君が死ぬのを何度も見てきた

yu~

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デジャヴというよりノスタルジー vol.2

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「ねえねえ、私が次行きたい所どこだと思う?」

「えー、どこだろ。あ!わかった。水族館。」

「当たってる!!なんでわかったの!?すごいじゃん!」


人生とは先が見えないからこそ楽しいとは言うが...

なんていうか、あれだ。チートってたぶんこういう感じなんだろーなって。あらかじめ答えの渡された問題を丁寧に解いていくような感覚。全部わかってる。君の行きたい所も食べたい物も全部。あの日と、同じだから。

俺達は絶賛デート満喫中で、この先喧嘩になることを知らない彼女はもちろん、俺でさえ、もしかしたらこのまま幸せな時間が流れ続けるのではないかと思うほどの幸福感。目の前を泳ぐ魚たちよりも自由な時間を過ごしているのではないか?縦横無尽に水槽の中を動き回るイワシの大群を見てそう思う。

...でも、やはりそうもいかないようで。目の前には水族館に併設したカフェ。これから起こることを想像して、俺は鞄越しに退学届をなでる。

「ここ入ろうよ!お腹すいちゃった(笑)」

(来た!)

俺の心臓は早鐘を打ち始める。本能がダメだと言っている。...でも!やるしかない。決意を決めて彼女にバレないようにさりげなくカバンの位置を直す。

「うん、入ろうか。」

「やった!」

子供のようにはしゃぐ彼女に心の中で謝る。俺は今から最低なことをする、ごめん、と。


ジンベエザメプレートの写真をひとしきり撮り終え、食べるのも終盤に差し掛かっている彼女に俺は重い口を開き、こう告げる。

「ねえ、ちょっと話...っていうか、伝えなきゃいけないことがあってさ。」

「なに?どったの?」

彼女の今日最後であろう平和な面持ちをじっくりと目に焼き付ける。

そして今日一日ずっと頭の片隅にあった退学届を彼女の前に出す。

「俺...さ。大学辞めることにしたんだよ。」

彼女の顔が驚きと戸惑いで歪む。

「これも明日には大学に出すつもり。」

退学届に指を這わせる。

「前に両親が小さな旅館経営してるって言っただろ?ほんとは兄貴がそこ継ぐ予定だったんだけどさ、兄貴結構大手の旅館の娘さんと結婚するみたいで。婿養子入るらしいんだよ。ほんと玉の輿だよな?(笑)あ、男に玉の輿って変か。ははっ...」

彼女に何か言われる前にと今日頭の中で何度も繰り返しシミュレーションした言葉を並べ立てる。

「でさ!両親は小さい旅館だから自分たちの代で潰しても構わないって言ってるんだけど、俺としては思い出もあるし続けていきたいっつーかさ。だから、大学辞めて俺が継ぐ。...みたいな...ね?」

依然として彼女は話さない。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。いや、たぶんそれほど経っていないのだろうが、この沈黙が時間が過ぎる体感速度を極端に遅めている。

「...っ」

彼女が小さく息を吐き、まだ何を言うかまとまりきっていないという風に俺の目を見てはそらしを繰り返す。直後、まっすぐに俺の目を見た。

「それでいいの?晃盛建築家になるんじゃなかったの?そのためにわざわざ講習会とか聞きに行ってさ。めっちゃ頑張ってたじゃん!」

「ま、まあ、そうなんだけど」

「その決断は自分のためなの?親御さんやお兄さんの心配事減らすためじゃないの?」

亜美の言葉が俺の心にどストレートに突き刺さる。ボクシングならとっくにKO負けしていただろう。たしかに本音はそうなのだ。今まで苦労をかけた分、恩返ししたいっていうのが一つ。潰してもいいと言った時の両親の顔が苦しげに歪んでいたのを見ていられなかったっていうのが一つ。そして、いつも俺に気を遣ってばかりで自分のやりたいことを押し殺してきた兄貴に、いい加減好きに生きて欲しいっていうのが一つ。

でも...!

「いや、違うよ。俺の意思。俺が考えて、自分のために決めたこと。応援してくれると嬉しいんだけど...?」

「...わかった。応援する。」

彼女は少し落ち着いた、という風に深く座り直す。ここまではよかったんだ。問題はこの後で。今考えるとほんとに無神経なことを言ってしまったと思う。応援すると言った時の亜美の心境に全く配慮できていなかった。でも、あの時は自分の発言一つ一つに気を配れるほどの余裕がなくて。そしてこれから、細心の注意を払って彼女の逆鱗に触れる...あの時のように...

「でも、なんで私に相談してくれなかったの?私そんなに頼りない?」

「いや、別に相談するほどのことでもないだろ?これぐらいのことどうでもいいっつーか、それよりも...」

バンッッッッッ!!

俺の声は盛大に叩かれた机の音によってかき消される。

「はっ!?なにそれ!?こんな...将来に関わる大事なことなのに!私たちの将来にだって関係することでしょ!?なのに、なんでこれぐらいのこととか言えちゃうわけ?もう意味わかんない...」

堰を切ったように彼女の頰を涙がつたう。わかっていたけど、やはりこの光景を見るのが何よりも辛い。でも、続けなきゃ。

「え...?ちょっと、落ち着いてよ?」

「誰のせいだと思ってんの!?もういい!帰る!」

彼女の後ろ姿がだんだん小さくなっていき、最後には...見えなくなった。彼女を追いかけないことまででワンセット。やりきった。大きな疲労感。

机の上に無造作におかれた5000円札に目をやる。怒っててもちゃんと金は払うんだもんなぁ。こういうとこがすげえと思う。ほんとに...てか、5000円て、多すぎだっつーの。

店員の心配と少しの好奇の色を含んだ眼差しをかわしながら会計を済ませ、俺は最初の駅前を歩いていた。一人で。

「あぁ、こんな懐かしさはいらねぇわ。」

小さく呟く。その声は空の深い青に吸い込まれるように消えていく。

(ダメだな、最近涙もろい。すぐ涙腺崩壊すんだもん、ほんとヤになる。)

でも、なんだか涙を拭ったら負けな気がして、俺は涙目のまま帰路に着く。

2回目でこんなに苦しいとか...(苦笑)
1回目の俺、自殺とかしなくてよかったな。


この時には、俺の中でこれは夢だという考えはだいぶ消えかかっていた。そして改めて決意する。絶対に救う!それが全てだ。これからやるべきことは全部わかっているんだ。落ち込んでる暇なんてない。先に進まないと。

見上げると、空には俺の心にそぐわない満点の星。都会でもビルの明かりが少ないところだと星がよく見えるらしい。あの日は見なかった景色。

(俺は過去を、そして未来を、変えようとしているんだ...!)

この時妙に実感が湧いた。
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