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5章 第5部 ゆきの決意
231話 上層部の狙い
しおりを挟む「完全に逃げられた!? まさかあのオオカミ、まだ動けたなんて」
「くそぉ、あと一歩だったのにー」
まんまとウォルターに逃げられ、悔しがるレイジたち。
「上層部の情報を手に入れられなかったのは残念ですが、無事バグをどうにかすることに成功しましたぁ。お疲れさまですぅ、レイジにいさま、ゆきねえさま」
マナはぺこりと頭を下げ、にっこり笑いながらねぎらってくれる。
「なんかあまりうまくいった気がしないけどな。やつらに逃げられたのもそうだし、あの元凶の水晶も奪われたんだから」
一応当初の目的のバグの問題は、収束できたかもしれない。しかし強制ログアウトしデータを奪えなかったり、今回の騒動を引き起こした元凶である紅色の水晶を回収されてしまったり。全体的にみたら、あまり喜べる結果ではなかった。
「あれに関してはエデンの巫女の力で封じ込めたので、そうやすやすと手出しはできないでしょう」
「そっか。それならやつらの計画を妨害できたといっていいんだな」
「まな、あの水晶。あいつは女神の欠片とか言ってたけど、あれっていったいなんなんだぁ? 独立した空間ならまだしも、クリフォトエリアまで侵食してたけどぉ」
安堵していると、ゆきが不安げにたずねる。
「そうですねぇ。少し心当たりはありますが、憶測の域は超えられません。なのでもっと情報を集めてからではないと、はっきりしたことは言えないですねぇ」
マナは目をふせ、申しわけなさそうに答える。
「ただわかることは、おそらくこれからもあの水晶がらみで似たようなことが起こるということですぅ」
「あんな世界を侵食するヤバいものが、これからもぉ!?」
「はい、これまでのエデン財団の不気味な動きは、あの水晶、女神の欠片のためだったみたいですからねぇ。この先も裏で暗躍し、データを集めるはず」
「そういえばあの博士、そんなことを言ってた気がするな」
ウォルターが女神の欠片関連で、いろいろ意味ありげなことをつぶやいていたのを思い出す。
「――やはり……、これから忙しくなってきますねぇ。あれはバグじゃないにせよ、放置していればエデンに悪影響をおよぼしかねません」
「だよなぁ。浸食を受けているときも、世界が悲鳴をあげてたしー。エデンの中枢があのひどいありさまな今、これ以上負荷をかけさすわけにはいかないよぉ!」
拳をぐっとにぎりしめ、危機感をあらわにするゆき。
「あと、マナの調律も快く思っていなかったみたいですし、この先彼らの妨害も続くはずですぅ」
「実際、相馬さんを使って、白神コンシェルンに手を出そうとしてる背景もあるからな。こうなってくるとますますマナを、やつらの手に渡すわけにはいかないぞ」
もし相馬が次期当主になりどんどん権力を手に入れていけば、いずれエデンの巫女であるマナにたどり着くことに。そうなればエデン財団上層部と組んでいる保守派側が、彼女を押さえるのも時間の問題。巫女の力がやつらの手に渡るだけでなく、調律の仕事にも干渉してくるのは目に見えていた。そしたらいったい誰が、バグや女神の欠片による浸食からエデンを守れるのだろうか。
「――次期当主の件かぁ……」
ゆきが思いつめた表情で目をふせる。
相馬が次期当主となり、マナが敵の手に落ちたときの最悪の結末を想像しているのだろうか。
「おっ、イタ、イタ、ゆき、久遠、やっと合流できたー」
廃工場の建物内から、花火が大きく手を振って駆け寄ってくる。
黒炎を操るナツメをくい止めていてくれた花火だが、無事切り抜けたらしい。
「無事だったか、花火」
「きゃはは、あの子めちゃくちゃヤバくて、何度も冷や汗をかかされたけどねー」
ケラケラ笑いながら、肩をすくめる花火。
「って、だれ? この愛らしい美少女は!? ウチに紹介してよー!」
「今取り込み中なので、静かにしててもらえますか?」
テンション高く詰める花火に対し、マナはさぞ迷惑そうに文句を。
相変わらず懐いている相手以外の対応が、冷たいマナである。
「その声、もしかしてネコのガーディアンを操ってたマナちゃん!? うわー、すごくかわいいじゃん! 抱きしめちゃお!」
しかし花火はまったくひるまず、陽キャ特有の馴れ馴れしい態度でマナへと抱き着きだす。
「な、なにを!? 暑苦しいのではなれてください!」
「ははは、そのぐらいにしといてやれよ。うん?」
嫌がっているマナを助けに行こうとした、まさにそのとき。
「ゆき?」
ゆきがどこか思いつめた表情で、レイジの上着をぎゅっとつかんできた。
「くおんはなにがあっても、ゆきについてきてくれるー?」
「当たり前だろ。オレはゆきの味方だ。呼ばれたらすぐにでも駆けつけるさ」
不安げな彼女の頭をポンポンしながら、力強くほほえみかける。
「そっかぁ、くおんがいてくれるなら、ゆきはぁ……」
すると満足いく答えが得られたらしく、意を決したように前を向くゆきなのであった。
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