淡雪の子守唄

雪桜 モノ

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邂逅

一人と一匹

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 紅月の言葉に顔色を悪くした男が固まってしばらく経つ。その話を掘り返すことなく終わった。

 また外が吹雪き出した為である。
 
 ぶるぶると震える男を見てため息をつく。毛皮のない生き物はなんて弱い。この程度の吹雪ならば、そこの箱の中で丸々だけで十分だというのに。恩情で焚き火をしてもまだダメだとは。
 
 「…ワォン《仕方ないやつだ》」
 「…え?」
 
 ぶるぶる震える男に見かねて結界をはる。風が通さないように気をつけて、寒さだけを除き空気だけを通す様に結界をはれば薄ら青い膜が入口に引かれる。
 
 そして夜が来たのか、一気に白の世界に黒が広がる。異なるのは洞窟内だけだ。暖かな焚き火の赤が広がる。もう男は震えることはなくほっと息をついていた。
 
 「ありがとう…助かった」
 「…ガゥ《別に、気が向いただけだ。》」
 「それでも、ありがとう。ほんとに」
 
 突き放しても礼をいうものだから呆れて耳を伏せる。もう寝ねば、この吹雪では狩りにも行けない。
 
 仕方なしに焚き火の近くに丸まって眠る。うん、暖かすぎる気もするが、別に苦という訳では無い。
 
 この吹雪の勢いなら、明日には収まるだろう。明日も肉を狩りに行こう。
 
 
   ■□■□■□■□■□■
 
 
 ぱちぱちと焚き火が音を立てる中。一人ごちる。足を踏み入れれば死ぬと言われている極寒の山フルーフ。俺の村にはこの山についての伝承があった。
 「天狼か…」
 
 静かに呼吸をしながら眠る紅月を見て考える。たしかにフルーフには天狼がいた時があったと聞いたことがある。伝承にもそんな記述があった。
 
 ─古の 白き山に 光差し─
 ─共にゆかん 天を駆ける狼─
 ─白き息吹が 眠りに誘う─
 ─我が友よ 遠き日に誓おう─
 ─我が英雄よ 約束を忘れるな─
 ─いつか来る 白き災厄を─
 ─忘れるな 忘れるな 紅き目が─
 ─我らを救う 証となる─
 
 何百年も前の村長が記したとされるそれは最近見つけたばかりのもの。俺の村では赤い目は許されない。それは天狼の証だと言われていたから。
 
 だから出た。
 許されない赤い目をもって生まれたことを恨んで、伝承を恨んで。
 
 「…なのに、まさか…天狼の子供に会うなんて」

 しかも母親だと言う雪狼は人に狩られたという。この山に入れる上に雪狼を狩れる者は冒険者か、凄腕の狩人だけだろう。
 
 よりにもよって聖獣の母を殺してしまうなんて。
 
 
 紅月はきっとこの国を守護してくれないだろう。狩られたというからには殺された場面も見てしまったはずだ。憎む存在を家族を奪った存在をどうして守ろうと思える。
 
 
 俺から家族を奪った村のヤツらを俺はゆるせないし。守りたいとは思えない。それってつまり紅月も同じなのではないか?
 
 火がゆらりと揺れる。風は結界のおかげで入ってきてはいない。寒さもない、暖かく、心地いい。
 
 生きたまま凍死すると言われるほどの寒さだと言われるこの山で、まさかこんなに暖かく眠りにつけるなんて思っていなかった。
 
 「…ありがとう」
 
 助けるつもりなんてほんとに無かったんだろう。俺なんて捨て置いても誰も攻めはしないのに。この同色であり異なる目をもつ子狼に、感謝してもし足りない。
 
 紅月の目は本当に宝石のように澄んでいて、光を散りばめたような輝きと、鋭さがある。同色ながら俺の目とは異なる目。
 
 「…なんで俺の目はアンタの目の様じゃ無かったんだ…そしたら俺は───」

 
 紅月の伏せられた耳がぴくりと動く。思わず口を閉じればその目は開けられて俺を見ると興味なさげに再び閉じられる。
 
 
 俺はもう何も言わず眠りにつく。トロッコに掛けた鹿の皮はきっと明日には使えるようになる。なめす手段のないこの洞窟では乾かすのが精一杯だ。長くは持たないが掛け布団替わりには使えるだろうな。

 「おやすみ──紅月」

 だから今はただ眠ろう。この優しい空気の中で。




 
 
 
 
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