十字架を刻まれた少女

七星北斗

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 痩せた貧相な私の身体。役人は聖痕だけではなく、胸などを遠慮なく見る。

「なんと美しい」

 役人は下卑た笑いを浮かべる。

『気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い』

『消えてなくなりたい、誰からも存在を忘れられ、そこに何もなかったように』

「娘の背中にも聖痕が浮かび上がっています」

 両親の言葉に役人はフムっと頷く。

「おい、後ろを向け」

 私は背中を向ける。白く美しい肌に刻まれた2つの聖痕。

「確かに十字架の聖痕だな」

「私の娘はとても信心深く、きっとそれを神様が認めてくださったのでしょう」

「なるほどな、なんと素晴らしき」

 巧言を弄する役人は、チラチラと両親を見た。

「役人様。これな少ないですが、どうぞお受け取りください」

 待ってましたと、しかし役人は表情に出さない。

 役人に両親は小袋を渡した。役人は小袋を受け取ると、中を確認して上機嫌になった。

「わかった。王には聖女候補がいることを伝えると約束しよう」

 両親は見てわかるほどに喜んでいた。

『偽物の家族、強欲な豚共』

『死ねばいいのに』

 役人は私の前に跪いた。

「聖女殿。服を着るといい、聖痕を確認するためでしたので。御無礼をお許しください」

 私は聖痕を隠すように上着を着る。

「それではまた」

 役人は用事が済んだと、家の外へ出る。

 私は、役人が去ってホッとした。何故だろう?瞳から水が、私は感情なんてない筈なのに。

「何だ貴様は?」

 家の外から先程の役人の声が聞こえた。

 役人を押し退け、1人の少年が家に入ってきた。

「君が聖女様?」

 私は涙を拭いて、問いに答える。

「そうだけど…」

「どうして泣いてるの?さっきのオッサンに嫌なことされた?」

 役人が再び家に入ってきた。少年は振り返らない。

「貴様、失礼な」

「失礼?家に土足で上がってたアンタの方が失礼だと思うけど」

 役人を見ずに言葉を返す。

 役人は顔を真っ赤にして剣を抜いた。

「貴様、私を侮辱したな。後悔させてやる」

 後ろから少年を役人が斬りかかってきた。

 私は怖くて目を瞑った。

「大丈夫だよ」

 少年は落ち着いた様子で、役人の握る柄を後ろ蹴りで蹴り飛ばした。

「剣の握りが甘いよ」

 私が目を開けると、剣は役人の手から離れ、家の壁に刺さっていた。

「君が受けた侮辱をこのオッサンに返しておくね」

 少年は壁に刺さった剣を抜き、鋭い斬撃で役人の派手なズボンのベルトを斬った。

 役人のズボンが下がり、貧弱な一物をさらけ出した。

「君は見ちゃダメだよ」

 そう言って少年は私の顔を手で覆った。そして少年は、静かに優しく言葉を紡ぐ。

「君は君で良いのさ、他人は他人で勝手にしてるから。大事な感情を忘れちゃいけないよ」

「本当にいいの、私は私で?」

 少年は笑った気がした。

「君は誰かのために生きているんじゃない、自分のために生きなさい」

『誰かに優しくしてもらったのは初めてだ。欲望のない言葉をかけられたのも初めてだった』

 空っぽだった私に感情が流れ込んだ。

『生きたい』

「君の名前は?」

「………私の名前はヘルリャン」



 少年は私の顔を覆った手を退かすと、眩しく笑った。
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