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アドリア王国編
9話 鍛錬
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ノエルとノワールは食欲旺盛でどんどん大きくなっていった。
この国ではペットであろうが従魔や召喚獣と同じように主人を記したプレートを付けなければいけない。
それは盗難防止の他、他人に被害を与えた場合の責任の所在をはっきりさせる為だ。
ノエルとノワールにはマリノ公爵の名で登録をしたプレート付きのペンダントを首に下げさせた。
屋敷に来た時に2キロだった体重が、3ヶ月過ぎる頃にはノエルは31キロ、ノワールは33キロに増えていた。
随分大きくなったのだが未だにノエルとノワールがは俺のベッドに上がり込んでくるので、ベッドが狭く感じ始めていた。
(そろそろベッドを大きな物に変えてもらおう)
見た目もモフモフの子犬だった時の幼さは消え、少し精悍な顔立ちになっていたが、相変わらず犬種は不明だったので父さんは雑種だろうと言っていた。
春になり草木の花が咲き始める頃、父さんから嬉しいニュースを聞かされた。
「レオナルド、とってもいい話があるんだ。
お前に弟か妹ができるぞ。
生まれて来るのは9月頃だからまだ半年近くあるけど、いいお兄ちゃんになるんだぞ」
お母さんが最近少し太ってきたな~と思っていたのだが、どうやらお腹に赤ちゃんがいたらしい。
ノエルとノワールはいつも2頭で僕の散歩について来ていたのだが、最近はどちらか1頭だけになり、交代でどちらかがお母さんの側にいるようになっていた。
ノエルとノワールがお母さんの側にいる時は耳を立てて周囲を警戒しているのは、どうやら護衛をしてくれていたのだと思うと2頭がとても頼もしく見えた。
平穏な日々が続き、弟か妹が生まれると聞いてから1ヶ月が過ぎた。
その間ノエルとノワールは一回り以上大きくなり、僕を乗せて散歩に行けるようになったので、最近の遊び場所は公爵邸の一番外側にある防壁内の森の中になっていた。
森の広さは新宿区とほぼ同じ18平方キロメートルもあり湧き水による泉も多く、餌が豊富なのでかなりの動物が住んでいる。
それに加えて外の森と接している西側の防壁は壁というより柵に近い為、時々外から兎やリス程度が魔獣化した低ランクの魔獣が隙間から侵入する事があるが、大きな魔獣は結界に阻まれて侵入する事は無かった。
今日はノエルと一緒に森に入ってすぐの場所にある池に行こうと思い、こっそり抜け出してぶどう園の南側の5mもある第2防壁をを飛び越えて森に入っている。
通常森に入るには小麦畑の東側にあるフォレストゲートを開けて貰わなければいけないのだが、そんなことを言えるわけがないので今日も近道をして来たのだ。
森に入るといつもように鳥の鳴く声が聞こえ、草木のいい香りがした。
少し歩くと池に着いたので、いつものように魔法の練習を開始した。
最近は使えるようになった魔法が増えたので、風・水・氷・地・火の5属性と雷・光・聖・闇の4属性に分けて練習をしている。
初めは風魔法、現在使えるのはウィンドカッター(空気の刃を飛ばす)、ストーム(突風を作り出し吹き飛ばす)、ウィンドウォール(風の障壁)。
次は水魔法、水魔法で使用できるのはウォーターボール(水の球を高速で飛ばす)、ウォーターバレット(小さなウォーターボールを超高速で打ち出す。一度に2発を任意の方向に打ち出す事ができ、連射も可能)、ウォーターウォール(水の障壁)の3つ。
続けて氷魔法、フリーズ(対象を凍らせる)、アイスブリッツ(氷のつぶてを撃ち出す)、アイスランス(氷のやりを生成して対象を貫く)
次は地魔法、今使える地魔法は攻撃魔法というより土建屋さんが喜びそうなウォール(周囲の土や石を使って壁を作る)、ディグ(穴やトンネルを掘る)、カバー(埋める)。
火魔法のファイア(火を作り出す)、ファイアボール(炎の弾丸を打ち出す)を練習し、ファイアウォール(炎の障壁)を出現させて今日は練習終了だ。
