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進むために vol.3
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「晃盛?お前どうした?」
「え?何がですか?」
「お前、なんつーか、怖い顔してんぞ?」
松田教授にそんなことを言われたのはいつもの通り、同じ時間、同じ手順で退学届を出しに行った時だった。
「怖い、ですか?」
「ああ。なんかあんま見たことねー顔してる。」
「気のせいじゃないですかね?」
必死に取り繕う。松田教授にバレてしまうようじゃ亜美にもきっとバレてしまうだろう。彼女は勘がいいから。
「そうか?ならいいんだが、まあ、あれだ。あんま一人で抱え込むなよ。」
「はい、ありがとうございます」
「おう」
「じゃあ、そろそろ帰りますね」
「晃盛」
「はい?」
「またいつでも顔出せよ」
何度も聞いた。そして何度も泣きそうになった。この言葉だって今が最後かもしれないんだ。最後ぐらいは教授を安心させないとな。心配かけたままはまずいだろ。
口角を吊り上げる。
「はい!!」
松田教授は少し予想外の反応だ、とでもいうように一瞬目を見張り、でもすぐに俺と同じような満面の笑みになった。
「今のお前、良い顔してるよ」
ああもう、なんでこの先生こんなかっこいいことばっか言うんだろう。俺もこんな大人になりたいものだ。
そしてあいつら四人にも毎回の通り事情を話し、思いをぶつけ合った。
「また飲もうぜ!!」
って毎回約束してるけど俺が戻りまくってるせいで一回も飲みにいけてねえな(笑)
もうそろそろ飲みに行けるかもだから、そん時はまあ、俺の失恋話でも聞いてよ?心の中であいつらに問う。
お前らはなんて思うかな?なんで別れたんだって聞いてくるだろうな。それこそ怒られるかも。だって亜美がいい子なのはこの四人も知ってることだ。不甲斐ない俺にどんな言葉をかけてくれるんだろう。
“わからない”
“知らない”
“決まっていない”
これは怖いことでもあるけど、俺にはそれ以上に魅力的なものに思えた。捉え方を変えれば、この言葉たちはきっとこう訳せるはずだから。
『未来は自分の力で創っていける』
って。
ちょっと意訳すぎた?まあ俺の希望的観測も含めてるから大目に見てよ。
辛くたって、俺は未来に向かって行くって決めたんだ。
だから......
目の前のインターホンを押せば、俺の終わりが始まってしまう。
いつもと違いネックレスが入っていない鞄はとても軽く感じられて、俺の胸の中にある、やり場のない切なさと罪悪感の混ざったような気持ちを煽ってくる。
終わらせにきたのに、いざとなると終わるのが怖くて。
でも...!
俺はインターホンに軽く乗せていた指に力を込める。中でインターホンが響くのが聞こえる。
「はーい」
亜美の声。いつもならこの場面は心高まる場面なんだけどな、今日はそういうわけにはいかない。
「俺、だけど。」
「いらっしゃーい、入っていいよー」
ドアはまるで俺の心のように重く感じた。
「おじゃまします」
「適当なとこ座って」
「ありがと」
俺は知ってる。このときの亜美が何を思っているのかを。俺のことを必死に考えて、俺に非があるのに自分を責めて、関係を戻そうとしてくれてる。知ってるんだよな。こんな優しい思いを踏みにじろうとしてる俺って、ほんっとサイテーだ。
「ねぇ、亜美」
「ん?何?」
「今日は謝りに来たんだ」
「なんか私に謝らないといけないことしたの?」
このセリフは何回聴いても怖いな(笑)今俺の目から涙がこぼれ落ちそうなのは亜美のこの怖いセリフのせいだ、きっと。
不自然な間は良くない。これまでで学習したはずなのに、何度も頭の中で繰り返した言葉が出てこない。あぁ、俺って亜美のことめっちゃ好きなんだなー。今更ながらに実感する。
「晃盛?」
ほら、亜美だって不審がってるじゃないか。早く、早く言えよ、俺。
「あ、えっと、その...」
まだ嫌がる気持ちを深呼吸で制して真っ直ぐに亜美を見据える。
「別れよう?俺たち」
「...え?晃盛?」
「今日はこれ言いに来たんだ。もう帰るね。」
これ以上いたら涙が目からこぼれ落ちてしまう。バレてしまう。この気持ちが真っ赤な嘘だってことが。いや、もうすでにバレているかもしれない。でも、無理やりにでも終わらせる。無茶苦茶で、すこし、いやかなり傲慢かもしれない。それでも俺は君がどこかで生きている未来を、世界を、生きてみたいんだよ。
「ま、待って!!」
立とうとした俺の袖を強めに引っ張った亜美は顔を歪ませ悩んでいるようにも悲しんでいるようにも見えた。でも意思は固まっているというように、俺の袖から手を離さない。
