電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第4部 幽霊少女のウワサ

217話 家族の団らん?

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 時刻は八時三十分ごろ。朝日が差し込み、小鳥のさえずりが響いている。
 ここはレイジの住むマンションの一室。台所からは那由多が用意してくれた朝食のいい香りがただよっている。ゆきが起きて来れば、すぐにでも朝食を始められるらしい。そんな中レイジと那由多はテーブルに着き、情報交換をしていた。

「と、まあ、これまでのいきさつはこんなものだ。白神コンシェルンの次期当主問題。それに対するゆきの奮闘劇。そしてエデンの中枢ちゅうすうの破損から応じるバグ問題などなど、ここ数日でいろいろあったんだよ」
 那由多にこれまであったことを報告していく。

「なるほど。次期当主候補の件はかえでさんから少し聞いていましたが、事態はかなり深刻っぽいですねー。まさかそこまで保守派側が、本腰を入れて白神コンシェルンを狙っていたとは驚きです」
「ああ、しかも真の狙いはエデンの巫女っぽいし、絶対よからぬことを考えてそうだよな」
「はい、そこにはあのエデン財団上層部がかかわっているはずですし、ほぼ間違いないでしょうね」

 那由多は瞳を閉じ、いろいろ思うところがあるのか表情に陰りを見せる。

「今の相馬さんの感じだと、説得はまず無理なはず。となるとやはりここは対抗馬として、ゆきちゃんにがんばってもらうしかないかもですねー」

 そして彼女は困ったように笑った。

「ははは、本人は死活問題レベルで嫌がってたけどな」
「あはは、ゆきちゃんの性格からしたら、そうなりますよねー。そして今のエデンの問題ですかー。まさか中枢付近がそんなことになっていたとは……」
「あれは素人目線からみても、相当ヤバかったぞ。あまりのゾッとする光景に、世界の終りを連想するほどだったし」
「ふむ、しかもその影響がバグとして表に出ているとなると、もはや悠長なことは言ってられないかもしれません。そっちの方にも力を貸すべきでしょうか?」

 那由多はあごに手を当て、思考をめぐらせる。

「そうだな。ゆきも手伝うことになりそうだし、オレたちもマナやまもるさんに協力した方がいいかもな」
「それにしてもレイジってばすごいですよねー。いつのまにか白神家当主、さらには最重要機密であるエデンの巫女さんと、それなりの関係を結んでいるんですから。もう白神コンシェルンの裏事情にどっぷりじゃないですか。完全に那由多ちゃん置いてけぼり状態。コネクションに関しては自信があったんですがねー、――はぁ……」

 今後のことで頭を悩ませていると、那由多が肩をすくめながらため息をこぼす。

「いやいや、今回はたまたまで、那由多の方が普通にすごいだろ?」
「えー、そうでしょうか? 冬華さんやファントム、さらには敵側のアラン・ライザバレットやあの災禍さいかの魔女の柊森羅ひいらぎしんら。あと有名な狩猟兵団の方々や、白神相馬そうまさんみたいなすごい人まで強いコネがあるんですよ? ぶっちゃけ関係性においては、レイジの方がチートじみてますよ」

 ぐったり机にふせながら、いじけだす那由多。
 今まであまり思わなかったが、改めて考えてみるとすごいメンツばかりなことに気づく。

「確かにそう考えると、すごい知り合いばかりだな」
「くおん、なゆた、おはよぉ」

 そうこうしているとゆきが起きてきた。

「おっ、やっと起きたか」
「ゆきちゃん、おはようございます! ではさっそく朝食の用意をしますね! 少しお待ちを!」

 那由多は立ち上がり、キッチンの方へ。
 すでに朝食の支度はほとんどおわっているとのことで、すぐに用意できるらしい。

「はわわ」

 ふと大きなあくびをするゆき。

「まだまだ眠そうだな」
「次期当主やエデンのことを考えちゃって、なかなか寝つけなかったぁ」

 ゆきは目をこすりながら、肩を落とす。
 今の彼女は白神コンシェルン関係で、問題が山積み。昨日の夕方の悩みようを見るに、そうなるのもしかたのないことだろう。

「そっか、ほら、顔を洗ってとりあえずシャキッとしてこいよ」
「そうするー」

 ゆきは眠そうにフラフラな足取りで、洗面所に向かった。
 気づけばしだいに朝食のいい香りが。すでに那由多が準備をしてくれていたため、すぐできそうだ。
 少し一人でぼーとしていると、ゆきが戻ってきて席へと座る。それと同時ぐらいに那由多が料理を運んでくれて、テーブルにはおいしそうな朝食が。ちなみにメニューはごはんにみそしる、焼き魚に卵焼きといった文句なしの朝食であった。

「じゃじゃーん! 今日はゆきちゃんもいるということで、豪華にしときましたよー!」

 那由多は両腕を前に出し、得意げにほほえんでくる。

「ほんとだ、すごい手が込んでるな。いただきます」
「おなかすいたぁ。いっただきまーす!」
「どうぞ! どうぞ! いやー、それにしてもいい光景ですよねー!」

 二人で手を合わせいただこうとすると、那由多がひじをつきながら両ほおに手を当てなにやらうっとりし始めた。

「うん? なにがだ?」
「この感じ、家族の団らんっぽいじゃないですか! レイジが旦那だんなさまで、ゆきちゃんがわたしたちの子供。そして嫁枠はもちろん、かわいいかわいい那由多ちゃん! キャー、ステキです!」
「また変なことを」
「またまたー、わるい気はしないくせにー。ほんとレイジは幸せ者ですねー! こんな美少女と結ばれる未来が確定してるんですから!」

 胸に手を当てニヤニヤと笑い、かわいらしくウィンクしてくる那由多。

「うっ、べ、べつにそんなことは……」
「おい、こらぁ、なゆた! なにゆきをさらっと子供枠に入れてるんだぁ!」

 対応に困っていると、ゆきがテーブルをドンドンたたき抗議しだした。

「あはは、あまりにゆきちゃんの愛くるしい容姿が、わたしの理想の家族像と一致していたものでして。こんなかわいい娘がほしいなって!」
「それ絶対小さな子供って意味でだろぉ! 同い年っていってるだろうがぁ!」

 那由多の満面の笑顔での主張に、ゆきは両腕を上げて怒りをあらわにする。

「あはは、ほめ言葉なんですから、そう怒らないでくださいよー。ほらほら早く食べないとさめちゃいますよ。このあとエデンの巫女さんの手伝いに行くんですから、腹ごしらえをしっかりしとかないと!」
「はーい、わかったよぉ」

 彼女の正論に、ゆきはしぶしぶ怒りをおさえ食べ始めた。

「ほら、レイジも! わたしたちのいちゃラブな未来気分を味わいながら、食べましょう! なんならあーん、して食べさせてあげましょうか?」

 小悪魔的な笑みを浮かべ、意味ありげにウィンクしてくる那由多。

「ははは、全力でお断りさせてもらうよ」
「もー、テレ屋さんですねー! 前にも食べさせてあげたじゃないですかー! 那由多ちゃんとの関接キス、忘れたとは言わせませんよ!」

 まさかここで狩猟兵団連盟の本部でつかまったときのことを、出してくるとは。しかもあーんだけでなく、爆弾発言付きでだ。

「おい、くおん、なゆたになにさせてるんだぁ!」

 するとゆきが聞き捨てならないと、テーブルをたたきながら追及してくる。

「いや、あれはしかたなくでな」

 そんな感じで朝からにぎやかな朝食をとる、レイジたちなのであった。
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