女性ファースト

七星北斗

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一 理

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 帝国議会鉄学議事堂。
 白磁の床に反射する光は冷たく、まるで人の体温を拒むかのようだった。

 円形に配置された議席を埋めるのは、女、女、女。
 この国において、政治とは女性の特権であり、男性――「しゅう」は、管理され、利用され、処分される存在に過ぎない。

 裁く側と、裁かれる側。
 その境界線は、もはや越えられないほど明確だった。

「――それでは、大帝国鉄学議会を開始します」

 総理大臣・沙弥煌羅の声は、澄んでいながらも刃のように鋭い。
 長い睫毛の奥で、感情を伏せた瞳が議員たちを見渡す。

「本日の議題は、男性犯罪者の増加に伴う、新法制定について。……覚悟は、よろしいですね?」

 軽く微笑む。その仕草だけで、場の空気が引き締まった。

「はーい。覚悟っていうかさぁ」

 間延びした声を上げたのは、労働大臣・宮野日向。

「イケメン以外、全員死刑でよくない? 効率いいし。どうせ男なんて、子種と労働力しか価値ないんだから」

 笑い声が零れる。
 それは冗談のようでいて、誰一人として否定しない現実だった。

「……日向」

 煌羅は名前だけを呼ぶ。
 それだけで、日向の喉が小さく鳴った。

「公の場での発言よ。言葉を選びなさい」

「はーい、ごめんなさーい」

 日向は舌を出しながらも、視線は煌羅から離さない。

「でもさぁ、総理。男に興味ないの、ほんと勿体ない。こんなに綺麗なのに……女同士なら、いくらでも慰めてあげるのに」

 その言葉に、総務大臣・有屋百合が鋭く割って入る。

「宮野日向。私語は慎め」

 そして、ちらりと煌羅を見る。

「……総理、議事を」

「ええ、ありがとう。百合」

 名前を呼ばれただけで、百合の表情がわずかに緩む。
 それを、日向は見逃さなかった。

「……意見のある方は?」

 煌羅の問いに、静かに手が挙がる。

「秩序ナノ公安委員長です」

「どうぞ」

「犯罪を犯す“可能性”のある男性を、事前に隔離すべきかと」

 秩序の声には、一切の感情がなかった。

「更に、処刑前に拷問を施し、その映像を公開する。恐怖を教育として利用するのです」

 ざわり、と空気が震える。

「男に人権なんて与えすぎたのよ」

 法務大臣・水之七が、愉しそうに笑う。

「痛みを覚えさせなきゃ、理解しないもの」

「ただし――」

 煌羅が口を開く。

「今は、まだ早い。一部の男性は、依然として影響力を持っています」

「力を削ぐのが先、ですね」

 外務大臣・柴紫が頷く。

「では……人質を」

「人質?」

「元総理の子息、安原勝治を管理下に置くのです。生かしたまま」

 “生かしたまま”。
 その一言が、何より残酷だった。

「男性は、希望がある限り抗う。ならば、その希望を――首輪にすればいい」

 沈黙。

 やがて、煌羅が微笑む。

「……素晴らしい案です、柴」

 その声は優しく、慈愛すら含んでいた。

「彼を守りたいがために、男たちは従う。私たちは、その間に法を整える」

 煌羅は議場を見渡す。

「決まりですね」

 反対の声は、なかった。

 ――議会は、淡々と終わった。

 夜。執務室。

 煌羅は一人、椅子に身を預け、ネクタイ代わりの装飾を緩める。

「……疲れた」

 女たちの欲望、理性、愛情。
 すべてを受け止める立場の重さ。

「針くん……」

 小さく、誰にも聞こえない声。

「今は、会えないね。でも――」

 彼女は胸元に手を当て、目を閉じる。

「約束は、守るよ。だから私は……この国を、完成させる」

 その微笑みは、救いであり、断罪でもあった。
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