2 / 3
1.怪人蜘蛛・アレー
しおりを挟む
その日は 烽火 浩寿が、パチンコ行ってくる、と妻に言って 病院へ向かった日だった。
幼少のころから筋力が弱かった浩寿は、法輪功学習者であった父親から 呼吸の能力を向上させる 特殊な訓練をさせられていた。その甲斐もあり、とても丈夫な身体を手にいれた。
しかし、父親が亡くなり訓練をサボりがちになってからは、肘や膝の関節が固くなってしまいがちであった。
その原因を調べるべく、3か月毎に、整形外科へと通っていた。
*
『緊急怪人警報
繰り返します
東京都港区に 怪人が 発生しました
周辺地域の住人は
不要不急の外出を避け
直ちに 命を守る行動をとってください
決して ひとりでは 立ち向かわないでください
直ちに110番通報するか、最寄りの市役所・町役場へ連絡をしてください
――…』
*
*
*
初めて、怪人に対して Jアラート が適用された日だった。
「先生、カイジンって、なんスかね?」
「あぁ。気にせんでえーて。どうせ 熊 みたいなもんやて、街にまでは降りてこんよー。ハハハハハッ!」
かなり肉づきのよい 60代間近 を思わせる貫禄ある女医が、哄笑しながら、コーヒーを飲み干した。
「今はまだ、心配いらんねー。いつものように、飲み薬と湿布薬を出しとくけー、お大事に」
「……はぁ。ありがとうございます」
――浩寿が 椅子から 立ち上がったとき、天井に何か、黒くて 大きな物がくっついていた――
バスケットボールくらいある頭部に、9つの眼。そして、8本の足が ゆっくりと 動いていた。その姿は、まるで映画やアニメで見る怪物のようだった。
「……ッ、ぶ、わぁーー!!」
浩寿は驚きと恐怖で声を上げた。しかし、その声はすぐに 好奇心に変わった。
カンボジアでは、蜘蛛は『唐揚げ』にして 食べられている。
こんな珍味は、今を逃すと 一生 無いだろう。
カリッとした食感。タンパク質やカルシウム、鉄分などのミネラル、コレステロールや脂質も多く。
そして何より、フライドチキンや魚、エビに似た味 だと 聞く。
これだけの量だ、ライムで味変。
「じゅるり――…」
口の中が、新鮮な唾液で満たされていく。
その日から、浩寿の生活は一変した。怪人の出現により、街は混乱に陥り、人々は恐怖におののいていた。しかし、浩寿はただ一人、怪人に立ち向かう決意を固めた。
「先生! 包丁を――、いや、よく切れるメスを貸してくれっ!」
浩寿の澄んだ声が、診療室に響き渡った。
だが、女医は 机の下に隠れてしまう。
蜘蛛のような怪人は、しばらく考えた後、窓から出ていこうとする。
とっさに その怪人の足にしがみ付くと 浩寿は、節目に 噛みついた――。
浩寿の行動は怪人を驚かせた。彼の勇敢さと決意は、怪人を一時的に動きを止めさせた。
しかし、怪人はすぐに反撃を開始し、浩寿を振り払おうとした。
だが、浩寿は足にしっかりと噛みつき、離れなかった。
彼の頑強さは、怪人をさらに混乱させた。
そして、その瞬間、浩寿は何かを感じた。
それは、父親から受け継いだ特殊な訓練の力だった。
「THE・覚醒 ッ―― !」
彼はその力を解放し、怪人の足を強く握りしめた。
そして、全力で怪人を地面に引きずり下ろした。その衝撃で、怪人は一時的に動きを止めた。
「せめて、この足だけでもッ――!!」
これが、浩寿の初めての戦いだった。
蹴られようが、刺されようが、肉を食いちぎられようとも、諦めずに 立ち向かう。
どんなに 身体がボロボロ になっても、執念があった。
街を怪人から守る為か? ―いや、違う。
