電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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4章 第4部 それぞれの想い

184話 案内人

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「この森林地帯に上層部の人間がいるんだね」

 とおるとルナがいるのは、クリフォトエリアのとある森林地帯。その奥にある樹木とツタに浸食された市街地の中。もう少し先に行ったところには、街中だというのに大きな湖が見える。ここは十六夜いざよい市方面のシティーゾーンから、少し離れたところにある場所であった。
 なぜここに来たのか。その答えはこれからルナのツテによって、エデン財団上層部の人間と会う機会ができたからなのだ。

「ええ、話によると、ここで調査をしているそうです。忙しい身の上、申しわけないが会いに来てほしいと」
「はは、まさかこんなに早く、手掛かりがつかめるなんて驚きだよ」

 これまでほとんど実体がつかめなかった組織であったが、ここにきて一気に進展。ルナのおかげで、実際に上層部の人間とコンタクトをとれるところまでいったのだ。もはや笑うしかない状況である。

「エデン財団上層部にとって、お父様の影響はとても大きい。だからこそその娘であり、サージェンフォード家次期当主である私を無視できなかったみたいですね。アプローチしてみたら、すぐに返事がきました」

 ルナは胸に手を当て、瞳を閉じる。

「でも大丈夫なのかい? 探ってることがルナのお父さんにばれたりは?」

 ここでの話し合いは、エデン財団上層部を通じてルナの父親にとどくはず。そうなれば勝手に調べていることがばれてしまい、ルナの立場をわるくするおそれが。

「そのことに関しては仕方ないと思っていたのですが、案外うまくいきそうなんですよね。実は今回の話し合いの場、互いにお父様には内密にという話でして」
「それって」
「本来なら私にでさえ、情報を漏らせないみたいなんです。ですが今後のよりよい関係のため、話しあいにおうじてくれるそうです」
「なるほど、いづれルナはサージェンフォード家当主になるし、今のうちにこびを売っとこうというわけか」

 そう、ルナはサージェンフォード家次期当主。いづれ彼女は父親に変わり当主の座につくことに。そうなればエデン財団上層部は、彼女に指示される形になるはず。ゆえにここで恩を売っとくことで、今後いろいろ便宜べんぎを図ってもらう腹積もりなのかもしれない。

「ただ確信に触れるところまでは無理らしく、当たりさわりのない程度ならという話でした。ですので本当に欲しい答えは、得れそうにないのですが……」

 肩を落としながら、目をふせるルナ。
 それは仕方のないこと。エデン財団上層部側からしてみれば、ここで情報を漏らしたことで自分たちの研究を、破綻はたんに追い込む恐れがあるのだ。さすがにこびのためとはいえ、そこまでのリスクは負いたくないのだろう。

「それでも十分な成果のはずだよ。うまくいけばこの件を機会に、いろいろ駆け引きができるかもしれない」
「ええ」

 ルナは手をぐっとにぎってうなずく。

「それで目的の人物とは、どこで待ち合わせなんだい?」
「確か使いの者を送るだそうですよ」
「そう、博士ならこっち」

 すると建物の物影の方から、スッと刀を持った一人の少女が現れた。

「――キミは……、まさかナツメ?」

 その少女には見覚えがあった。それもそのはず彼女は六年前までの被験者時代、一緒に戦っていた仲間の一人。相手を斬ることしか興味のない、物騒な黒髪の少女。歳は透より一つ年下で名を静野しずのナツメという。

「透、お知り合いなのですか?」
「ああ、昔いろいろあった仲なんだ」
「ふん、あいにく裏切り者のことなんて知らない」

 だがナツメは視線を合わしてくれず、そっぽを向いてしまう。
 裏切り者。なぜそのように言われるのか。その答えは六年前ナツメが、透たちと一緒に逃げなかったから。そう、彼女はあの研究施設に残る道を選んだのである。というのも彼女はただ刀を振るえればよかったため、被験者のままでなんの文句もなかったのだ。それゆえ研究施設から逃げ出した透たちに、いろいろ思うことがあるのだろう。
 ちなみに六年前の脱走以降彼女とは出会う機会がなく、どこでなにをしているかさえわからなかった。しかしここにいるということは、今だエデン財団内部に身を置いていることにほかならない。

「やっぱりナツメか。久しぶりだね。会えてうれしいよ」
「こっちはうれしくない。もしおつかいの途中じゃなきゃ、トオルを斬りにいってた」

 ナツメは刀のさやから刃をちらつかせ、殺意を飛ばしてくる。その答えに嘘はなく、今にも斬りたくてたまらないと言いたげであった。

「――はは……、いきなり物騒なごあいさつだね……。それよりも聞きたいことが」
「だまれ。裏切り者と話すことなんてない」
「クッ」

 咲のことを聞こうとするが、容赦ようしゃなくさえぎられてしまう。
 昔はここまで邪険に扱われることはなく、割と普通に話せていたのである。どうやらあそこから逃げだしたことに対し、相当怒っているようだ。

「それよりも博士に会いたいなら、だまってついてきて」

 そしてすぐさま背を向け、奥へと歩いていくナツメ。
 もはや久しぶりの再開にひたる余韻よいんなど、持ち合わせていないらしい。

「――あのー、透、なんだか彼女にすごく嫌われてません?」

 その光景を見ていたルナが、おずおずとたずねてくる。

「そうだね。思った以上に、あそこから出ていったことを怒ってるみたいだ。これは話しを聞いてもらえそうにないね」

 無理に聞き出そうとすれば、確実に刃を抜いてくるだろう。ナツメは相手を斬ることにまったく躊躇ちゅうちょしない主義。ゆえにいくらおつかいとはいえ、自分のしゃくにさわればそれを理由に斬ってくるはずだ。そうなればこの会談も、最悪白紙になる恐れが。

「どうしますか?」
「取り付く島がなさそうだし、今回はあきらめるしかないようだね。今はその博士という人のところに会いに行くのが、先決かな」
「わかりました。では、彼女について行きましょう」

 しかたがないため、だまってナツメのあとについていく透たちなのであった。

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