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『クズアルファは巣作りグッズも作ります』ハロウィンおまけ

◇アルファ視点◇

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 私の番の柔らかい手を引いて、クローゼット室へ誘う。鏡の前に立たせた。

 最近新築した田舎の自宅は、直が馴染みやすいように、古き良き佇まいを有する平屋建て。
 ただ、クローゼットに使用する広い一室だけは密閉度を高め、ワインセラー並みの温湿度管理設備を施した。
 対して、隣りあった寝室は開放的だ。オメガフェロモンを家中に行き渡らせるために。

「直、脱いで」

 脱いでと言っておいて、私が脱がせる。仕事終わりの服は、心地良い。食堂の美味しい匂いと香ばしいフェロモンが混じって、離れていた時間の空虚が満たされる。
 これはこれで洗うまでの間楽しむとして……新しい生地で仕立てた下着を、番に渡す。

「わー、白ブリーフじゃん! 小学生ぶり!」

 無邪気にはしゃぐ直のたわわな尻を、少しだけ小さく製作した白ブリーフが寄り添うように包む。伸縮性は合格点だ。
 ああ、この純白を汚したい。
 逸る気持ちを抑え、タオル巻きの癖がついた髪に白布の端をピンで留めた。

 布と、アルファフェロモンもこっそり少しずつ、頭から巻いていく。目と唇と、うなじの噛み跡部分を外して。

「血の赤をちょっと散らしたら、本格的かも!」

 私のフェロモンにはまだ気づいていない。
 白い包帯でぐるぐる巻きにされていく鏡の中の自分を、興味津々に覗いている。無垢で幼気で、たまらない。

「ね、これ、ほんとに恥ず過ぎるんだけど!」
「似合っている。可愛いよ。愛しい番のこんな姿を見られるなんて、私は幸せ者だな」

 上半身指先まで作業を進め、ブリーフの上から巻こうとして、異変が起こった。

「……な、なにこれ……あつい……あっ、ん」

 アルファの圧を、更に少しばかり上げる。

「直、動くな」

 白ブリーフの中で兆し始めた陰茎を潰れないよう上向きにし、巻く。戸惑う表情が隠れて見えないのは残念だ。

「……んっ、く……ぁ、あ……」

 足先まで終え、最後の最後、両目を白布で塞いだ。

「う、はぁ……もー、ムリだって……やだ! こわい!」

 直は焦って逃げようとし、バランスを崩す。

「大丈夫か?」

 ぽよんと抱きとめた直の体を、私のフェロモンで厳重に囲い込む。

「はぁ、はぁ……明広のばーか! 変態っ!」

 露出したうなじに軽く歯を立て、息を吹きかける。

「や、なに! あきひ……みえない、こわ……ひゃあんっ!」

 私だけが感知できる番の発情フェロモンが、一気に立ち上がる。

 この新素材は、売れる。

 白く飾られた全身を隈なく撫でる。雄の性器の前面も、オメガの後ろのあたりも、乾いた手触りのまま。強制的に発情を促されているにも関わらず、だ。
 体から出る分泌液を素早く吸収し、即その水分のみを蒸発させる生地。

 分泌液……涙や汗や性的な蜜そのものだけが、フェロモンの発生源ではない。だが、十分にフェロモンは宿っている。
 これで香りの長期保存が可能に!

「素晴らしい」

 私は二人の記念品に想いを馳せる。初めて出会い噛んだあの日、柄が歪んだ大衆品のくたびれたトランクス。
 番の精液に濡れた布地は、あっという間にフェロモンを変質させ、失った。

 先ずはアルファ用のワイシャツを開発しよう。これは既製サイズ展開でいい。己のオメガが自慰や巣作りに使うのを見たさに、飛ぶように売れるだろう。何せ消耗品だ。
 アルファフェロモンを纏わせた彼シャツを、キャッチーに使おう。

「ああ、抱きたい」

 直が私のフェロモンワイシャツを羽織り、留めきれない前ボタンに恥じらう様を想像する。ちらりと覗く、肌の豊かなライン。

「や、やめ……ぁっ、はろうぃん、できなぃっ、ひぁっ! こまる、も、おれ、ヒート……きょうせい、なる」
「嬉しいな。十日間、二人で棺桶の中に籠もろうか」
「は……それ、ドラキュラッ!」

 突然風船が弾けるように、直が私の腕がら飛び上がる。視界を遮る包帯を外し、ブチ切れる。

「明広のばーか! えっち! 変態っ! 仕入れた南瓜どうすんだよ! フライド南瓜食べ放題! 蒸し南瓜にバターのせ放題!」
「……それは、魅力的なカロリーだな」

 期間限定で店で提供つつ、直自身も食べ放題する気満々だろう。番がより美しく肥える機会を潰しては駄目だ。

「直、ハッピーハロウィン!」

 私はアルファフェロモンを速やかに撤収する。

「ごめん、怖かったよな。今日は終わりにしよう。風呂、一緒に入ろう。歩けるか?」

 はぁはぁとまだ肩で息をする番を宥めながら、手早く白い長布を回収する。

「平気! おれ一人で外風呂入る!」

 ぷりぷり怒った顔で、ぺいっと白ブリーフを私に投げつける。ぷりぷり尻を揺らして、庭に造らせた露天風呂に行ってしまった。

 まあ、いい。後で冷蔵庫に銀座の銘店のパンプキンパイを発見し、御機嫌になるだろう。

 私の甘いデザートはこちらだ。新しい素材についた新鮮なオメガフェロモンを吸い込む。
 多量のこの布地に包まれる恍惚を夢想し、寝る間も惜しんでこの企画に邁進するぞ、と決意を新たにする。

 アルファ用で生地の特性が周知されたら、次はオメガブランドだ。
 ウェディングドレス? 初夜のベビードール? 何気ない日常の服?
 フルオーダーで、アルファの愛慾に全て応えよう。金に糸目をつけないアルファに、法外な値で売りつける。

 香りを含んだ白いお宝を、クローゼット室に大切に保管する。収納は、もちろんフェロモンの残量順だ。

「トリック・オア・トリート、直」

 さて、露天風呂の私の番に悪戯しに行こう。



【終】
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