「少しは正確に魔法を出せるようになったかな」
「バウ」
ノエルに話しかけるが当然言葉は帰ってこないが反応があるだけまだマシだろう。
帰り道、池から第2防壁まで歩いていく間に飛び上がった山鳥2匹を水魔法ウォーターバレットで撃ち落としたので拾っていると、ノエルが何かを見つけたのか突然走り出し、尻尾を立てどうだとばかりにフォレストラビットを咥えて戻って来た。
「ノエル、偉いぞ」
「ワウ」
俺の足元に咥えていたフォレストラビットを置くと、とても自慢げにしているので頭を撫でてあげると千切れんばかりに尻尾を振ってとても可愛い。
フォレストラビットの血抜きをしているとあたりが騒がしくなったので
マップを起動して周囲を探知していると池の方向にに赤い光点が入って来た。
『なんだ、これ?』
『フォレストラビットの血抜きをしていたのでその匂いに誘われて現れた魔獣化した猪のようです。
危険ですので逃げる事を進めます』
『どうしよう』
そう思っている間も、物凄いスピードでこちらに向かってきている。
すると、ノエルが前に立ちふさがり咆哮を放った。
10メートル前まで達していた魔獣は凍りついたように動きを止めノエルと睨み合いになった。
ノエルが残像を残して消えたように見えたが、その直後にはノエルは魔獣の首に噛み付いていた。
ノエルよりはるかに大きな魔獣だったので振り飛ばされるんじゃないか心配していると魔獣の首から鈍い音が響いていた。
そのまま引きずって戻ってきた魔獣は、65キロになったノエルの3倍以上はありそうな大物だった。
「ノエル、こいつどうしようか?」
ノエルは防壁の方に引きずっていくと魔獣を咥え直すと防壁の方を向きぴょんと飛び越えた。
「え、うそー!」
まさか150キロ以上の獲物をくわえたまま5メートルの防壁を加速もなしにそのまま飛び越えていくとは思っていなかったのでびっくりした。
「バウ」
防壁の向こうで俺を呼ぶ声が聞こえたので、すぐに飛翔で防壁を飛び越えて後を追った。
自分の体重の3倍はありそうな魔獣の動きをを一声で止め、一撃で仕留め、その上咥えたまま5mの壁を飛び越えるなんて普通の犬じゃないよな。
「ノエル」
ノエルは俺を見ると尻尾を大きく振った。
声を出せないから尻尾で合図をしているのだろう。
「暗くなりそうだから急ごうか」
走って屋敷のあるローズゲート(第3ゲート)に着くとゲートの当番をしていた騎士が俺とノエルが獲物を下げて帰ってきたので目が点になっていたが、気にせず「ただいま~」と挨拶をしてそのまま素通りして行った。
屋敷に向かっていると、前からお父さんが荷馬車に乗ってやってきた。
帰ってくるのが遅いので心配して屋敷の前で待っていたところに門から魔導伝声機で連絡をもらい、急いで荷馬車で迎えにきたようだ。
「レオー、大物を持って帰ったと連絡があったから迎えにきた・・・・・」
ノエルの咥えている猪の魔獣を見て言葉が出なくなったようだ。
「ただいま~、これ、ノエルがガブって捕まえたの」
「・・・・・・・・・」まだ意識が飛んで固まったままだ。
ノエルが魔獣を下ろしてお父さんに向かって吠えるとやっと意識が戻ってきたのか、動き始めた。
馬車から降りると、ノエルの下ろした魔獣の目の開けて真っ赤な事と首が噛み砕かれている事を確認すると
「魔獣化した猪だな、これをノエルが噛み付いて倒したのか、すごいな」
「バウ」
尻尾をブンブン、撫でて撫でてと言わんばかりにお父さんに頭を擦り付ける。
お父さんに頭を撫でられると、目を細めてとても嬉しそうだ。
「ところで、レオナルド君。
君はどこまで遊びに行ったのかな?」
(あ、しまった。こんなの第2ゲートの内側にいるはずがない。
こういう場合、嘘をつくとろくなことがないから正直に話そう)
「お外の池の横で遊んでたら出てきた」
「お外って、ぶどう畑のあるところかい?」
「ううん、ぶどう畑からぴょんって出たところ」
「レオを乗せたまま壁を飛び越せるのかい?
