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6章 第1部 アリスの来訪
236話 ウォードの頼み
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アリスと那由多のいがみ合いから逃げ出し、レイジは住んでいるマンションのすぐ近くにある小さな公園に来ていた。すべり台やブランコ、ジャングルジムといった遊具があるいたって普通の公園である。よく夕方になると、子供たちが集まり楽しそうに遊んでいた。ただ今はまだ朝方ゆえ利用者はおらず、レイジ一人という。
「ボス、アリスがこっちに来たんですけど、これはどういうことなんですか?」
現在アリスのことを聞こうと、彼女の父親であり狩猟兵団レイヴンのトップであるウォード・レイゼンベルトに電話している真っ最中であった。
「ハハハ、もうレイジのところに押しかけたか。さすがは俺の娘、手が早い」
「笑いごとじゃないんですが。そのせいで朝から、すごい疲れるはめになったんですよ」
豪快に笑うウォードに、肩をすくめるしかない。
「なんだ? 別の女とアリスが直面して、修羅場にでもなったか? ハハハ、いいご身分だな、おい」
「――なんでそこ、ピンポイントで当ててくるんですか……」
「おいおい、俺は育ての親だぞ。レイジのことなら大体わかるさ。どうせおまえのことだからいろいろな女にちょっかいかけて、イチャイチャしてるんだろ」
「ボスはオレにどんなイメージを抱いてるんですか? そんなチャラい男なわけないでしょ」
「やはり無自覚か。これは天性のプレイボーイだな。恐れ入った。さすがはあいつの息子だ」
抗議するも、ウォードになにやら畏怖の念を抱かれてしまう。
「――あのですね……」
「ハハハ、それでアリスを向かわせた理由だったな。実はアランがお前たち黒い双翼の刃に、大事な依頼があるそうなんだ」
頭を抱えていると、ウォードがさっそく本題に入ってくれる。
「アランさんが? オレは今エデン協会側の人間なんですよ。そんな明らかにやばそうな狩猟兵団側の依頼、受けるのはいろいろまずい気が……」
狩猟兵団連盟のトップであるアラン・ライザバレット。そんな大物じきじきの依頼が、普通のものであるはずがない。あまり過激な内容だと、エデン協会に属するレイジの立場が危うい可能性があった。
「まあ、そういうな。俺もくわしくは知らんが、そう物騒なやつじゃないらしい。それとアランいわく、この件はおまえたち巫女派にとっても意味があるかもしれないそうだ」
「ははは、そうきましたか」
巫女派に関係があるかもしれないとなると、レイジだけで判断するわけにはいかない。いったん那由多やカノンに、指示を仰ぐべきだろう。
受けるかどうか思考をめぐらせていると、ウォードが真面目な口調で頼みこんできた。
「あと、これは個人的な頼みなんだが、引き受けてやってくれないか? アリスのためにもな」
「どういうことですか?」
「実はな、ここだけの話、アリスの様子が変なんだ。レイジが出ていってから上の空になることが多かったが、最近特にひどい。ため息ばかりついて、思いつめてばっかだ。戦いの最中ですら、たまにそうなってるほどなんだぞ」
「戦いの最中でもって、よほど重症ですね」
「ああ、光いわく、まるで恋する乙女の憂鬱モードみたいな状態らしい」
「あのアリスが?」
普段のアリスからは想像もできない状態ゆえ、困惑せずにはいられない。
「そこに関しては俺もなにかの間違いだとは思うが、思い悩んでるのは事実だ。アリスがどれだけレイジを想い、心の支えにしてきたのかはよく知ってるつもりだ。聞けばアリスのやつ、お前たちアイギス側に誘われているんだろ?」
「ええ、なんか気づけばそういった話に」
初めは結月の提案から。そして現在カノンまでも乗り気になっている。なのであとはアリスの答え一つで、アイギスへの加入が決まるといってよかった。
「おそらくそれが原因なんだろう。そっちにいけばレイジと一緒にいられる。しかし闘争こそが生きがえのアリスにとっては、狩猟兵団こそが居場所。戦える機会が、こっちの方が断然多いからな。それでレイジをとるか、闘争をとるか。あいつの心は揺れ動いているとみた」
「――闘争こそ生きがえのアリスが、そんなにも迷ってるだなんて……」
「それほどレイジのことが大切なんだろうさ。俺もおまえの父親との関係で同じような感じだったから、気持ちはよくわかる」
ウォードがしみじみとした感じでうなづく。
「そういうわけだからいったんレイジと一緒にいらせてやって、これからどうするのかよく考えさせてやりたいんだよ」
「なるほど。でもそれだとアリスが、アイギスに来るかもしれませんよ。そうなったらレイヴンを出ていくことに……」
「ハハハ、かもな。だがそれがあいつの選んだことなら、快く送り出してやるさ。これでも俺はあいつの父親なんだ。娘の好きなようにさせてやるさ。なにより俺自身、レイジのところに行くのが一番いい気がしてるんだぜ」
普段の荒っぽくて放任主義の彼にはめずらしく、親の一面をみせるウォード。
「レイヴン的には戦力が大幅ダウンですけどね。オレや師匠、さらにアリスまで抜けたら……」
「ハハハ、おまえたちはおまえたちで、やりたいようにすればいいさ。こっちとしてはそれで強いやつと戦えることになるんだから、望むところさ。おまえも知ってるだろ? うちの連中はそろいもそろって、血の気が多い連中だってな」
レイジの心配に対し、ウォードは豪快に笑いとばす。
「だから俺たちレイヴンと戦うときも、気に病む必要なんてないぞ。こっちも全力で相手してやるから、ドンと来やがれ。お互いこの戦争を好きなだけ暴れ散らかそうぜ!」
「ははは、そうですね。そのときは胸を借りるつもりで、遠慮なくいかせてもらいますよ」
「おうさ。ハハハ、これで一つ楽しみが増えたな。――そうそう、アランの依頼の件については、また向こうから連絡があるはずだ。その時、やつにくわしいことを聞いてくれ。じゃあなレイジ、アリスのことを頼んだぞ」
最後にアリスのことをレイジに託し、通話を切るウォードなのであった。
「ボス、アリスがこっちに来たんですけど、これはどういうことなんですか?」
現在アリスのことを聞こうと、彼女の父親であり狩猟兵団レイヴンのトップであるウォード・レイゼンベルトに電話している真っ最中であった。
「ハハハ、もうレイジのところに押しかけたか。さすがは俺の娘、手が早い」
「笑いごとじゃないんですが。そのせいで朝から、すごい疲れるはめになったんですよ」
豪快に笑うウォードに、肩をすくめるしかない。
「なんだ? 別の女とアリスが直面して、修羅場にでもなったか? ハハハ、いいご身分だな、おい」
「――なんでそこ、ピンポイントで当ててくるんですか……」
「おいおい、俺は育ての親だぞ。レイジのことなら大体わかるさ。どうせおまえのことだからいろいろな女にちょっかいかけて、イチャイチャしてるんだろ」
「ボスはオレにどんなイメージを抱いてるんですか? そんなチャラい男なわけないでしょ」
「やはり無自覚か。これは天性のプレイボーイだな。恐れ入った。さすがはあいつの息子だ」
抗議するも、ウォードになにやら畏怖の念を抱かれてしまう。
「――あのですね……」
「ハハハ、それでアリスを向かわせた理由だったな。実はアランがお前たち黒い双翼の刃に、大事な依頼があるそうなんだ」
頭を抱えていると、ウォードがさっそく本題に入ってくれる。
「アランさんが? オレは今エデン協会側の人間なんですよ。そんな明らかにやばそうな狩猟兵団側の依頼、受けるのはいろいろまずい気が……」
狩猟兵団連盟のトップであるアラン・ライザバレット。そんな大物じきじきの依頼が、普通のものであるはずがない。あまり過激な内容だと、エデン協会に属するレイジの立場が危うい可能性があった。
