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5章 第5部 ゆきの決意
224話 怖がり少女
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レイジとゆきは、自動車の組み立て工場内を探索中。中の明かりは、穴の開いた壁や天井から差し込む月明かりだけでかなり薄暗い。コンベアや組み立て式の機械はどれもボロボロで動いておらず、辺りは静まり返っていた。
そして現在廃墟と化した不気味なフロア内を、コンベアに沿って歩いており。
「おい、くおん、歩くのが早いー。もっとゆっくり歩けぇ!」
ゆきがレイジの上着をつかみ引っ張りながら、文句を言ってくる。
「いや、どうみても遅いだろ。というか歩きにくいから、服をつかまないでくれるか?」
そう、彼女はレイジにぴったりくっつきながら、遅い足取りでついてきているのだ。しかも身を震わせ、恐る恐るといった感じにだ。
「離したら、ゆきを放ってどんどん先にいくだろぉ!」
「ああ、早くバグを見つけたいからな」
「ならダメだぁ! こんな薄気味悪いところでゆきを一人にするなんて、正気なのかぁ!」
つかんだレイジの上着をクイクイ引っ張り、必死にうったえてくるゆき。
「じゃあ、ついてくればいいだろ」
「それができたら苦労しないもん。心の準備をしながら一歩一歩進まないと、精神が持たないよぉ!」
「まさかこんなにもゆきが怖がりだったとはな。昔一人で行動してたとき、夜はどうしてたんだよ」
涙目になって主張するゆきに、肩をすくめるしかない。
レイジたちと出会うまで、ゆきはほとんどソロで行動していた。なので夜のクリフォトエリアを一人で行動する機会など、いくらでもあったはず。この怖がりよう、そのときは一体どうしていたのだろうか。
「だってここは電子の中だよぉ。ゆうれいとかそういうのいるわけないって、なんとか割切りながらがんばってたんだもん。それなのに実物が現れて、ゆきの保ってきた固定観念が完全崩壊。もう怖くて夜道を一人で行動できないかもぉ……」
「いやいや、あのゆうれい、どうせバクだろ? 本当にいるわけないじゃないか」
「そんなのわからないだろぉ! もしかしてバグの影響でゆうれいが見えるようになったとかかもしれないよねぇ! 実際ゆうれい側がエデンにまで浸食して、いたるところに……、ひぃっ!?」
ゆきは顔を青ざめながら、身をビクッと震わせる。
「だめだ、恐怖のあまり冷静な判断ができなくなってやがる。この先大丈夫なのか?」
「くすくす」
呆れていると、前方から女の子の笑い声が聞こえてきた。
「はっ、今のは!?」
「って、言ってるそばからきたぁ!?」
ゆきが悲鳴を上げながら、レイジにガバッと勢いよく抱き着いてくる。
「あそこだ! 行くぞ、ゆき」
気づけば前方の方で、幽霊の女の子の姿が。彼女は先をうながすように前へと進み、すぐ消えてしまう。
なので抱き着いてきているゆきを振りほどき、幽霊の女の子を急いで追った。
「こらぁ、くおん、待ってぇ!? ゆきを一人にするんじゃなーい!?」
対してゆきはというと、一人にされるのはごめんだと涙目で必死についてこようと。
そして二人で廃工場の奥へと進んでいく。
「いた! それにあれはマナが言ってた別空間か?」
しばらく走っていると、工場内の別のフロアへ。そしてその中央付近に幽霊の女の子の後ろ姿が。
しかも彼女の目の前には、赤黒い空間のひずみのようなモノが発生していた。
「くすくす、あなたたちもあそぼ」
幽霊の女の子はレイジたちの方へ振り返り、意味ありげに笑う。そして彼女は空間のひずみの中へと、消えていってしまった。
「中に来いってことか?」
「くおん、あの空間、見るからにやばいってぇ! ゆうれい関係とか、ゆきたちの手に負えるものじゃない。下手したら向こうの世界に引きずり込まれて……、ひっ!? 今回はあきらめようよぉ!」
ゆきがレイジにしがみついて、おびえながら泣き言を告げてくる。
実際空間のひずみからはヤバげな気配が。入ったら果たして無事に出てこられるのだろうか。これにはさすがのレイジも、少し怖じ気づいてしまう。
「ここまで来てなにを言ってるんだ? ゆうれいだろうが関係ない、さっさと片をつけるぞ」
ゆきの頭に手をぽんっと乗せながら、弱気な彼女の背中を押す。
とはいえまずはマナたちに、発見したと連絡するのが先だろう。なのでゆきに報告を頼もうとしたとき、異変が。
「――あ、そぼ……、――あ、そ、ぼ……」
なんととぎれとぎれのかすれた声とともに、周囲に複数の影が現れだしたのだ。
「ひっ!? な、な、なんか出てきたぁ!? しかもあれ、すごく気持ちわるいよぉ!?」
「かこまれた!? なんだこいつら」
レイジたちを取り巻くように現れたのは、等身大サイズの簡易的な構造の人形たち。彼らはボロボロの剣や槍、斧といった武器を持っている。しかも不気味なことにその人形たち、糸で操られているかのように挙動がおかしいといっていい。カタカタと関節部分を揺らしながら、ジリジリとレイジたちに詰め寄ってきていた。
「くおん、逃げるなら今だよぉ!? 早く帰ろうよぉ!? ゆき、これ以上こんなところにいたくないー!」
ゆきがレイジをグイグイ揺らしながら、泣きついてくる。
「ホラー展開マシマシなのは認めるが、さすがにここで撤退は……」
