電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第3部 白神コンシェルンの秘密

216話 那由多乱入?

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「おぉ、この金属すごい。あれと組み合わせたら、ううん、こっちの方がより性能を発揮してくれるかもぉ」

 水色のパジャマ姿のゆきは、ターミナルデバイスをいじりながら興味深そうに考えをめぐらせている。
 もう外は暗くなっており、現在いるのはレイジが住んでいるマンションのリビング。すでにどちらも風呂に入っており、二人でソファーに座りくつろいでいる状況だ。

「それって今日、手に入れたやつだろ? やっぱりすごいのか?」
「ほかではお目にかかれない、レア素材ばかりだぁ! これならさらに武器をいい感じに強化できそうだよぉ! これはもっと手に入れてこないとぉ!」

 両腕をぶんぶん振り、興奮ぎみにかたるゆき。
 エデンの巫女の間近くで手に入れた素材だが、かなりゆきのお目にかかっているみたいだ。

「でも次期当主の件を受けないと、使えないみたいな話の流れにならなかったっけ」
「――うぅ、そこは……、こっそりとさぁ……」

 ゆきは視線をそらしながら、困った笑みを浮かべる。 

「ははは、なるほど」
「よしとぉ、手に入れた戦利品をいじるのはまた今度にして、さっそく遊ぶぞぉ! どのゲームをするー? あれからくおんのために、ラインナップを増やしておいてあげたから、ありがたく思ってよねぇ!」

 ゆきは指をビシっと突き付け、ふふんと得意げな表情を。

「昨日も思ったが、なんかお泊り会にでも来たテンションだな」
「前のゆづきやかのんとお泊り会したとき、すごく楽しかったからねぇ! ああやってワイワイするのも、ぜんぜんわるくなかったよぉ!」
「ははは、それはよかったな。ただ問題がひとつあるとすれば、なんで当たり前のようにオレん家に居座ってるんだ? 今日からホテルに泊まるって話だったよな?」

 ぱぁぁっと顔をほころばせるゆきに、不満をぶつける。
 昨日は外も暗くなっており、いろいろあって疲れていると思ったからしかたなく許可したのだ。ちゃんと今日だけと念押ししてだ。

「ぎくぅ、それはぁ……。なんか思ったより居心地がよかったから、もうここでいっかなってぇ……」

 ゆきは手をもじもじさせながら、笑ってごまかしてきた。

「いやいや、ここでいっかなーじゃないんだが? いろいろ気を使うこっちの身にもなってくれよ、――はぁ……」

 これには肩をすくめて、ため息を一つ。

「そんな気をつかうことあるかぁ?」
「昨日はベッドを明け渡し、ソファーで寝ることになったんだぞ。そもそもの話、ゆきは一応同い年の女の子なんだろ。もしなにかのはずみに、間違いを起こしてしまったら」
「はっ、まさかくおん!?」

 ゆきはレイジからバッと距離をとり、胸元むなもとを隠しだす。

「ってよく考えたら、こんな小学生みたいなゆきに、よこしまな考えをいだくわけないか! ははは」
「誰が小学生だぁ!」

 笑い飛ばしていると、ゆきがレイジの腹部に頭付きをしてきた。

「いてっ!?」
「ゆきはまだまだ成長期なんだから、すぐに大きくなるんだもん! そのために牛乳とかいっぱい飲んで、努力してるんだからねぇ!」

 そして彼女はうがーと両腕を上げながら、力説してきた。

「もう完全に成長は止まっている気がするが……」
「あん?」

 腹部をさすりながら正論を口にすると、ゆきがドスを利かせた視線を向けてくる。

「なんでもないです!」
「もぉ、というかゆきと同じ屋根の下で暮らせるんだから、むしろ感謝してほしいぐらいだぁ!」

 ゆきはどっとソファーにもたれかかり、両腕を組みながらなにやら豪語しだす。

「そこで開き直られてもだな……」
「いいじゃん、いいじゃん、くおんのけちぃ! ゆきはここが気にいったんだからぁ!」

 足をバタバタさせ、だだをこねてくるゆき。
 そんな彼女にあきれていると、勢いよくレイジの家の扉が開いた。そしてバタバタと上り込んでくる足音が聞こえ。

「レイジ! これはどういうことですか!」

 リビングに駆けこんできた那由多が、腕をバッと前に突き出し問いただしてきた。

「って、那由多、急にどうしたんだ?」
「どうしたじゃなーい! 那由多ちゃんがいろいろがんばっている中、ゆきちゃんを家に招いてなにイチャイチャしてるんですか! しかもこれ、絶対おとまりの流れですよね! はっ!? まさかもうそんな関係に発展して!?」