ただ、食べてみたいという貪欲さが、街中華の店主としての意地が、彼を奮い立たせていた。
だが、孤独な戦いは、長くは続かなかった。
突然、現れた ―対怪人・特務部隊― の特殊な装備により、あっという間に ハチの巣に されてしまったのだ。
「ナイス、ガッツ!」
唖然とする浩寿に 赤宗 宗篤と名乗る隊員が 声を掛けてきた。
「あなたの勇気ある行動に、多くの人々が救われました。組織に代わって お礼を言います」
「あ、ああああああぁーーー」
血管がブチ切れそうなくらい、空気読めよ、と連呼したくても、言葉にならない声が浩寿の口からあふれ出していく。
「あなたの勇気に感動しました。私たちは 貴方のような 勇敢な人々を必要としています」
黄檗 秋成は、浩寿に向かって微笑んだ。彼の言葉は、浩寿の心に深く響いた。しかし、彼はまだ、自分が何をしたのか、何が起こったのかを理解できていなかった。
赤宗が、事情を説明して欲しい。調書をとりたい。と 浩寿を軍用車両へと誘った。
そこからは、3時間も 彼らに拘束されてしまう。
「ヤバいって。嫁への言い訳が、思いつかん。パチンコだけじゃ、絶対に怪しまれる……」
浩寿は 途方に暮れつつ。
逢魔が時、逢魔が時、と ぶつぶつ独り言を繰り返しながら帰宅する。
*
烽火 灯凛が黒い『USBメモリー』をパソコンに差し込むと、フォルダが自動的に開いた。その中の『001』という ファイルと開くと、動画が始まった。
*
「――ッ、すまん!」
浩寿は、カメラに向かって土下座をしていた。
「俺が遅くに帰った日のことを覚えているか? 実は、あのときに夜食として出した唐揚げな、蜘蛛の怪人の肉だったんだ。どうだ、驚いたか? かなり、美味かっただろ?」
かなり衝撃的な 暴露話 だった。
むしろ、唐突に 思ってもいない内容だった――。
「「えっ?!」」
◇ つづく
幼少のころから筋力が弱かった浩寿は、法輪功学習者であった父親から 呼吸の能力を向上させる 特殊な訓練をさせられていた。その甲斐もあり、とても丈夫な身体を手にいれた。
しかし、父親が亡くなり訓練をサボりがちになってからは、肘や膝の関節が固くなってしまいがちであった。
その原因を調べるべく、3か月毎に、整形外科へと通っていた。
*
『緊急怪人警報
繰り返します
東京都港区に 怪人が 発生しました
周辺地域の住人は
不要不急の外出を避け
直ちに 命を守る行動をとってください
決して ひとりでは 立ち向かわないでください
直ちに110番通報するか、最寄りの市役所・町役場へ連絡をしてください
――…』
*
*
*
初めて、怪人に対して Jアラート が適用された日だった。
「先生、カイジンって、なんスかね?」
「あぁ。気にせんでえーて。どうせ 熊 みたいなもんやて、街にまでは降りてこんよー。ハハハハハッ!」
かなり肉づきのよい 60代間近 を思わせる貫禄ある女医が、哄笑しながら、コーヒーを飲み干した。
「今はまだ、心配いらんねー。いつものように、飲み薬と湿布薬を出しとくけー、お大事に」
「……はぁ。ありがとうございます」
――浩寿が 椅子から 立ち上がったとき、天井に何か、黒くて 大きな物がくっついていた――
バスケットボールくらいある頭部に、9つの眼。そして、8本の足が ゆっくりと 動いていた。その姿は、まるで映画やアニメで見る怪物のようだった。
「……ッ、ぶ、わぁーー!!」
浩寿は驚きと恐怖で声を上げた。しかし、その声はすぐに 好奇心に変わった。
カンボジアでは、蜘蛛は『唐揚げ』にして 食べられている。
こんな珍味は、今を逃すと 一生 無いだろう。