「まあ、そういうな。俺もくわしくは知らんが、そう物騒なやつじゃないらしい。それとアランいわく、この件はおまえたち巫女派にとっても意味があるかもしれないそうだ」
「ははは、そうきましたか」
巫女派に関係があるかもしれないとなると、レイジだけで判断するわけにはいかない。いったん那由多やカノンに、指示を仰ぐべきだろう。
受けるかどうか思考をめぐらせていると、ウォードが真面目な口調で頼みこんできた。
「あと、これは個人的な頼みなんだが、引き受けてやってくれないか? アリスのためにもな」
「どういうことですか?」
「実はな、ここだけの話、アリスの様子が変なんだ。レイジが出ていってから上の空になることが多かったが、最近特にひどい。ため息ばかりついて、思いつめてばっかだ。戦いの最中ですら、たまにそうなってるほどなんだぞ」
「戦いの最中でもって、よほど重症ですね」
「ああ、光いわく、まるで恋する乙女の憂鬱モードみたいな状態らしい」
「あのアリスが?」
普段のアリスからは想像もできない状態ゆえ、困惑せずにはいられない。
「そこに関しては俺もなにかの間違いだとは思うが、思い悩んでるのは事実だ。アリスがどれだけレイジを想い、心の支えにしてきたのかはよく知ってるつもりだ。聞けばアリスのやつ、お前たちアイギス側に誘われているんだろ?」
「ええ、なんか気づけばそういった話に」
初めは結月の提案から。そして現在カノンまでも乗り気になっている。なのであとはアリスの答え一つで、アイギスへの加入が決まるといってよかった。
「おそらくそれが原因なんだろう。そっちにいけばレイジと一緒にいられる。しかし闘争こそが生きがえのアリスにとっては、狩猟兵団こそが居場所。戦える機会が、こっちの方が断然多いからな。それでレイジをとるか、闘争をとるか。あいつの心は揺れ動いているとみた」
「――闘争こそ生きがえのアリスが、そんなにも迷ってるだなんて……」
「それほどレイジのことが大切なんだろうさ。俺もおまえの父親との関係で同じような感じだったから、気持ちはよくわかる」
ウォードがしみじみとした感じでうなづく。
「そういうわけだからいったんレイジと一緒にいらせてやって、これからどうするのかよく考えさせてやりたいんだよ」
「なるほど。でもそれだとアリスが、アイギスに来るかもしれませんよ。そうなったらレイヴンを出ていくことに……」
「ハハハ、かもな。だがそれがあいつの選んだことなら、快く送り出してやるさ。これでも俺はあいつの父親なんだ。娘の好きなようにさせてやるさ。なにより俺自身、レイジのところに行くのが一番いい気がしてるんだぜ」
普段の荒っぽくて放任主義の彼にはめずらしく、親の一面をみせるウォード。
「レイヴン的には戦力が大幅ダウンですけどね。オレや師匠、さらにアリスまで抜けたら……」
「ハハハ、おまえたちはおまえたちで、やりたいようにすればいいさ。こっちとしてはそれで強いやつと戦えることになるんだから、望むところさ。おまえも知ってるだろ? うちの連中はそろいもそろって、血の気が多い連中だってな」
レイジの心配に対し、ウォードは豪快に笑いとばす。
「だから俺たちレイヴンと戦うときも、気に病む必要なんてないぞ。こっちも全力で相手してやるから、ドンと来やがれ。お互いこの戦争を好きなだけ暴れ散らかそうぜ!」
「ははは、そうですね。そのときは胸を借りるつもりで、遠慮なくいかせてもらいますよ」
「おうさ。ハハハ、これで一つ楽しみが増えたな。――そうそう、アランの依頼の件については、また向こうから連絡があるはずだ。その時、やつにくわしいことを聞いてくれ。じゃあなレイジ、アリスのことを頼んだぞ」
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