 ぷんすか抗議したあと、口元に両手を当てなにやらショックを受けだす那由多。

「そんなわけないだろ。これは家出したゆきが、かってに居座いすわっているだけだ」
「なるほど、それは一安心です。では那由多ちゃんもお泊りを希望します! ゆきちゃんがいいなら、わたしももちろんオッケーですよね!」

 那由多はホッと胸をなでおろす。それからグイグイレイジの方へ詰め寄り、かわいらしくウィンクしてきた。

「いやいや、ゆきだけでも手一杯なのに、これ以上悩みの種を増やさないでくれ……」
「そうだぁ、そうだぁ! くおんの家はもうゆきが占領しちゃったから、なゆたの入る場所はないんだもん!」

 頭を抱えていると、ゆきがレイジの上着をぎゅっとつかみながら主張しだす。 

「ぐぬぬ、やはりゆきちゃんもレイジをめぐる、恋のライバルでしたかー。ですが那由多ちゃんは負けません! こうなったら強硬手段です! 」

 こぶしをにぎりしめながら、闘志を燃やす那由多。

「てやー! レイジのベッドにダイブー! あはは、ここは那由多ちゃんが占領させてもらいました! ということでお世話になりますね! レイジ!」

 そして那由多はリビングの奥にあるレイジのベッドに飛び込み、寝転がりながらゴロゴロし始めた。

「なにがお世話にだ。さっさと帰れよ」
「ふっふっふっ、ご心配には及びません! ちゃんと着替えなどのお泊りセットは持ってきていますので!」
「いや、だからな」
「いいじゃないですかー! わたし忙しすぎて、白神コンシェルン本部でのお泊り会には参加できなかったんですよー! だからぜひともお泊り会気分を味わいたいんですよー!」

 那由多はぶーぶーとほおを膨らませながら、両足をバタバタさせる。

「それにまだまだ若い男女が同じ屋根の下で一夜を過ごすなんて、いろいろ問題があると思うんですよねー。なのでここは監視もかねて、ゆきちゃんと一緒に泊まらせてもらいますね!」

 那由多は得意げにほほえみ、意味ありげにウィンクを。
 実際問題その通りなので、言い返せそうになかった。

「――ぐっ、なかなかの正論を……」
「くおん、なに押されてるんだぁ! あと、なゆた! そこゆきの特等席なんだからぁ」

 するとゆきが那由多の方へと向かい、ベッドに指を突き付け主張を。

「独占はずるいですよ! なので半分こしましょう! こうやってわたしがゆきちゃんを抱きしめる感じで寝れば、二人でもぜんぜんいけます!」

 那由多はゆきをがばっと抱きしめ、ベッドの方へと連れ込んだ。

「わわっ!? こらぁ、離せ、なゆたー!?」
「ふっふっふっ、いやですよーだ。ゆきちゃんには那由多ちゃんの抱き枕になってもらいますねー! ああ、なんだか癒されますー、すりすり」

 もがくゆきをよそに、那由多は楽しそうにほおずりをしだす。
 まるで結月のときみたいなでようであった。

「助けてぇ! くおんー!?」
「――はぁ……、ダメだ、この流れ。完全に二人とも居座いすわる気だ……。――早急に、なにか策を練らなければ……」

 そんなワイワイギャーギャーやってる二人をみながらも、肩をすくめる。
 このままでは二人とも、しばらくレイジの家に泊まることになるはず。思春期男子として女の子と一緒に暮らすのは魅力的なシチュエーションだが、精神衛生上あまりよろしくない。なのでまずは根本の原因となっている、ゆきの件をどうにかせねば。そのことに頭を悩ませるレイジなのであった。

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