電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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4章 第4部 それぞれの想い

191話 レイジvs透 第2ラウンド②

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「クッ!?」

 とおるひたいに強打を受けひるむ。
 なにが起こったかというと、レイジが透の腕を引き寄せ頭突きをしたのだ。結果、ダガーが胴体をかすることになったが、ピンチを切り抜けることに成功する。そして予想外の事態で透が硬直しているうちに、右手で地面に突き刺さっていた刀をとり、振りかぶる。相手の腕は左手でつかんでいるため、回避はさせない。決め手の斬撃をたたき込もうと。

「させないよ!」

 しかし透は右膝みぎひざで、レイジの腹にりを。
 突然のダメージでレイジが一瞬ひるんでいる隙に、透は思いっきり後方へ跳躍ちょうやく。つかまれていた手を無理やり引きはがし、斬撃をかわした。

「よくしのいだね。でも次でしとめさせてもらうよ」

 だがそれだけではおわらない。後ろに下がったと思いきや、即座に地面を蹴りレイジへ放たれた弾丸のごとく突っ込んできた。

叢雲抜刀陰術むらくもばっとういんじゅつ!」

 その極限二式による脅威きょういのスペックでの突貫に対し、すでにレイジは刀をさやへ。そして得物をとらえ、刀を引きぬく動作に。

「一の型、刹華乱せっからん!」

 透の渾身こんしんの一撃に、目にも止まらぬ高速の二連撃が立ちはだかる。
 叢雲抜刀陰術一の型、刹華乱。これは抜刀のアビリティのブースト効果を利用した、技の一つ。斬撃強化に加え、右腕の動作スピードにもブーストをかけ放った一撃だ。これにより通常一振りの時間内にほぼ二撃放ち、常人ならば同時に繰り出されたと錯覚さっかくするほどの斬撃ができるのだ。ただこの技は一撃必殺に重視を置かず、手数による攻めを第一としている。そのため斬撃の威力が、通常の抜刀時より弱くなってしまうのだが。
 激闘の行方ゆくえは、二連の斬撃が降りかかる暗殺者の一閃を弾き返すことに成功。しかも二撃目が透の脇腹わきばらをかすめることに。

「まだまだ!」

 透は反動で吹き飛ばされそうになるも、踏みとどまる。そして強化したスペックで動作後の硬直状態を無理やり抑えこみ、地面を蹴った。今だ技の反動で硬直しているはずのレイジへ、とどめを刺すために。
 透のビジョンだと、レイジの急所をつらぬいていただろう。だが現実は違った。

「さっきまでと動きが違う!? 」

 今起こったことに透は唖然あぜんとするしかないようだ。
 斬撃をくらい、データの粒子がき出たのは一人だけでない。なんとすれ違いに様による一閃で、両者腕に被弾していた。そう、動作後の硬直状態を無理やり抑え込んだのは、透だけではなかった。レイジもまた同じタイミングで前に出て、一刀いっとうをくり出していたのである。結果、痛み分けの展開へと。
 レイジが後ろを振り返ると、そこに先程までいた透の姿はなかった。さすがは透。動揺を押し殺し、いち早く次の攻撃へ移ったようだ。

「とった!」

 そして上空から音もなく暗殺者のダガーが。
 敵は跳躍ちょうやくしてからの急降下。レイジの脳天目掛け刺しに。その攻撃までの動作はまさに完璧。高いスペックと洗練された技術により、神がかっていたといっていい。常人ならば気付いた時には、ダガーの餌食えじきになっていただろう。
 しかしダガーがとどく時には、レイジの姿はない。ダガーは得物を見失い、そのまま地面へ突き刺さってクレータを作るだけに。

「これも効かないなんて!? 二式のボクに反応しきってるだと!?」

 間一髪かんいっぱつのところで後方へ下がったレイジに、透は驚愕きょうがくの言葉を。
 彼が驚くのも無理はない。さっきまでのレイジなら、透の攻撃をここまでしのげはしないのだから。それもそのはず透をとらえ続ける瞳は、すでに先程までと違うのだ。彼が殺人マシーンのようなら、レイジの瞳はまるでけもの。ただ斬りせることを渇望かつぼうする、戦闘狂の目だ。そしてなにより違うのはレイジの剣筋。これまでの透戦では、カノンの再び会えた影響からかまだ守るための剣の太刀筋たちすじがあった。しかし今のレイジが振るう剣には、そのきざしすらない。ただ相手を斬り伏せることに執着した、破壊の剣の太刀筋だけ。そう、もはやここにエデン協会アイギスで戦っていたレイジの姿はない。いるのは狩猟兵団レイヴンにいたころの、久遠くおんレイジであった。

