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5章 第2部 ゆきの家出
208話 お悩み相談室
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レイジとゆきがいるのは、十六夜学園の茶道部の部室。さすがお金持ちが多く通う学園だけあって、設備への力の入れようがすごい。本格的な和室の内装に、立派な畳も完備されているのだ。しかも落ち着けるように、壁は防音素材が使われているらしい。広さも申し分なく、非常にゆったりできる素敵な部室であった。
そんな中、畳の上で二人して正座しているところである。そしてレイジたちの目の前にいるのは、着物を着てお茶をたててくれている少女。革新派のリーダーであり、アポルオン序列八位グランワース家次期当主、シャロンであった。
「ゆき、なんでこんなことになってるんだ? シャロンさんは革新派のリーダー的存在。一応、オレたちの敵にあたるんだぞ?」
「だって相談にのってくれるって言うからぁ。ついでにお茶もごちそうしてくれるって言うしさぁ」
ゆきと小声で今の状況について話し合う。
なぜこうなったのか。それはゆきが学園長室から飛び出すと、偶然シャロンに出くわしたらしい。そしてゆきが途方に暮れていることを話すと、相談に乗ってくれるという流れになったとか。こうして茶道部に招待され、おもてなしされている真っ最中なのであった。
「そう警戒しないでいいわよ、久遠。今はプライベートの時間だし、あんたたちをどうこうしようなんて考えてないわ。ただの善意で、後輩の悩みを聞いてあげようとしてるだけ。ちなみにアタシのお悩み相談室は、かなり評判がいいのよ。よく学生たちが悩みを聞いてほしいって、押し寄せてくるんだから」
胸に手を当て、得意げにほほえみかけてくれるシャロン。
「そうだったんですか。ありがとうございます。ところでシャロンさんって茶道部なんですよね」
慣れた手つきでお茶をたてるシャロンに、気になっていたことを質問してみた。
茶道部の部室のカギを開けたり、着物を用意してあったところを見るに彼女は茶道部の人間なのだろう。
「ええ、アタシも忙しい身の上だから毎日は来れないけど、たまに参加してるわ。こうやってお茶をたてるの、心が落ち着いて好きなのよね。よく、アーネストとかを呼んで、ごちそうしてあげたりしてるわ。はい、どうぞ」
シャロンはよほど茶道が好きなのか、普段とは違う柔らかい表情で説明を。そしてお茶をたておわったらしく、レイジとゆきに差し出してくれた。
「――どうも。とはいっても、オレこういう時の作法まったく知らないんですよね。ゆきは……、まあ、知るわけないよな」
「失礼なぁ! ゆきも一応お嬢様なんだから、作法ぐらいー! ――えっと……、まずはお辞儀して、茶碗を二回まわして、あと……、なんだっけ?」
レイジの決めつけに、ゆきは両腕を上げながら不服の意を示す。そして見てろーっと実践しようとするが、すぐに動きが止まってしまった。
「だめじゃん」
「うるさいなぁ、ちょっとど忘れしただけなんだもん!」
「そういったマナーはあまり気にしてないから、好きに飲みなさい。ふふふふ、それとも今から作法が身につくよう、みっちりレクチャーしてほしい?」
シャロンは口元に手を当て、不敵な笑みでたずねてくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて、好きなふうに。あ、思ってたより苦くないですね。飲みやすくておいしいです」
彼女のご厚意に感謝し、普通にいただく。
すると想像していたよりおいしく、驚いてしまった。こういうお茶は苦いというイメージがあったが、そうでもなく飲みやすい。これならお代わりをいただきたいほどである。
「ふふふふ、あんたたちはこういうのに慣れてなさそうだから、薄めにしといてあげたわ」
「うーん、だけどゆきにはまだ少し苦いかなぁ」
ただゆきにはまだまだ苦かったらしく、渋い表情で感想を口に。
「ははは、ゆきは絶対子供舌だろうからな。これが大人の味ってもんなんだぞ?」
「バカにしやがってぇ! もちろんこれぐらいなんともないよぉ! ゆきは違いのわかる女だからねぇ!」
ゆきはつつましい胸を張って、豪語してくる。ただ表情が少し引きつっており、無理しているのがバレバレだ。
「お茶菓子もどうぞ。お代わりもたくさんあるから」
「わーい! お茶菓子ー! お茶菓子ー! うーん、あまーい!」
しかもあげくの果てに、出されていたお茶菓子をぱぁぁっと顔をほころばせてほおばるゆき。もはやどこからどう見ても子供だ。
「なんか説得力のかけらもないな。――ズズ」
「じゃあ、そろそろ悩みのほうを聞いていきましょうか。アタシは革新派の参謀も務めてるから、それなりにいいアドバイスができると思うわ」
お茶を味わっていると、シャロンが話を進めだす。
「――おぉ、なんかかえでねえさんよりも、頼りになるオーラがビンビンだよぉ」
「ああ、さすがはシャロンさん、これは期待できそうだな」
さすがは革新派のリーダー。まだ少女だというのに、貫禄が出ていて非常に頼りがいがあったといっていい。
「えっとねぇ、かいつまんで話すと、そうまにいさんがこのまま次期当主になったら、白神コンシェルンはアポルオンに乗っ取られてしまうのぉ。だからゆきがそれを食い止めるべく、次期当主になれって言われててぇ」
「ふむ、白神相馬ということは、保守派がからんでいるのね。そこらへん、もう少しくわしく教えてちょうだい」
「なんでも保守派の計画には、白神コンシェルンの力が必要らしいんだぁ。だから向こうはなにがなんでも、乗っ取ろうとしてるみたいー」
「――なるほど、最近やけに白神コンシェルンにご執心だと思っていたけど、すべてはその計画とやらのためだったわけね」
シャロンは目を閉じ、思考をめぐらせる。
「シャロンさん、この状況、どうにかなりそうですか?」
「そうね。あんたたちはすでに白神相馬と、白神楓にアプローチしてきたんでしょ? なら、もう白神コンシェルン内でやれることは、ほとんどないかもしれないわね」
「――はぁ……、やっぱりー……」
突き付けられる事実に、ゆきはぐったりうなだれる。
「となれば、元凶である保守派をどうにかするしかないじゃない?」
「えー、相手は世界を牛耳るアポルオンの最大勢力でしょー。もう、ゆきごときがどうにかできる相手じゃないよぉ」
ゆきはあまりの敵の強大さに、早くもあきらめムードに。
「まあ、向こうは世界でもっとも影響力があるサージェンフォード家を筆頭に、大財閥が集まってるらしいからな。個人でどうにかなる相手でないのは確かだな」
「ふふふふ、なら話は簡単でしょ。個人でだめなら、同じ志を持つ勢力に加わればいい!」
シャロンは手をバッと前に突出し、声高らかに告げる。
「おぉ、確かにー」
「あれ、この流れって……」
説得力のある話だか、ここで話の展開が大体読めてきてしまった。彼女がここからどう打ってくるのかを。
「そう、ずばり、保守派に対抗する一大戦力、革新派側につけばいいのよ! そして一緒に保守派を倒し、奴らの計画そのものをつぶせばいい。そうすれば白神コンシェルンの危機は救われ、ゆきさんは白神家次期当主になる必要もない」
「その手があったぁ!」
シャロンによる打開案の数々に、ゆきは目を輝かせどんどんくいついていく。
「もちろん強力してくれたお礼に、アポルオンが今後白神コンシェルンに手をださないと誓うわ。お互い友好な関係で、役目をこなしていきましょう」
