5 / 11
邂逅
一人と一匹
しおりを挟む紅月の言葉に顔色を悪くした男が固まってしばらく経つ。その話を掘り返すことなく終わった。
また外が吹雪き出した為である。
ぶるぶると震える男を見てため息をつく。毛皮のない生き物はなんて弱い。この程度の吹雪ならば、そこの箱の中で丸々だけで十分だというのに。恩情で焚き火をしてもまだダメだとは。
「…ワォン《仕方ないやつだ》」
「…え?」
ぶるぶる震える男に見かねて結界をはる。風が通さないように気をつけて、寒さだけを除き空気だけを通す様に結界をはれば薄ら青い膜が入口に引かれる。
そして夜が来たのか、一気に白の世界に黒が広がる。異なるのは洞窟内だけだ。暖かな焚き火の赤が広がる。もう男は震えることはなくほっと息をついていた。
「ありがとう…助かった」
「…ガゥ《別に、気が向いただけだ。》」
「それでも、ありがとう。ほんとに」
突き放しても礼をいうものだから呆れて耳を伏せる。もう寝ねば、この吹雪では狩りにも行けない。
仕方なしに焚き火の近くに丸まって眠る。うん、暖かすぎる気もするが、別に苦という訳では無い。
この吹雪の勢いなら、明日には収まるだろう。明日も肉を狩りに行こう。
■□■□■□■□■□■
ぱちぱちと焚き火が音を立てる中。一人ごちる。足を踏み入れれば死ぬと言われている極寒の山フルーフ。俺の村にはこの山についての伝承があった。
「天狼か…」
静かに呼吸をしながら眠る紅月を見て考える。たしかにフルーフには天狼がいた時があったと聞いたことがある。伝承にもそんな記述があった。
─古の 白き山に 光差し─
─共にゆかん 天を駆ける狼─
─白き息吹が 眠りに誘う─
─我が友よ 遠き日に誓おう─
─我が英雄よ 約束を忘れるな─
─いつか来る 白き災厄を─
─忘れるな 忘れるな 紅き目が─
─我らを救う 証となる─
何百年も前の村長が記したとされるそれは最近見つけたばかりのもの。俺の村では赤い目は許されない。それは天狼の証だと言われていたから。
だから出た。
許されない赤い目をもって生まれたことを恨んで、伝承を恨んで。
「…なのに、まさか…天狼の子供に会うなんて」
しかも母親だと言う雪狼は人に狩られたという。この山に入れる上に雪狼を狩れる者は冒険者か、凄腕の狩人だけだろう。
よりにもよって聖獣の母を殺してしまうなんて。
紅月はきっとこの国を守護してくれないだろう。狩られたというからには殺された場面も見てしまったはずだ。憎む存在を家族を奪った存在をどうして守ろうと思える。
俺から家族を奪った村のヤツらを俺はゆるせないし。守りたいとは思えない。それってつまり紅月も同じなのではないか?
火がゆらりと揺れる。風は結界のおかげで入ってきてはいない。寒さもない、暖かく、心地いい。
生きたまま凍死すると言われるほどの寒さだと言われるこの山で、まさかこんなに暖かく眠りにつけるなんて思っていなかった。
「…ありがとう」
助けるつもりなんてほんとに無かったんだろう。俺なんて捨て置いても誰も攻めはしないのに。この同色であり異なる目をもつ子狼に、感謝してもし足りない。
紅月の目は本当に宝石のように澄んでいて、光を散りばめたような輝きと、鋭さがある。同色ながら俺の目とは異なる目。
「…なんで俺の目はアンタの目の様じゃ無かったんだ…そしたら俺は───」
紅月の伏せられた耳がぴくりと動く。思わず口を閉じればその目は開けられて俺を見ると興味なさげに再び閉じられる。
俺はもう何も言わず眠りにつく。トロッコに掛けた鹿の皮はきっと明日には使えるようになる。鞣す手段のないこの洞窟では乾かすのが精一杯だ。長くは持たないが掛け布団替わりには使えるだろうな。
「おやすみ──紅月」
だから今はただ眠ろう。この優しい空気の中で。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる