電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
241 / 253
6章 第1部 アリスの来訪

234話 アリスとの出会い

しおりを挟む
 7歳の久遠くおんレイジは育ての親になってくれたウォード・レイゼンベルトに連れられ、とある部屋に案内された。この部屋に彼の娘のアリスがいるらしく、あいさつして来いとのこと。
 部屋に入ると、そこには一人の少女が立っていた。

(あの子がアリスか。きれいな子だ……)

 輝く金色の髪に、整った顔立ちをした美人な女の子。どこか達観したような乾いた瞳に、誰も近づかせないような冷たい雰囲気を漂ただよわせている。
 気づけばそんな彼女に、一瞬見惚れてしまっていた。

(――でも、なんだろう。この予感めいた確信は……)

 しかしそれもつかの間、奇妙な感覚が押し寄せてくるという。

(この子は底知れない狂気をはらんでいる。そしてどこまでもちていって、最後に待っているのは……)

 これは予感だが、彼女はただひたすら自身の湧き出る衝動にしたがい続けるだろう。それはもはや狂気的に、それ以外なにもいらないと求め続ける。そこに他者が入る隙間などない。彼女は一人どこまでも堕ちていく。そんな生き方の先に待っているものが、いい結末とは到底思えなかった。

(オレはこの子の手を離しちゃいけない)

 アリスのことを想うと、自身の内に確固たる衝動が湧き上がってくる。それは彼女を救わなければならないという、脅迫観念に似たなにか。決してアリスの手を離してはいけないと。でなければ彼女はどこまでも一人で堕ちて行って、いづれ取り返しのつかないことになってしまう。言葉では説明できない運命的な予感が、久遠レイジを駆り立てるのだ。

(――ああ、そうだ……。たとえ一緒に堕ちていくことになったとしても、オレは彼女を……)

 一瞬、脳裏にかつてちかいを交わした女の子。カノン・アルスレインの姿が浮かぶ。そこへもしカノンとの誓いを果たすなら、アリスにかかわるべきではないという警告が脳内に鳴り響くが。
 だが気づけばレイジはアリスのもとへ。そして脅迫観念に突き動かされるまま、彼女へと話しかけにいく。すべてはアリス・レイゼンベルトを一人にさせないために。そう決心しながら。









 レイジが目を覚ますと、見慣れた天井が見える。カーテンの隙間から陽ざしが入り込んでおり、時計を確認すると8時ぐらいだろうか。

(なんだか懐かしい夢を見ていた気がする)

 ここはレイジの借りているマンションの一室。少し前まで泊まっていたゆき、あと那由多なゆたはすでにもういない。ゆきは白神家の問題が一段落ついたため、家に戻っていった。本人は残りたそうにしていたが、さすがに女の子と一つ屋根の下で過ごすという精神的疲労があるため却下したという。那由多に関しては、ゆきが出ていったためレイジを見張る必要はもうない。そのため有無も言わさず、無理やり追い出したのであった。こうして晴れて一人になったはずなのだが、問題が。

(あれ? おかしい。ゆきは帰らせたし、那由多も追い出した。もうこの家には誰もいないはず。なのになんで腕に誰かのぬくもりが……)

 そう、現在レイジの左腕が異様に重く、ほのかな温もりとむにっとした柔らかさとほどよい弾力が襲ってきているのだ。さらにあまりにも近いので吐息といきと、女の子特有のいい香りまでとどいてくる始末。どうやら左腕を、抱き枕のように扱われているらしい。

「――もしかして……、いや、まさかそんなはずは……」

 おそるおそる視線を横に向けると、そこには。

「ア、アリス!?」

 レイジを抱き枕にしていたのは、黒い双翼のやいばとして共に戦いつづけた戦友であり、小さいころからずっと一緒にいた家族といっていい少女。アリス・レイゼンベルト。一体なぜ、彼女がレイジの家に上がりこみ、そしてベットで寝ているのだろうか。昨日の寝る前には、確実にいなかったはずなのに。

「――どうしてここに……。というかなんて恰好かっこうしてるんだよ」

 さらに問題なのは、上がぶかぶかのレイジのワイシャツ一枚で、下はパンツだけという彼女の姿だろう。ボタンをきちんと上までかけていないせいで見えてしまう彼女の大きいむねの谷間や、きわどく見える生足の部分など。もはや思春期の男子には目の毒としかいいようがなかった。

「こんな光景、誰かに見られたら、あらぬ誤解を生むぞ。とくに那由多なんかに見つかったら……」

 那由多に目撃されたら、ものすごく面倒なことになるのは確実。いなくてよかったと心から安堵あんどするしかない。
 だがいつまでもこうしているわけにはいかない。那由多が朝食を作りに来る可能性があるのだ。ゆえに早くアリスを起こし、とりあえず着替えさせなければ。

「はっ!?」

 しかしそこで緊急事態が。なんと玄関の扉が開く音がしたのだ。

「まさか那由多のやつが来た!? くそ、こんな時に! アリス! 頼むから起きてくれ!」

 慌ててアリスの身体を揺さぶりながら、起こそうと。

「あら? おはよう、レージ」

 すると彼女は上半身を起こし、眠そうに目をこすりながらあいさつしてくる。

「アリス、とにかくいったんどこかに隠れてくれ!」
「なにいってるのかしら? それよりまだ眠いわ……。もうひと眠りさせてちょうだい……」

 アリスはレイジの首元に両腕を回し、そのまま抱きつく形でもたれかかってきた。
 その結果彼女のナイスバディーな胸のやわらかさが、どっと押し寄せてくる。

「おい、こら! 寝るんじゃない! 早く隠れないと、那由多が!?」

 状況はさらに悪化。アリスはレイジに抱き着きながら、再び寝てしまう。
 そこへ。

「レイジ! かわいい、かわいい通い妻、那由多ちゃんが起こしに来てあげましたよー!」

 玄関からダッシュして、勢いよく中に入って来る那由多。

「起きて……、ください……、え?」
「あっ」

 そして那由多と目が合う。
 朝からテンション高くルンルンだった彼女は、今のレイジたちの姿を見て硬直してしまう。まるで目の前で起こっている現実が理解できず、脳がフリーズしてしまっているかのように。

「はっ!? れ、れ、レイジ! 那由多ちゃんというものがありながら、一体なにをしてるんですかー!!!」

 気まずすぎる沈黙が続くこと数十秒、那由多がハッと我に返り、こぶしをわなわな震わせながら怒鳴ってくるのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...