電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第5部 ゆきの決意

228話 レイジVSロウガ

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 レイジたちは別のフロアへと、全速力で向かっていた。
 ちなみにゆきは念動力を自身に使い、高速移動しながらレイジについてきている。
 後ろをちらりと見ると、跳び引いて大きく距離をとった大型オオカミが逃がすまいと地を蹴ったところであった。

「ゆき、なんなんだあれ!? パワー、スピード、おまけに耐久力。どれか一方ならまだしも全部ヤバいとか、あんなガーディアン存在するのかよ!?」
「用意はできるよー。けど知ってのとおり、ガーディアンはスペックが高ければ高いほど操作性が跳ね上がるー。だからあまり強く作りすぎると、操作がおぼつかなくなって逆に弱くなってしまうのが一般的だぁ」

 これこそガーディアン使いの頭を悩ませるところ。敵を倒すにはそれ相応のスペックがいる。しかし強くすれば強くするほど操作性が上がり、動きが単調に。ヘタすれば、まともに動くことが出来なくなってしまうのだ。それだと話にならないため、ガーディアン使いは基本スペックを落とし、操作性重視で戦うのだとか。

「でもあれスペックがバケモノじみてるだけじゃなく、操作の方もピカイチだったぞ?」

 あのスペックだとほとんど制御がきかず、一度突っ込んだら止まれないレベルのはず。だというのに細かな動きも完璧であり、むしろその操作レベルは通常のガーディアンをしのぐほど。本来ガーディアンの操作は遠隔のため、動作性にどうしてもラグが生まれてしまうはず。しかし目の前の敵は、まるで一体化でもしているかのように動作性がずば抜けていたのだ。もはやガーディアンの常識が、まったく通用しない敵といっていい。

「だからさっきも言った通り、あれはガーディアンなんかじゃない。人だぁ」
「いやいや、どこからどう見てもガーディアンだろ!?」

 ツッコミをいれながらも、レイジたちは別のフロアへと。

「確証もあるー。さっき刺さったゆきの剣を通して改ざんで解析したところ、あの機体の中に人が乗ってたんだぁ。ロボットに乗り込んでるみたいな感じにさぁ」
「そんなものがこの世界にあるなんて、聞いたことないぞ?」
「ゆきだってもちろんないよぉ! そんなロマンあふれるものがあったら、とっくに作って試してるもん! エデン財団がらみだし、そうとうむちゃくちゃなことをやって実現したんだろうなぁ。たぶんアビリティやデュエルアバターも、それ方向に一点特化したりしてさぁ」
「なるほど、それならありえるかもしれないな。――ははは……、さっきの女の子といい、エデン財団上層部のエージェントはみなバケモノぞろいかよ」

 新たなフロアを突き進んでいると、大型オオカミが後ろの壁を突き破り入ってきた。

「来やがったか」
「逃がすかよ!」

 そして敵は口から強烈な衝撃波を、レイジたちへと放ってくる。
 対してレイジとゆきは二手に別れながら、前方へと跳躍し回避を。

「くそ、またこいつらか」

 着地した瞬間、等身大の簡易的な人形たちがどこからともなく出現。そして次々とボロボロの武器を振りかざし、襲ってきた。

「あそぼ! あそぼ!」
「今はお前たちにかまってるヒマはないんだよ!」

 強襲してくる人形たちを、すれ違いざまにどんどん斬り伏せる。
 ゆきの方に視線を移すと、彼女も人形たちに襲われていた。しかし六本の剣を念動力で操り、またたく間に人形たちをほふっていく。
 ちなみに彼女の七本目の剣は、今だ大型オオカミに刺さったままという。

「ザコどもが! 失せろ!」

 激しい破壊音に後方を見ると、大型オオカミも人形たちと戦っていた。
 ざっと十五体ほどの集団が、一斉に彼へと襲いかかっている。しかしたちまち鋭利な爪に引き裂かれ、時には牙にかまれたりして破壊しつくされていった。敵は持ち前のスピードで突っきったりせず、せまりくる人形を一体も逃さない勢いで倒していたという。そのおかげで時間は稼げていた。

「それでどうするんだあれ? ズバ抜けた機動力からの攻撃だけでも厄介なのに、そこに口からの衝撃波とか。あれじゃあ、近づくだけでも困難だぞ」

 ゆきと再び合流し、別のフロアへとたどり着きながらたずねる。

「ちょっと待ってろぉ。今、策を練ってるところだぁ」

 ゆきはいくつもの空中ディスプレーを操作しながら、なにか手を考えてくれていた。

「待ちやがれ!」

 そうこうしていると大型オオカミが再び壁を突き破り、このフロア内へと侵入してくる。

「ちっ、もう少しあいつらと遊んでくれてたらよかったのに」
「よし、これならいけるかもぉ。くおん、今から猛攻を仕掛けて、相手の注意をひきまくれぇ。そしてゆきが合図を出したら、防御をかなぐり捨てて全力で斬りせろぉ!」

