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14. 夕焼け
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グリニッジ婦人が快く、当時貴族の屋敷に勤めた経験を持つ幼馴染のミーシャを紹介してくれたので、二人は婦人の家からそのまま、彼女の家を訪ねた。
急な来訪にミーシャは二人を訝しがったが、アンナがグリニッジ婦人と知り合いで、婦人の紹介でここを訪ねた事が分かると、彼女もまた、親身になって当時の話を聞かせてくれたのだった。
しかし、結局ここでもルーフェスは目新しい情報を得ることが出来なかった。
その代わりにミーシャから元メイド仲間を新たに紹介して貰えたので完全に収穫無しでは無かったのだが、五十年前に一体何があったのか、その真実までの道のりの遠さを痛感せざるを得なかったのだった。
そして時刻は既に夕暮れ時に差し掛かろうという所。アンナとルーフェスは今日の活動を終えることにして、家路を急ぐ人々に混ざって、二人も帰宅の途についていた。
「まぁ、そう上手くはいかないと分かってはいたけどね。地道に探すしかないかぁ。」
帰る道すがら、ルーフェスは少し落胆しながら、そんな弱音を漏らした。
「ルーフェスは、ルオーレ家で起こったことを調べて真相を究明しないと、何か困ったことになるから、それの答えが必要って事なのよね?」
横を歩く彼を見上げながらアンナは訊ねた。彼が何故、そんな事を調べているのかは皆目検討もつかなかったが、よっぽどの理由がある事だけは、察せられた。
「そうだね。出来れば早く真相を知りたいんだけど、中々上手くいかないね。」
彼は、苦笑混じりに話しを続ける。
「実は、アンナと知り合う前からこうやってお年寄りを数珠繋ぎで辿って行って色々と聞き回っていたんだけど、以前のルートは途切れてしまってね。今日また、新しいルートが出来て助かったよ。有難う。」
「詳しい事情は分からないけれども……でも貴方が困っているのならば私に出来ることは協力するわ。だって、私も貴方に困っているところを助けてもらったのだから。」
そう言いながら、アンナは二人が出会った時のことを思い出していた。あれ以来彼には助けて貰ってばかりなので、ずっと何かしらでちゃんとお礼をしたいと考えていたのだ。
「それならば、今日みたいな事にまた付き合ってくれないかな?若い男一人だとどうにも警戒されてしまってね。話しすら聞いてくれない事もあるんだ。」
「なんだ。それくらいの事なら勿論いいわよ。」
自分が受けた恩には全然足りていないとは思ったが、少しでも返せるものがあるならばと、アンナはルーフェスの申し入れに快諾したのだった。
「そう言ってもらえて助かるよ。じゃあ、これからも宜しく頼むね。」
ルーフェスは嬉しそうに笑うと、そっと右手をアンナに差し出した。
「うん、こちらこそ。よろしくね。」
彼の笑顔につられてアンナも微笑むと、その手を取って握手を交わした。
「あ、そうだ。この時間なら……」
道辻に差し掛かった所で、不意にルーフェスが立ち止まった。それから、今まで向かっていたのとは別の方向の路地に入って行くと、アンナを手招きをして呼び寄せたのだった。
「アンナ、こっちへ来て。」
アンナはその呼びかけに不思議に思いながらも彼について行き、細い路地に入り高台へと続く階段を上がった。すると、開けた場所にある小さな展望スペースに出たのだった。
そして、その光景に息を呑んだ。
「わぁ……綺麗……」
目の前に朱色の夕焼けが飛び込んできたのだ。
眼下に広がる街も、空も、遠くに見える森も、全てが朱色で照らされていて、まるで宝石のように輝いていた。
「偶然見つけたんだけど、この場所で見る夕焼け、凄い綺麗だろう?僕が一番好きな色なんだ。」
「ヴァーミリオンよね!オレンジ帯びた夕焼け。私もこの色が一番好きよ。」
目の前に広がる朱色に、アンナはすっかり心を奪われた。
「この場所が街の中心から離れているのもあるけれど、夕刻の忙しい時間に空なんて見てる余裕なかったからこんな素晴らしい景色今まで気づかなかったわ。素敵な場所を教えてくれて有り難う。」
そう言ってアンナは後ろを振り返り、ルーフェスに満面の笑みで笑いかけた。
夕日に照らされたその笑顔は、驚くほどに美しかった。
「アンナ、君は……」
「ん?」
「あっ、いやっ……今日は付き合ってくれて有難う。」
何か言葉をかけようとして一瞬口籠ると、まるでアンナに見惚れたかの様に、ルーフェスは言葉に詰まりながら今日のお礼を述べた。
明らかにいつもと違う様子を見せたのだったが、アンナはそんな彼の様子に全く気づいていないようで、普段と変わらぬ素振りで笑ってみせた。
「どういたしまして。私の方こそお昼ご飯ごちそうさまでした。今日は中々楽しかったわ。」
この時、アンナの頭の中には広場で軟派な男たちに絡まれた嫌な記憶など、とっくに消え去っていた。
ルーフェスと二人、他愛もない話をしながらご飯を食べて、老人宅を訪ねて話を聞いて回り、そして今、こんなに素晴らしい夕焼けを見ている。朝の嫌な思いは、楽しかった記憶で綺麗に上書きされたのだ。