「叢雲抜刀陰術、二の型、斬空刃ざんくうじん!」

 回避した直後、レイジは己が身体の動くままに刀をさやへ。アビリティを起動する。
 抜刀したことにより放たれるは、大気を斬り裂きながら得物へ飛翔ひしょうする斬撃。叢雲流抜刀陰術二の型、斬空刃。抜刀のアビリティのブーストを、斬った時に応じる風圧に付加させくり出す技である。強靭きょうじんな飛ぶ刃と化した斬撃は、またたく間に標的へ。切断しようとうなりを上げた。

「飛ぶ斬撃か! クッ!」

 だが透は斬空刃による斬撃を、ダガーで受け止める。そして剣圧に押されながらも、高スペックで見事にそらしてみせた。
 通常の抜刀のアビリティによる超斬撃を、真っ向から受け止める敵だ。意表を突いたとはいえ、しとめるには足りないらしい。結果、斬空刃はそのまま屋上の入口をち切り、真っ二つにするだけでおわってしまう。

「なかなかの技だけど、ボクには通じないよ。――ハッ!?」

 あの程度でやれないことはわかっていたため、レイジは次の一手を打つ。しのいでみせた透へ一気に斬りかかろうと。
 対して、透は再びアイテムストレージからナイフを。そしてレイジの突撃をはばもうと、慣れた手つきで投てきした。投てきされたナイフは、二段階上昇したスペックで投げられているため非常にするどい一撃。当たりどころがわるければ、致命傷になってもおかしくはないほど。
 そんなせまりくるナイフに、レイジがとった行動は。

「回避せずに突っ込んでくる!?」

 そう、レイジは飛翔するナイフを躊躇ちゅうちょせず、そのまま疾走。この好機を逃がしはしないと、ただひたすら前へ。
 右肩にもろに刺さるが、ダメージや痛みなどおかまいなし。代わりに全力で刀を振りかぶる。

「断ち斬る!」
「クッ!?」

 次の瞬間、透を完全にとらえ渾身(こんしん)の一撃をたたき込んだ。
 放った一刀は、ガードしようとした透のダガーを直撃。そのまま標的を断ち切ろうと、咆哮ほうこうを。そしてそのあまりある勢いを持って、透を吹き飛ばした。

「ハァァァァッ!」

 あわてて態勢を整えようとする透との間合いを詰め、一気に勝負をかけた。
 今ある力をすべてそそぎ込む勢いで刀を振るい、怒涛どとうの猛攻を。

「まだだ! ボクは負けるわけにはいかない!」

 だが透もそこでおわりはしない。襲い来る剣戟けんげきを、己が全力を持って打ち返していく。
 刀とダガーが幾度も交差し、しのぎをけずり合う。その一撃一撃はどれも必殺の域。いつ勝負がついてもおかしくない状況の中、二人は一歩たりとも引きはしない。その激闘はまさに意地の張り合いだろう。両者負けられない理由を胸に、どちらかが斬り伏せられるまで攻撃の手をゆるめはしなかった。
 しかしそんな熾烈しれつをきわめる激突も、おわりの時が。
 両者打ち合わせることなく、同時に後ろへ下がる。そのタイミングは、まさに己が最大の一撃をくり出す好機と踏んだがために。
 レイジは刀をさやにおさめ、抜刀のアビリティを。
 透は姿勢を低くし、最高速度で突撃するかまえを。

「叢雲抜刀陰術、四の型、死閃絶刀しせんぜっとう!」
「極限、三式!」

 両者最高威力を誇るであろう一撃を持って、相手を斬り伏せようと。
 レイジが放ったのは抜刀のアビリティ時に付加できるブーストを、筋力ステータスにかけることで繰り出せる技。通常をはるかに超えるパワーと超斬撃のコラボレーションゆえ、その威力は絶大。暴虐ぼうぎゃぐの一刀としていかなるモノもねじ伏せるであろう、叢雲流抜刀陰術最高威力を誇る絶技ぜつぎ
 対する透は極限二式のさらに上をいく力を。信じられないことに、まだ彼のスペックは上がるようだ。二式のスペックでもついて行くのが精一杯だというのに、さらに上げられたとなれば絶望的な戦いになるのは間違いない。

「透!」
「レイジくん!」

 そして二人の必殺の一閃は、真っ向から激突した。
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