電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
195 / 253
4章 第4部 それぞれの想い

190話 レイジvs透 第2ラウンド

しおりを挟む
 姫君ひめぎみたちの戦いがくり広げられている中、廃墟と化した高層ビルの屋上でも激戦が。
 屋上という限られたスペースを、縦横無尽じゅうおうむじんに疾走する一つの人影。その速度はレイジを軽く追い越し、目で追うのも困難。もはや普通の風など生易しいものではなく、いかなるものも吹き飛ばす突風といっていいほど。圧倒的速度で駆け、標的目掛けて正確無慈悲なやいばを放つのだ。
 もはやその姿は軍人に似つかわしくない。いうならば凄腕の暗殺者。すれ違い様に相手の急所をち、しとめる死神。実際とおるのレイジを射抜いぬく瞳からは、普段の温厚さが感じられない。機械のように冷徹な瞳で、殺意を放っていた。

「レイジくん、いい加減降参したらどうだい?」
「ははは、冗談だろ? まだまだお楽しみはこれからだ!」

 ふらつきながらも刀をかまえ、投げ掛けられた提案を笑い飛ばしてやる。

「残念だね。じゃあ、本気でしとめさせてもらうよ!」

 透はレイジの死角である側面に狙いをさだめ、突撃。強靭きょうじんな突風と化し、ダガーを振りかぶる。
 その異常なまでの速度は、少し前アビスエリアの管理区ゾーンで斬り合っていた時よりも上。あの戦いの最後。こちらの叢雲抜刀陰術むらくもばっとういんじゅつ三の型、無刻一閃むこくいっせんの時に見せた、最高速度なのだ。しかもこの速度は先程から常にたもったまま。おそらく今の透は極限二式という状態なのだだろう。もはやその尋常ではないスペックにより敵の正確な位置がつかめず、どこから斬撃が飛んでくるかわからなかった。
 そう、現状レイジが劣勢。極限一式の透とはまだいい勝負ができていたのだが、ギアを上げられたとたん一気に分がわるくなってしまった。

「ッ!? 外しただって!?」

 だが奇襲の一撃は、レイジの肩口を斬り裂くだけでおわった。
 ダガーが届く瞬間、これまで磨いてきた直感に身を任せたのだ。そのおかげで本来首を落とす軌道であった銀閃を、ギリギリのところでそらすことができたのであった。

「とらえた! 抜刀!」

 レイジは斬られたのを躊躇ちゅうちょしないまま、反撃に転じる。
 この不利な状況で普通にやり合えば、勝ち目はない。もはや肉を斬らせて骨を絶つぐらいしなければ、勝機を見いだせないだろう。ゆえに速攻で刀をさやへ。抜刀のアビリティを起動する。そして放たれるは、抜刀のアビリティで威力を限界までブーストさせた超斬撃。生半可な武器であれば、その本体ごと胴体を断ち斬る一閃だ。
 現状攻撃を受けた瞬間に動作へ入ったため、透は今だレイジの間合い内。しかも彼が回避する可能性も見越しているため、そう簡単に逃がしはしない。今のレイジは完全に透をとらえていた。

「クッ!? 二式のスペックなら!」

 だが透はせまりくる抜刀の斬撃に後退せず、態勢を整えダガーを振りかぶる。なんと彼はあろうことか、真っ向からぶつかる選択をしたのだ。
 大気を斬り裂き咆哮ほうこうを上げるレイジの一閃と、透が繰り出す全力のダガーの一閃が激突。するどい金属音があたり一面にひびき、苛烈な火花を散らせた。

「チッ、まっこうから受け止めやがるか!?」

 結果、透は見事レイジの渾身こんしんの一刀をしのぐことに成功する。透のアビリティは、自身のデュエルアバターの全スペックを上げるというもの。よって今の彼は機動力だけでなく、筋力や耐久といったパラメータも上昇していることに。そのおかげで抜刀のアビリティによる超斬撃を、真っ向から受け止めるという離れワザができたのだろう。

「レイジくんでは今のボクを止められない。一気に排除させてもらうよ!」
「ッ!?」

 透は斬撃による反動をスペックで無理やりじ曲げ、次の一手を。アイテムストレージからナイフを取り出し、慣れた手つきで投てきしてくる。
 ナイフはくうを斬り裂き飛翔ひしょう。標的目掛けて一直線に襲い掛かった。
 だがなんとか反応し、ほおをかする程度まで被害を抑える。