「しかも話がわかってるー! よぉし! 今日からゆきは心機一転! 革新派メンバーとして頑張っていくぞぉ!」
ゆきは手を胸元近くでぐっとにぎり、なにやらやる気に。シャロンの口車に乗せられていく。
確かに現状保守派に対抗する最大戦力は、革新派。ゆえに彼らの一員となり、保守派をつぶすのはなかなかの打開案なのかもしれない。
「ふふふふ、剣閃の魔女が味方に付いてくれれば、ほんと心強いわ。ゆきさんの実力ならすぐ幹部入り。その分の好待遇と報酬はばっちり用意するから」
「おぉ、これはゆきにとってまさに理想の立ち位置なのではぁ!? 保守派も潰せて、優雅な電子の導き手ライフを!?」
「おーい、ゆきは巫女派側だろ。なに勝手にスカウトされそうになってるんだ?」
さすがにこのままだとゆきが革新派に行ってしまう。それはレイジたち巫女派にとってあまりにも痛手。ゆえになんとしてでも阻止しなくては。なのですぐにでもシャロンの手を取りに行きそうなゆきを呼び止め、正気へ戻そうと。
「えー、だってこっちのほうが、保守派倒せるの早そうだもん。待遇もよさそうだしさぁ、だめぇ?」
ゆきはちょこんと首をかしげ、問うてくる。
「だめに決まってるだろ。ゆきはうちの最強の改ざんの使い手。抜けてもらったら、めっちゃ困るんだが?」
「――はぁ……、だよねぇ……」
レイジの主張に、ゆきは目を覚ましてくれたようだ。それならしかたないと、甘い話をあきらめてくれた。
「ふーん、ゆきさん、目的より、そっちを優先しちゃうのね」
「さすがにみんなを裏切ってまでは、いやだからねぇ。ただでさえくおんとか頼りないし、ゆきがついといてあげないとさぁ」
ゆきはレイジの上着の袖をぎゅっとつかみながら、もう片方の手で自身の胸をぽんっとたたく。そしてテレくさそうに心の内をかたった。
「ははは、えらいぞ、ゆき、よしよし」
そんな彼女の頭をナデてあげる。
ゆきにとって、革新派に加わるのは決してわるい話ではないはず。だというのにレイジたちのほうを選んでくれるとは。内心、感動せざるを得なかったのだ。
「もぉー、わかったから、頭ナデるなぁ!?」
顔を真っ赤にさせながら、両手で頭をガードしようとしてくるゆき。
「――はぁ……、勧誘失敗ね。うまく丸め込めると思ったけど、ゆきさんがここまで仲間想いだったとは。じゃあ、ほかに打つ手と言ったら、まだ少しは簡単そうなエデン財団というところね」
シャロンはゆきを引き込めなかったことに対し、肩を落とす。そして力になってあげようと、別のアプローチを示唆してくれた。
「――エデン財団かぁ……。よぉし! こうなったら! ぐっ!?」
エデン財団という打開策を聞き、ゆきはなにやらひらめいたようだ。しかし行動しようと立ち上がった瞬間、すぐさま倒れ膝をついてしまった。
「ゆき!? どうしたんだ!? 急に倒れ込んで!?」
「――あ、足が……、しびれてぇ……」
ゆきは足のしびれに耐えながら、必死に状況の説明を。
よく見ると彼女の足はぴくぴくと震えているのがわかる。どうやら長時間の正座に耐えられなかったらしい。
「――はぁ……、なんだそんなことか。心配して損したよ」
「なんだとはなんだぁ! まったく動けないんだからねぇ!」
畳をドンドンたたきながら、うったえてくるゆき。
「ははは、それは大変だな、それ」
そんなプルプル震える彼女の足を、笑いながら指でつついてみる。
「ひっ!? こらー!? しびれてるんだから、さわるなぁー!?」
するとゆきは恨みがましそうな視線を向け、キレ気味に抗議してきた。
その反応があまりに面白いため、またもや彼女の足をつついてしまう。
「ははは、わるい、わるい、生まれたての小鹿みたいな足になってるから、ついな。つんつん」
