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R15『全ra より幸せな rarara』 #ra散歩 ✕ #ポメガバース
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かつて全裸になって散歩することが日課になっていた俺だが、もう出来なくなってしまった。
爽やかな外気と冷ややかな視線に、普段エリートと呼ばれる俺は長年癒やされてきた。しかし、とうとう積み重なるストレスを発散しきれず、ポメラニアン化してしまった。
俺ってポメガバースだったのか!
前触れなく、ポンッとワンコ。何も身に着けていないから、何の痕跡もなく野良ポメに。
「きゅぅーん」
途方に暮れたまま、無意識に散歩し続ける。てちてち歩いているうちに、ここがどこだか分からなくなる。ワンコなのに!
雨が降ってきた。熱帯夜だから寒くはないが、全裸に沁みるぜ。ふかふか毛皮だけどな!
「くぅうーん」
見知らぬ家の軒先をお借りする。全裸でうずくまる。素肌にコンクリートの生温い温度が、不安を煽る。
「あれ? 捨て子ちゃん?」
年季の入った引き戸をガラガラ鳴らし、線の細い青年が顔を出す。
「きゃん!」
お邪魔してます!
「濡れちゃってるね、おいで」
そっと抱き上げられ、お家に招いてくれた。
お風呂でアワアワ、タオルでゴシゴシ。全裸をゴシゴシ、気持ちいい……全裸をもふもふナデナデ、最高だ……
「可愛いなぁ、うちの子になる?」
俺は飼われることになった。
青年は画家で、祖父から譲り受けた昔ながらの一軒家に一人で住んでいる。縁側で画材に向かう。日がな一日俺を膝にのせ、全裸をもふもふ。
こんな幸せな世界があったのか!
扇風機がくるくる回る。風鈴が夕風にチリン。ポメ鼻も絵の具と蚊取線香の匂いにすっかり慣れた。今日も、優しい手がリズム良く俺を撫でる。
「わふっ」
甘えて頭をその手にグリグリする。青年は身を屈めて、俺の唇にチュッとキスをした。
ポフンッ!
「え? は? なにっ?!」
青年の膝上に、全裸の俺。肌色の、人間の、くたびれたオジサンの、全裸。
ああ、癒やされると人間に戻るんだっけ?
「……すまなかった。ありがとう……」
驚いて固まる青年に一言だけ絞り出し、俺は外へと走り去る。
一等地のモダンなビルの社屋に、排ガスを撒き散らす社用車、最上階の高層マンション。無機質で直線的な世界。数字、数字、数字……嫌だ。
むわんとした真夏の黄昏の街を、全裸で疾走する。居心地良い手の元にはもういられない。心とちんこが、ぶらんぶらん揺れる。
「待ってっ!」
ガシッとおしりを掴まれる。追いつかれた。人間のオジサンの体は重い。
「ポメちゃん、また迷子の捨て子になっちゃうよ」
青年はカラフルに汚れたエプロンを脱ぎ、俺の全裸に掛けた。剥き出しの背中を、よしよしと撫でる。
「ね、帰ろ」
「わん!」
あ。うん! って言うんだった。
今ではめったにポメラニアンにはならない。オジサンの全裸でも、青年は毎日もふもふしてくれるから。
俺が膝上だと絵が描きにくいので、逆に俺が全裸椅子になっている。
深夜の全裸散歩は出来なくなった。
「ポメちゃん、お散歩行こ」
「わん!」
裸に伸縮性のある首輪を一つ着けてもらい、ちょっと涼しくなった夜の街を二人並んで歩く。
冷たく刺さる視線もたまらなかったが、青年のあったかい眼差しも繋がったリードも大好きだ。
【終】
爽やかな外気と冷ややかな視線に、普段エリートと呼ばれる俺は長年癒やされてきた。しかし、とうとう積み重なるストレスを発散しきれず、ポメラニアン化してしまった。
俺ってポメガバースだったのか!
前触れなく、ポンッとワンコ。何も身に着けていないから、何の痕跡もなく野良ポメに。
「きゅぅーん」
途方に暮れたまま、無意識に散歩し続ける。てちてち歩いているうちに、ここがどこだか分からなくなる。ワンコなのに!
雨が降ってきた。熱帯夜だから寒くはないが、全裸に沁みるぜ。ふかふか毛皮だけどな!
「くぅうーん」
見知らぬ家の軒先をお借りする。全裸でうずくまる。素肌にコンクリートの生温い温度が、不安を煽る。
「あれ? 捨て子ちゃん?」
年季の入った引き戸をガラガラ鳴らし、線の細い青年が顔を出す。
「きゃん!」
お邪魔してます!
「濡れちゃってるね、おいで」
そっと抱き上げられ、お家に招いてくれた。
お風呂でアワアワ、タオルでゴシゴシ。全裸をゴシゴシ、気持ちいい……全裸をもふもふナデナデ、最高だ……
「可愛いなぁ、うちの子になる?」
俺は飼われることになった。
青年は画家で、祖父から譲り受けた昔ながらの一軒家に一人で住んでいる。縁側で画材に向かう。日がな一日俺を膝にのせ、全裸をもふもふ。
こんな幸せな世界があったのか!
扇風機がくるくる回る。風鈴が夕風にチリン。ポメ鼻も絵の具と蚊取線香の匂いにすっかり慣れた。今日も、優しい手がリズム良く俺を撫でる。
「わふっ」
甘えて頭をその手にグリグリする。青年は身を屈めて、俺の唇にチュッとキスをした。
ポフンッ!
「え? は? なにっ?!」
青年の膝上に、全裸の俺。肌色の、人間の、くたびれたオジサンの、全裸。
ああ、癒やされると人間に戻るんだっけ?
「……すまなかった。ありがとう……」
驚いて固まる青年に一言だけ絞り出し、俺は外へと走り去る。
一等地のモダンなビルの社屋に、排ガスを撒き散らす社用車、最上階の高層マンション。無機質で直線的な世界。数字、数字、数字……嫌だ。
むわんとした真夏の黄昏の街を、全裸で疾走する。居心地良い手の元にはもういられない。心とちんこが、ぶらんぶらん揺れる。
「待ってっ!」
ガシッとおしりを掴まれる。追いつかれた。人間のオジサンの体は重い。
「ポメちゃん、また迷子の捨て子になっちゃうよ」
青年はカラフルに汚れたエプロンを脱ぎ、俺の全裸に掛けた。剥き出しの背中を、よしよしと撫でる。
「ね、帰ろ」
「わん!」
あ。うん! って言うんだった。
今ではめったにポメラニアンにはならない。オジサンの全裸でも、青年は毎日もふもふしてくれるから。
俺が膝上だと絵が描きにくいので、逆に俺が全裸椅子になっている。
深夜の全裸散歩は出来なくなった。
「ポメちゃん、お散歩行こ」
「わん!」
裸に伸縮性のある首輪を一つ着けてもらい、ちょっと涼しくなった夜の街を二人並んで歩く。
冷たく刺さる視線もたまらなかったが、青年のあったかい眼差しも繋がったリードも大好きだ。
【終】
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