まあ、こんなでっかい魔獣を咥えて歩けるくらいだから簡単なんだろうね
外には危険がいっぱいあるから遊びに行くときは気をつけるんだよ」
ジェームスは他にも言いたいことが沢山あったのだが、ノエルの強さが分かったのと自分の小さい時を思い出して、俺に言っても言う事を聞かないことが想像できたので忠告するだけにした。
猪の魔獣はジェームス一人では持ち上げられなかったのでノエルに荷台にあげてもらい、そのままノエルを荷台に乗せて屋敷に戻った。
屋敷に戻りながらジェームスは猪の魔獣が出るなんてことは今まで無かったので翌日朝一番で最外周の防壁点検をさせて見ると、東側の結界を施した壁が大きな倒木によって破壊されていた。
破壊された壁の近くには多くの獣の足跡が残っていたので、かなりの獣が侵入したと思われた。
防壁から10m離れた場所に巨大なネコ科の動物の足跡が1つあった。
魔獣化した虎なら災害級なので即座に軍隊が出動して討伐しなければいけないのだが、見つかった足跡が1個だけでその後の調査では見つからなかったので見間違いだったということになった。
魔獣騒ぎが起きて暫く森に行ってはダメだと言われていたが、猪以上の魔獣は入り込んでいなかったという事になり、ノエルかノワールと一緒であれば遊びに行って良いという事になった。
その代わり、毎日朝食前に1時間ほど剣の練習をすることが日課になった。
先生はお父さんだ、王国騎士団でも五本の指に入る剣士だということなので先生として申し分ない。
初日の今日は自分にあった剣を選ぶことから始めたが、剣が大きすぎたり、柄が太くて握りにくかったりしてバランスの良い物が無く、どれもが使いにくかった。
朝食を食べた後、バルガス親方のところへ行きその話をすると、奥から数種類の剣を持ってきた。
「レオ坊、持ってみてどの剣のバランスがいい?」
親方の持ってきた8本を手に取って見ると、どれもが少し柄が細く作られてい全体的に細身に作られているように見えた。
見た目は細身のショートソードだが重量は変わらないところを見ると材質を変えているのだろう。
その中に1本だけあった黒剣がちょうどいい感じだった。
「親方、これがいい感じ」
「ほう、良い剣を選んだな。
その剣は試しに特殊な材料を使っていて重く感じるが、いつも重たい槌を振っているレオ坊にはちょうどいいかもしれん。
通常の剣よりも頑強にできていて刃こぼれもしにくいからそれを使うといい」
親方が持ってきた剣帯をつけて装備すると剣先が地面についてしまい、塩梅が悪い。
それを見た親方が通常大剣を背負って装備するときに使うものに似せた物を作ってくれた。
剣先20センチほどの鞘に収まるがそれより上は左右と背中側のみを保護していて上の方はガードをバネ素材で固定するようになっている。
移動時は柄の部分を革のベルトで固定するので落としてしまうような事も無さそうだ。
なんでこんな変な形の鞘になったかというと、全体が鞘の中に収まってしまう作りにすると背中にある剣が素早く抜けないからだ。
出来上がった剣と鞘を装備すると見た目は大剣を背負ったグラディエーター風であるが、実際は1メートルちょっとの子供がショートソードを背負っているのだ。
何も知らない人が見たらすごく可愛いコスプレであった。
「おー、かっこいいな。
すごく似合っているぞ。
わしの作ったギミックがどんな塩梅か後で教えてくれ」
「親方ありがとう。
でも僕、お金持ってないから払えないよ」
「心配するな、金を取ろうなんて思っちゃいないよ。
まあ、フィールドテストみたいなもんだと思ってくれりゃいいよ」
「使った感じを教えればいいんだね
早速今日から使ってみるね」
親方の工房から戻るとお昼ご飯を食べて、お父さんに剣と背負い式の剣帯を見せに行った。
「お父さん、親方がこれ作ってくれた」
「どれ、見せてごらん」
ジェームスは剣を手に取り振ってみた
「レオ、少し重いように感じるけど、大丈夫なのかい?」
レオナルドは剣を受け取ると片手で振ってみせる
「ブンッ! ヒュッ!」
「大丈夫だよ、鍛治の槌より全然軽いから」
「俺には少しグリップが細く感じるけど、レオだとちょうどいい感じなんだろうな。