そしてハッキリとこういったんだ。
「嫌!!だよ!!」
「え?何がですか?」
「お前、なんつーか、怖い顔してんぞ?」
松田教授にそんなことを言われたのはいつもの通り、同じ時間、同じ手順で退学届を出しに行った時だった。
「怖い、ですか?」
「ああ。なんかあんま見たことねー顔してる。」
「気のせいじゃないですかね?」
必死に取り繕う。松田教授にバレてしまうようじゃ亜美にもきっとバレてしまうだろう。彼女は勘がいいから。
「そうか?ならいいんだが、まあ、あれだ。あんま一人で抱え込むなよ。」
「はい、ありがとうございます」
「おう」
「じゃあ、そろそろ帰りますね」
「晃盛」
「はい?」
「またいつでも顔出せよ」
何度も聞いた。そして何度も泣きそうになった。この言葉だって今が最後かもしれないんだ。最後ぐらいは教授を安心させないとな。心配かけたままはまずいだろ。
口角を吊り上げる。
「はい!!」
松田教授は少し予想外の反応だ、とでもいうように一瞬目を見張り、でもすぐに俺と同じような満面の笑みになった。
「今のお前、良い顔してるよ」
ああもう、なんでこの先生こんなかっこいいことばっか言うんだろう。俺もこんな大人になりたいものだ。
そしてあいつら四人にも毎回の通り事情を話し、思いをぶつけ合った。
「また飲もうぜ!!」
って毎回約束してるけど俺が戻りまくってるせいで一回も飲みにいけてねえな(笑)
もうそろそろ飲みに行けるかもだから、そん時はまあ、俺の失恋話でも聞いてよ?心の中であいつらに問う。
お前らはなんて思うかな?なんで別れたんだって聞いてくるだろうな。それこそ怒られるかも。だって亜美がいい子なのはこの四人も知ってることだ。不甲斐ない俺にどんな言葉をかけてくれるんだろう。
“わからない”
“知らない”
“決まっていない”
これは怖いことでもあるけど、俺にはそれ以上に魅力的なものに思えた。捉え方を変えれば、この言葉たちはきっとこう訳せるはずだから。
『未来は自分の力で創っていける』
って。
ちょっと意訳すぎた?まあ俺の希望的観測も含めてるから大目に見てよ。
辛くたって、俺は未来に向かって行くって決めたんだ。
だから......
目の前のインターホンを押せば、俺の終わりが始まってしまう。
いつもと違いネックレスが入っていない鞄はとても軽く感じられて、俺の胸の中にある、やり場のない切なさと罪悪感の混ざったような気持ちを煽ってくる。
終わらせにきたのに、いざとなると終わるのが怖くて。
でも...!
俺はインターホンに軽く乗せていた指に力を込める。中でインターホンが響くのが聞こえる。
「はーい」
亜美の声。いつもならこの場面は心高まる場面なんだけどな、今日はそういうわけにはいかない。
「俺、だけど。」
「いらっしゃーい、入っていいよー」
ドアはまるで俺の心のように重く感じた。
「おじゃまします」
「適当なとこ座って」
「ありがと」
俺は知ってる。このときの亜美が何を思っているのかを。俺のことを必死に考えて、俺に非があるのに自分を責めて、関係を戻そうとしてくれてる。知ってるんだよな。こんな優しい思いを踏みにじろうとしてる俺って、ほんっとサイテーだ。
「ねぇ、亜美」
「ん?何?」
「今日は謝りに来たんだ」
「なんか私に謝らないといけないことしたの?」
このセリフは何回聴いても怖いな(笑)今俺の目から涙がこぼれ落ちそうなのは亜美のこの怖いセリフのせいだ、きっと。
不自然な間は良くない。これまでで学習したはずなのに、何度も頭の中で繰り返した言葉が出てこない。あぁ、俺って亜美のことめっちゃ好きなんだなー。今更ながらに実感する。
「晃盛?」
ほら、亜美だって不審がってるじゃないか。早く、早く言えよ、俺。
「あ、えっと、その...」
まだ嫌がる気持ちを深呼吸で制して真っ直ぐに亜美を見据える。
「別れよう?俺たち」
「...え?晃盛?」
「今日はこれ言いに来たんだ。もう帰るね。」
これ以上いたら涙が目からこぼれ落ちてしまう。バレてしまう。この気持ちが真っ赤な嘘だってことが。いや、もうすでにバレているかもしれない。でも、無理やりにでも終わらせる。無茶苦茶で、すこし、いやかなり傲慢かもしれない。それでも俺は君がどこかで生きている未来を、世界を、生きてみたいんだよ。
「ま、待って!!」
立とうとした俺の袖を強めに引っ張った亜美は顔を歪ませ悩んでいるようにも悲しんでいるようにも見えた。でも意思は固まっているというように、俺の袖から手を離さない。
そしてハッキリとこういったんだ。
「嫌!!だよ!!」
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