カリッとした食感。タンパク質やカルシウム、鉄分などのミネラル、コレステロールや脂質も多く。
そして何より、フライドチキンや魚、エビに似た味 だと 聞く。
これだけの量だ、ライムで味変。
「じゅるり――…」
口の中が、新鮮な唾液で満たされていく。
その日から、浩寿の生活は一変した。怪人の出現により、街は混乱に陥り、人々は恐怖におののいていた。しかし、浩寿はただ一人、怪人に立ち向かう決意を固めた。
「先生! 包丁を――、いや、よく切れるメスを貸してくれっ!」
浩寿の澄んだ声が、診療室に響き渡った。
だが、女医は 机の下に隠れてしまう。
蜘蛛のような怪人は、しばらく考えた後、窓から出ていこうとする。
とっさに その怪人の足にしがみ付くと 浩寿は、節目に 噛みついた――。
浩寿の行動は怪人を驚かせた。彼の勇敢さと決意は、怪人を一時的に動きを止めさせた。
しかし、怪人はすぐに反撃を開始し、浩寿を振り払おうとした。
だが、浩寿は足にしっかりと噛みつき、離れなかった。
彼の頑強さは、怪人をさらに混乱させた。
そして、その瞬間、浩寿は何かを感じた。
それは、父親から受け継いだ特殊な訓練の力だった。
「THE・覚醒 ッ―― !」
彼はその力を解放し、怪人の足を強く握りしめた。
そして、全力で怪人を地面に引きずり下ろした。その衝撃で、怪人は一時的に動きを止めた。
「せめて、この足だけでもッ――!!」
これが、浩寿の初めての戦いだった。
蹴られようが、刺されようが、肉を食いちぎられようとも、諦めずに 立ち向かう。
どんなに 身体がボロボロ になっても、執念があった。
街を怪人から守る為か? ―いや、違う。
ただ、食べてみたいという貪欲さが、街中華の店主としての意地が、彼を奮い立たせていた。
だが、孤独な戦いは、長くは続かなかった。
突然、現れた ―対怪人・特務部隊― の特殊な装備により、あっという間に ハチの巣に されてしまったのだ。
「ナイス、ガッツ!」
唖然とする浩寿に 赤宗 宗篤と名乗る隊員が 声を掛けてきた。
「あなたの勇気ある行動に、多くの人々が救われました。組織に代わって お礼を言います」
「あ、ああああああぁーーー」
血管がブチ切れそうなくらい、空気読めよ、と連呼したくても、言葉にならない声が浩寿の口からあふれ出していく。
「あなたの勇気に感動しました。私たちは 貴方のような 勇敢な人々を必要としています」
黄檗 秋成は、浩寿に向かって微笑んだ。彼の言葉は、浩寿の心に深く響いた。しかし、彼はまだ、自分が何をしたのか、何が起こったのかを理解できていなかった。
赤宗が、事情を説明して欲しい。調書をとりたい。と 浩寿を軍用車両へと誘った。
そこからは、3時間も 彼らに拘束されてしまう。
「ヤバいって。嫁への言い訳が、思いつかん。パチンコだけじゃ、絶対に怪しまれる……」
浩寿は 途方に暮れつつ。
逢魔が時、逢魔が時、と ぶつぶつ独り言を繰り返しながら帰宅する。
*
烽火 灯凛が黒い『USBメモリー』をパソコンに差し込むと、フォルダが自動的に開いた。その中の『001』という ファイルと開くと、動画が始まった。
*
「――ッ、すまん!」
浩寿は、カメラに向かって土下座をしていた。
「俺が遅くに帰った日のことを覚えているか? 実は、あのときに夜食として出した唐揚げな、蜘蛛の怪人の肉だったんだ。どうだ、驚いたか? かなり、美味かっただろ?」
かなり衝撃的な 暴露話 だった。
むしろ、唐突に 思ってもいない内容だった――。
「「えっ?!」」
◇ つづく
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