「それは良かった。僕も凄い楽しかったよ。」
ルーフェスがそう言うと、二人はお互いに顔を見合わせて笑い合った。それから、暫くの間何も言わずにただ美しい夕焼けを眺めると、夕陽が沈むのを見届けたのだった。
急な来訪にミーシャは二人を訝しがったが、アンナがグリニッジ婦人と知り合いで、婦人の紹介でここを訪ねた事が分かると、彼女もまた、親身になって当時の話を聞かせてくれたのだった。
しかし、結局ここでもルーフェスは目新しい情報を得ることが出来なかった。
その代わりにミーシャから元メイド仲間を新たに紹介して貰えたので完全に収穫無しでは無かったのだが、五十年前に一体何があったのか、その真実までの道のりの遠さを痛感せざるを得なかったのだった。
そして時刻は既に夕暮れ時に差し掛かろうという所。アンナとルーフェスは今日の活動を終えることにして、家路を急ぐ人々に混ざって、二人も帰宅の途についていた。
「まぁ、そう上手くはいかないと分かってはいたけどね。地道に探すしかないかぁ。」
帰る道すがら、ルーフェスは少し落胆しながら、そんな弱音を漏らした。
「ルーフェスは、ルオーレ家で起こったことを調べて真相を究明しないと、何か困ったことになるから、それの答えが必要って事なのよね?」
横を歩く彼を見上げながらアンナは訊ねた。彼が何故、そんな事を調べているのかは皆目検討もつかなかったが、よっぽどの理由がある事だけは、察せられた。
「そうだね。出来れば早く真相を知りたいんだけど、中々上手くいかないね。」
彼は、苦笑混じりに話しを続ける。
「実は、アンナと知り合う前からこうやってお年寄りを数珠繋ぎで辿って行って色々と聞き回っていたんだけど、以前のルートは途切れてしまってね。今日また、新しいルートが出来て助かったよ。有難う。」
「詳しい事情は分からないけれども……でも貴方が困っているのならば私に出来ることは協力するわ。だって、私も貴方に困っているところを助けてもらったのだから。」
そう言いながら、アンナは二人が出会った時のことを思い出していた。あれ以来彼には助けて貰ってばかりなので、ずっと何かしらでちゃんとお礼をしたいと考えていたのだ。
「それならば、今日みたいな事にまた付き合ってくれないかな?若い男一人だとどうにも警戒されてしまってね。話しすら聞いてくれない事もあるんだ。」
「なんだ。それくらいの事なら勿論いいわよ。」
自分が受けた恩には全然足りていないとは思ったが、少しでも返せるものがあるならばと、アンナはルーフェスの申し入れに快諾したのだった。
「そう言ってもらえて助かるよ。じゃあ、これからも宜しく頼むね。」
ルーフェスは嬉しそうに笑うと、そっと右手をアンナに差し出した。
「うん、こちらこそ。よろしくね。」
彼の笑顔につられてアンナも微笑むと、その手を取って握手を交わした。
「あ、そうだ。この時間なら……」
道辻に差し掛かった所で、不意にルーフェスが立ち止まった。それから、今まで向かっていたのとは別の方向の路地に入って行くと、アンナを手招きをして呼び寄せたのだった。
「アンナ、こっちへ来て。」
アンナはその呼びかけに不思議に思いながらも彼について行き、細い路地に入り高台へと続く階段を上がった。すると、開けた場所にある小さな展望スペースに出たのだった。
そして、その光景に息を呑んだ。
「わぁ……綺麗……」
目の前に朱色の夕焼けが飛び込んできたのだ。
眼下に広がる街も、空も、遠くに見える森も、全てが朱色で照らされていて、まるで宝石のように輝いていた。
「偶然見つけたんだけど、この場所で見る夕焼け、凄い綺麗だろう?僕が一番好きな色なんだ。」
「ヴァーミリオンよね!オレンジ帯びた夕焼け。私もこの色が一番好きよ。」
目の前に広がる朱色に、アンナはすっかり心を奪われた。
「この場所が街の中心から離れているのもあるけれど、夕刻の忙しい時間に空なんて見てる余裕なかったからこんな素晴らしい景色今まで気づかなかったわ。素敵な場所を教えてくれて有り難う。」
そう言ってアンナは後ろを振り返り、ルーフェスに満面の笑みで笑いかけた。
夕日に照らされたその笑顔は、驚くほどに美しかった。
「アンナ、君は……」
「ん?」
「あっ、いやっ……今日は付き合ってくれて有難う。」
何か言葉をかけようとして一瞬口籠ると、まるでアンナに見惚れたかの様に、ルーフェスは言葉に詰まりながら今日のお礼を述べた。
明らかにいつもと違う様子を見せたのだったが、アンナはそんな彼の様子に全く気づいていないようで、普段と変わらぬ素振りで笑ってみせた。
「どういたしまして。私の方こそお昼ご飯ごちそうさまでした。今日は中々楽しかったわ。」
この時、アンナの頭の中には広場で軟派な男たちに絡まれた嫌な記憶など、とっくに消え去っていた。
ルーフェスと二人、他愛もない話をしながらご飯を食べて、老人宅を訪ねて話を聞いて回り、そして今、こんなに素晴らしい夕焼けを見ている。朝の嫌な思いは、楽しかった記憶で綺麗に上書きされたのだ。
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