「ひぃぃっ!? だからやめろって、言ってるだろぉー!?」
ゆきは手をレイジの方に伸ばしながら、懇願してくる。
「仲がいいわね、あんたたち」
そんなじゃれ合う二人を、お茶を飲みながら見守るシャロンなのであった。
そんな中、畳の上で二人して正座しているところである。そしてレイジたちの目の前にいるのは、着物を着てお茶をたててくれている少女。革新派のリーダーであり、アポルオン序列八位グランワース家次期当主、シャロンであった。
「ゆき、なんでこんなことになってるんだ? シャロンさんは革新派のリーダー的存在。一応、オレたちの敵にあたるんだぞ?」
「だって相談にのってくれるって言うからぁ。ついでにお茶もごちそうしてくれるって言うしさぁ」
ゆきと小声で今の状況について話し合う。
なぜこうなったのか。それはゆきが学園長室から飛び出すと、偶然シャロンに出くわしたらしい。そしてゆきが途方に暮れていることを話すと、相談に乗ってくれるという流れになったとか。こうして茶道部に招待され、おもてなしされている真っ最中なのであった。
「そう警戒しないでいいわよ、久遠。今はプライベートの時間だし、あんたたちをどうこうしようなんて考えてないわ。ただの善意で、後輩の悩みを聞いてあげようとしてるだけ。ちなみにアタシのお悩み相談室は、かなり評判がいいのよ。よく学生たちが悩みを聞いてほしいって、押し寄せてくるんだから」
胸に手を当て、得意げにほほえみかけてくれるシャロン。
「そうだったんですか。ありがとうございます。ところでシャロンさんって茶道部なんですよね」
慣れた手つきでお茶をたてるシャロンに、気になっていたことを質問してみた。
茶道部の部室のカギを開けたり、着物を用意してあったところを見るに彼女は茶道部の人間なのだろう。
「ええ、アタシも忙しい身の上だから毎日は来れないけど、たまに参加してるわ。こうやってお茶をたてるの、心が落ち着いて好きなのよね。よく、アーネストとかを呼んで、ごちそうしてあげたりしてるわ。はい、どうぞ」
シャロンはよほど茶道が好きなのか、普段とは違う柔らかい表情で説明を。そしてお茶をたておわったらしく、レイジとゆきに差し出してくれた。
「――どうも。とはいっても、オレこういう時の作法まったく知らないんですよね。ゆきは……、まあ、知るわけないよな」
「失礼なぁ! ゆきも一応お嬢様なんだから、作法ぐらいー! ――えっと……、まずはお辞儀して、茶碗を二回まわして、あと……、なんだっけ?」
レイジの決めつけに、ゆきは両腕を上げながら不服の意を示す。そして見てろーっと実践しようとするが、すぐに動きが止まってしまった。
「だめじゃん」
「うるさいなぁ、ちょっとど忘れしただけなんだもん!」
「そういったマナーはあまり気にしてないから、好きに飲みなさい。ふふふふ、それとも今から作法が身につくよう、みっちりレクチャーしてほしい?」
シャロンは口元に手を当て、不敵な笑みでたずねてくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて、好きなふうに。あ、思ってたより苦くないですね。飲みやすくておいしいです」
彼女のご厚意に感謝し、普通にいただく。
すると想像していたよりおいしく、驚いてしまった。こういうお茶は苦いというイメージがあったが、そうでもなく飲みやすい。これならお代わりをいただきたいほどである。
「ふふふふ、あんたたちはこういうのに慣れてなさそうだから、薄めにしといてあげたわ」
「うーん、だけどゆきにはまだ少し苦いかなぁ」
ただゆきにはまだまだ苦かったらしく、渋い表情で感想を口に。
「ははは、ゆきは絶対子供舌だろうからな。これが大人の味ってもんなんだぞ?」
「バカにしやがってぇ! もちろんこれぐらいなんともないよぉ! ゆきは違いのわかる女だからねぇ!」
