電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第5部 ゆきの決意

227話 迷宮の戦い

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「――あそぼ! あそぼ!」
「ちっ!? 邪魔をするな!」

 もはや何度目かの襲いかかる人形たちを斬りふせながら、レイジは奥へと進んでいく。
 廃工場内は進んでも進んでも同じようなフロアが続いており、今自分がどこまで進んでいるのかわからなくなってしまうほど。しかも不気味で等身大の簡易的な人形がどこからともなく姿を現し、襲ってくるのだ。

(とりあえずゆきと合流したいが、どういうルートを通ったのかわからない以上さすがに難しいか。こうなったら一人で手当たりしだい探すしか……)

 この場所は迷宮のようになっているらしいので、手がかりなしでは出会うのが困難といわざるをえない。なのでそっちに時間をかけるなら、ゴールであるバグの本体を見つける方が最善なのかもしれなかった。

「うん? この音は?」

 ふと激しい破壊音が。しかもそれは止まず次々に聞こえてくるときた。おそらく誰かが破壊の限りを尽くしながら、突き進んでいるのだろう。

「音的にあのオオカミか?」

 進行方向のベルトコンベアや自動車の組み立て機などを破壊したり、時にはフロアの壁を突き破っているような音が響いているのだ。その発生源はもはや荒野で襲ってきた、大型オオカミしかいなかった。

「オオカミの動き、まるでなにかを追ってるような。まさかゆきを!? 行くしかないか!」

 もしゆきが追われてるなら助けなければ。レイジは音がする方向へと向かうことに。
 


「ゆき!」

 破壊音の方へと近づき何度目かのフロアを抜けたまさにそのとき、ゆきの姿があった。

「くおん!? いいところにー! こいつをなんとかしてぇ!」
「逃がしはしねー!」

 ゆきが後ろの壁を指さした瞬間、軽装甲車と同じぐらいのメカメカしい大型オオカミが、壁を突き破ってこのフロア内に侵入してきた。さらにそれだけではとどまらず、大型オオカミは彼女めがけてとびかかり攻撃を。

「うわぁぁぁ!? きたぁ!?」

 対してゆきは念動力を自身に使い、思いっきり飛ぶことでギリギリ回避を。
 大型オオカミの鋭い爪が得物をのがし、そのまま近くにあったベルトコンベアを吹き飛ばした。

「このぉ! いいかげんにしろぉ!」

 ゆきは地面に着地し、即座に念動力を行使して七本の剣を放つ。
 剣たちは弾丸のごとく飛翔ひしょうし、標的をつらぬこうと襲いかかるが。

「フンッ」

 大型オオカミはまたたく間に跳躍しかわしてみせる。しかもそこからフロアの壁にいったん張り付き、そしてまたたく間に突撃を。鋭利な爪でゆきを引き裂こうと強襲してきた。
 その動きは流れるような一連の動作であり、でかい図体をしながらも敵の俊敏性は相当なもの。これにはゆきも対応できそうになく。

「うそぉぉぉ!?」
「させるか!」

 ゆえにレイジは刀を振りかぶり、大型オオカミに突貫。
 刀と爪が激突。敵は巨体ゆえそこから放たれる攻撃は、巨大な鈍器どんきに薙ぎ払われているかのような重い一撃だ。それでもなんとか食い下がり、はじき飛ばすことに成功する。
 大型オオカミは攻撃をしのがれ、いったん飛び引き距離をとった。

「ゆき、危ないところだったな」
「くおんかぁ、助かったぁ」

 ゆきは胸をなでおろす。

「さっきのは女はぁ?」
「駆けつけてくれた花火に任せてきた。それでゆきの方の進展はと聞きたいところだが、この様子だとあまりよろしくなさそうだな」
「見てのとおりだぁ。迷路を攻略しようとした早々、あのオオカミが邪魔してきて調べるどころの話じゃなくなってさぁ。しかも戦ってみたら手ごわいのなんのぉ。――はぁ……、ホラー要素といい、もうさっきから踏んだり蹴ったりだよぉ」

 ゆきは肩をがっくり落とし、大きなため息を。

「ははは、ご苦労さん。とりあえずあのガーディアンをなんとかしないとな。急いでるし、ここは操ってる人間側をしとめるべきか。ゆき、そこのところ、どうなってるんだ?」
「それなんだけど、あれはガーディアンじゃなくて人かもしれないー」
「は? なにを言って?」

