電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第5部 ゆきの決意

225話 廃工場の迷路

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「ハッ!? ここは!?」

 気が付くとそこは工場地帯の入り口あたり。ちょうどマナや花火と別れた場所に立っていた。
 ただどうやら同じ場所ではないらしい。あちこち窓ガラスが割れ、壁や天井が崩れている廃墟風の工場が目の前に広がっている。しかし空は赤黒く、不気味な雰囲気があたりを支配していた。その感じは少しブラックゾーンにいたときのようであり、思わず寒気が走りだす。ちなみに後方は空間のはしにあたるのか途切れており、先に進めそうになかった。

「さっきのやつらがいない? それはそうとゆきは!?」

 一見ゆきの姿が見当たらず、辺りを見渡す。
 おそらくレイジたちはバグが生み出した空間に、飲み込まれたみたいだ。レイジでは改ざんで調べられないため、それができる彼女に状況把握はあくをしてもらいたかった。

「ひぃぃぃ!? もういやだぁ……、帰りたい……」

 するとすぐ近くでうずくまっているゆきの姿が。彼女は両手で頭を抱えながら、震えていた。

「ゆき、そんなところにいたのか。早くこの状況を改ざんで調べてくれ」
「そうだぁ。これは夢に違いない。こんな悪夢、早くさめてぇ……」

 だがゆきはおびえたまま。よほどさっきの人形に囲まれた光景が怖かったのだろう。
 しかしいつまでもこのままでは困る。なので彼女の肩に手を置き、揺さぶりながらうったえた。

「現実逃避してる場合じゃないだろ。早くしないとさっきのやつらが、また来るかもしれないんだぞ?」
「ひぃぃ!? それはまじごめんだぁ!? あんな不気味なのあれ以上見てたら、本当に夢に出てくるよぉ!? すぐにここから脱出しないとぉ!?」

 ビクッと飛び上がり、涙目で必死に改ざんを始めるゆき。

「それも大事だが、バグに関する情報も頼んだぞ。ここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかないんだからな」
「――わ、わかってるよぉ……。――えっとぉ……」
(それにしてもあの建物の壊れよう、まるで大きななにかが通ったあとのような)

 ゆきが調べてくれている間に、工場の方を見る。そこで気になることが。というのも建物の壁の一画に、不自然な大きな穴があいていたのだ。それは廃墟風の仕様というよりは、まるで故意的に破壊されたような。

「うわぁ、そうきたかぁ……」
「なにかわかったのか?」
「この先、ずっと入り組んだ工場地帯になってるっぽいー。しかも地形データーとかもろとも、調べられないように強力なジャミングとかかけてあるしー。こうなってくるともう完全に、巨大な迷路だねぇ」
「つまりこの先のどこかにあるバグの発生源を見つけるには、足を使って手当たりしだい探すしかないってことか」
「今のところはねぇ。しかも通信もとどかないから、助けも呼べそうにないなぁ」
「先に進むか、まずはみんなと合流するかだけど、考える時間はどうやらくれそうにないらしいな」

 今置かれている状況を理解し、どう行動するのが最善か思考をめぐらせたいところ。しかし気づいてしまう。レイジたちを取り囲むように、怪しい影がうごめきだしていることに。

「え? どうしたんだぁ?」
「ははは、手厚い歓迎がきたみたいだぞ」

 そして現れる先ほど見た、等身大サイズの簡易的な構造の人形たち。彼らはボロボロの武器を持ち、相変わらず糸で操られているかのように、カタカタと不気味な挙動きょどうをしていた。

「ひっ!? またでた!? くおん! なんとかしろぉ!」

 ゆきがレイジにしがみつきながら、人形たちをブンブン指さし命令を。

「了解、お手並み拝見はいけんさせてもらおうか!」

 刀をさやから抜き前へ。
 それと同時に人形たちが武器を振りかざし、突撃してきた。

「あそぼ! あそぼ!」
「速い!?」

 案外とろそうに見えて、人形たちの動きは俊敏しゅんびん。でたらめな軌道を描きながら、突っ込んでいるのだ。そのさまはまるで乱暴に放り投げられているかのよう。ボディの負担など完全に無視した、操作性の動きであった。
 もしこれがガーディアンなら、その無茶な操作の反動によりダメージを受け壊れていたところだろう。