 腕をバッと前に突きだし、オーダーを投げかけてくるゆき。

「なかなか無茶なオーダーだな、おい」
「ゆきを信じろぉ。あとチャンスは一回きりだから、しくじるなよぉ!」
「わかったよ。そういうわけで行くぞ! オオカミ野郎!」

 レイジはすぐさま方向転換し、襲いかかってくる大型オオカミへと特攻を。

「さっさと観念して、喰らわせろ!」

 レイジの斬撃と、敵の苛烈なクローが火花を散らしながら激突。
 鈍器に薙ぎ払われるような衝撃をなんとか踏ん張り、大型オオカミの勢いをいったん止めた。

「そこ!」

 即座に間合いを詰め、斬りかかるが。

「ハッ」

 敵はまたたく間に後方へ跳躍し、壁へと張り付いた。そして壁を蹴り、レイジへと鋭利な爪をきらめかせ突撃してくる。
 その見事なまでの一連の動作に、もはや回避が間に合わず受け止めるしかない。刀でクローをギリギリはじくが、押し寄せるあまりのベクトル量に吹き飛ばされてしまう。

「死ね!」

 そこへすかさず大型オオカミは、口から強烈な衝撃波を放って追撃を。
 先ほどの攻撃で吹き飛ばされていたレイジは、なんとか足を地面につけ体勢を立て直そうと。しかしこのままでは立て直した直後、地面をえぐりながらせまりくるベクトルの塊の一撃をもろに受けてしまうだろう。ゆえにさやに刀を納め抜刀のアビリティを起動。

「させるか! 叢雲抜刀陰術むらくもばっとういんじゅつ、二の型、斬空刀ざんくうじん!」

 抜刀したことにより放たれるは、大気を斬り裂きながら得物へ飛翔ひしょうする斬撃。叢雲流抜刀陰術二の型、斬空刃。抜刀のアビリティのブーストを、斬った時に応じる風圧に付加させくり出す技である。
 強靭きょうじんな飛ぶ刃と化した斬撃は、衝撃波とぶつかりこれを見事相殺。
 だがレイジのターンはまだ終わらない。というのも斬空刀をくりだしてすぐに、敵めがけて疾走していたのだ。それゆえ敵の攻撃を相殺した地点を抜けながら、再び刀をさやへと戻し抜刀のアビリティを起動。大型オオカミは衝撃波を撃ってまだ間もない。今ならあの攻撃に邪魔されず、斬れると思ったのだが。

「ハッ!」
「なっ!? 二撃目!?」

 ここで予想外の事態が。なんと敵は即座に衝撃波を放ってきたのだ。どうやらあの攻撃にはとくに反動とかなく、連射可能らしい。
 再度襲いかかる脅威に対し、レイジはとっさに斜め右へと飛び込み回避を。一応連射できる可能性もわずかながら考慮していたため、紙一重でかわせたという。
 そしてレイジはローリングして体勢を瞬時に立て直す。さすがにもう連射はできないだろうと踏み、一気に間合いを詰めようとしたのだが。

(三連射とかウソだろ!?)

 なんと大型オオカミの口元がこれまでみたいに光だし、衝撃波を撃とうとしていたのだ。
 もはや突っ込む気満々だったのと、敵が完全にレイジをとらえ攻撃しようとしていたため、今度ばかりは回避できそうにない。ギリギリ抜刀のアビリティで断ち切れるかもしれないが、隙が生まれ確実にそこを狙われる可能性が。どちらにせよ大ダメージは逃れられないだろう。

「こうなったら一か八かだ! 叢雲抜刀陰術、三の型、無刻一閃むこくいっせん!」

 よってレイジに残された選択肢は、敵が攻撃を放つ前に決めるしかない。なので叢雲抜刀陰術、三の型、無刻一閃を行使することにした。
 この秘剣は抜刀のアビリティによる斬撃のブーストに加え、一時的に機動力を格段に上げて放つ超高速からの超斬撃。そのあまりの速度により、相手は何が起きたかわからない内に斬られているという剣技だ。
 大型オオカミの口から衝撃波が放たれるであろう、まさにその刹那。超高速からのレイジの抜刀による剣閃が、敵に届く間ぎわに。

「チッ!?」

 なんと敵はやられると勘付いたのか、跳躍し緊急回避を。その軌道はもはやでたらめ。突如とつじょ手足にそなわっていたらしい高出力のブースターが起動し、機体にかかるであろう負担を完全に無視して跳び退いたのだ。

(今のを回避するのかよ!?)

 結果、レイジの無刻一閃はあと少しのところで空振りにおわってしまう。
 とはいえ敵も無傷ではなさそうだ。無茶な回避行動をしたため相当の負担がかかったらしく、機体の関節部分から火花が散ったりしていた。

(機体性能はもちろんだが、それだけじゃない。操作してる人間のウデそのものがヤバすぎる!?)