明日からはこれを使って練習しよう。
しかし、これを作ったのがバルガス親方だと他の人が知ったら五月蝿いからみんなには内緒だぞ。いいね」
「うん、わかった。みんなには内緒にしとく」
「今日も森に行くんだろ、ちゃんと装備して行くんだぞ」
「はーい」
最近ノエルとノワールの背中に乗るようになって気がついた事がある。
ノエルの方が少し背が高くて乗った感じが軽やかで障害物があるとかわして走る。例えるならスポーツカーだ。
それにに対して、ノワールは低重心で力強い走り方で障害物があっても弾き飛ばして進んで行く4駆のようだ。
異なるタイプだがどちらも乗っていて退屈しない。
この国ではペットであろうが従魔や召喚獣と同じように主人を記したプレートを付けなければいけない。
それは盗難防止の他、他人に被害を与えた場合の責任の所在をはっきりさせる為だ。
ノエルとノワールにはマリノ公爵の名で登録をしたプレート付きのペンダントを首に下げさせた。
屋敷に来た時に2キロだった体重が、3ヶ月過ぎる頃にはノエルは31キロ、ノワールは33キロに増えていた。
随分大きくなったのだが未だにノエルとノワールがは俺のベッドに上がり込んでくるので、ベッドが狭く感じ始めていた。
(そろそろベッドを大きな物に変えてもらおう)
見た目もモフモフの子犬だった時の幼さは消え、少し精悍な顔立ちになっていたが、相変わらず犬種は不明だったので父さんは雑種だろうと言っていた。
春になり草木の花が咲き始める頃、父さんから嬉しいニュースを聞かされた。
「レオナルド、とってもいい話があるんだ。
お前に弟か妹ができるぞ。
生まれて来るのは9月頃だからまだ半年近くあるけど、いいお兄ちゃんになるんだぞ」
お母さんが最近少し太ってきたな~と思っていたのだが、どうやらお腹に赤ちゃんがいたらしい。
ノエルとノワールはいつも2頭で僕の散歩について来ていたのだが、最近はどちらか1頭だけになり、交代でどちらかがお母さんの側にいるようになっていた。
ノエルとノワールがお母さんの側にいる時は耳を立てて周囲を警戒しているのは、どうやら護衛をしてくれていたのだと思うと2頭がとても頼もしく見えた。
平穏な日々が続き、弟か妹が生まれると聞いてから1ヶ月が過ぎた。
その間ノエルとノワールは一回り以上大きくなり、僕を乗せて散歩に行けるようになったので、最近の遊び場所は公爵邸の一番外側にある防壁内の森の中になっていた。
森の広さは新宿区とほぼ同じ18平方キロメートルもあり湧き水による泉も多く、餌が豊富なのでかなりの動物が住んでいる。
それに加えて外の森と接している西側の防壁は壁というより柵に近い為、時々外から兎やリス程度が魔獣化した低ランクの魔獣が隙間から侵入する事があるが、大きな魔獣は結界に阻まれて侵入する事は無かった。
今日はノエルと一緒に森に入ってすぐの場所にある池に行こうと思い、こっそり抜け出してぶどう園の南側の5mもある第2防壁をを飛び越えて森に入っている。
通常森に入るには小麦畑の東側にあるフォレストゲートを開けて貰わなければいけないのだが、そんなことを言えるわけがないので今日も近道をして来たのだ。
森に入るといつもように鳥の鳴く声が聞こえ、草木のいい香りがした。
少し歩くと池に着いたので、いつものように魔法の練習を開始した。
最近は使えるようになった魔法が増えたので、風・水・氷・地・火の5属性と雷・光・聖・闇の4属性に分けて練習をしている。
初めは風魔法、現在使えるのはウィンドカッター(空気の刃を飛ばす)、ストーム(突風を作り出し吹き飛ばす)、ウィンドウォール(風の障壁)。
次は水魔法、水魔法で使用できるのはウォーターボール(水の球を高速で飛ばす)、ウォーターバレット(小さなウォーターボールを超高速で打ち出す。一度に2発を任意の方向に打ち出す事ができ、連射も可能)、ウォーターウォール(水の障壁)の3つ。
続けて氷魔法、フリーズ(対象を凍らせる)、アイスブリッツ(氷のつぶてを撃ち出す)、アイスランス(氷のやりを生成して対象を貫く)
次は地魔法、今使える地魔法は攻撃魔法というより土建屋さんが喜びそうなウォール(周囲の土や石を使って壁を作る)、ディグ(穴やトンネルを掘る)、カバー(埋める)。
