原初のヒーロー

七星北斗

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目的のための手段二

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 僕は玄関を開けて「ただいま」と呟く。声が家の中に響いた。

 そして母さんは優しく「お帰りなさい」と返してくれた。

 静かな足音が聞こえ、母さんが玄関まで出迎えてくれた。

 普段着にエプロン姿の母。僕と同じあかい目の母さん。

 優しく母は笑う、その表情が僕は好きだ。

「お帰りが遅かったですね。何かあったのですか?」

 気絶して寝ていたとか、粟井ちゃんと喋っていて遅くなってしまったとか、理由をそのまま話すのは角が立つし。

「まさかと思いますが、怪我はしていませんよね!」

 心配する母をよそに、申し訳ないが、適当な嘘で誤魔化すことにした。

「うん、ちょっと面接試験に張り切りすぎて、疲れたから喫茶店で少し休んでた」

 不安そうな顔をしながら、母は心配してくれる。

 もし、彼方がヒーローになれば、もっと苦労するだろうし、もしかしたら死ぬかもしれない。

 しかし、彼方の前では気丈に振る舞い。そのことを考えないように、頭の片隅に置いた。

「そう、でも無理はしてはダメよ。ヒーローが彼方の夢なのはわかっているけど」

「うん、わかってる」

「それはそうと、面接試験はどうだった?」

 聞かなくてもわかっている筈だが、彼方は満面の笑みで伝える。

「面接試験通過したよ」

 っと。

 少し寂しそうに、母さんは祝福の言葉を述べる。

「第一歩おめでとう。今日はめでたいですね」

「ありがとう母さん」

「今日は、腕によりをかけてご飯を作るからね」

「うん、楽しみにしてる」

和夫かずおさんもそろそろ帰ってくるそうよ。彼方、早く着替えてらっしゃい」

「はーい」

 和夫とは、「青井和夫あおいかずお」彼方の父親である。

 僕はトタトタと階段を上がり、二階の自室に帰ってきた。

 彼方の部屋は、たくさんのヒーローグッズやポスターで飾られている。

 スーツを脱ぐと、シワがつかないようにスーツをハンガーに掛ける。

 ラフな服に着替えて、一呼吸を置いた。僕は面接試験を合格できたんだ。

 今更ながら興奮が湧き上がる。

 本当に合格できたんだな。

 しかし、今回の面接試験からわかるように、一筋縄ではいかない。

 次は筆記試験に向けて頑張ろう。

 だけど、疲れた。

 体から一気に力が抜ける。

 ベッドに横になると、大きく背伸びをする。

 目を閉じると、そのまま僕は寝てしまった。

「晩御飯できましたよ」

 母さんの呼ぶ声が、一階から聞こえた。

 彼方は飛び起きて、慌てて返事をする。

「はーい」

 僕は一階に降りて、居間へと向かった。

 居間へ行くと、キッチンで忙しそうに、母さんはお皿に料理を盛っていた。

 母さんは僕に気づくと、お手伝いを頼んだ。

「彼方。テーブルを拭いてから、お箸を並べてくれるかしら?」

「了解」

 いつもの日常、そんな非日常。

「いただきます」

 僕は晩御飯を食べながら、面接を合格したと、父に伝える。

 そしたら父さんは、目を細めて、優しい表情で「おめでとう」と言ってくれた。

父さんは、めったにお酒は飲まないのに、上機嫌で高いお酒を開けていた。

 嬉しいような感覚とともに、少しむず痒い。

 こんな呑気でいいのだろうかと思うが、楽できる時にしないと、心が疲れてしまうものだ。

 まだ、全知全能への受験は始まったばかりである。
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