ゆきはつつましい胸を張って、豪語してくる。ただ表情が少し引きつっており、無理しているのがバレバレだ。
「お茶菓子もどうぞ。お代わりもたくさんあるから」
「わーい! お茶菓子ー! お茶菓子ー! うーん、あまーい!」
しかもあげくの果てに、出されていたお茶菓子をぱぁぁっと顔をほころばせてほおばるゆき。もはやどこからどう見ても子供だ。
「なんか説得力のかけらもないな。――ズズ」
「じゃあ、そろそろ悩みのほうを聞いていきましょうか。アタシは革新派の参謀も務めてるから、それなりにいいアドバイスができると思うわ」
お茶を味わっていると、シャロンが話を進めだす。
「――おぉ、なんかかえでねえさんよりも、頼りになるオーラがビンビンだよぉ」
「ああ、さすがはシャロンさん、これは期待できそうだな」
さすがは革新派のリーダー。まだ少女だというのに、貫禄が出ていて非常に頼りがいがあったといっていい。
「えっとねぇ、かいつまんで話すと、そうまにいさんがこのまま次期当主になったら、白神コンシェルンはアポルオンに乗っ取られてしまうのぉ。だからゆきがそれを食い止めるべく、次期当主になれって言われててぇ」
「ふむ、白神相馬ということは、保守派がからんでいるのね。そこらへん、もう少しくわしく教えてちょうだい」
「なんでも保守派の計画には、白神コンシェルンの力が必要らしいんだぁ。だから向こうはなにがなんでも、乗っ取ろうとしてるみたいー」
「――なるほど、最近やけに白神コンシェルンにご執心だと思っていたけど、すべてはその計画とやらのためだったわけね」
シャロンは目を閉じ、思考をめぐらせる。
「シャロンさん、この状況、どうにかなりそうですか?」
「そうね。あんたたちはすでに白神相馬と、白神楓にアプローチしてきたんでしょ? なら、もう白神コンシェルン内でやれることは、ほとんどないかもしれないわね」
「――はぁ……、やっぱりー……」
突き付けられる事実に、ゆきはぐったりうなだれる。
「となれば、元凶である保守派をどうにかするしかないじゃない?」
「えー、相手は世界を牛耳るアポルオンの最大勢力でしょー。もう、ゆきごときがどうにかできる相手じゃないよぉ」
ゆきはあまりの敵の強大さに、早くもあきらめムードに。
「まあ、向こうは世界でもっとも影響力があるサージェンフォード家を筆頭に、大財閥が集まってるらしいからな。個人でどうにかなる相手でないのは確かだな」
「ふふふふ、なら話は簡単でしょ。個人でだめなら、同じ志を持つ勢力に加わればいい!」
シャロンは手をバッと前に突出し、声高らかに告げる。
「おぉ、確かにー」
「あれ、この流れって……」
説得力のある話だか、ここで話の展開が大体読めてきてしまった。彼女がここからどう打ってくるのかを。
「そう、ずばり、保守派に対抗する一大戦力、革新派側につけばいいのよ! そして一緒に保守派を倒し、奴らの計画そのものをつぶせばいい。そうすれば白神コンシェルンの危機は救われ、ゆきさんは白神家次期当主になる必要もない」
「その手があったぁ!」
シャロンによる打開案の数々に、ゆきは目を輝かせどんどんくいついていく。
「もちろん強力してくれたお礼に、アポルオンが今後白神コンシェルンに手をださないと誓うわ。お互い友好な関係で、役目をこなしていきましょう」
「しかも話がわかってるー! よぉし! 今日からゆきは心機一転! 革新派メンバーとして頑張っていくぞぉ!」
ゆきは手を胸元近くでぐっとにぎり、なにやらやる気に。シャロンの口車に乗せられていく。
確かに現状保守派に対抗する最大戦力は、革新派。ゆえに彼らの一員となり、保守派をつぶすのはなかなかの打開案なのかもしれない。