火魔法のファイア(火を作り出す)、ファイアボール(炎の弾丸を打ち出す)を練習し、ファイアウォール(炎の障壁)を出現させて今日は練習終了だ。
「少しは正確に魔法を出せるようになったかな」
「バウ」
ノエルに話しかけるが当然言葉は帰ってこないが反応があるだけまだマシだろう。
帰り道、池から第2防壁まで歩いていく間に飛び上がった山鳥2匹を水魔法ウォーターバレットで撃ち落としたので拾っていると、ノエルが何かを見つけたのか突然走り出し、尻尾を立てどうだとばかりにフォレストラビットを咥えて戻って来た。
「ノエル、偉いぞ」
「ワウ」
俺の足元に咥えていたフォレストラビットを置くと、とても自慢げにしているので頭を撫でてあげると千切れんばかりに尻尾を振ってとても可愛い。
フォレストラビットの血抜きをしているとあたりが騒がしくなったので
マップを起動して周囲を探知していると池の方向にに赤い光点が入って来た。
『なんだ、これ?』
『フォレストラビットの血抜きをしていたのでその匂いに誘われて現れた魔獣化した猪のようです。
危険ですので逃げる事を進めます』
『どうしよう』
そう思っている間も、物凄いスピードでこちらに向かってきている。
すると、ノエルが前に立ちふさがり咆哮を放った。
10メートル前まで達していた魔獣は凍りついたように動きを止めノエルと睨み合いになった。
ノエルが残像を残して消えたように見えたが、その直後にはノエルは魔獣の首に噛み付いていた。
ノエルよりはるかに大きな魔獣だったので振り飛ばされるんじゃないか心配していると魔獣の首から鈍い音が響いていた。
そのまま引きずって戻ってきた魔獣は、65キロになったノエルの3倍以上はありそうな大物だった。
「ノエル、こいつどうしようか?」
ノエルは防壁の方に引きずっていくと魔獣を咥え直すと防壁の方を向きぴょんと飛び越えた。
「え、うそー!」
まさか150キロ以上の獲物をくわえたまま5メートルの防壁を加速もなしにそのまま飛び越えていくとは思っていなかったのでびっくりした。
「バウ」
防壁の向こうで俺を呼ぶ声が聞こえたので、すぐに飛翔で防壁を飛び越えて後を追った。
自分の体重の3倍はありそうな魔獣の動きをを一声で止め、一撃で仕留め、その上咥えたまま5mの壁を飛び越えるなんて普通の犬じゃないよな。
「ノエル」
ノエルは俺を見ると尻尾を大きく振った。
声を出せないから尻尾で合図をしているのだろう。
「暗くなりそうだから急ごうか」
走って屋敷のあるローズゲート(第3ゲート)に着くとゲートの当番をしていた騎士が俺とノエルが獲物を下げて帰ってきたので目が点になっていたが、気にせず「ただいま~」と挨拶をしてそのまま素通りして行った。
屋敷に向かっていると、前からお父さんが荷馬車に乗ってやってきた。
帰ってくるのが遅いので心配して屋敷の前で待っていたところに門から魔導伝声機で連絡をもらい、急いで荷馬車で迎えにきたようだ。
「レオー、大物を持って帰ったと連絡があったから迎えにきた・・・・・」
ノエルの咥えている猪の魔獣を見て言葉が出なくなったようだ。
「ただいま~、これ、ノエルがガブって捕まえたの」
「・・・・・・・・・」まだ意識が飛んで固まったままだ。
ノエルが魔獣を下ろしてお父さんに向かって吠えるとやっと意識が戻ってきたのか、動き始めた。
馬車から降りると、ノエルの下ろした魔獣の目の開けて真っ赤な事と首が噛み砕かれている事を確認すると
「魔獣化した猪だな、これをノエルが噛み付いて倒したのか、すごいな」
「バウ」
尻尾をブンブン、撫でて撫でてと言わんばかりにお父さんに頭を擦り付ける。
お父さんに頭を撫でられると、目を細めてとても嬉しそうだ。
「ところで、レオナルド君。
君はどこまで遊びに行ったのかな?」
(あ、しまった。こんなの第2ゲートの内側にいるはずがない。
こういう場合、嘘をつくとろくなことがないから正直に話そう)
「お外の池の横で遊んでたら出てきた」
「お外って、ぶどう畑のあるところかい?」
「ううん、ぶどう畑からぴょんって出たところ」
「レオを乗せたまま壁を飛び越せるのかい?
