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4.視線と日常

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 ホームルームから、自己紹介の流れ。

 目立つのは嫌だし、無難な挨拶をしておくとする。

 席順はあいうえお順なので、サワの自己紹介の番がまわってくるのが早い。

 大丈夫だろうか?と、心配だ。

 サワを見れば、ガタガタと震えていた。俺の視線に気づき、涙目で助けを求めてくる。

 俺は、頑張れー、と。頑張れオーラを送った。

 それに対してサワは、親指を立ててグッドサインを逆さにする。

 へー、それだけの元気があれば大丈夫だろ。俺は、サワから顔を背けた。

 その時、捨てられた子猫のような表情が見えたのは、見なかったことにする。

「川井さん、自己紹介をお願いします」

「はい」

 追い詰められたサワは、おっかなびっくりといった様子で席を立つ。

 クラスの男子からは、「可愛い」や「女子?」といった囁き声が聞こえた。

「…はじめまして。僕、川井傘。飴棒が好きです。僕なんかが自己紹介してすいません。僕はミジンコです」

 ボソボソと小声すぎて、何を言ってるわからない。

「えっ!何て?」

「聞こえない」

「ミジンコ?」

 こうなるとは思ったけど、毎度のことながら世話が焼ける。

「コイツの名前は、川井傘。身内にはイキるけど」

 どこからか殺気を感じた。しかし気づかないふりをする。

 助け船出してるんだから、勘弁してほしいものだ。

「それ以外の他人にはビビる。超ウザキャラと、陰キャの混ざっためんどくさいやつ。良いとこも多分あるから、優しくしてやってくれ」

「多分ってなんだよ」

 再びボソっと聞こえたが、聞かなかったことにする。

 そんなわけで、クラスの自己紹介時間は終わり。担任から、一学期分の教科書が配られた。

 教科書を見るなり、サワは嫌そうな顔をする。そしてぱちーんと教科書にデコピン。アイツ何やってるんだ?

 その後、席替えでサワの隣になった。何で?

 よろしくーと、サワはウィンクする。

 ってなんでだよ。何で毎回、隣の席になるんだ!

「今日帰りどこ寄る?」

 お前はもう、帰りのことを考えているのか。

 今日の授業は、午前中だけだから、すぐに下校時間になる。

 俺は部活動を見に…サワに捕まる。席を立とうとした、時、既に遅し。

 もう目の前にいた。

「行くぞ」

 俺に拒否権はなかった。

「考えたんだけどさ」

「うん」

「サークル作ろうぜ」

「何の?」

「ボランティア」

「ボランティア?」

 意外な答えに驚いた。

「普通に部を作るのは、人数が足りないし。ふざけたサークルだと、認可が降りないからさ」 

 なるほど、考えたな。

「僕が部長、マメオが副部長な」

「うん、やだ」

「サークル設立申請用紙出してくるわ」

 俺の話を聞いてないなコイツ。

「ちょっと待てー」

「何?」

「いつの間にそんなの用意したんだよ」

「ん?もうマメオの名前も書いておいたぜ」

 サワは、当たり前だろと笑う。そして功労を誉めろといった様子だ。

 マジで殴りてぇー。

「申請用紙出したら、図書館で勉強会な」

「俺、腹が減ったから、帰りたいんだけど」

 なんて、嘘だけどな。

「もう昼だろ、午前中授業だから弁当もないしな」

 フッフッフとサワが含み笑いをした。

 嫌な予感。

「あるんだな、これが。二人分弁当用意してきた」

 コイツ策士か!

「わかった、行くよ」

「僕の勝ちだな」

 すぐに飽きるだろうし、少しだけ付き合ってやるか。

 サワは、大層機嫌がよろしいようで、こんな感じで、ずるずると高校生活が始まる。

 先行きが不安だ。

 誰かの視線を感じた気がした。まあ、気のせいか。
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