 目の前の敵はどこからどう見てもガーディアン。ゆえに誰かが操っているはずなのに、ゆきの推測はまったく予想外のもの。もはや混乱するしかない。

「生きのいい得物がもう一人!」
「ッ!? 来るか! ゆきは下がってろ!」

 くわしい話を聞きたいところだが、そこへ大型オオカミが疾走し突撃してきた。なのでレイジは前に出て迎え撃とうと。
 せまりくるは猛スピードからくりだされる、すれ違いざまの苛烈なクロー。その一撃と真っ向からぶつかり凌ぎを削るのは、力差的に分が悪すぎる。ゆえに受け流す形で敵の攻撃をやり過ごした。

「くっ、二撃目か!?」

 一発防いだと安堵あんどするのもつかの間、大型オオカミは即座に方向転換。一息つかせる間もなく連撃を。それをギリギリ刀で受け止めて流すも、敵の猛攻は止まらない。すぐさま振り返り、すれ違いざまの強烈な一撃を放ってくるのだから。

(あの巨体でこのスピード。バケモノじみた俊敏性だな。近接タイプのデュエルアバター使いじゃないと、対応しきれないぞ、これ)

 しかも問題はノーダメージで防げていないということ。あの巨体からの猛スピードの突撃ゆえ、すさまじい風圧も襲ってくるのだ。なので爪の攻撃は受け流せても、衝撃までは殺しきれずダメージが徐々に入ってきていたのである。

(このまま防戦に徹してたら、なぶり殺されるだけだ。そろそろ敵の動きにも慣れてきたし、一気に片を付ける!)

 大型オオカミとすれ違った瞬間、レイジは即座に間合いを詰めようと地を蹴る。それと同時に刀をさやに。抜刀のアビリティを起動。超斬撃で斬りせようと。だが相手もさすがというべきか、すでに方向転換し再度突撃しようとしていた。
 しかしレイジはおくすることなく前へ。あの巨体ゆえふところに入りさえすれば、敵はなかなか対処できないはず。すでに相手の攻撃はある程度見切っているため、被害を最小限におさえつつ斬れるであろう。

「死ね!」

 だがここで予想外のことが。なんと敵が突撃してこようと思いきや、急に止まり口を大きく開けたのだ。すると口元が光りだし、次の瞬間、口から衝撃波が発射された。
 その威力は目でわかるほど強烈な一撃であり、内包するベクトル量はかなりのモノ。そこらのコンクリートの壁など余裕で貫通するほどの破壊力であり、まともにくらえば大ダメージは逃れられないだろう。

「クソッ!」

 距離を一気に詰めようと全速力で駆けていたため、回避行動は間に合わない。ゆえにレイジは抜刀し、超斬撃を衝撃波めがけてはなった。
 一瞬衝撃波に飲み込まれ吹き飛ばされそうになるも、気合で耐えそのまま真っ二つに断ち斬る。おかげで間一髪、切り抜けることに成功した。
 しかし。

「終わりだ!」
「しまった!?」

 気づけばすでに大型オオカミが距離を詰め、苛烈なクローをレイジへとくりだしていたのである。さすがに今は抜刀による斬撃を行使した直後。回避もガードも間に合わない。それほどまでに完璧なタイミングで、敵はとどめの一撃をはなっていたのだ。

「くおん! 下がれぇ!」

 絶体絶命のピンチであったが、ゆきの剣が割って入ってくれる。彼女は七本の剣を円状に展開し、念動力で固定。即席の盾を作って、敵の攻撃を見事受け止めてくれたのだ。
 その隙にレイジは大型オオカミと距離をとる。

「邪魔だ」

 防がれたことに苛立いらだったみたいで、今度はゆきめがけて強烈な衝撃波を放つ大型オオカミ。

「わぁっ!?」

 ゆきは念動力を自身に使い、一気に跳躍してやりすごした。

「よそ見してるヒマはないぞ! くらえ!」

 大型オオカミの視線が外れた一瞬の隙を狙い、レイジは敵の頭上をとる。そして上段の大きく振りかぶった一刀で、敵の頭をたたき斬った。

「なっ!? なんだこの耐久性!?」

 しかしここで予想外の事態が。普通のガーディアンなら頭部を破壊し尽し、戦闘不能状態に持ち込めていたであろう斬撃。だというのに刃が思った以上にめり込まず、左目をを深く傷つけるぐらいしかダメージを与えられなかったという。

「ぐぁっ! よくも左目を!」

 大型オオカミが反撃しようとするところへ、ゆきの七本の剣が閃光のごとく降りそそぐ。

「ちっ!」

 だが敵はその攻撃を地を蹴って回避。一本だけ浅く突き刺さっただけで終わったが、レイジと敵との間に距離が生
まれた。

「よしっ! くおん、いったん体勢を立て直すぞぉ!」
「わかった」

 敵のあまりのスペックを前に、ここはゆきの指示にしたがうべきだと判断。彼女のもとへと駆け寄り、一時撤退するため二人で別のフロアへと向かう。


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