まあ、こんなでっかい魔獣を咥えて歩けるくらいだから簡単なんだろうね
外には危険がいっぱいあるから遊びに行くときは気をつけるんだよ」
ジェームスは他にも言いたいことが沢山あったのだが、ノエルの強さが分かったのと自分の小さい時を思い出して、俺に言っても言う事を聞かないことが想像できたので忠告するだけにした。
猪の魔獣はジェームス一人では持ち上げられなかったのでノエルに荷台にあげてもらい、そのままノエルを荷台に乗せて屋敷に戻った。
屋敷に戻りながらジェームスは猪の魔獣が出るなんてことは今まで無かったので翌日朝一番で最外周の防壁点検をさせて見ると、東側の結界を施した壁が大きな倒木によって破壊されていた。
破壊された壁の近くには多くの獣の足跡が残っていたので、かなりの獣が侵入したと思われた。
防壁から10m離れた場所に巨大なネコ科の動物の足跡が1つあった。
魔獣化した虎なら災害級なので即座に軍隊が出動して討伐しなければいけないのだが、見つかった足跡が1個だけでその後の調査では見つからなかったので見間違いだったということになった。
魔獣騒ぎが起きて暫く森に行ってはダメだと言われていたが、猪以上の魔獣は入り込んでいなかったという事になり、ノエルかノワールと一緒であれば遊びに行って良いという事になった。
その代わり、毎日朝食前に1時間ほど剣の練習をすることが日課になった。
先生はお父さんだ、王国騎士団でも五本の指に入る剣士だということなので先生として申し分ない。
初日の今日は自分にあった剣を選ぶことから始めたが、剣が大きすぎたり、柄が太くて握りにくかったりしてバランスの良い物が無く、どれもが使いにくかった。
朝食を食べた後、バルガス親方のところへ行きその話をすると、奥から数種類の剣を持ってきた。
「レオ坊、持ってみてどの剣のバランスがいい?」
親方の持ってきた8本を手に取って見ると、どれもが少し柄が細く作られてい全体的に細身に作られているように見えた。
見た目は細身のショートソードだが重量は変わらないところを見ると材質を変えているのだろう。
その中に1本だけあった黒剣がちょうどいい感じだった。
「親方、これがいい感じ」
「ほう、良い剣を選んだな。
その剣は試しに特殊な材料を使っていて重く感じるが、いつも重たい槌を振っているレオ坊にはちょうどいいかもしれん。
通常の剣よりも頑強にできていて刃こぼれもしにくいからそれを使うといい」
親方が持ってきた剣帯をつけて装備すると剣先が地面についてしまい、塩梅が悪い。
それを見た親方が通常大剣を背負って装備するときに使うものに似せた物を作ってくれた。
剣先20センチほどの鞘に収まるがそれより上は左右と背中側のみを保護していて上の方はガードをバネ素材で固定するようになっている。
移動時は柄の部分を革のベルトで固定するので落としてしまうような事も無さそうだ。
なんでこんな変な形の鞘になったかというと、全体が鞘の中に収まってしまう作りにすると背中にある剣が素早く抜けないからだ。
出来上がった剣と鞘を装備すると見た目は大剣を背負ったグラディエーター風であるが、実際は1メートルちょっとの子供がショートソードを背負っているのだ。
何も知らない人が見たらすごく可愛いコスプレであった。
「おー、かっこいいな。
すごく似合っているぞ。
わしの作ったギミックがどんな塩梅か後で教えてくれ」
「親方ありがとう。
でも僕、お金持ってないから払えないよ」
「心配するな、金を取ろうなんて思っちゃいないよ。
まあ、フィールドテストみたいなもんだと思ってくれりゃいいよ」
「使った感じを教えればいいんだね
早速今日から使ってみるね」
親方の工房から戻るとお昼ご飯を食べて、お父さんに剣と背負い式の剣帯を見せに行った。
「お父さん、親方がこれ作ってくれた」
「どれ、見せてごらん」
ジェームスは剣を手に取り振ってみた
「レオ、少し重いように感じるけど、大丈夫なのかい?」
レオナルドは剣を受け取ると片手で振ってみせる
「ブンッ! ヒュッ!」
「大丈夫だよ、鍛治の槌より全然軽いから」
「俺には少しグリップが細く感じるけど、レオだとちょうどいい感じなんだろうな。
明日からはこれを使って練習しよう。
しかし、これを作ったのがバルガス親方だと他の人が知ったら五月蝿いからみんなには内緒だぞ。いいね」
「うん、わかった。みんなには内緒にしとく」
「今日も森に行くんだろ、ちゃんと装備して行くんだぞ」
「はーい」
最近ノエルとノワールの背中に乗るようになって気がついた事がある。
ノエルの方が少し背が高くて乗った感じが軽やかで障害物があるとかわして走る。例えるならスポーツカーだ。
それにに対して、ノワールは低重心で力強い走り方で障害物があっても弾き飛ばして進んで行く4駆のようだ。
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