「ハァッ!」

 ナイフをやり過ごしたレイジだが、危機はそこでおわらない。
 再び敵に視線を移すと、透は次の攻撃へ。なんとすでに間合いを詰め、回し蹴りを放とうとしていたのだ。その体さばきは、まさに流れるよう。きれいにえがき、レイジの顔を直撃。キレと重みがある強打が襲い、レイジを吹き飛ばした。

「ぐはッ!?」

 吹き飛ばされたレイジだが、すぐさま受け身をとって態勢を整える。
 それと同時にダガーの刺突が目の前に。すでに透が二段階上昇したスペックでまたたく間に接近。レイジのふところまでもぐり込んでいたのだ。
 ダガーの刺突は次々にレイジの胸板に吸い込まれていく。もはやあまりに接近を許してしまったため、刀で防ぐことは不可能。よってレイジは刀を捨て両腕で、透の刺突を繰り出そうとする手をつかみ止めて見せた。

「レイジくん、もう倒れてくれ。ボクの極限きょくげんのアビリティは、自身のデュエルアバターのスペックを上限なく上げられるというものだ。この力の前に、今のキミは勝てはしない」

 膠着こうちゃく状態の中、透は非情な現実を突きつけてくる。
 先程からレイジは透に圧倒されっぱなし。なんとか攻撃に打って出るも、その上昇したスペックにことごとくしのがれてしまっているのだ。
 そんな絶対絶命のピンチ。だというのにレイジは、どうしても知りたかったことをたずねた。

「なあ、透。お前はなんのために、その力をみがいているんだ?」
「すべては妹のためだ。今度こそあの子を守ってあげられるように……」
「――守るか……。――ははは……、やっぱりその力は、誰かのために振るわれてるものなんだな」

 透の真撃な答え。
 その回答はレイジの思った通りだったため、思わず納得の笑みをこぼしてしまう。

「それがどうかしたんだい?」
「――いや、たんにうらやましいと思っただけさ……。その力はカノンとちかいを立てた日から、ずっと求め続けてた力そのもの……。闘争の飢えを満たすために相手を斬りせる力なんかじゃなく、誰かを守るという意味のある力……」

 まぶしそうに目を細め、透のダガーを見つめる。
 彼が振るう刃には、確固とした想いが込められていたのだ。それはレイジがアイギスに入ってから、ずっと求めてきた守るための剣に通ずるもの。いや、完成系といっていいのかもしれない。

(もしオレがカノン一筋で守るための剣をみがいてたら、透の域まで行けたのかな……。そして堂々と彼女の騎士に……)

 思わずもしもの未来を想像してしまう。
 レイジがアリスの手をとらず、ただカノンだけを選んでいたら。おそらく透の域まで守るための剣を磨き上げ、カノンの騎士として十分やっていけたかもしれない。そのことを想うだけで、むねが張り裂けそうになる。

「レイジくん?」
「ははは、わるい、わるい。ただ、透みたいなやつこそ、カノンの騎士にふさわしいんだって再確認しただけだ……。こんな闘争にまった人間、彼女の騎士になれるはずがない……。そんなこととっくにわかっていたのにな……。カノンと再会して、まだ間に合うかもしれないなんてあわい希望を、抱いてしまってたよ……」

 非情な現実を再び思い知らされ、自嘲の笑みを浮かべるしかない。
 今さら守るための剣を求めたところで、もう遅かった。そんな一年程磨いた力程度では、カノンを取り巻く強敵たちに歯が立たないのは明白。もし彼女の騎士になるなら、カノンと誓いを交わした九年前からでなければならなかったのである。
 そう、とっくの昔から、カノンの騎士になれる道は閉ざされていたのだ。その事実はこの前のアーネスト戦で痛いほど実感し、あきらめたはずなのに。しかしカノンと再会し求めていた輝きにふれたことで、熱に浮かされてしまっていたらしい。まだカノンの騎士になれるのではないかと。ここにいるのは彼女に似つかわしくない、闘争に飢えた剣鬼けんきだというのに。

「ありがとな、透。おかげで目が覚めたよ。オレにはもう破壊のための剣しか、ないってことが!」

 現実を受け止め、今度こそ夢からめることにする。
 そして自分がなすべきことを胸に刻み、透の腕をにぎる手に力を込めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...