淡雪の子守唄

雪桜 モノ

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邂逅

問いかけ

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 紅月は男が捌いていくのをその目で見ていた。狼は捌こうという考えは持たない。だが紅月にとってはらわたは好物なのだろう。ドロっとしていて濃厚、舌触りも良い、それだけでなく栄養においても素晴らしいと言えるのだろう。狼である紅月には。
 
 ゆっくりと恐る恐る差し出された腸に食いつきながら男を見る。男はどうやら肉を焼くらしい。不思議な発想をするものだ。肉は生に限るだろうにと紅月は思うも口には出さない。元々助けたのも気まぐれだったのだ、月色が殺された、そんな時に見かけた死にかけの生き物が偶然この男だっただけだ。
 
 
 それを気分で助けただけ。
 
 特に思うこともなく、何かを食おうと思った時に立派な牡鹿を見かけた。立派な角は傷だらけで、歴戦の武者といったような出で立ちである。
 
 ガッシリとしている牡鹿。本来ならば鹿は全体的に細めの傾向があるのにだ。そんな牡鹿を見つけて狩らないという選択肢はなかった。
 
 再び男を見る。男は少し紅月のことを気にしているらしい。だがそれでも骨付きの肉を回す手は止まらない。こがせば折角の肉も食えなくなってしまうから。
 
 「グルル…《…なんだ》」
 「あ…いや、その」
 「ガゥ!《ハッキリしろ!》」
 「…焼いた肉も食べる、か?」
  文句でも言うのかと構えた紅月に男は困惑した様に問いかけ、しばし硬直する。そして思わず食べると答えてしまうのも混乱していた為だと思われる。
 
 「熱いから気をつけてくれ」
 目の前にどんと置かれた肉は、赤くはなく、血が滴っているわけでもない。茶色い見かけはうまそうとは思えなかった。
 
 それでもその肉を食らう。餌は餌。食うものだ、そもそも同じ肉なのだから焼いたぐらいでダメになるものではないだろう。覚悟を決めて咀嚼そしゃくする。
 
 確かに熱さはある。柔らかさがなくなって、その代わりに噛み切りやすくなった肉は正直うまくはない。やはり肉はそのままだ。血のしたたる新鮮な肉が美味い。こんなものを好むとは変な生き物だ。
 
 「…美味しい…か?」
 「ォン《不味い》」
 「さすが狼…生肉の方がいいのか…そいや、なんなんだアンタ。この火もそうだが話せる狼なんぞ聞いたことない。」
 「ガルル《そもそも、お前が知る狼とはなんだ》」
 「…そりゃあ、犬の祖先で、森の狩人って呼ばれてて…黒っぽい毛並みに…青い目の…」
 「ガゥ《それはグレールウルフだろう?同じ狼でも違う、下位であり私とは別のものだ》」
 「そうなのか?」

 
 この生き物はバカのようだ。見ればわかるだろうに。 
 
 彼が飽きれたように言えば男はそれを察したのか困った様に頭を掻いた、ほんのりと頬は赤く照れてもいるんだと察したが気にするのはやめた。
 
 「…結局あんたはなんなんだ?上位種なのか?」
 「ガゥ!《私は紅月アカツキ雪天狼セツテンロウだ》」
 「雪天狼?」
 「ウー…ウォンッ《母は雪狼セツロウの元長であり、月色。父は天狼テンロウ。紅き目はその証。》」
 
 「天狼!?待ってくれ、それじゃあ!」 
 
 「ガゥ!《如何にも、幼獣なれど私は聖獣だ。》」
 
   ■□■□■□■□■□■
 
 聖獣…それは神にもっとも近いと言われている存在。能力も然る事乍ら、念話を可能とし、その身体もほかの生き物とは掛け離れている。
 
 魔法を使う魔物は少ない訳では無い。…が魔法を多く使える生き物は人類が最も多いとされる。亜人、竜人、人間などといった者は言葉でいんを結び目に見えない魔力や魔素で紡いで行うこと、それを魔法と呼んだ。 
 
 それと異なり聖獣は魔法と精霊魔法を使うことができる、そして適性も人よりも高く無詠唱で魔法を行使できる。もともと精霊魔法というのも珍しさはあるが亜人や竜人では時々使い手が生まれると聞く。聖獣が聖獣たる所以が、無詠唱で行えるということ、所持魔力が異常に高いことが主な理由とされている。
 
 
 見た目も神の使いと呼ぶにふさわしいなりをしていることもあってか、聖獣信仰も存在する。各国では聖獣が現れた場合王族自らが歓迎し、言葉を交わし国を守護するかどうかを決めると聞く。
 
 
 ならばなぜ目の前の自分と同じ目の色をした聖獣はこんな山奥に身を潜めているのか。幼獣とはいえ、聖獣だ。存在が知られれば王自ら迎えに来ることも有り得る。
 
 母だと言う雪狼も通常であれば特上位種とされる存在だ。薄い灰色は雪に溶けるように紛れ、その姿を見た時にはもう遅いと言われている。
 
 だが、その姿も無い。
 
 
 この洞窟には結構な時間いると思うが、それでも雪狼はいない。
 
 
 「…アンタの母はどこに…」
 「グルル《お前と似た形をした奴らに殺られた、もう、会えることもない》」 
 
 それは、全てを察するに容易い一言だった。
 
 
 
 
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