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1.波瀾万腹
しおりを挟む西暦二千百年の江戸の町は、地方に比べ荒れていた。
羽塚将軍の死去とともに、再び戦乱の世になって
しまうのではないかと、民衆たちの専らの話題に
なっていた。
ある料亭の親父が、青い羽織を纏った端正な顔立ちの、
青年の座るテーブルに絹豆腐を置く。
「豆腐だと!肉はないのか?」
「申し訳ございませぬ。このご時世、鶏・豚・牛は、
盗賊に狙われやすく。今朝も、業者が卸せなかったのです」
「そうか、仕方ないな。
京の治安も乱れてしまっているか」
感慨深げに黒い眼で豆腐を見つめ、ゆるりと懐に手を伸ばすと、
竹皮の包みから、茶色の塊を取り出した。
店主は、大層驚き目を丸くした。
「これは珍しい、荒節でしょうか?」
青年は頷き、店主に荒節を差し出す。
「親父、コイツを削ってくれ」
少し黒い荒節を受け取った店主は、
その重みに驚きながらも、削り始めた。
シュッシュッと断続的な心地よい音で、
荒節が薄い花びらのような姿に変わっていく。
燻匂と香ばしい匂いが空間に広がり、
青年は、鼻をすんすん動かし匂いを確かめている。
青年の名は、沖田黒羽。江戸の治安を守る古選組、
大幹部の一人である。
「はよー、はよーよこせ」
沖田は、店主を急かし削り節を奪うと、
豆腐にまぶしていく。黄金の如き花弁は、
見た目も美しい。
店に置かれた醤油差しを傾けると、削り節を汚す
黒い液体が、豆腐の上を踊る。
沖田が箸を掴み、豆腐を一切れ口に運ぼうとしたところで、
スパーンと店内に軽快な音が響いた。
黒羽が箸を口元に運ぼうとした瞬間、頭に衝撃が走った。
「いったっ!」
振り返ると、そこには青い羽織の少女――白羽――が立っていた。
「クロ、何やってるのよ!
そんな真剣な顔で豆腐を食べて、頭おかしくなったの?」
クロは眉をひそめ、肩をすくめる。
「姉上、邪魔をするな。これは、戦のための……」
「戦のため? ふん、豆腐で戦?
あんたの頭、完全に豆腐脳になってるわよ」
シロは腕組みし、軽く目を細める。
クロは小さく息を吐き、箸を再び握る。
「……だが、この味を知らぬ者に、勝利はない」
シロはため息をつきつつ、一口豆腐を口に運んだ。
「……ふむ、まあ、旨いけどね。
でもクロ、顔が怖すぎるんだけど」
クロは眉間に皺を寄せたまま、
淡々と豆腐をシロに奪われる。
「それ、拙者の豆腐…」
「んっ…(ギロリ)」
「ひぃっ」
悲鳴を上げる店主を他所に、クロは箸を持ち直して、
臨戦態勢に入る。
「姉上がそのつもりなら、
私も受けて立ちましょう」
京の夜、兄妹の静かなる“戦闘”は、
豆腐の上で始まったのであった。
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