「だがその程度じゃ、オレはやれねーぞ」

 人形のまるで嵐のような攻撃の数々であったが、どれも刀ではじいたり受け流したりして対処しきる。敵の攻撃はなかなかするどかったが、しょせんは操られているだけの意思のない人形。戦いの駆け引きなどとくになく、動きがただただ単調で読みやすかったといっていい。なのでわりとなんなくしのげていた。

「攻撃ってのはこうやるもんだぜ」

 そしてレイジはすかさず攻撃に転じる。人形たちとのすれ違いざまに、次々と刃を振るい切りきざんでいった。それは吹き抜ける一陣の風のごとく。容赦なく確実に敵を切りせていく。

「よし、普通に倒せる。これなら大した脅威にはならなさそうだ」

 斬り捨てられた人形たちは、粒子となって消えていく。もし四肢の部位を一つ、二つ切り落としても、ひるまずひたすら襲いかかってきたらどうしようかと思ったが、普通のガーディアン仕様らしい。決められた体力ゲージさえ削ればいいみたいなので、割と楽に片づけられそうだ。

「そういうわけだから、ゆき。おびえてないで、ちゃっちゃと片づけちまおうぜ」
「あー、もぉ! わかったよぉ! 人形どもぉ! さっさとゆきの視界からきえろぉ! 夢に出てきたらどうしてくれるんだぁ!」

 残りの襲いかかってくる人形たちに対し、ゆきはぎゅっと目をつぶりながらさけぶ。
 すると次の瞬間、彼女の念動力のアビリティによって操られた七本の細身の剣が、敵めがけて牙をむく。剣は縦横無尽に踊り狂い、次々と人形たちに風穴を開けて破壊していった。

「はぁ、はぁ、あんなホラーな敵、ごめんだよぉ……」

 最後の一体を倒し、ゆきはヘナヘナとその場に崩れ落ちる。
 どうやらよほどメンタル面に、ダメージを受けたみたいだ。

「ははは、でも倒せるだけマシだろ?」
「――それはそうだけどさぁ……」

 ぐったりしながら涙をはらうゆき。

「はっ!? ゆき、あぶない!」
「え?」

 きょとんとする彼女の方に走りながら、レイジは刀を振るう。

「まずは一人」
「させるかよ」

 ゆきの背後から音もなく接近し、急所に斬撃を放とうとする人影。
 その暗殺者のごとき精確無慈悲な剣閃を、レイジは間一髪のところではじいた。

「あーあ、あと少しで斬り伏せられたのに」

 ナツメはいったん距離をとり、ため息交じりに刀をかまえる。

「わぁ!? なんでこいつらがいるんだぁ!?」

 ゆきはすぐさま立ち上がり、臨戦体勢を。

「どうやら先を越されてたみたいだな。となるとやつらはもうだいぶこの迷宮を進んでることになるぞ」
「そんなぁ! 急いで追いかけないとぉ!」
「ここから先は通さない。あなたたちはナツメが全員切り捨ててあげる」

 刀をきらめかせ、残忍な笑みを浮かべるナツメ。

「ゆき、ここはオレが食い止める。だからおまえは」
「このうすきみわるい中を一人でいけってぇ!? さっきのやつらも出てくるだろうし、むりむり!」

 ゆきは首をブンブン横に振ってうったえてくる。

「やるしかないだろ。エデン財団側がなにをたくらんでいるか知らないが、ろくでもないことに違いない。なんとしてでもバグをやつらより先に見つけるんだ」

 代わりに行ってやりたいところだが、レイジだと完全に闇雲に探すことになる。なので改ざんで効率的に探せるゆきが適任であった。

「あぁー、わかったよぉ! だけど早く追いかけてきてねぇ!」
「ああ、善処ぜんしょするさ。あとさっきのでかいオオカミもどこかにいるはずだから、気をつけろよ」

 ここからでも見える建物内の大きな穴は、おそらくあの大型オオカミによってつけられたものだろう。今はどこにいるかわからないが、見つかったら即座に襲いかかってくるはずだ。

「なんかますますホラーゲーム展開になってきてるなぁ。かまってるヒマないし、エンカウントしないように進まないとぉ……」

 ゆきはビクビク震えながらも、建物内へと走っていく。
 妨害ぼうがいしてくると思いきや、ナツメは見送るだけ。完全にレイジだけを標的にさだめていた。

「行っちゃった。でもいいか。あなたの方が斬りがいありそうだし、あっちの小さいのはロウガにくれてやる。さあ、楽しませてよ!」

 そして刀を振りかぶり、襲いかかってくるナツメなのであった。



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