 距離をとりいったん体勢を整えている大型オオカミに視線を移しながら、思考をめぐらせる。
 力、俊敏、耐久どれもハイスペックであり、おまけに連射できる衝撃波。機体の強さは目に見て明らかだが、さらに厄介なのは操っている人間だろう。いくら強力な武器であろうと、使っている人間の技量がなければその戦闘力は大したことないというもの。だが目の前の敵は違う。そのウデはSランク、下手したらSSランクにも届くかもしれないほど。四足歩行の巨体であるオオカミを、まるで自身の手足のように扱っているのだ。機体のスペックと合わせて、まさに鬼に金棒といっていい。

(なによりあの反応速度、反則級だろ!?)

 そう、敵はケモノのごとき反応速度を持ち合わせ、攻撃や回避の判断もピカ一なのだ。
 先ほどの無刻一閃をかわした時など、とくにそうだ。あのレイジを倒す絶好のチャンスだというのに、このままではマズイと瞬時に察知し攻撃を中断。回避を選んだ。あの状況下でその判断はさすがというしかない。

(これは一人で手におえる相手じゃないぞ……)

 エデン財団の保有する驚異的な力の数々に、畏怖いふの念を覚えずにはいられない。

「とはいえ引き下がるわけにはいかないよな。ゆきのオーダーもあるし、そろそろやり返さないと!」

 鋭利な爪を振りかざしものすごい勢いで跳びかかってくる敵を、全力で迎え撃とうとレイジも前へ。
 ゆきの策を成功させるためにも、全力で注意を引かなければ。それにいつまでもこの敵に時間をかけているわけにはいかない。早くバグ本体のところに向かう必要があるのだから。

「叢雲抜刀陰術、一の型、刹花乱せっからん!」

 刀をさやに戻し抜刀のアビリティを起動。そして刹花乱を大型オオカミの重い一撃に放った。
 抜刀による超斬撃が敵の爪をはじき、攻撃をそらすことに成功する。しかしそれだけではおわらない。刹花乱は超高速で放つ二連撃の斬撃。ゆえにまだもう一発分の超斬撃が残っているのだ。

「まだまだ!」

 そしてすれ違いざまの二発目。狙うはレイジから見て敵の右頭部。というのも大型オオカミの左目は、先ほどゆきとの連撃で深く傷つけられていたのだ。そのため敵は左目側の視覚を一時的に失っているのではないか。そんな推論を少し前から思い始めていたのである。もしこれが当たっているなら、二撃目は対応されずもろに入るはずだと。

「グァァァァッ!?」

 結果、二撃目が敵頭部にクリーンヒット。その顔面に強力な一撃をたたき込めていた。
 ただ刹花乱は連撃仕様のため威力が少し落ちるのと、敵の固い装甲のせいで致命打にはいたらなかったみたいだ。

「よし、このひるんだ隙に、たたみ掛ける!」

 足を止めひるんでいる敵に対し、ふところに潜り込んで怒涛どとうの猛攻を仕掛けようとするが。

「このヤロウ!」
「なっ!? そんなのありかよ!?」

 なんと敵は高出力のブースターを起動させ、無理やりレイジの動きに対応。渾身の一撃をたたき込もうと。機体に多大な負担をかけつつも、振りかざされる鋭利な爪。関節のいたるところで火花が散っているが、おかまいなしにだ。もはや相手は怒り狂っており、なにがなんでもレイジを引き裂こうとしていた。
 もはや人間ではありえない、機械だからこそできるでたらめな動き。ゆえにこの攻撃は完全に不意打ちに近く、反応することができなかった。

「くおん、今だぁ!」

 しかしやられると思った瞬間、後方からゆきの声がひびいてくる。

「な、てめぇら、なにをしやがった!?」

 その瞬間、振り下ろそうとしていた敵の腕が突如止まる。
 なにが起こったのかはわからないが、どうやらゆきの秘策が見事決まったらしい。この起死回生のチャンスにレイジは。

「任せろ! 特大の一撃でしとめてみせる!」

 これまでの戦いで、出し惜しみできる相手でないのは痛いほど痛感している。ここを逃せばおそらくあとがないことも。ゆえに森羅しんらからもらった破壊のアビリティを起動。心を狩猟兵団のころの闘争に飢えた、修羅の久遠くおんレイジに。そして破壊衝動を、すべてを飲み込み消滅させる黒い炎にかえ刀にまとわせた。

(――カノン、わるい……)

 本当ならカノンの想いを踏みにじるこの力はあまり使いたくないが、今は四の五の言ってる場合ではない。狂気を、燃えさかる漆黒の炎を肥大化させ、これまでにない最大出力でち斬ろうと。

「ハァァァ! 黒炎よ、斬りせろ!」

 そして無防備になっている敵に、黒炎をまとった必殺の斬撃を。一刀いっとうのもとに、大型オオカミを斬り伏せるのであった。
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