もはやトラウマになりそうな光景が目の前に。どうするか迷っていると。
「くすくす、おいで」
「なっ!?」
「ひっ!?」
幽霊の女の子の声が聞こえた瞬間、空間のひずみが広がりレイジたちを飲み込んでいって。
そして現在廃墟と化した不気味なフロア内を、コンベアに沿って歩いており。
「おい、くおん、歩くのが早いー。もっとゆっくり歩けぇ!」
ゆきがレイジの上着をつかみ引っ張りながら、文句を言ってくる。
「いや、どうみても遅いだろ。というか歩きにくいから、服をつかまないでくれるか?」
そう、彼女はレイジにぴったりくっつきながら、遅い足取りでついてきているのだ。しかも身を震わせ、恐る恐るといった感じにだ。
「離したら、ゆきを放ってどんどん先にいくだろぉ!」
「ああ、早くバグを見つけたいからな」
「ならダメだぁ! こんな薄気味悪いところでゆきを一人にするなんて、正気なのかぁ!」
つかんだレイジの上着をクイクイ引っ張り、必死にうったえてくるゆき。
「じゃあ、ついてくればいいだろ」
「それができたら苦労しないもん。心の準備をしながら一歩一歩進まないと、精神が持たないよぉ!」
「まさかこんなにもゆきが怖がりだったとはな。昔一人で行動してたとき、夜はどうしてたんだよ」
涙目になって主張するゆきに、肩をすくめるしかない。
レイジたちと出会うまで、ゆきはほとんどソロで行動していた。なので夜のクリフォトエリアを一人で行動する機会など、いくらでもあったはず。この怖がりよう、そのときは一体どうしていたのだろうか。
「だってここは電子の中だよぉ。ゆうれいとかそういうのいるわけないって、なんとか割切りながらがんばってたんだもん。それなのに実物が現れて、ゆきの保ってきた固定観念が完全崩壊。もう怖くて夜道を一人で行動できないかもぉ……」
「いやいや、あのゆうれい、どうせバクだろ? 本当にいるわけないじゃないか」
「そんなのわからないだろぉ! もしかしてバグの影響でゆうれいが見えるようになったとかかもしれないよねぇ! 実際ゆうれい側がエデンにまで浸食して、いたるところに……、ひぃっ!?」
ゆきは顔を青ざめながら、身をビクッと震わせる。
「だめだ、恐怖のあまり冷静な判断ができなくなってやがる。この先大丈夫なのか?」
「くすくす」
呆れていると、前方から女の子の笑い声が聞こえてきた。
「はっ、今のは!?」
「って、言ってるそばからきたぁ!?」
ゆきが悲鳴を上げながら、レイジにガバッと勢いよく抱き着いてくる。
「あそこだ! 行くぞ、ゆき」
気づけば前方の方で、幽霊の女の子の姿が。彼女は先をうながすように前へと進み、すぐ消えてしまう。
なので抱き着いてきているゆきを振りほどき、幽霊の女の子を急いで追った。
「こらぁ、くおん、待ってぇ!? ゆきを一人にするんじゃなーい!?」
対してゆきはというと、一人にされるのはごめんだと涙目で必死についてこようと。
そして二人で廃工場の奥へと進んでいく。
「いた! それにあれはマナが言ってた別空間か?」
しばらく走っていると、工場内の別のフロアへ。そしてその中央付近に幽霊の女の子の後ろ姿が。
しかも彼女の目の前には、赤黒い空間のひずみのようなモノが発生していた。
「くすくす、あなたたちもあそぼ」
幽霊の女の子はレイジたちの方へ振り返り、意味ありげに笑う。そして彼女は空間のひずみの中へと、消えていってしまった。
「中に来いってことか?」
「くおん、あの空間、見るからにやばいってぇ! ゆうれい関係とか、ゆきたちの手に負えるものじゃない。下手したら向こうの世界に引きずり込まれて……、ひっ!? 今回はあきらめようよぉ!」
ゆきがレイジにしがみついて、おびえながら泣き言を告げてくる。
実際空間のひずみからはヤバげな気配が。入ったら果たして無事に出てこられるのだろうか。これにはさすがのレイジも、少し怖じ気づいてしまう。
「ここまで来てなにを言ってるんだ? ゆうれいだろうが関係ない、さっさと片をつけるぞ」
ゆきの頭に手をぽんっと乗せながら、弱気な彼女の背中を押す。
とはいえまずはマナたちに、発見したと連絡するのが先だろう。なのでゆきに報告を頼もうとしたとき、異変が。
「――あ、そぼ……、――あ、そ、ぼ……」
なんととぎれとぎれのかすれた声とともに、周囲に複数の影が現れだしたのだ。
「ひっ!? な、な、なんか出てきたぁ!? しかもあれ、すごく気持ちわるいよぉ!?」
「かこまれた!? なんだこいつら」
レイジたちを取り巻くように現れたのは、等身大サイズの簡易的な構造の人形たち。彼らはボロボロの剣や槍、斧といった武器を持っている。しかも不気味なことにその人形たち、糸で操られているかのように挙動がおかしいといっていい。カタカタと関節部分を揺らしながら、ジリジリとレイジたちに詰め寄ってきていた。
「くおん、逃げるなら今だよぉ!? 早く帰ろうよぉ!? ゆき、これ以上こんなところにいたくないー!」
ゆきがレイジをグイグイ揺らしながら、泣きついてくる。
「ホラー展開マシマシなのは認めるが、さすがにここで撤退は……」
もはやトラウマになりそうな光景が目の前に。どうするか迷っていると。
「くすくす、おいで」
「なっ!?」
「ひっ!?」
幽霊の女の子の声が聞こえた瞬間、空間のひずみが広がりレイジたちを飲み込んでいって。
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