転生者ジンの異世界冒険譚(旧作品名:七天冒険譚 異世界冒険者 ジン!)

夏夢唯

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第1章 転生

47話 帰路

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 ジンは転移しながら途中数カ所の町の様子を偵察すると一気にリンダル領へと転移した。
正気の沙汰とは思えない残忍な行為を他国で行なった者達を葬ることはできたのだが目の当たりにした景色はあまりにも凄惨であった。
日本で平和ボケしていたとはいえ、自分の甘さが大勢の犠牲を出した要因の1つだと思うと気持ちは沈み足取りまでもが重くなっていた。

 ジンが門に到着する連絡を受けていた衛兵がリンダル子爵は黒鷹騎士隊の隊長と共に領主館に戻っていると伝えられた。
その場所からへと歩いて領主館に到着し衛兵に伝えると執事が迎えに出てきてリンだる子爵の待つ応接間へと通された。

「ただいま戻りました」

「ご苦労。で、どうだった?」

「はい、ゲイズ領・ケルン領・アデン領全ての領軍とその家族が住民の食料や財産を奪い去って逃げ出していました。
ベルンハルトさんから先に報告があったと思いますが、ゲイズ領の住民は重税で苦しみ、食うや食わずの生活で痩せ細っています。
ケルン領とアデン領もゲイズ領ほどではありませんが領軍に食料を奪われたので明日の食べ物にも困るような状態でした」

「領民あっての領主だと言うのに、あやつらは何を考えているのだ。貴族の面汚しめ、必ず捉えて悔いを受けさせてやる」

「子爵様、まだ続きが・・・」

「すまん、続けてくれ」

「はい。ケルン・アデンの領主と逃げ出した領兵とその家族はケタールとの国境付近のケルン領の丘で全滅していました。
数は2万を超すと思われますが急いで戻ったので遺体はそのままになっています」

「何! いったいそれはどういう事だ!!」

「遺体の中にケタール軍とゲイズ領軍の軍服がなかったので、奴らに殺されたのではないかと思います」

「そうか、死んでしまった者達を弔ってやりたいが先に生きている領民をどうにかしてやらなければならないな」

「そうですね。犯人を確認する為に逃げたと思われる跡を追いかけたところ、蛮行の主らしき一団が野営していました」

「ほう。で、確認したのか?」

「はい、忍び込んで士官が話しているのを聞いたところ、やったのは奴らに間違いありませんでした」

「声が聞こえつほど近くまで忍び込んだのか、よく見つからなかったな。しかしゲイズめ、悪魔にでも魂を売ってしまったか」

激怒で紅潮したリンダル子爵の顔には憤怒の色が漲り煙が立ち上りそうなほど真っ赤になったがその怒りを抑え騎士隊長と話し始めた。

「アルフレッド殿、至急食料を奪われた領民に援助物資を送ってもらえるように王都に使いを出してもらいたいが頼めるか」

「大丈夫です、状況が状況なだけに至急報告書を出しましょう。領民達に罪はないですからね」

アルフレッド男爵は話の内容を認めると窓を開け懐から取り出した笛を鳴らした。
窓の外を見ていると上空からテイムされたナイトホークエボルが舞い降りてきた。
アルフレッドはナイトホークエボルの足に書簡を取り付けると「王都の団長に頼む」と言って放つ。
手紙を持たされたナイトホークエボルは飛び立つと一気に上昇し王都へと飛び去っていく。
話によると時速150キロメートルものスピードで飛ぶことができ、休憩なしで1200キロメートルも飛ぶことができるそうだ。
実は隊長がテイムされたナイトホークエボルを使うというのが黒鷹騎士隊の由来なのであった。

「朝までには連絡が帰ってくるでしょう、こちらは周りの領主に支援をお願いしますか」

「そうだな、明日の朝になったら使者を出そう。ベル、お前たちはどうする」

「とりあえず一度マールに帰ろうと思う。何かあったらギルドに依頼を出してくれ、ケタールとの戦争なんてことになったら冒険者ギルドの黒羊騎士団を招集しないといけないだろ」

ここでベルンハルトが言った黒羊騎士団とは愛国心の強いフナイ王国出身の冒険者によって作られた騎士団であり、多くの冒険者で構成されている。

「まず地域の復興が先だと思うが王の判断次第だな。
ケルン領とアデン領そしてゲイズ領は領主がいなくなるという非常事態だ、すぐに戦争ということはないだろう。
王が挙兵するにしても一月以上先になると思うからマールに戻ってゆっくりするといい」

「そうですね、何時になるのか分からないのに待つのも大変なので失礼します」

ベルンハルトが席を立ち、帰ろうとした時に、鹵獲してアイテムボックスに入れた食料の事を思い出した。

「あ、そういえば開戦前夜、ゲイズ領軍を襲った時に食料を鹵獲していました。
それがあれば少しは助かりますよね、屋敷の横にある空き地に出しましょうか?」

「そうだな、しかしわざわざ隣の空き地に出さなくても屋敷の前でもいいぞ」

リンダル子爵はどうせマジックバッグに入っている程度なら多くても馬車数台程度だろうと思っていた。

「いえ、邪魔になると悪いですから隣に出します」

面倒臭そうに付いてくる子爵とベルンハルトを引き連れて空き地に着くとアイテムボックスから次々と鹵獲した食料を出し続ける。
もちろんマジックバッグから出すふりをしながらだが、馬車20台を超える頃になると周囲からは驚きの声が聞こえはじめた。

「おい、一体どれだけ入っているんだ?」
「いや、その前にそのバッグどれだけの容量があるんだ?」

結局取り出した食料は馬車にして50台分、全部出し切る頃にはそれを見ていた2人は呆れ返るばかりであった。

「何だこの馬鹿げた量は、これがマジックバッグに入っていたのか」

「何かに化かされている気分だよ。
ベル、ジンの事は貴族や商人にバレないようにしろよ。
もちろん王族にもだ、知られれば碌でも無い事になるのは目に見えてるからな」

「わかった、俺が責任を持ってこいつを守る」

「逆に守られたりしてな、ワハハハハハ」

「おやっさん、それはシャレにならねー」

「まあ、お前も現状に満足せずに精進する事だな」

「ああ、嫁さんが冒険者に復帰するって言っているから、シズラーには悪いがギルドマスターはシズラーに返して俺も現役復帰だ。
というわけでここで時間を食ってるわけにはいかないから、そろそろ帰るよ」

「わかった、何かあったらまた頼む。じゃあな」

ベルンハルトは子爵達に背を向けると手をひらひらと振りながら歩きだした。
横にいたジンも慌ててリンダル子爵に「失礼します」と挨拶をしてその後を追うのであった。
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