「ふふふふ、剣閃の魔女が味方に付いてくれれば、ほんと心強いわ。ゆきさんの実力ならすぐ幹部入り。その分の好待遇と報酬はばっちり用意するから」
「おぉ、これはゆきにとってまさに理想の立ち位置なのではぁ!? 保守派も潰せて、優雅な電子の導き手ライフを!?」
「おーい、ゆきは巫女派側だろ。なに勝手にスカウトされそうになってるんだ?」
さすがにこのままだとゆきが革新派に行ってしまう。それはレイジたち巫女派にとってあまりにも痛手。ゆえになんとしてでも阻止しなくては。なのですぐにでもシャロンの手を取りに行きそうなゆきを呼び止め、正気へ戻そうと。
「えー、だってこっちのほうが、保守派倒せるの早そうだもん。待遇もよさそうだしさぁ、だめぇ?」
ゆきはちょこんと首をかしげ、問うてくる。
「だめに決まってるだろ。ゆきはうちの最強の改ざんの使い手。抜けてもらったら、めっちゃ困るんだが?」
「――はぁ……、だよねぇ……」
レイジの主張に、ゆきは目を覚ましてくれたようだ。それならしかたないと、甘い話をあきらめてくれた。
「ふーん、ゆきさん、目的より、そっちを優先しちゃうのね」
「さすがにみんなを裏切ってまでは、いやだからねぇ。ただでさえくおんとか頼りないし、ゆきがついといてあげないとさぁ」
ゆきはレイジの上着の袖をぎゅっとつかみながら、もう片方の手で自身の胸をぽんっとたたく。そしてテレくさそうに心の内をかたった。
「ははは、えらいぞ、ゆき、よしよし」
そんな彼女の頭をナデてあげる。
ゆきにとって、革新派に加わるのは決してわるい話ではないはず。だというのにレイジたちのほうを選んでくれるとは。内心、感動せざるを得なかったのだ。
「もぉー、わかったから、頭ナデるなぁ!?」
顔を真っ赤にさせながら、両手で頭をガードしようとしてくるゆき。
「――はぁ……、勧誘失敗ね。うまく丸め込めると思ったけど、ゆきさんがここまで仲間想いだったとは。じゃあ、ほかに打つ手と言ったら、まだ少しは簡単そうなエデン財団というところね」
シャロンはゆきを引き込めなかったことに対し、肩を落とす。そして力になってあげようと、別のアプローチを示唆してくれた。
「――エデン財団かぁ……。よぉし! こうなったら! ぐっ!?」
エデン財団という打開策を聞き、ゆきはなにやらひらめいたようだ。しかし行動しようと立ち上がった瞬間、すぐさま倒れ膝をついてしまった。
「ゆき!? どうしたんだ!? 急に倒れ込んで!?」
「――あ、足が……、しびれてぇ……」
ゆきは足のしびれに耐えながら、必死に状況の説明を。
よく見ると彼女の足はぴくぴくと震えているのがわかる。どうやら長時間の正座に耐えられなかったらしい。
「――はぁ……、なんだそんなことか。心配して損したよ」
「なんだとはなんだぁ! まったく動けないんだからねぇ!」
畳をドンドンたたきながら、うったえてくるゆき。
「ははは、それは大変だな、それ」
そんなプルプル震える彼女の足を、笑いながら指でつついてみる。
「ひっ!? こらー!? しびれてるんだから、さわるなぁー!?」
するとゆきは恨みがましそうな視線を向け、キレ気味に抗議してきた。
その反応があまりに面白いため、またもや彼女の足をつついてしまう。
「ははは、わるい、わるい、生まれたての小鹿みたいな足になってるから、ついな。つんつん」
「ひぃぃっ!? だからやめろって、言ってるだろぉー!?」
ゆきは手をレイジの方に伸ばしながら、懇願してくる。
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そんなじゃれ合う二人を、お茶を飲みながら見守るシャロンなのであった。
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