められる。だが実際問題、相手の改ざんの網に引っかからずに干渉するのは、至難の業といっていい。相手は割り込まれるのを危惧し、常に自身の敷いた網に目を光らせているのだ。そんな警戒している中をかいくぐるのは、よほどの技術が必要であった。
「あまり思い出したくないけど、少し前の十六夜タワーの一件がそう。あたしは改ざんであの場一帯を掌握してたけど、気付けば剣閃の魔女が裏から侵入していた。そのおかげであいつはあたしの書き換え作業に割り込み、妨害できたというわけ。だから完全に改ざんのサポートをできたとしても、油断は禁物。いつ裏から足元をすくわれるか、わかったものじゃないから」
「なるほど、改ざんのサポートも、一筋縄にはいかないというわけか」
改ざんのサポートの奥の深さに、感心せざるを得ない。
常に裏からの侵入を警戒しつつ、本命のサポートをしなければならないのだ。どれだけの神経を使うものなのか、考えるだけで頭が痛くなりそうである。
「それでリネットちゃん、咲ちゃんの向かってる場所の目星はつきそうかな?」
「あらかたついてきたと思う。たぶんもうすぐ目的地に到着するはず。その証拠に、奥に強力な改ざんのサポートが張りめぐらされてるみたいだし」
改ざんのサポートが張り巡らされているということは、警戒しているということ。ならばその場所になにかがあるのは明白。おそらくエデン財団上層部関連のものが、待ちかまえているのだろう。
「いよいよ、エデン財団上層部の尻尾をつかめるというわけだな」
「やったね、レージくん!」
「でも気をつけて。その改ざんのサポート、かなり巧妙に張りめぐらされてる。電子の導き手でも、見落としてしまいそうなほど。ええ、よほどの電子の導き手がいると見ていい。あたしと同じ、SSランクレベルの」
しかし喜ぶのもつかの間、リネットが深刻そうに説明を。
やはりエデン財団上層部となれば、咲レベルの人材が他にもいるのだろう。なのでSSランククラスの電子の導き手がいても、おかしくはない。今まではリネットのウデでなんとかなっていたが、同じ条件下になるためここから先は一筋縄で行かないはず。
「そっかー、気を引き締めないとだね」
「クス、面白くなってきましたね。では敵地に乗り込むとしましょう」
「ああ、行くぞみんな」
みなでうなずき合い、さらに先へ進んでいく。
「そろそろ見えてくるはず。ほらあそこ。あの森林地帯の進んだ奥に、ターゲットが向かった」
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